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ポケットモンスター〜翠の少年の物語〜

作者:V・B
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第五話

 
前書き
どうも、見事に風邪引きました。貴重な土日が丸潰れしました。誰か代わりにコーラ買ってきて(←病人)。 

 

 ―ポケモンセンター とある一室―

 ……どうしてこうなったのだろうか。
 ポケモンセンターの宿泊スペースの一室で、二つあるうちの手前側のベッドに腰掛けた僕は、窓の外を見ながら頭を抱えていた。
 あの後、あれよあれよという間に部屋に連れてこられた僕は、『先シャワー使うか?』とユウキさんに言われ、半ば強制的にシャワーを浴びさせられ、その間に父さんへの連絡をユウキさんにされ、ユウキさんがシャワーに行ってる間に、部屋で冷静に今の状況を整理していた。
 会って半日の人と宿を共にするって、どういうことなんだ。

「……まぁ、あのラルトスの事が気になるってのは本当だけどさ……」

 一人そう呟いても、返事をしてくれる人は誰も居ない。

「なら良いじゃねぇか。夜中にいつでも見に行けるぞ」

 ……と思っていたら、既に僕の背後に立っていた。
 振り返ってみると、頭から湯気を出しながら、Tシャツにハーフパンツという、ラフな格好になっているユウキさんが立っていた。

「いやまぁ、そうですけど……なんかこう、色んなことがありすぎて……」
 
 初めてのポケモンゲット、と思いきや、初めての家族以外とのお泊まりで、しかも初対面の人と。中々味わえるものでは無いだろう。

「そうだよな……あれだけボロボロになった野生のポケモンを見るのは、中々無いよな」
「…………そうですね」

 当の本人は全く気にしていないようなので、僕は諦めるようにため息をついた。事実、滅多にない体験ではある。

「……あの、ユウキさん」
「ユウキでいい。あと、敬語も使わなくていいよ。歳そんなに離れてないし」
「……じゃあ、ユウキくん。あのラルトス、これからどうなるの?」
 
 敬語を使わなくていいと言われたので、敬語を使うのを止め、どうしても気になっていたことを聞いた。

「保護区行き、かなぁ。研究所だとかのな。そこで持ち主が見つかるか、野生に戻るかの二択だと思うけど……」
「……」

 本来であれば、ここはほっとする場面なのだろう。怪我したポケモンが、信頼出来る場所に行くのだから。
 しかし、この時の僕には、それが最悪の一手に感じてしまっていた。
 あのラルトスのことが、気になって気になってしょうがなかった。

「……そんなに気になるなら、お前が連れていけば良いじゃねぇか」

 ユウキくんの言葉は、最もだった。そんなに気になるのなら、僕が連れていくと言うのは、当然の判断にも聞こえる。
 だけど、僕にはそれも危ないような気がしてならなかった。

「……人にやられたポケモンってさ、人に対して心を閉ざしやすいよね」

 部屋の中にある、ポケモンに関する少し難し目の本には、そんな感じの記述が載ってあった。世間的にも、人間によるポケモンへの酷い行為は社会問題になっている。

「もしかしたら、あのラルトスもそんなふうになってるんじゃないのかなぁ……って、考えるとさ」

 人ですら簡単に人を嫌いになるのに、ポケモンが……と考えたら、答えは容易に出てくる。

「……お前、やっぱり良い奴だな。その歳でそこまで気が回るのは立派だよ」
「……二つしか違わないよ?」
「二つも違うんだよ。このぐらいの歳の二年は、かなり大きいぞ?」

 ユウキくんはそう言うと、僕の向かいに椅子を持ってきて、ドサッと座る。堂々と脚を開いて座るところや、頬杖をついてこちらを覗き込むなどの仕草一つ一つが、同年代の子供とは思えない程、大人に見えた。
 だからか、ユウキくんの言葉には、かなりの重さがこもっているように感じていた。

「お前なら、いいトレーナーになるぞ?俺が保証してやる」

 ユウキくんはそう言うと、ニヤリと笑った。僕は、少しだけ戸惑った。

「……僕、喘息持ちでさ……旅に出れるかどうかすら分からないよ?」

 僕の事情を知ってる人なら、そんな事を口に出す人は居なかった。全員が全員、無理だろうと思って接していた。

「出なけりゃ、出来るかどうかわからねぇぞ?」
「へっ…………」
「弱音戯言は、やって無理だった時に始めて言えよ。やるかやらねぇかじゃない。やりたいかやりたくねぇか、だ」

 だから、こんなふうに言ってくれる人なんて、一人もいなかった。
 ……両親ですらも。

「……そうだよね」

 少し泣きそうになりながら、それを必死に隠す。
 僕が周りに、無理だ無理だと言われ続けていたからか、僕自身が無理だと決めつけていた。

「取り敢えず、明日ラルトスに会ってみようと思う」
「……そうか。頑張れよ」

 ユウキくんは一言そういうと、椅子からスっと立ち上がり、自分のベッドに向かっていった。

「さてと…そろそろ寝るかな。もうこんな時間だしな」
「……そうだね」

 時計を見てみると、もう十時を回っていた。昨日の夜が遅かったこともあり、中々眠たくなってきた。

「じゃあ、電気消すぞー」
「うん……おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」

 ベッドにいそいそと潜り込んだ僕らは、直ぐに目を瞑った。








 気が付いたら、見知らぬところに立っていた。
 辺り一面には、不思議な形をした真っ赤な花が咲き誇り、何故だか知らないけど、そこが僕のために用意された空間のように感じていた。
 僕はその光景に不思議に思うことは無く、ただただ、何かを待っていた。
 ずっと待ち望んでいたことが、もうすぐ叶うような高揚感。
 それこそ……初めてポケモンをゲッドした時のような。
 ……足音が、聞こえてきた。
 ザッザッという足音は、確実に僕の方に近づいてきていて、僕の近くで止まった。すぐ後ろに、その足音の主が、こちらを見ているように感じた。
 僕はゆっくりと、その人を見るために振り返ろうとした。










「…………ふぇ?」

 気がつくと、見知らぬ天井が視界に入っていた。毎朝嫌という程見てきた自分の部屋の天井ではなかった。
 しばらく考えて、ここがポケモンセンターの一室であったことを思い出す。

「……なんだったんだろう…………?」

 全く見た事のない光景が広がっていた夢の内容を思い出して、寝起きの頭は完全に混乱していた。
 
「おはよう、ミツル」

 そんな僕に話しかけてきたのは、当然ながら、一晩を共にしたユウキくんだった。とっくに着替えていて、ポケモン図鑑を手にしていた。

「……おはようございます。今何時ですか?」
「七時半だ。寝坊はしてないぞ」

 ユウキくんはそう言って、部屋のカーテンを開けた。昨日と同じ、雲一つない、晴れ渡った空が広がっていた。

「さ、飯食ったら、ラルトスの様子見に行こうか」

そう言って笑ったユウキくんの笑顔は、やはり、年相応の笑顔に見えた。
 
 

 
後書き
読んでくれてありがとうございます。このお話は、ミツル君が色んなことに覚悟を決めて進んでいくお話となっているので、応援してくれたら幸いです。原作とはかなり違う展開ですが、どうぞよろしく。

それでは、また次回。 
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