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ある晴れた日に

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179部分:輝けダイアモンドその十三


輝けダイアモンドその十三

「そこにするか?」
「その喫茶店?」
「それか喫茶店なら」
 また言う正道だった。
「あそこだよな。八条学園の近くの」
「よろづね」
「ああ、あそこな」
 こう未晴に話す。話しながらも考える顔はそのままだ。
「よろづ。あそこのコーヒーいいしな」
「そうね。あそこマスターもいい人だし」
「ああ、知ってるのかよ」
「恵美に教えてもらったの」
 微笑んで正道に語る未晴だった。ここで正道にとっては意外な名前が出て来た。
「恵美にね」
「安橋にか?」
「意外?」
「ああ、まあな」
 そして正道もこのことを隠さない。
「正直なところな。竹林と安橋か」
「いい娘よ」
 にこりと笑って正道に話してきた。
「気が利いて親切で」
「気が利いて親切かよ」
 未晴の言葉を聞いて今度は眉を顰めさせる正道だった。
「あの安橋がか」
「何か驚いてる?」
「はっきり言ってそうだよ」
 嘘は言わなかった。彼は自分のポリシーとして嘘はつかないと決めているのだ。この辺りは真面目と言えば真面目である。芯が通っていると言ってもいいだろうか。
「あいつと竹林がな」
「信じきれてないのね」
「狐につままれたっていうかな。もっとはっきり言えば」
「はっきり言えば?」
「土壇場で藤川が小笠原にサヨナラホームラン打たれたみたいなな」
「それってかなり頭に来ない?」
 少なくとも阪神ファンならそうなる話である。この辺りはやはり関西人同士の会話だった。
「少し違うと思うけれど」
「じゃあいきなり大雨でコールドになったみたいな感じか?」
 正道は未晴の言葉を受けてこう言い代えたのだった。
「とにかくな」
「信じられないのね」
「何時の間になんだよ」
 正道は今度はこう言うのだった。
「本当に。安橋と」
「東のメンバーとも仲良くやってるのよ」
「仲良いのか」
「良いわよ」
 未晴ははっきりと答える。
「少年と凛だけじゃないから」
「まああの二人はな」
 話はまたしてもこの二人に関するものになった。舞台の主役の。
「特に目立つけれどな」
「咲も少年と仲いいのよ」
「柳本もかよ」
 正道にとっては意外な話の連続だった。少なくとも男の世界からはよくわからない話だった。
「何時の間に北乃となんだ?」
「最近になってからだけれどね」
 その女の世界からの返答である。
「仲良くなったのよ」
「あのキャンプからね」
 先のあのキャンプである。思えばほんの少し前のことであるがそれでも今の正道にとってはかなり昔の話に思えるものになっていた。
「皆でテントの中で話してるうちにね」
「その間にかよ」
「そうなの。それまでは何か垣根があったけれど」
「ああ、それは見えてたよ」
 これは男の世界から見てもわかることだったのだ。完全には見えなくともそれでもある程度は見える、そういうものであるからだ。
「東と西でな」
「お互い。何か独特の世界があってね」
「だよな。三人と六人でな」
「どうしてもね。仲は悪くはなかったけれど」
 そこまで極端な関係ではないのだ。しかしそれでも垣根があったのは事実でありそれが微妙に影響し続けてきたのである。
「やっぱりね」
「それがキャンプで変わったのかよ」
「そうだったの。同じ部屋で寝てお話してね」
 この辺りは男の世界と同じだ。話す内容が散っていてもそれでもだ。同じものと違うものがそれぞれあるのだ。それがそのまま男と女の違いでもある。
 
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