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戦闘描写練習文──ラインアーク攻防──

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ホワイトグリント撃破(前)

 
前書き
転載シリーズ第二話。この話まではにじファンにあげていました 

 
「ミッション開始よ。敵ネクスト2機を撃退して」
 "彼女"は恋人でもあった"彼"に向かい、オペレーターとして指示を出す。
『……』
 いつも通りに返答など無い。昔も作戦中に"彼"の肉声を聞くことなど殆どなかったが、今となっては聞くことが出来ないと言った方が正しい。
『メインシステム、戦闘モード、起動します』
 何時も通りにシステムアナウンスが響き、ホワイトグリントは戦闘モードに移行する。


──いつから、こんな事になってしまったのかしら


 彼女は"彼"が戦いに赴くのを見続けることしか出来ない。オペレートが無くたってレイヴンは十二分にミッションをこなせるし、本来ならどんな戦場だって一人で駆けてみせるだろう。
 "彼"と彼女の距離は離れ続け、もはやその言葉は届きさえしないのだ。
「帰ってきて、お願い」
 それ故に彼女の声は誰にも届くことなく拡散し、ラインアークのオペレータールームは何時も通りの静寂に満ちた場所に戻った。


 作戦開始の宣言の直後。ストレイドのオペレーターは、いざ戦いに挑まんとしている彼に向かって、言い聞かせるかのように言葉を紡いだ。
『ランク1との二人掛かりだ。これ以上は望めん』
 その意図をどう捉えたのか、首輪付きは単純に同意の言葉を述べる。
「ええ。これ以上はあり得ない」
 実際、いまだに新人リンクスとしての経歴しか有していない彼が、ランク1を有するカラードのトップリンクスと協働任務にあたることなど滅多にあることではない。今のランクと不相応に挙げた戦果を考慮すれば、偵察代わりの捨て駒として単独でぶつけられる可能性の方が余程高いのだ。
 それ故に彼女の言葉が本来の能力差を無視した期待を込めたものになっているのはある程度仕方ないことだろう。そして、彼女の性格を考えれば……。


――見せてみろ、お前の可能性を


 それが挑発的なものになるのは自明の理だった。
「第4世代リンクスの戦い方、でよければ」
 だが、彼はそれに乗ることなく静かに返答した。冷静さを失わないことをモットーとしている彼は、獰猛かつ感情的なオペレーターとは相性がいいのかもしれない。
『……どうしても、戦うしかないのですね』
 一連の会話をその動きとともに注視していたラインアークのオペレーター、フィオナ・イェルネフェルトの淡々とした声が響き、同時にホワイトグリントは最初の動きを見せた。
 OBユニットの両端に取り付けられた黒い箱からその機体色と同じ純白の矢が飛び出す。2本の矢は一瞬でそれぞれ8本に分裂し、2機のネクストを包囲するように展開した。
 ストレイドのメインカメラは即座にそれを捕捉。IRS(統合制御体)は搭乗者に警告を発信する。
「……ミサイルか」
 旧世紀の戦闘機が用いていたような安定翼付きの白いミサイル。ホワイトグリント用に新規開発されたとまで言われた、MSACインターナショナル社謹製のSALINE05(分裂ミサイル)の子弾だった。
 信じ難いことにそのミサイルは、サイドQB(クイックブースト)で散開したネクスト2機を確実に捕捉し続けている。彼は巷に流れていた噂通りの追尾性能を発揮していると判断し、躊躇なく051ANAM(フレア)を起動した。ミサイルの誘導が外れ、流星のように光を残す熱源体を追い始める。
「……まるで戦闘機戦だな」
 昔の映像記録で見た超音速で飛び交う鋼の猛禽たちの戦闘。しかし、それを再現するには今の彼の愛機は重すぎる。
「やはり追い切れない。予定通りにいきます」
 いわゆる重量過多で本来の機動力の半分しか発揮できないこの機体は準軽量二脚として失格の能力でしかない。更に、本来なら主力として使っていた左腕の047ANNR(ライフル)を持って来れなかったことは、機体総火力もも大幅に後退させていた。
 今の段階で使える兵装は右手で握っているレイレナード純製03-MOTORCOBRA(マシンガン)だけであり、対ネクスト戦装備と言うには明らかに役者不足だった。
『そうか』
 オペレーターの期待外れと言わんばかりのそっけない返答。彼の立てた予定は明らかに異常なものだった。それを承知の上でそのアセンブルを組み上げていた彼は、QT(クイックターン)で向きを変更し、再び051ANAMを使用する。その軌跡は彼の機体の右側へと伸びていき、2射目に放たれたステイシスへのミサイルの誘導を完全に失わせていた。
『本気で援護に徹するんだな?』
 グリントミサイルとさえ呼ばれるSALINE05を封印し、ステイシスの前衛として削り役に徹する。今のストレイドはそれだけの為に組んだ支援用装備を身に纏っていた。
「ええ。古い伝説は驚くでしょうね」
 本来は敵でもある一期一会のような僚機の為に、専用のアセンブルを組むリンクスなどいるはずがなかったのだから。
『見せてみろ』
 そうしている間に速度差から先行してホワイトグリントを射程に収めたステイシスが、最初の一撃を放ちながら過去の英雄に対して嘯いた。
『リンクス戦争の英雄の力を』
 そのあまりの芝居掛かった台詞に、つい彼は悪乗りしてみる。冷静さを保てる範囲でなら彼も冗談は好みだった。
「ストレイド、エンゲージ(交戦)
 そして出た言葉は人類が自由だった時代に、国を背負って空を駆けた戦闘機乗り達が交わした挨拶。それは相手が同じ人間であることを認識できた最後の時代の名残だった。


