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外伝 シンフォギアAXZ編
前書き
すみません、遅れました。
エイプリルフールに間に合わそうとしてどうにもならず…
ほんの少しでも楽しんでもらえたならば幸いです。
「わぁっ!?」
バサリと驚きの声と共に布団を押しのけて飛び起きる。
「自分の部屋…デス…はぁ…良かった。ゆ、夢デスかぁ…またわたしの所為で何かが誤作動したかと思ったのデスよ…」
はぁ、良かったと起き上がる切歌。
八月も終わり今日から登校日。夏休みの宿題は…まぁ調とアオさんのおかげで何とかなったし、いっちょ元気に登校するのデス。
なんて気合を入れて扉を開けるといつもの様に配膳されている朝食が…
「無いデスっ!?」
あまりの事実に絶叫する切歌。
「切ちゃん…?」
その声に振り返ると黒いおさげを結わえた少女の姿が見て取れる。
「調ぇ…どうしたんデスかっ…朝食が…わたしの朝食…」
なんてのたまう切歌を注意深く見つめ返す調。
「じー…」
「どうしたデス?調…」
「本当に切ちゃん?」
「何言ってるデスか、調。わたしがわたし以外に見えるデスか?」
「そう言う訳じゃ…無いけど…」
「そんな事よりも朝ご飯デス…ミライさん…ご飯作るの忘れたデスかね…」
ミライと言う言葉に反応する調。
「あ、本当に切ちゃんだ」
「だから、なんなのデス調、さっきからちょっと変デスよ」
「変なのは切ちゃんの方、周りを見て」
「周り、デスか…?」
言われてきょろきょろと見渡すと何やら狭苦しい。
食卓も小ぢんまりとしていてまるで二人暮らしでもしているかの様。
「部屋が狭いデスっ!と言いますか、いつの間にか敷居が復活してるデスっ!?」
本来、切歌たちはミライ達と共同生活しているはずで、壁をぶち抜いてスイートに改造していたはずである。
「そう、ちょっと変なの。でもこれはきっと切ちゃんの所為」
「わたし、何かしたデスか?」
「…触っちゃだめだっていう聖遺物に触った」
「にゃはは…でも何もなくベットで目が覚めたのデスっ!」
「はぁ…まずそれが間違いだと思う」
深くため息を付くと調は携帯電話を取り出した。
「此処はわたし達の家であってもわたし達の家じゃない」
「どう言う事デス?」
「この間みんなで夏休みの旅行に行ったとき色々写真を取ったのだけど」
携帯のカメラ機能で取った画像を開いて見せた調。
「それがどうしたデスか?」
「…ないの」
「ない…?何がデス?」
「ミライさんの写真が一枚も」
「調が消してしまったと言うのは…」
「それは無い…写真は自己の証明…思い出だもの。消すなんてしない」
一枚の写真も彼女達にしてみれば楽しかった思い出だ。彼女たちの境遇からそう言った写真は大きな価値を持っていたのだろう。
ブレた写真すら消すことを戸惑うくらいに。
「どどど、どう言う事デスっ!?」
途端に慌て始める切歌を調はどうにか落ち着かせると首を振りながら言葉を発する。
「分からない。分からないから少し慎重に調べてみた方が良い」
「慎重にっていったいどうやってデスかっ!」
戸惑う切歌に出されたのはリディアン音楽院の制服だ。
「どうやらわたし達はリディアンに通っているみたい。だから取り合えず学校に向かう」
「なるほど、合点デスっ!」
朝食はコンビニで済ませるとイザ学校へ。
暦は変わっていないようで今日から夏休み中の登校日のようだった。
「下駄箱の位置は変わらないみたい」
「と言う事は教室も変わらないデスかね?」
「たぶん」
いつも通りに教室へと向かい、先生からのありがたいお言葉を頂くと、つつがなく放課後へ。
「何も変わらないですっ!」
「うん。でもミライさんが居ない。響さん達もやっぱりわたし達が知っている彼女達とは違う気がするし」
「ミライさん、本当に知らなかったみたいデスからね…」
学校で出会った響やクリスにミライの事を尋ねたが、不審がられただけだった。
ピピピッ
「わぁっ!?」
「切ちゃん、携帯」
そう言うと調は冷静な対応で形態に出る。
「はい、はい…はい、わかりました」
「誰だったデス?」
「弦十郎さん。songとしてのお仕事だって」
「この世界にもsongは有るのデスね」
「うん。そしてシンフォギアも有る」
こくりと二人は頷き合った。
迎えのヘリコプターに搭乗すると、遅れている響を搭乗したまま迎えに行く。
当然、ローターの音が大きすぎて肉声は教室の中に居た響には通らない。
「切ちゃん…」
「デスデスデースっ!」
切歌が爆音に負けないように叫んでいるが…
「それ、日本語なの…?」
デスで通じたらこの世界はすでに統一言語と言う事になってしまわないだろうか?
