英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇
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外伝~灰色の騎士と盤上の指し手の覚悟~ 前篇
6月28日――――
~深夜・第Ⅱ分校宿舎~
3度目の特別演習が終了した数日後、リィンは通信で来たリアンヌ分校長からの呼び出しによって生徒や教官達が寝静まった深夜にリアンヌの部屋を訊ねていた。
「―――はい。」
「―――シュバルツァーです。」
「鍵は開いていますので、そのまま入ってもらって構いません。」
「…………失礼します。」
部屋の主であるリアンヌ分校長の許可を聞いたリィンがリアンヌ分校長用の部屋に入るとそこにはリアンヌ分校長以外にもセレーネ、アルティナ、ゲルド、レン、エリゼ、アルフィン、そして”ミルディーヌ公女”の姿になったミュゼがいた。
「セレーネ?それにエリゼ達やアルティナにゲルドまで…………まさか、メンフィル帝国から何か重要な情報が来たのですか?」
セレーネ達までいる事を不思議に思ったリィンだったが、集まっているメンバーがメンフィル帝国の関係者ばかりである事によって自分が呼ばれた理由がメンフィル帝国関連である事にすぐに察しがつくと表情を引き締めてリアンヌ分校長達に訊ねた。
「うふふ、相変わらず察しがいいわね。これで恋愛方面にもその鋭さが適用されればいいんだけどねぇ。」
「ふふっ、その意見にはわたくしも同感ですわ。わたくしやアリサさんが旦那様にわたくしの気持ちを知ってもらうのに随分と苦労しましたし…………」
「そんなにリィン教官って恋愛方面になると”鈍感”だったんだ…………」
「…………あの。兄様に”そちらの方面”が鋭すぎれば、ヴァイスハイト陛下のような事になりかねませんから、鋭すぎるのも考え物かと思います。」
「ア、アハハ…………確かに。」
「何事もほどほどがいいという事でしょうね。」
小悪魔な笑みを浮かべたレンの指摘にアルフィンは苦笑しながら同意し、二人の話を聞いたゲルドが目を丸くしている中、ジト目で指摘したエリゼの指摘にセレーネは苦笑し、アルティナは静かな表情で同意し、その様子にリィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「え、えっと………それで一体リウイ陛下達からどのような重要な情報がもたらされたのですか――――って、君は…………」
「クスクス、こんばんわ、リィン教官♪――――いえ、この姿では”初めまして”と言うべきでしょうか?」
我に返った後露骨に話を逸らそうとしたリィンはミルディーヌ公女の姿になっているミュゼに気づくと目を丸くし、ミュゼは微笑んだ後意味ありげな笑みを浮かべた。
「…………以前も言ったように君の”正体”についてはアルフィンから予め聞いている、ミュゼ―――いや、ミルディーヌ公女。」
「やはりリィン教官はミュゼさんの正体をご存じでしたか…………わたしに関しては今この場で初めて知ったのですが。わたしにミュゼさんの”正体”についての情報を共有しなかったリィン教官達には後で苦言をしたい事は山ほどありますが…………その件を一端置いておくとして、どうやらその様子ですと先日の特別演習の3日目の夜に外泊した本当の理由は”領邦会議”で、その会議によって次のエレボニア側のカイエン公爵はミュゼさんに決まったみたいですね?」
「あ…………そういえば、ミュゼが外泊したあの日って、”領邦会議”の最終日でもあったわね…………」
ミュゼの問いかけに静かな表情で答えたリィンをジト目で見つめたアルティナは真剣な表情でミュゼを見つめ、アルティナの話を聞いたゲルドはフォートガードの特別演習の際にミュゼが外泊した時の事を思い出した。
