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英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

作者:sorano
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外伝~混沌の鼓動~ (4章開始)

エレボニア側ノルティア州北端・アイゼンガルド連峰上空―――

皇室所属・飛行巡洋艦”カレイジャス号”


2年前の内戦でⅦ組や特務部隊の旗印となったアルセイユⅡ番艦にしてエレボニア皇家所有の飛行巡洋艦―――”カレイジャス”に乗船しているトールズ本校の生徒達が初めて乗る”カレイジャス”を楽しんでいる中、艦長であり、ラウラの父でもあるヴィクター・S・アルゼイド子爵はクルーから報告を聞いていた。

~カレイジャス・ブリッジ~

「―――現在、アイゼンガルド連峰、西部上空を通過中。予定では14:10に帝都圏に到達する見込みです。」

「速度と針路を維持。アルスター近郊に到着後は、鉄道路線に並行して飛行せよ。」

「イエス・キャプテン!」

「―――お疲れ様です、閣下。」
アルゼイド子爵がクルーへの指示を終えると本校の教官として赴任しているナイトハルト教官が近づいてきてアルゼイド子爵に労いの言葉をかけた。
「この一週間、本当にお世話になりました。」

「なに、これも紅き翼の役目というものだ。貴官こそ、ノーザンブリアでの初演習、さぞ気苦労も多かったであろう。お疲れ様であったな。」

「……………………正直、どのように評し、どう論すべきか迷っています。」
アルゼイド子爵の労いに対してナイトハルト教官は首を横に振って複雑そうな表情で答えた。
「フフ、クレイグ殿の薫陶の賜物というべきか。…………とにかく今は貴官の信念を示し続けるしかなかろう。そうすれば、きっと―――」

「ああ、教官。こちらにいましたか。」
アルゼイド子爵が何かを言いかけたその時、セドリック皇太子が近づいてきた。


「アルノール候補生…………」

「ご機嫌よう、殿下。」

「フフ、しかし流石は”紅き翼”ですね。内戦で殆ど使われることのなかった”主砲”も大したものでしたし…………今後、飛行艦隊にも同等の巡洋艦を数隻配備すべきかもしれません。まあ、兵器の生産を現状他国の企業になってしまったRF(ラインフォルトグループ)に未だ頼っている上、特に兵器の販売に関しては通常の値段よりも数倍、数十倍の値段で購入せざるを得ない今の状況では厳しい事は理解しているのですがね。」

「候補生、君は…………」

「―――確かに変事においては役立つ力ではありましょう。そうした力の使いようと是非…………今回の演習で学ばれたのであれば有意義であったのではないかと。」
セドリック皇太子の意見にナイトハルト教官が答えを濁している中アルゼイド子爵は真剣な表情でセドリック皇太子を見つめて指摘した。
「ええ、勿論です。お疲れ様でした、アルゼイド艦長。またの機会があることを祈っています。それと帝都の夏至祭での哨戒任務―――兄上と共によろしくお願いします。」
そしてセドリック皇太子が口にした言葉にナイトハルト教官とアルゼイド子爵はそれぞれ血相を変えて驚いていた。


~同時刻・緋の帝都ヘイムダル・地下道~

一方その頃帝都の警護を務める憲兵達は地下道を使って逃亡するある人物達を追って行ったが、その人物達は突如消えた為、逃がしてしまった。
「クソ…………!」

「これで何回目だ…………キリがないぞ!?」

「やはり鉄道憲兵隊や情報局の力を借りるしか…………」
憲兵達は追っていた人物達を逃がしたことに悔しさを感じながら地上へと戻って行った。
「…………やれやれ、あの程度であれば助かるが。」
その様子を距離を取って見守っていた男は溜息を吐いた後他の男たちと共に姿を現した。
「今はまだ捕捉される訳にはいかん。定刻まで散開――”ラムダ”はいつでも使えるようにしておけ。」

「Roger(ラジャ)。」

「任務を再開します。」
男の指示に頷いた青年たちは散開してその場から去った。
「紅い花…………?」
どこかへと向かっている青年は地面に生えている紅い花に気づいたが、気にせずその場から去ると何と紅い花の真上に突如亡霊らしき存在が現れた!
「―――させないわ。」
するとその時女性の声が聞こえると亡霊は何らかの魔術を受けて消滅した、紅い花も消滅した!
「ふう………本当にキリがないわね。」
するとクロチルダがその場に現れた。