無事に響を回収すると次はソングの所有する潜水艦へと移動。さらにそこからは海を渡るようだ。
「バルベルデ…?」
バルベルデ共和国。そこが任務地であるようだった。
説明によれば、魔法少女事件によって流出してアルカノイズが軍事利用されているらしい。
アルカノイズの軍事利用の停止及び壊滅が任務となるようだ。
先鋒は響、翼、クリスの三人。
「わたし達は…」
「わりーが、リンカー頼りのお前たちを現場に出す訳にはいかねー」
そうクリスが言う。
「クリスちゃんは必要が無いって言っているんじゃなくて、ってあたたたたっ!」
「よけーな事は言わなくて良いんだよ。これは先輩であるあたしに任せておけばいいんだ」
クリスは途中、何かを言おうとしていた響の頬をつねり上げながら中断させた。
「…リンカー?」
それは制服のポシェットにしまってあった無芯針の投与注射器の事だろう。
自分たちの世界でも製造はウェル博士しかその詳細を十分には理解できていなかったために既に製造はされていない。
自分たちには必要なくなったと言う事も有る。だが、この世界では違うようだ。
「ラスト一本。使いどころが重要ね」
とマリア。
この世界では未だに切歌、調、マリアはリンカー頼りの時限式と言う事なのだろう。
マリアはヘリコプターで援護に向かうらしい。
「あなた達は…」
「うーん」
「騎乗スキルのおかげで多分運転は出来ると思うけど…」
「でも、たぶんわたし達免許なんて持ってないのデス」
「だね。マリア、わたし達はここで待機して指示を待つことにする」
「デスっ!」
「そ、そう……あなた達…いえ、…行って来るわね」
マリアは何か引っかかりつつも格納庫へと走って行った。例え装者として戦えなくても何かしていないと不安なのだろう。
停泊中の潜水艦本部にてモニタに映し出されている映像を眺めていると、ようやく作戦が始まった様だ。
どこから流れたのか。錬金技術であるアルカノイズを使役する軍へと響、翼、クリスの三人が兵器を壊滅させながら制圧していくのをモニターで眺めている。
「世界が変わってもさすがの三人デスっ!」
「確かに、やる事が派手」
響達三人による制圧を眺めていた切歌、調の感想。
「船を浮かばせる技術にまで漕ぎつけているとは驚きデスけど、…巨大刀で一刀デスっ!」
真っ二つに切り裂かれてはもはやただの鉄くずだろう。
バルベルデでの作戦は続いていた。
どうやら切歌達は味噌っかす扱いが続いているらしく戦力外扱い。
ただマリアは何かを焦っているよう。
拠点制圧の任務は響達に任せ、切歌、調は藤尭とあおいに付いて潜入任務に付いて行く。
解析で不審なジャミングがあったオペラの講堂。
中に入り隠された階段から地下へ。埃の舞う地下の一室。息をひそめて中を覗く。
(なんデスかね?)