 ストレイドの交戦の宣言を聞いたオッツダルヴァは、通信回線を完全に閉じて一人呟く。
「下らない敵に下らない味方。まるでファルス(喜劇)だ」
 向こう側で何が起きているのかを予め知ってしまっているオッツダルヴァにとって、世間一般で最精鋭リンクスによる一大決戦と捉えられているこの作戦は最初から茶番に過ぎなかった。
「こんなことだから、人類は……」
 理想が空中分解しているのに切り札を投入してきたラインアーク、本気でこれを切っ掛けに世界を支配できると信じているオーメル本社、最初から援護だけをするつもりでノコノコとやってきた独立傭兵。
 すべてを理解している脚本家は、オッツダルヴァを始めとする"旅団"と、静観を決め込んだGAグループ。当事者が必死に踊り狂い、裏事情を知っている傍観者が嘲笑うだけの中身のない演劇。
 一瞬頭を振り、オッツダルヴァはステイシスを加速させた。両手に装備した火器を呼び出す。一刻も早く自らまでが偽りであるこの戦場から去るために、英雄の残照を消し去るつもりだった。


 汎用性に特化しているホワイトグリントの瞬間火力は低い。例外的にSALINE05の威力は高いが、それ以外は器用貧乏でネクスト戦を短期に終わらせるほどの物ではなかった。
 そして、そのアセンブルの影響をモロに受けたホワイトグリントは、決定打を完全に欠いてしまっていた。
『行けるぞ!』
 ステイシスに対する螺旋機動を行いながらダブルトリガーでPA(プライマルアーマー)を削りに掛かる純白の機体。確かに時折掛かるQBによる攪乱が素早く、FCSでの捕捉で当て続けるのは難しい。
『完全に読まれているというの?』
 だが、攻略法はフィオナ・イェルネフェルトの上げた驚愕の声の通りだった。その機動の法則を理解すれば撃ち負けることはない。
「単調すぎるから……」
 パターン化していることを見抜ければ大した脅威にはならない。読むまで避けることは困難だが、オッツダルヴァにそれが出来ないとは彼もそのオペレーターも思わなかった。
『どうした、止まって見えるぞ』
 第一、動きが重すぎる。支援を前提に組み上げた今回のストレイドと同じ程度の速度しか出ていないのでは、対多数の高機動戦闘には耐えられない。
「……彼も限界か?」
 アナトリアの傭兵が粗製だったのは有名だ。10年近くにわたってネクストに乗り続けていた"彼"が、身体と精神の限界を超えていたとしても不思議ではなかった。
『腐っても英雄だ。油断するなよ』
 しかし、どっちみち油断できるほど状況はよくない。パターンが限りなく洗練されたせいで下位クラスのネクストなら瞬間的に薙ぎ倒しかねないだけの強さがある。
「了解」
 彼がかつて倒した下位ランカーにいた、GA製のダンボール程度では参考にもなりそうになかった。


──敵ネクスト・ストレイド接近。方位320、距離380


「攻撃優先度修正、ストレイドに阻止攻撃」


──敵ネクスト・ステイシス、ER-O705(レーザーバズーカ)使用。回避成功


──エネルギー残量30%、PA25%減少


「バックブースト、SALINE05ロック」
 もし、最強の兵士から感情と自我を引き抜いたなら何が残るのか。
「発射」
 その答えの一つがこのコックピットに押し込まれていた。