「奇蹟をもたらす存在の”眼”にして”依代”―――”幻”は”焔”に呑み込まれ、御伽噺もメンフィル帝国を始めとした想定外(イレギュラー)の存在によって徐々に誰もが想定していなかった方向へと進みつつある。それで、”専門家”としてはどう介入するつもりなのかしら?」
独り言をつぶやいていたクロチルダがある方向に視線を向けて問いかけた。
「いや~、バレバレでしたかぁ。」
するとクロチルダが視線を向けた方向の物陰から眼鏡をかけた男が現れた。
「正直、とっかかりがなくて困ってましてねぇ。できればお近づきになって情報交換できないかな~と。よかったら”長”殿との仲立ちもお手伝いさせていただきますよー?」

「ふふっ…………そういえば”協定”とやらを結んでいたそうね?まあ、それについては検討させてもらうとして――せいぜい、お手柔らかにお願いするわ、トールズ本校、元歴史学教官…………いえ――第二位”匣使い”、トマス・ライサンダー卿。」
気安い口調で話しかけた男―――トールズ本校の元歴史学教官にして”星杯騎士団”の守護騎士(ドミニオン)の第二位にして星杯騎士団の副長―――”匣使い”トマス・ライサンダーの言葉に妖しげな笑みを浮かべたクロチルダがトマスに指摘するとトマスは口元に笑みを浮かべて眼鏡に手を置いた。
「お話中の所、割り込んでしまってすみませんが、ちょっと聞きたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
するとその時リタが突然何もない空間から現れ、リタの登場に二人はそれぞれ驚いた。
「おや、確か貴女は…………」
我に返ったトマスは目を丸くしてリタを見つめ
「亡霊…………?いえ、先程滅した霊と違って、ちゃんとした自我もあるようだし、何よりも感じる霊力(マナ)が聖気を纏っているわね…………―――何者かしら?」

「―――彼女は異世界に存在する死者達の魂を導き、来世へと繋げていく”冥き途”という場所の門番の一人にして守護霊であるリタ・セミフさんです。いや~、ケビン達の報告で貴女の事も挙がっていましたが、まさかこんな所でお会いできるなんて、これも女神(エイドス)のお導きかもしれませんね~。」
リタを興味ありげな様子で見つめているクロチルダにリタの事を説明したトマスはリタに気安く話しかけた。
「ケビンさん達から私の事を聞いたという事は”星杯騎士団”の関係者の方ですか。―――ちなみに貴女はどういった立場の方なのですか?」

「フフ、そうね…………”嵐の剣神”に惹かれし魔女とでも名乗っておこうかしら?」

「え…………”嵐の剣神”という事は主―――セリカ様に?そういえばこの間会ったカーリアンさん達から元結社の”蛇の使徒”にして魔女でもある方が主に恋をしているみたいな事を教えてくれましたけど、もしかしてその方ですか?えっと、確か名前は…………ヴィータ・クロチルダさんでしたっけ?」
怪しげな笑みを浮かべたクロチルダの説明に目を丸くしたリタはすぐに心当たりを思い出してクロチルダに確認した。
「ええ、そうよ。どうやらその口ぶりだと貴女は”嵐の剣神”の関係者みたいね?」

「はい、”元”にはなりますが私は主――セリカ様の”使い魔”でした。まあ、使い魔契約を解除しているとはいえ、主が今でも私にとって大切な人で主であることは変わりませんが。」

「いや~、契約を解除してもなお、”嵐の剣神”に忠誠を誓うその忠義心には感服しますよ。機会があれば、”嵐の剣神”の関係者の方々ともお近づきになりたいと思っていたのですが…………もし、お二方ともよろしければ、それぞれ、お互いの情報交換を致しませんか?」

「フフ、私としてはセリカの事をもっと知る事ができる機会でもあるから、別に構わないわよ。」

「えっと……そちらの魔女の方はともかく、私が”星杯騎士団”の方が知りたい情報を持っているとは思えないのですが…………個人的にここのこの状況をもっと詳しく知りたいので私も構いませんよ。」
そしてトマスの提案にそれぞれ了承した二人はその場で情報交換を始めた。


~皇城・バルヘイム宮・翡翠庭園~

一方その頃エレボニア皇帝ユーゲント三世とその妻、プリシラ皇妃は皇城内の庭園である事を話していた。
「ふう、まさかオリヴァルト殿下が祝賀会を欠席されるなんて…………」