(何かの聖遺物みたい。込められたオーラがまばらでチカチカする)
中には三人の人影と多数の聖遺物。ある一つの琥珀の様なものの中に保存されている何か。
それをもう少し観察しようとしていた時、藤尭さんのノートパソコンが突如として音を立てた。
「デスっ!?」
「撤収準備っ!」
あおいさんの号令ですぐに拳銃でけん制しつつ講堂を出る。
その銃弾をこともなげに弾く様子はキャロルの使った錬金術の様だった。
軍用車に駆け込み現場を離れると、突如として巨大な蛇のような化け物が現れこちらを襲って来た。
逃走車両は三台、巨大な化け物はすぐにでも襲って来るように蠢動している。
「切ちゃんっ!」
「ガッテン承知のすけデス!」
「二人ともっ!?」
藤尭さんが何かを言っていたが構わず車から飛び降りた。
「Various shul shagana tron」
「Zeios igalima raizen tron」
瞬間ギアが展開されて着地のダメージを減衰させ、仲間の車に迫る巨大なアギト目がけて鎌を振り下ろす切歌。
「せぇいっ!」
だが、切断まではいかず、頭が地面に埋まっただけだっただ、車に乗ったSONGのエージェントは九死に一生を得たようだ。
「あおいさん達は先に」
「ここはわたし達が食い止めるデス」
調と切歌が逃走する車両庇って言う。
「っ!ごめんなさい。それから、藤尭さんには後でお話がありますから」
「わ、…わかったよ」
あおいの言葉にとほほと肩を落とす藤尭だが、この窮地に立たされている一旦は確実に彼にある。
巨大な蛇の化け物に調はヘッドギアを巨大な鋸に変えて攻撃する。
ギギギギギ
「かたい…」
威力負けして飛びのいた。
「調っ」
「ちょっと本気出さないと…」
「分かっているデス…でもっ」
SONGの眼があった。
「そんな事を考えている場合じゃない」
「りょーかいデスっ!」
調と切歌のユニゾンソングが流れ始める。
途端に相乗でギアの出力が上がって行った。
「でっかい蛇がどんな物デスっ」
「切り刻む」
切歌と調の鋸と鎌の攻撃が巨大な蛇を切り刻む。
「やった?」
「デスっ!」
切断された首、しかし…
「再生したデスっ」
「一筋縄では行かない…でも」
「倒せるまでやるまでデスっ」
再び襲って来る大蛇。さらにいつの間にかアルカノイズも増えている。
さらに奥には地下で見た錬金術師がこちらを伺っていた。
「さっきの再生…再生と言うより因果の逆転。ダメージが無かった事にされた」
「げぇ…それってアオさんの権能みたいな…?」
「似ているんじゃないかと思う」
実際は平行世界の同個体にダメージを肩代わりさせているようだが…
「どうするデス?」
まわりのアルカノイズを殲滅しつつ問いかける切歌。
「大丈夫、わたしのシュルシャガナは…」
調もアルカノイズを切り倒しつつ…
「なるほど、わたしのイガリマは…」
襲って来る大蛇の左右からその武器を振るった。
「すべてを切り刻む」「すべてを断ち切る」
シュルシャガナとイガリマの聖遺物に宿る権能を部分的にギアに宿して大蛇を両断した。
「無駄な事、そのダメージは無かった事になる」
錬金術師が勝ち誇った顔を浮かべていた、が…
「わたし達をなめない事デス」
「ダメージを無かった事にするなら、無かった事に出来ない位切り刻むだけ」
再生されず光となって消えていく大蛇。
「まさか、ヨナルデパズトーリが再生しない…だと…?」
「神には神の力なら通じる。当然の事」
斬り付ける瞬間だけ、切歌と調はシュルシャガナとイガリマの権能の残滓を纏わせていたのだ。
「シンフォギアシステムにまだこんな力が…撤退するぞ、カリオストロ、プレラーティ」
「もう、無敵の力はどこに行っちゃったのよっ!」
悪態をつくカリオストロ。
そして錬金術師の気配が消える。転移したようだ。
「二人とも、無事」
車に乗って迎えに来たのはマリアだ。
「マリアっ」
「大丈夫デスっ!」
ブイっと右手を突き出す切歌。
「あなた達…」
何か不審な気配を感じつつもマリアは何も言わずに二人を回収して帰路に着いた。
潜水艦に戻ると精密検査を勧められた調と切歌。
潜水艦の一室にはエルフナイン、マリア、弦十郎が調と切歌を待っていた。
「検査はちょっと…」
「デース…」
「先ほどの戦闘、あなた達の体へのバックファイアが規定よりも少なすぎます。これでは…」
とエルフナイン。
「これでは、なんだ?」
と弦十郎さん。
「正規適合者並です…」