「はい、おかげさまで♪―――改めまして自己紹介を。前カイエン公爵クロワールの姪にして、エレボニア側のカイエン公爵に内定したミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンと申します。ちなみにリィン教官の10番目の伴侶として教官と婚約を結ぶことをリウイ陛下を始めとしたメンフィル帝国の皇族、政府、リィン教官のご両親であられるシュバルツァー男爵夫妻、そして教官の正妻であるエリゼさんや姫様を始めとした教官の伴侶の方々にも正式に許可を頂いていますので、今後は婚約者同士、よろしくお願いしますね、リィン教官♪」
「「………………………………」」
「え”。―――エ、エリゼ!?それにセレーネやアルフィンも!一体どういう事だ…………!?」
ミュゼの自己紹介にアルティナとゲルドは驚きのあまり呆けた表情で黙り込み、リィンは表情を引き攣らせた後慌てた様子でエリゼ達に訊ねた。
「ア、アハハ…………実はミュゼさんの件はフォートガードでの特別演習が終わって、リーヴスに帰還した翌日にわたくしとアルフィンさんはエリゼお姉様から説明をされていたのですわ。」
「領邦会議でエレボニア側のカイエン公爵に内定したその日の夜にリウイ陛下達―――メンフィル帝国と何らかの交渉をする話はエリゼから聞いてはおりましたが、まさかその交渉でリィンさんとの婚約を陛下達どころかエリゼにまで承諾させた話を聞いた時は本当に驚きましたわ…………」
「ええっ!?領邦会議の最終日にエリゼが外泊した理由はリフィア殿下の専属侍女長としてオルディスにいるユーディット皇妃陛下達と何らかの会談を行う為に出席する為だとは聞いていたけど、その会談の内容はミュゼとの会談だったのか!?」
苦笑しているセレーネと呆れた表情でミュゼを見つめて呟いたアルフィンの話に驚いたリィンはエリゼに訊ね
「―――はい。そして様々な事情を鑑み、彼女を兄様の10番目の伴侶として迎える事を決めました。…………ちなみにアリサさんやステラさん、ベルフェゴール様達にも予め話をして了承してもらっています。」
「……………………―――い、いやいやいや!?どうして、そんな重要な事を当事者の俺にも話を通さずに決めたんだ!?というか何なんだ、その”様々な事情”というのは!?」
エリゼの答えを聞いて口をパクパクしていたリィンだったがすぐに我に返ると疲れた表情で問いかけた。
「ふふっ、教官と私の婚約は政略的な意味合いもありまして。そしてその政略とはエレボニア側のカイエン公爵たる私が多くの伴侶を迎える事で様々な方面との縁戚関係を持つリィン教官と結ばれる事で、”オズボーン宰相達を廃した後のエレボニアの政治にメンフィル・クロスベル連合を介入させる正当な理由の一つ”でもあるからですわ。」
「な――――――」
「え…………―――ミルディーヌ!?今の話は一体どういうこと!?まさか貴女…………エレボニア帝国をメンフィル・クロスベル連合の”属国”にするつもりなの!?」
ミュゼの説明にリィンは驚きのあまり絶句し、アルフィンは呆けた後血相を変えて厳しい表情でミュゼに問いかけた。
「…………彼女がそのような判断を降した理由については、貴方方とも共有すべきリウイ陛下達からの情報の件を含めて今から説明いたします―――」
その様子を見たリアンヌ分校長は静かな表情で申し出、リアンヌ分校長とレンはリウイ達からもたらされた情報―――並行世界の未来の新Ⅶ組の情報や領邦会議の後で行ったミュゼとリウイ達の交渉内容等を説明した。
「並行世界の未来のユウナ達がこの世界にいる事にも驚いたけど、並行世界ではそのような事が起こっていたなんて…………(まさか、異世界でも”ラウアールの波”のようなものが存在していたなんて…………あ…………だから、私はあの時”あの歌”を歌っていたのね…………)」
「並行世界の未来ではミリアムさんがわたしを庇って死亡し、”剣”になったのですか……………………」
「しかもアンゼリカさんは生死不明になり、カレイジャスまで爆破されたという事は並行世界の未来ではお兄様や子爵閣下、それにトヴァルさんは…………」
「アルティナさん、アルフィン…………」
驚愕の事情を聞き終えたゲルドは重々しい様子を纏って呟き、アルティナとアルフィンは悲痛そうな表情を浮かべ、二人の様子をエリゼは心配そうな表情で見つめた。
