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ある晴れた日に

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141部分:妙なる調和その十三


妙なる調和その十三

「随分酷いことになってるらしいぜ」
「うわ、だったら」
「うちの学校も」
「ちょっと少年」
 静華はここで明日夢に顔を向けて声をかけた。
「気をつけてね、あんたが飼育委員なんだから」
「ええ、わかったわ」
「桐生もだぞ」
 春華は桐生に対して声をかけた。
「わかってるよな、そこんところは」
「そうだね。そんなことあったら許せないから」
 桐生は真面目な声で彼女の言葉に返した。
「用心に用心を重ねておくよ」
「頼むぜ、そういや最近テレビで変なの出てねえか?」
「変なのって?」
「弁護士のよ」
 今度は野本が皆に言ってきた。
「ええと。吉見何とかってよ」
「吉見何とか!?」
「誰、それ」
「下の名前は何だったっけな」
 この辺りの記憶は曖昧なのだった。
「ほら、何とかっていうだろ」
「それでわかるわけねえだろ」
 坂上が呆れた顔で彼に突っ込みを入れる。
「何とかってだけじゃな」
「けれどよ、テレビに出てるぜ」
 彼はあくまでこう主張するのだった。
「弁護士の吉見何とかってな」
「で、そいつがどうしたんだ?」
 佐々は名前よりもその弁護士自体に興味を持った。それで単刀直入に野本に対して問うたのである。
「テレビで何言ってたんだ?」
「世の中は人権と法律の綱引きとか言ってたな」
 野本は己の記憶を辿りながら彼の問いに対して述べた。
「確かな」
「何だ!?そりゃ」
「人権と法律の綱引き!?」
 それを聞いてすぐに呆れた声を出したのはその佐々と恵美だった。
「それが弁護士の言う言葉かよ」
「また変なのがいるみたいね」
「ああ、おかしいのか」
 だが野本はそこまでわからないのかこうしたはっきりしない感じの返答だった。
「これって。やっぱり」
「最近多いけれどね」
 恵美がその彼に冷静に述べてきた。
「そうしたこと言う人間が」
「そうなのかよ」
「ほら、よくあるじゃない」
 恵美はその端整な表情を曇らせたうえで語ってきた。その対象は野本だけではない。
「凶悪犯罪とかの弁護士」
「凶悪犯罪の!?」
「そういうのにつく弁護士って大抵人権がどうとか言うわよね」
「そういえばそうだよな」
 野茂が彼女の言葉で気付いた。
「何かテレビの取材とかでよくそんなの言うよな」
「そういうのが最近多いのよ」
 顔の曇りがさらに強いものになっていた。
「世の中にね」
「で、そいつ等が何するんだよ」
「その凶悪犯の人権を守るのよ」
 こう野本に答えた。
「簡単に言えば人を何人も酷い殺し方した人間が死刑を免れるのよ」
「それって犯罪じゃないの?」
 奈々瀬は話を聞いてすぐに眉を顰めさせて述べた。
「そうじゃなくてもおかしいじゃない。人何人も殺して死刑にならないって」
「中には死刑にならないどころか無実になった話もあるわよ」
「はい!?」
「今何て!?」
 流石に今の恵美の言葉には皆目が点になるのであった。
「人殺して無罪!?」
「何でそうなるんだよ」
「それがなるのよ」
 語る恵美の口調は冷静だったが忌々しげなものを語るそれであった。
 
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