――機体損傷20%


 意識を失い、意思を見せず、戦闘に関する知識だけが残された、全世界で最高と言えるまでの戦闘コンピュータはとなるのだ。
 今の"彼"は本来成し得なかった筈のAMSとの完全な同調を成功させていた。ホワイトグリントを文字通り手足のように操り、ネクスト2機に対して不十分な装備で完全に抑えに掛かっている。
「排除、開始」
 AMS接続の限界を超えた"彼"は、今や文字通りの"リンクス"(繋がれたもの)としてホワイトグリントに搭載(・・)されていた。
 だが、所詮は機械に操られた機体。かつてホワイトグリントが弱点を暴き、ストレイドによって沈められたスピリット・オブ・マザーウィルと本質的には何も変わりなかった。


『AP、40%減少』
「この程度なら、保つな」
 今までの攻撃で奪い取られた装甲の想定耐久値が4割程になり、PAが規定出力の半分を割り込んだ直後。
「……銃撃が、止まった?」
 唐突に、ホワイトグリントがストレイドに対する銃撃を止めた。ついにステイシスの攻撃を無視できなくなったらしい。
『一気に畳んでしまえ』
 オペレーターの指示通りに幸いとばかりに銃の攻撃を集中させようとするが……。
「タイミングが悪すぎる」
 最後の弾を吐き出した03-MOTORCOBRAが沈黙し、オートで一個当たり82発しか入らないマガジン(弾倉)を吐き出した。
「……チャンスを潰した、か」
 機械的に右腕を下げ、腰部のサブアームで次のマガジンを挿入する。同時に行おうとした緊急回避のためのサイドQBはエネルギー残量警告と共にキャンセルされた。重量過多の機体でホワイトグリントを追ったツケは足を奪うという形で如実に現われていた。
『何を考えている、ホワイトグリント?』
 オペレーターの戸惑う声が彼を目の前の敵に意識を戻す。確かに奇妙な状態だった。ステイシスの攻撃を回避してはいるが、こちらに対して全く攻撃をしてこない。
『貴方は、昔の私たちと同じです』
 銃声の代わりに響いたのはホワイトグリントのオペレーターの声。
「それがどうした」
 ストレイドも橋に着地し、単純な前進のみを続ける。高機動戦闘でジェネレーターのエネルギー容量が相当量減っていたから、相手の会話に乗ること自体は悪い判断ではない。
「……時間稼ぎのつもりか?」
 それを誤魔化すためも含めた首輪付きの応答は辛辣な物だったが、彼女はそれを一切無視して次の言葉を紡いだ。
『考えて下さい。何の為に戦うのか』
 ストレイドの動きが完全に停止する。今の彼にとってそれは一番聞きたくない言葉だった。多少意味は違うかもしれないが、彼女はこう言ったのだ。


──貴方に戦う理由などないのでしょう?


 と。
「……」
 それに呼応するかのようにホワイトグリントの蒼い複眼がストレイドを、首輪付きを見つめる。
「……よく言うよ」
 それだけを呟くと、彼は何かを振り払うように戦闘機動を再開した。
「俺は戦う理由を持てるほど贅沢じゃない」
『……』
 末期的様相を見せるこの荒廃しきった大地で、戦うのに理由を求める余裕を持った人間など数えるくらいしか存在していない。理由を捨ててしまった人間だけではなく、そもそも理由を持たない人間も数え切れない位にいた。
「第一、理由があったから勝てる訳じゃない」
 そんなことは彼女が一番理解しているはずだ。コロニーを救うという思想で戦いを始めてリンクス戦争の引き金を引き、世界と共に"アナトリア"を滅ぼした"ラストレイヴン(最後の鴉)"を見続けているのだから。
「言葉は不要だ」
 ストレイドは再び発砲。それに反応してホワイトグリントが再び銃を構える。
『何をちんたらやっている』
 と、その瞬間ステイシスのAR-O700(アサルトライフル)が降り注ぎ、ホワイトグリントは回避行動に移った。
『空気にもなれんか?』
 オッツダルヴァの毒舌が首輪付きの鼓膜を震わせた。それは戦場で足を止めた情けなさ過ぎる僚機に対する叱責。
「……言いたい放題な事で」
 皮肉気に言い返したものの、彼もそれは当然な事であると思っていた。
『まあ仕方ない。作戦途中で戦闘を放棄する僚機は迷惑極まりないからな』
 だが、彼のオペレーターは別の主張があるらしかった。表面を聞いていればランク1と同じようにたしなめている様に聞こえるが……。
『お前も苦労したことがあるだろう?』
 彼女はこれ幸いと上海で報酬の6割を結果的に持ち逃げした僚機に対する毒を吐きだしていた。
「……ふっ」
 普段は母や姉のような姿を見せるオペレーターの子供のような態度を体験して、彼は小さく笑いを漏らす。