「………………………………―――ようやく、疑問が解けたよ。何故オルキスタワーにいたはずのリーゼアリアがユウナ達と共に”星見の塔”に現れる事ができた疑問を。あれは、ミュゼ。君と並行世界のミュゼの仕業だったんだな?」
「あ…………」
「そ、そういえばリーゼアリアさんはミュゼさんに発破をかけられてわたくし達の加勢の為にオルキスタワーを抜け出して星見の塔に現れたと仰っていましたが、よくよく考えてみるとおかしな点がありましたわよね?」
「はい。”ミュゼさんもわたし達と一緒に演習地にいたにも関わらず、オルキスタワーにいるはずのリーゼアリアさんを演習地に連れてきてわたし達と合流させた事”はどう考えても辻褄が合わない出来事です。恐らくですが、リーゼアリアさんに発破をかけたミュゼさんはわたし達の世界のミュゼさんで、わたし達と共に演習地にいたミュゼさんは――――」
「ええ、オルキスタワーでの結社との戦いの後に演習地に戻ったその日の夜に私と入れ替わった”並行世界の未来の私”ですわ。ちなみに私は皆さんが星見の塔で結社の使い手達と激闘を繰り広げている中、オルキスタワーでユーディお姉様とキュアさんと”今後”の事についての交渉をさせて頂いておりましたわ。」
目を伏せて黙り込んでいたリィンは目を見開いてミュゼを見つめてある事を口にし、それを聞いたゲルドは当時の事を思い出して呆けた声を出し、戸惑いの表情で呟いたセレーネの意見に頷いたアルティナは真剣な表情でミュゼを見つめながら推測し、アルティナの推測にミュゼは静かな表情で頷いた。
「オルキスタワーでユーディットさん達と…………という事は、貴女は並行世界の未来の貴女とクロスベルでの特別演習が行われる前から繋がっていたのかしら?」
「いえ、実際に彼女―――”ミューズと名乗っている私”との繋がりを持ったのは三帝国交流会の為にオルキスタワー屋上にメンフィルとエレボニアのVIP達が到着した時に彼女から連絡が来ましたから、彼女達の存在についてはその連絡が来るまで私も全く把握していませんでしたわ。…………それにしても、理解していたとはいえ”私がもう一人現れるなんて出来事”は”私自身”と会った時に心から驚いてしまいましたわ。あの驚きは間違いなく一生で一番の驚きになるかと♪クスクス♪」
アルフィンの問いかけに答えたミュゼは小悪魔な笑みを浮かべ、ミュゼの答えにリィン達は冷や汗をかいて脱力した。
「…………分校長、それにレン教官。まさかセリカ殿達が再びゼムリア大陸に現れた理由は先程の話にあった”黄昏”の件ですか?」
「へえ?―――その通りよ。”黄昏”が起こった事でエレボニアを中心とした西ゼムリア大陸の大戦乱が起こる事はセリカお兄さん達にとっては看過できない事だから、それを未然に防ぐために再びゼムリア大陸に現れたのよ。―――セリカお兄さんの”正体”を知っているリィンお兄さん達だったら、セリカお兄さんだったら”黄昏”を何とかできる事も知っているでしょう?」
リィンの問いかけに興味ありげな表情を浮かべたレンはリィン達に指摘し、レンの指摘にリィン達はそれぞれ冷や汗をかいた。
「ア、アハハ…………まあ、セリカ様でしたら”黄昏”―――”世界の呪い”すらも何とかできるでしょうね。」
「そうですね。セリカ様は非常識過ぎる面々のディル=リフィーナ勢の中でも”最も非常識かつ理不尽な存在”と言っても過言ではありませんし。」
我に返ったセレーネは苦笑し、アルティナはジト目で呟いた。
「えっと………ずっと、気になっていたんだけど、どうしてセリカさんはその”黄昏”を何とかする為にわざわざ異世界からやって来たのかしら?」
「フフ、それは…………―――将来、彼の者の伴侶として生まれる正義の大女神殿が生きる世界が戦乱の時代であることは、彼の者にとっても看過できないとの理由だからです。」
「そ、そんな理由の為だけに…………」
「まあ、サティア様との再会、成長を心から望んでいるセリカ様自らが動かれる納得の理由ではありますが…………」
「そのような理由でセリカ様の逆鱗に触れたオズボーン宰相達は”哀れ”に見えてきますわよね…………」