先ほどの戦闘はモニターされていた。
言い訳は難しそうだ。
「あなた達たち、リンカーはどうしたの?」
とマリアに問われて正直にポケットから差し出した。
「どう言う事なの…」
マリアに怪訝な顔が浮かぶ。
「切ちゃん、ここまで来たらもうしらばっくれるのは無理そう」
「ええっ!?諦めるですか調っ」
「大丈夫。きっと信じてくれる」
「そう、デスかねぇ…」
ため息一つ吐いて調は語りだした。
「わたし達はあなた達が知っている調と切歌じゃない」
「それはどう言う…」
と言う弦十郎の疑問をこれから話すと右手を上げて調は制した。
「わたし達はある聖遺物の誤作動でこの世界に飛ばされた…もしくは取り換えられた存在」
「取り換え子?(チャンジングリンク)ですか」
エルフナインの言葉にコクリを頷く。
「わたしの見立ては後者。つまりわたし達がこちらに居ると同時にこっちのわたし達はあっちに居る」
「あなた達の居た世界もシンフォギアシステムは有るのですね。平行世界…ですか?」
とエルフナイン。
「多分そんな感じ。この世界はわたし達の居た世界と近いけれど結構違う所がある」
「それがあなた達が正規適合者並の係数を出した事と関係している、と」
ふるふると首をふる調。
「わたし達も最初はリンカーを使っていた。この体は後天的にシュルシャガナと適合した」
「どうやってっ」
身を乗り出してマリアが問いかける。
「愛、デス」
そう切歌が言う。
「なぜそこで愛っ!ふざけないでっ」
「ふざけてないデスっ!わたし達はあの人と一緒に生きる事を願ったからイガリマに適合できたデスっ」
「あの人、とは?」
と弦十郎。
「この世界には居ない。…居るのかもしれないけれどこちらのわたし達とは出会わなかった人。いつもわたち達の傍に居てくれる優しい人」
切歌と調がそんな事を言うとは思わなかったのだろう。三人とも面を喰らっていた。
「平行世界に渡るのも一度ではないので帰れると思うけれど、時間が掛かると思う」
「こちらの世界の切歌と調はどうなっているのかしら?」
とマリア。
「一番可能性が高いのは彼女達が言ったように入れ替わりです。彼女達が一方的に来たのであればお二方が居なくなるのはおかしい。二つ目は二人が来たことによって融合して消えてしまったと考える事もできますが…」
エルフナインが顎に手を当てながら答えた。
「同一の存在の場合は確かにその可能性も考えられる。けど似ているけどわたし達はかなり違う存在になっていると思う。こちらのわたしは人間を辞めてる?」
「はぁ?なに、それどう言う意味?」
「そのままの意味デス。この体はシンフォギアと完全適合できるほどに人間を逸脱しているのです。あの人が言うには寿命も人間の何倍…もしかしたら不老かも知れないと言っていたデス」
「不老って、なにがどうなって…いえ、質問に答えるなら彼女達は人間よ」
「それほどの代償が必要な敵が居た…いえ、ですが」
考え込むエルフナイン。そろそろ戻ってきて欲しい。
「入れ替わっているのなら大丈夫です。あちらにはあの人が居ますから」
「余ほど信頼しているのだな。愛していると言っても過言ではあるまい」
「男の人…?」
弦十郎とマリア。
「「…………」」
その問に貧窮する調と切歌。
「…?なに女の人なの」
「「り……両方…?」」
盛大な沈黙が訪れた…
さて話し合いの後、しばらくはこの世界の調と切歌として彼女達が使ってい場所を使う事を許された。
この世界の二人とそう性格的な違いは無いらしい。ギアの形もほぼ同じデザインなようで、これは他の機関に二人の不在を悟られぬための処置でもあった。
「マリア、ごめんなさい」
黙っていて、と調。
「あなた達の知っているわたしはどんななの?」
「目の前のマリアと変わらないデス。いつもとっても頼りにしているのデス」
頬を紅潮させて切歌は言った。
「そう…」
マリアはどこか複雑そうな表情で頷いただけだった。
響達がまだ戻ってきていないと言うのに空港にアルカ・ノイズが出たとの報告が本部に入る。
「響くん達はまだか」
「合流にはしばらくかかります」
と弦十郎の問いに藤尭が答えた。
「ここはわたし達が」
とマリア。
「すまん。行ってくれるか」
「マリア、これ」
「あ、そうデス。わたし達には必要ないデスから」
と二本のリンカーをマリアに渡す調と切歌。
「あなた達…」
とは言っても戦えなくては元も子もない。マリアは複雑な感情を必死に隠して受け取った。