──戦う理由は持っていないが、孤独に生きないで済めば十分だ


 彼は一瞬前と違い、穏やかに呟く。
「そろそろ、終わらせようか」
 重量過多の機体を滑らかに操り、首輪付きはホワイトグリントを確実に捉えていた。


 ……それから数分後、勝敗は誰の目にも明らかになりつつあった。機体損傷が未だに軽微なステイシスや余力を残しているストレイドに対して、ホワイトグリントの装甲には決して浅くない傷が刻み込まれていた。左肩に至ってはアーマーが姿勢制御用のスラスター毎吹き飛ばされている。
「援護してください。これで決める」
 ストレイドがOBを起動し後退しつつあるホワイトグリントを追撃する。
『せいぜい気張ることだ』
 オッツダルヴァの返答は辛辣なものだった。削りきることなど期待していないと言わんばかり。
『まあ、空気で構わんがな』
 しかし、元々単独でホワイトグリントを撃破することを想定しているランク1にとってその返答は当然だった。
「了解」
 それでも残り弾数の少ないMP-O901(PMミサイル)を放つあたり、全く期待していないというわけでもなさそうだ。
『僚機を上手く利用しろよ。そのために雇っているのだからな』
 オペレーターの警告を聞き流しながら、首輪付きは被弾を完全に無視した突撃機動でホワイトグリントへの距離を詰める。
「可能なら」
 距離が200を割り込み、正確なホワイトグリントの銃撃はいよいよ直撃コースを取り始めていた。それを可能な限りPAで受け流しつつ、ストレイドは愚直なまでに距離を詰める。
 確かにマシンガンには連射速度から発生する瞬間火力の優位はある。しかしストレイドのシングルトリガーに対して、ホワイトグリントはダブルトリガー。両腕のライフルはどちらも単発威力は上だ。
 更にKP(コジマ)出力に劣るGN-HECTOR(ジェネレーター)のハンデまで存在するとなれば、先に削られ切るのはストレイドだった。
 それでもステイシスの攻撃を加味すれば撃ち勝てる。そう判断した首輪付きは機体の保全を無視した突撃を行ったのだった。
『一気に畳んでしまえ』
 張り付きと呼ばれるゼロ距離射撃戦を目標にしたストレイドは、遂にホワイトグリントまでの距離を50に詰めた。その瞬間ストレイドのPAが輝き、周囲の空気が轟音を立てて吹き飛ぶ。


――AA(アサルトアーマー)


 出力不足ゆえにホワイトグリントのPAを削りきることはかなわなかったが、それでも大半を相殺によって奪い去った。そしてその閃光が互いのメインカメラを塞いでいる間にストレイドはホワイトグリントと擦れ違い、一撃を加えつつ飛び抜ける。
『ラストスパートだ!』
 ストレイドのオペレーターの高揚した声が響き、その隙を逃すまいとステイシスのMP-O901がホワイトグリントを狙う。
『……錆びたな、貴様』
 期待はずれだったと言わんばかりの毒舌。オッツダルヴァは彼に何を望んでいたのか。
『あるいは、所詮この程度が限界だったか』
 放たれていたミサイルを回避しきったホワイトグリントに光の矢が迫る。いや、矢などという太さではない。橙色の一際太い光の棒。アスピナが実験用に作ったと言われるER-O705(レーザーバズーカ)。それが右肩の分裂ミサイルに直撃した。
『政治屋共め、リベルタリア気取りも今日までだな』
 即座にパージ(投棄)された弾倉は、瞬間的に誘爆。爆風を強かに打ち付けられたホワイトグリントは数えようもない僅かな時間の間、制御不能に陥った。
『貴様等には水底がお似合いだ』
 被弾硬直でホワイトグリントに生まれた一瞬の隙。ストレイドはそれを逃すことなく、右腕の03-MOTORCOBRAで充填されつつあったPAを完全に削りきる。
「これで終わらせる」
 ストレイドは左腕に携えられていた大型の火器を構える。重量過多になり、主兵装をガレージに置いてきた代わりに手にした最強クラスの手持ち火力。
「貴方と戦えばもしかしたらと思ったが……」
 静かに首輪付きは呟く。


──戦う為の思想なんか見つかりはしないな


 その言葉が終わると共に、連発と耐久を無視した不正改造によって威力を限界まで高めた|HLR71-VEGA(ハイレーザーライフル)が青白い閃光を発した。
 
 

 
後書き
 転載は此処まで。カノサワ使ってるとVEGAの弱さは目立つ。ちなみに、このミッションで私がストレイドのアセンブルとして設定した組み合わせで正規のVEGAはダメージ9000弱。不正改造した小説仕様は20000前後としています。 
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