ゲルドの疑問に答えたリアンヌ分校長の答えを聞いて冷や汗をかいて脱力したリィンは疲れた表情で呟き、エリゼとセレーネは苦笑していた。
「―――話をオズボーン宰相達の件に戻すわ。まず、未来では”ゲオルグ”と名乗るジョルジュ・ノームの裏切りによって生死不明になったアンゼリカお姉さんの件だけど…………それを未然に防ぐために、ヒンメル霊園でアンゼリカお姉さんが現れるのを待っていたエヴリーヌお姉様とカーリアンお姉さんがジョルジュによるアンゼリカお姉さんの暗殺を未然に防いで撃退した後、アンゼリカお姉さんにも事情を話して、しばらくの間メンフィル帝国の本土―――”ミルス”で匿われる事を了承してもらっているから、アンゼリカお姉さんは今はミルスにいるわ。」
「!!」
「それじゃあやはり、ジョルジュさんは…………」
「”黒の工房”の関係者だったという事ですか…………」
「それでも、生死不明になるはずだったアンゼリカさんを守る事ができて本当によかったわ…………」
レンの話を聞いたリィンは目を見開き、セレーネとアルティナは複雑そうな表情をし、ゲルドは安堵の表情で呟いた。
「………あの、レン皇女殿下。こんなことをレン皇女殿下達に嘆願する権利はわたくしにはないと承知の上ですが―――」
「―――ユーゲント皇帝への銃撃や”黒のアルベリヒ”による黒の工房が仕掛けたと思われる爆薬によるカレイジャスの爆破―――つまり、オリビエお兄さん達の爆殺を未然に防いで欲しいって事でしょう?まあ、レン達もそのつもりだけど、カレイジャスの件は何とかなると思うけど、ユーゲント皇帝の件は多分”完全に防ぐことは無理”だと思っているわ。」
「え…………ど、どうしてですか………?その…………ユーゲント陛下を銃撃する人物も並行世界のユウナさん達のお陰で予め判明しているのですから、当日”彼”を見張っていればいいのでは?」
アルフィンの嘆願に静かな表情で答えたレンの答えが気になったセレーネはアルフィンを気にしながら不安そうな表情で訊ねた。
「…………先程の話にあったエレボニアに巣食う”呪い”―――因果律を狂わせる強制力によって、こちらがどう妨害した所で結局は”黒の史書”通りになってしまう。―――そういう事ですか?」
「ええ。恐らく貴方達がどれ程カーバイドに注意をしていたとしても、因果律を狂わせる強制力を出し抜くことは並大抵のことではありません。」
「はい、その証拠に並行世界の未来の私もアッシュさんが入手したヴェルヌ社製の特殊拳銃を見逃したとの事ですから、恐らく私自身も例え予めアッシュさんが特殊拳銃を手にする所を目撃し、彼から特殊拳銃を取り上げたとしても、何らかの形で彼の手に再び特殊拳銃が渡る事になるでしょうね。」
「そんな…………お父様…………」
「アルフィン…………」
「…………それでも…………それでも、”黒の史書”という本に書かれている事は絶対ではない―――ううん、”絶対に決まった未来は存在しないわ。”黒の史書の内容も私の予知能力と同じであくまで”可能性”を記したものである事は今の話を聞いて、確信できるもの。」
リィンの推測にリアンヌ分校長とミュゼはそれぞれ頷き、その話を聞いて悲痛そうな表情をしているアルフィンをエリゼが辛そうな表情で見つめている中、ゲルドは静かな表情を浮かべて答えた。
「え…………ゲルドさんは今の話を聞いて、何故”黒の史書”に書かれている内容もあくまで”可能性”であることを断言できるのですか?」
「お義父さん達―――メンフィル帝国を始めとした異世界ディル=リフィーナとゼムリア大陸が繋がるという世界にとっての大事が記されていないようだもの。」
「あ…………」
「確かに…………”百日戦役”どころか”獅子戦役”が起こる事すらも記されていながら、それらと比べると遥かに世界にとっての大事であるディル=リフィーナとゼムリア大陸が繋がるという事実は記されていないとの事だからな…………」
アルティナの質問に答えたゲルドの答えを聞いたアルフィンは呆け、リィンは納得した様子で呟いた。
「つまり、”呪い”にとって異世界ディル=リフィーナの存在はまさに想定外ですから、もしかしたらディル=リフィーナの関係者でしたら、”呪い”は介入できない可能性も考えられるという事ですか。」
