戦国異伝供書
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第三十七話 兄からの禅譲その四
「うむ、それでじゃ」
「よいですか」
「わしもそう思う」
こう答えたのだった。
「それではな」
「はい、田をこれまで以上に開墾し」
「増やしてな」
「その田一つ一つを」
「よりよくしていこう」
「さすればです」
それでというのだ。
「越後はさらに豊かになり」
「民達もか」
「楽になりますので」
「ではな」
「はい、その様にしていきましょう」
「それでは」
こうしてだった、越後は田の開墾をさらに進めて国と民を豊かにしていくことになった。そうしてだった。
その話の後でだ、晴景は景虎が退いてから直江に言った。
「政もじゃ」
「はい、虎千代様は」
「見ておる」
「そうしてですね」
「見事な政を出しおる」
「そしてその実践も」
「よい、ではじゃ」
それではというのだ。
「あの者が主になってもな」
「政のことでも」
「心配はない」
「そう言われるということは」
「ずっと考えておるが」
「虎千代様にですか」
「主の座を譲るか」
そうしようかというのだ。
「やはりな」
「殿、そのことは」
直江は弱気な声で言う晴景に己の意見を述べた。
「あまりです」
「言わぬ方がよいか」
「はい、そしてです」
「考えることもじゃな」
「左様です」
こう言うのだった。
「そうしたことは」
「そうか、しかしな」
「それでもですか」
「わしはな」
どうしてもというのだった。
「自分の身体の弱さを知っておる」
「だからですか」
「ついついじゃ」
「その様にですか」
「考えてしまう、そして虎千代を見てじゃ」
「あの方ならばとですか」
「思うのじゃ、あの者は天さえ駆けられそうじゃ」
そこまでのものを感じるというのだ。
「だからな」
「今後は、ですか」
「しかもわしには子がおらぬ」
晴景はこのことについても述べた。
「それでじゃ」
「余計にですか」
「虎千代に譲ろうと考えておる」
「殿にお子がおられぬので」
「ならとも思ってな」
弟の彼にというのだ。
「それは筋が通っておろう」
「はい、お子がおられぬならです」
まさにとだ、直江もこのことについては淀みなく答えた。
「弟君をということは」
「常じゃな」
「左様ですから」
それでというのだ。
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