ある晴れた日に
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
223部分:オレンジは花の香りその六
オレンジは花の香りその六
「別にそれっでもな」
「いいのね?咄嗟に考えた仇名だけれど」
「いいさ。それでだよ」
佐々は咲に応えながらまた言うのだった。
「パーティー行くよな。それでいいよな」
「皆そう言ってくれて何よりだわ」
佐々だけでなく明日夢もここでも同じようなことを言って話を強引に進めようとする。
「よし、じゃあ腕によりをかけてな」
「ケーキたっぷり用意しておくからね」
「御前等人の話聞く気ねえだろ」
春華が呆れながらその二人に突っ込みを入れた。
「ひょっとしなくてよ」
「ちゃんと聞いてるわよ」
「なあ」
だが明日夢と佐々の態度は相変わらずだった。しらばっくれたまま芝居を続ける。
「皆の為にここは一肌脱いでね」
「共同戦線ってわけだよ。凄いだろ」
「あらためて聞くけれど」
咲はここでも二人の猿芝居はあえて無視して皆に問うた。
「行く?どうする?」
「割り引きならいいけれどな」
「在庫一掃だし」
「それ以外ならちょっと」
「遠慮?」
「勿論よ。わかってるわよ」
明日夢もそのあたりはわかっているのだった。
「ちゃんとね」
「千円でバイキングだよ」
「千円でバイキング・・・・・・」
「お得か?」
皆最初はそのうまい話に騙されかけた。しかしすぐにこう思いなおすのだった。
「待てよ、千円バイキングってよ」
「ケーキにサンドイッチ食べ放題」
「随分気前がいいわね」
「うち気前いいじゃない、前から」
「俺の店だってそうだろ?」
二人はこれだけ白々しい演技を続けても目を全く泳がせてはいない。ある意味見事である。
「今回は何時にも増して出血サービスってわけなのよ」
「しかもフリードリンク。勿論酒だってあるぜ」
「余計に怪しいよな」
「ねえ」
皆さらに疑わしく思うのだった。二人の話を聞いて。
「っていうか本当に大丈夫なの?そのケーキとサンドイッチ」
「カビ生えたの勝手に切ってるとか?」
「パウダーで隠してるとか?」
「ああ、それは絶対にしないから」
「安心しろ、安心」
今度の二人の言葉は真剣なものであった。少なくとも今の言葉は嘘ではないことがわかる。二人もそれだけの誠意は持っているのだった。
「カビ生えたらそれで完全にアウトじゃない」
「だからそれはないからな」
「ということはそれより前にってことか」
「やっぱり」
皆今の二人の言葉で完全に話を把握した。しかし実はそれより前に既に、ではあった。
「まあわかってたけれどな」
「やっぱりそうなのね」
「で、どうするの?参加するの?」
「多いなら多いだけいいんだけれどな」
「まだ白切ってるし」
「在庫一掃じゃねえか、結局か」
皆二人にまだ突っ込みを入れる。しかしここでとりあえず食べられるということがわかりそのうえでまた話をするのだった。
「けれどいいんじゃないかしら」
「そうだよな」
顔を見合わせて言い合う。
「どっちも美味しそうだし」
「しかも千円で食べ放題」
とにかくこのキャッチフレーズが皆には魅力なのだった。
「しかもフリードリンクっていうから」
「条件はいいわよね」
「悪い話じゃないな」
「まあうちの店のいつものサービスだけれどね」
「こっちもな」
スタープラチナも猛虎堂も値段はかなりサービスしているのである。
「どう?じゃあ参加するわよね」
「このパーティーに」
「わかったわ。それじゃあ」
「それでな」
皆何だかんだで遂に二人の言葉に頷くのだった。
ページ上へ戻る