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戦国異伝供書

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第三十七話 兄からの禅譲その三

「若しそれがないと」
「虎千代様はですね」
「わたくしではないです」
 そこまでのものだというのだ。
「ですから」
「それ故にですね」
「わたくしは日々です」
「毘沙門天に祈られて」
「その御教えを守る様にしています」
「左様ですね、では次の戦の時も」
「はい、全力で戦い」
 そしてというのだ。
「この越後、天下の為にです」
「そのお力を使われますね」
「そうします、それと越後の政ですが」
 ここで景虎は戦からそちらの話をした。
「豊と言えますね」
「はい、元々八十万石と石高も高く」 
 直江は景虎に問われるまま素直に越後のことについて答えた。
「そのうえ特産品もあり佐渡も領有しています」
「佐渡の金山もですね」
「そうした状況ですし港での商いもあり」
「豊かですね」
「北陸では第一でしょう」
 そう言ってもいいまでというのだ。
「越後、そして長尾家の富は」
「それで政も楽ですね」
「左様です」
「それは何よりです。ではこのままです」
「さらにですね」
「その政を進め、時に新しい田を増やし」
 そうしてというのだ。
「さらに豊かにすべきですね」
「そのことを殿にもですね」
「お話しようと思っていますが」
「よいことかと」
 直江は景虎のその考えに微笑んで答えた。
「それはまた」
「それではですね」
「はい、是非です」
 このことはというのだ。
「殿にお話して下さい」
「そうさせて頂きます」
「そしてです」
 直江は景虎にさらに言った。
「越後をです」
「これまで以上にですね」
「よくされて下さい」
「そのつもりです、わたくしは政は不得手ですが」
「いえ、出来ておりまする」
「そうでしょうか」
「確かに虎千代様は軍略の天才です」
 このことは紛れもない事実だというのだ。
「ですがそれでもです」
「政もですか」
「決して無能ではなく」 
 そしてというのだ。
「熱心に心を抱かれています」
「そのことがですね」
「しかと出てもいますし」
 政、それにというのだ。
「ですから」
「よいのですか」
「はい」
 その通りだというのだ。
「ですからご安心下さい」
「そうであればいいですが」
「ではこのことはです」
「兄上にですね」
「お話して下さい」
「わかりました」 
 こうしてだった、景虎はこの日も酒をかなり飲んだが次の日の朝は早くから起き学問と武芸に励む風呂にも入り身を清めてだった。
 そしてその後でだ、政の場で直江と話したことを彼と共に晴景に話すと晴景も頷いて彼に言った。 
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