「仕方あるまい―――あのような事があったばかりだ。紅き翼が帝都の空を守るならば民もさぞ安らごう。」
溜息を吐いて呟いたプリシラ皇妃にユーゲント三世は慰めの言葉をかけた。
「ええ…………ですが殿下に申し訳なくて。ただでさえセドリックの事で気を悪くされているでしょうし…………」

「フッ、その程度で不快となるオリヴァルトではあるまい。そなたも良く知っているようにな。」

「ふふ、そうですわね…………」
ユーゲント三世の言葉に微笑みを浮かべて答えたプリシラ皇妃は昔のオリヴァルト皇子やアルフィン達の様子を思い浮かべ得た。
「お母様を喪い、皇宮に引き取られたばかりの男の子…………小間使い上がりの継母のことなど邪剣にされてもおかしくないのに…………殿下はわたくしを受け入れアルフィンやセドリックの誕生を心より喜んでくださいました。」

「フフ、それがあれの人徳だろう。エレボニアだけでなく大陸各地に、そして14年前に突如現れ、交流はリベールが主であった異世界にも”友”がいるのも頷ける話だ。」

「ええ、それなのに。それなのに、最近のセドリックはあれほど慕っていた兄君を―――それどころか、自身の双子の姉のアルフィンまで―――…………既にセドリックがアルフィンとも会ったことは聞き及んでおりますが、アルフィンもセドリックの変貌にさぞショックを受けた事でしょうね…………」

「…………かもしれぬな。だが、今のアルフィンには心から信頼できる伴侶や仲間達がいる。アルフィンの事については彼らに任せるべきだろう。今のアルフィンは”アルノール家”ではなく、”シュバルツァー家”の一員なのだからな。」

「…………そうですわね。リィンさん達には”七日戦役”やアルフィンの件も含めて、わたくし達は受けた恩を何一つ返すことができず本当にお世話になってばかりで申し訳ないですわね…………」

「そうだな。それこそ養女に迎えたリーゼロッテもアルフィンのように彼の者の伴侶として差し出しても、私達は返し切れぬ恩を彼を含めたシュバルツァー家から受けているからな…………」

「――両陛下、失礼します。オズボーン閣下が拝謁を賜りたいとの事ですが…………」
プリシラ皇妃の意見にユーゲント三世が静かな表情で同意したその時、衛士が二人に話しかけた。
「わかった、通してくれ。」
そしてその場にエレボニア帝国宰相―――”鉄血宰相”ギリアス・オズボーンが衛士に連れられて現れた!


「お寛ぎのところ失礼いたします。陛下、プリシラ様も。」

「いえ…………お役目、お疲れ様です。それではわたくしは下がらせて頂きますね。」
オズボーン宰相の言葉に答えたプリシラ皇妃は恭しく会釈をした後衛士と共に皇宮内へと戻って行った。
「…………やはり、殿下のことでご不快にさせているようですな。」
プリシラ皇妃を見送ったオズボーン宰相は苦笑しながら答えた。
「こればかりは致し方あるまい。そもそも妃とそなたで見えているものが違う以上は。」

「御意。」

「それよりも―――いよいよ”史書”の通りになってきたわけか。」

「ええ、内戦についてはタイミングを計り、内戦の最中に”七日戦役”という”史書”には書かれていない戦は起こりましたが…………それでも全てが”それ”に至りつつあるのは確かでしょう。…………ですがよろしいのですか?”このまま私に任せても。”」

「―――14年前に言った通りだ。”それ”が避けられるぬのなら、まずはそなたに任せると決めた。息子たちには苦労をかけ、国の為に己の身を差し出したアルフィンには失望させてしまうだろうが…………”それについてはそなたも同じであろう。”」
オズボーン宰相の問いかけに対して静かな表情で答えたユーゲント三世はオズボーン宰相を見つめた。
「―――承りました(イエス)、陛下(ユア・マジャスティ)。」
ユーゲント三世の指摘に対してオズボーン宰相は口元に笑みを浮かべた後恭しく礼をした――――
 
 

 
後書き
ようやく、4章まで来た…………閃Ⅲ篇完結まで後少し…………なお、次回は一部の方達がお待ちかね(?)のミュゼのリィンハーレム入り&リィン達に閃Ⅲ原作ラストのネタバレ回の話になりますww 
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