「そう―――それがレン達にとって”呪い”を出し抜ける”可能性”と言っても過言ではないわ。だから、ユーゲント皇帝への銃撃事件が起こる当日はベルフェゴールお姉さんに姿を消した状態で、ユーゲント皇帝の近くにいてもらって、ユーゲント皇帝への銃撃を可能な限り防いでもらう―――最悪でも、致命傷にはならないようにしてもらう予定になっているわ。」
「ベルフェゴールがユーゲント陛下を……………………なるほど、”七大罪”の一柱の魔神であるベルフェゴールならば、”呪い”による因果律すらも影響を及ばない事が考えられるからですか。」
「そういう事♪――――で、リィンお兄さん達に気を付けて欲しいのは帝国政府が何らかの形でアルティナをリィンお兄さん達から離す事―――つまり、拉致する事を絶対に阻止する事よ。」
リィンの推測に頷いたレンは表情を引き締めてリィン達に指摘した。
「アルティナさんを帝国政府から守る事は並行世界の未来で起こりかけたアルティナさんの命を奪って”剣”にさせない為ですか?」
「ええ。”百日戦役”と”七日戦役”による我が国とエレボニア帝国の力関係を考えると、メンフィル帝国に所属しているオライオン相手に強権を発動してまで我々からオライオンを拉致する事はありえないとは思いますが、並行世界の件を考えると十分に考えられますので。」
「パパ達からも、最悪戦闘になって相手を”抹殺”してでも絶対にアルティナの身柄をエレボニアに引き渡してはいけない事も伝えられているから、万が一向こうが頑なにアルティナの確保を望んだりメンフィル帝国の許可を得てとかこっちが納得をせざるを得ない理由を言ってきたとしても、その要請に応える必要はないからね。」
「―――了解しました。今後アルティナの身辺には最大限の注意を払うように気を付けます。」
「私も”予知能力”を使って、今後アルに何か起こらないか注意をしておくわね。」
「フフ、幾ら宰相達が黒の工房や結社と協力したとしてもメンフィル帝国による庇護に加えてゲルドさんの”予知能力”という二段構えの”迎撃態勢”を超える事は不可能でしょうね♪」
「アハハ…………そもそも、ゲルドさんの”予知能力”で自分達の行動が予測されて、前もってわたくし達にその対策をされるのですから、その時点でアルティナさんの拉致は不可能ですものね…………」
エリゼの質問に答えたリアンヌ分校長とレンの説明を聞いたリィンとゲルドは真剣な表情を浮かべて頷き、微笑みながら答えたミュゼの答えを聞いたセレーネは苦笑していた。
「…………わたしの事に配慮して頂けることはありがたいのですが…………その場合ですと、オズボーン宰相達はわたしではなく、ミリアムさんを”剣”にする事を考える可能性が考えられるのですが…………」
「それは…………」
「―――そうね。というか普通に考えて、並行世界と違ってエレボニアの権威や力すら通じないメンフィル相手にメンフィルに所属しているアルティナを確保するなんて、相当なリスクを覚悟しなければならないのだから、自分達の手元にいるミリアムをアルティナの”代役”として選んだ方が彼らの計画の成就の成功率は遥かに跳ね上がるもの。だから、レン達は”ミリアムが”剣”に選ばれてオズボーン宰相達によって拉致される事を想定した上での黄昏発動の阻止”を予定しているわ。」
ある事に気づいて辛そうな表情を浮かべたアルティナの推測を聞いたリィンは複雑そうな表情をし、レンは静かな表情でアルティナの推測に頷いて話を続けた。
「ミリアムさんの拉致を想定した上での”黄昏”の阻止作戦という事は、並行世界のお兄様達のように”黒キ星杯”に突入してミリアムさんの奪還、そして”呪い”をその身に封印している”聖獣”を何とかする事ですか?」
「ええ。”呪い”に侵された”聖獣”はセリカ殿、もしくはアイドス殿の神術ならば浄化は可能との事ですから、当日は転移魔術でエレボニアに密入国をしたセリカ殿達も貴方達に同行する事になります。」
「うふふ、それどころかロイドお兄さん達―――”特務支援課”やエステル達もリィンお兄さん達と一緒に”星杯”に突入する事も予定しているわよ♪」
「ええっ!?セリカ殿達どころかロイド達やエステル達まで俺達と一緒にその”黒キ星杯”とやらに突入するんですか…………!?」
「ふふっ、”碧の大樹”以来のメンバーですわね。」
「そうですね。…………あの、まさかとは思いますが”空の女神”の一族が再びゼムリア大陸に現れて、わたし達と一緒に”黒キ星杯”に突入する事まで予定しているのでしょうか?」
「クスクス…………そういえば、アルティナさんや教官達は2年前に降臨されたあの”空の女神”やその一族の方々とも直に会うどころか、共闘までしたとの事でしたわね♪」
「ゼムリア大陸全土が崇めている”女神”…………一体どんな”女神”なのかしら?」
「ふふっ、旦那様達の話によりますと女神様はオリヴァルトお兄様のように中々ユニークな性格をした女神であるとの事ですわ。」
レンから知らされた驚愕の予定にリィンは驚き、セレーネは微笑み、ある事が気になってジト目になったアルティナの推測を聞いたリィン達がそれぞれ空の女神―――普段は生き生きとした様子で”ただの新妻”と名乗り、”空の女神”呼ばわりする事を本気で嫌がり、様々な規格外な行動を平気でしてきたエイドスを思い浮かべて冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ミュゼは微笑み、ゲルドは興味ありげな表情を浮かべ、ゲルドの疑問にアルフィンは苦笑しながら答えた。
「え、え~っと…………まあ、決して一言では現せない性格だよな、空の女神は。」
「そうですね…………ある意味直に会う事は止めた方がいいと思えるような方ですね。」
我に返ったリィンとエリゼはそれぞれ困った表情で答え
「フフ…………さすがに彼女達の加勢までは予定していません。今回の件も”零の至宝”の件同様人の”業”によって生まれたものであり、解決の為に空の女神自らが動いてもおかしくない件ではありますが、2年前の件と違い、今回の件は”歴史の改変”ではないのですから、時代が異なる彼女達にまで負担を強いる件ではありませんので。―――それよりもリィン・シュバルツァー、ここまで話を聞けば恐らく貴方も既に察していると思いますが”黄昏”の阻止作戦の目的は”元凶”である”呪い”の浄化だけではありません。」
「……………………”黄昏”の発動、そして世界を”終焉”へと導くことを目論む主犯格の人物達――――エレボニア帝国宰相ギリアス・オズボーン並びに、”黒の工房”の長である”黒のアルベリヒ”―――いや、俺達がクロスベルの湿地帯で出会った”帝國学術院”の教授の一人にしてアリサが幼い頃に既に死亡したはずのアリサの父親―――――フランツ・ルーグマンの”抹殺”ですか。」
「そ、それは…………」
「……………………」
リアンヌ分校長の指摘に対して静かな表情で答えたリィンの話を聞き、それぞれリィンやアリサの心情を予想したセレーネは不安そうな表情をし、アルティナは複雑そうな表情を浮かべていた。
「そうよ。リィンお兄さんが予想しているようにエレボニア帝国政府は関係しないパパとシルヴァンお兄様による正真正銘のメンフィル両皇帝の要請という形で、リィンお兄さんにも二人の”抹殺”が指示される予定となっているわ。」
「―――単刀直入に聞きます。リィン・シュバルツァー、貴方はかつて”七日戦役”を和解へと導くために前アルバレア公やルーファス・アルバレアを討った時のようにゼムリア大陸の平和を乱すことを望むあの二人を自らの手で討てますか?」
そしてリィンの推測にレンが頷いて説明した後、リアンヌ分校長はリィンに非情の覚悟を問いかけた―――
後書き
なお、今回の話でリィン達が閃Ⅲ終盤の原作イベントを知った時からのBGMは閃Ⅲの”嘆きのリフレイン”か閃Ⅳの”変わる世界 -闇の底から-”のどちらかで次回の話でリィンが決意を口にする所からのBGMは閃ⅣのラストダンジョンのBGMである”The End of -SAGA-”だと思ってください♪
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