空港付近には先ほど見かけた三人の姿が見え、使った技術から錬金術師であろうと推測される。
「完全に挑発」
「さそいこまれたデス」
「あなた達…それが分かって…」
大量のアルカノイズが空港施設を破壊している。
「でも…」
「見過ごせないデス」
「Various shul shagana tron」
「Zeios igalima raizen tron」
瞬時にギアを展開させる調と切歌。
「は、速いっ!」
決断の速さなのか、それともその移動速度の事を言っているのか、マリアの目の前で二人は既にアルカノイズと会敵していた。
「Seilien coffin airget-lamh tron」
遅れながらマリアもギアを纏うと戦場へと駆けて行った。
十、二十と調と切歌はアルカノイズを切り刻む。
「アルカノイズを苦もなく調律しています。お二人はアルカノイズとの戦闘経験があるようですね」
モニタ越しのエルフナインが呟いた。
「どう言う事だ?」
「お二人が経験した過去はわたし達の世界とそんなに変わらないのかもしれません」
そう弦十郎の問いにエルフナインが答えた。
「切ちゃん、錬金術師は…」
「あっちでマリアが戦っているデス」
言われて視線を動かせばどうやら錬金術師相手に接近戦を挑んでいるらしい。
「切ちゃん」
「ガッテンデスっ!」
切歌は大技を繰り出す為に武器を横へと振り下ろし溜めのポーズ。
「はっ!」
その隙の露払いは調の役目だ。
近寄るアルカノイズに鋸を飛ばしてけん制している。
「行くデスよぉ」
「マリアっ!」
大技の発動に調はマリアに注意を喚起すると、切歌は手に持った大鎌を水平に薙ぐ。
「デーースっ!」
大鎌を一回転させるうちに大鎌の刀身が伸び、一周する頃には切歌を中心としたアルカノイズが全て真っ二つに切り裂かれていた。
「ちょ、ちょっとあなた達っ…」
危うく切り刻まれる瞬間にジャンプでかわしたマリアが呆れた声を出している。
切歌は更に半回転踏み出すとそのまま手に持った大鎌をぶん投げると、マリアに攻撃を加えようとしていたサンジェルマン目がけて飛んで行った。
余りの奇行にさすがのサンジェルマンも避けざるを得ない。
飛行型のアルカノイズは調が撃ち落とし、すべてのアルカノイズをせん滅。
「そんなぁ」
「油断するからこんな事になる訳だ」
だがアルカノイズが殲滅されただけと余裕そうなカリオストロとプレラーティ。
「油断するからそう言う事になる」
「デスっ」
「え」「な、なに?」
一瞬で接近した調と切歌がそれぞれギアを形状変化させたロープでカリオストロとプレラーティを拘束し、アンカーを地面に差し込み拘束、無力化に成功した。
「こんな拘束で」
と錬金術で抜け出そうと試みるカリオストロ。
「無駄。その拘束具は強化を無力化し、また術の行使をジャミングする。抜けられない」
「ええっ!?」
事も無げに言いのける調。
エクリプスウィルスに侵されたギアが変質して手に入れた特性だ。相手のエネルギーを分断し、拘束する。
「予想以上だな、シンフォギアと言うものは。だが」
サンジェルマンが掌に光の玉を現すと、その背後に先ほどの巨大な蛇が現れた。
「先ほどは後れを取ったが、このヨナルデパズトーリ、そんなに甘いものでは無いぞ」
「こっちも…」
「一度倒した敵に戸惑うほど弱くはないのデス」
いつの間にか手元に戻っていた大鎌を振り上げる切歌。
緑風が飛んだかと思うとヨナルデパズトーリの首根っこを鎖で縛り上げる。それはアオが使う魔導に似ていた。
「はぁっ!」
調は上空から足に纏うギアを巨大な鋸に変化させヨナルデパズトーリを真っ二つに切り裂いた。
切り裂く度にダメージを無かったことにして再生しようとするヨナルデパズトーリをその都度切り裂いていく。
「命を複数殺すとでも言うのっ!」
「調が一撃で複数回殺すくらい出来ないとでも思ったデスかっ」
「はぁっ!」
ヨナルデパズトーリを殺しつくして真っ二つに引き裂くと最後のあがきと爆発し爆炎を上げる。
「二人とも…」
「ごめんなさい、マリア…」
「逃げられたデス…」
今の爆炎に乗じて捕らえていた二人の錬金術師と三人目の彼女の姿が消えていた。
バルベルデでの任務を終え、日本へと帰国したシンフォギア装者達。
調と切歌の正体を知るものは少ない。この錬金術師の問題が解決する間は響達にも黙っていようと言う事になった。
日本に戻って来たと言うのにむしろ錬金術師たちが日本に乗り込んでくる始末。
日本でやる事があるのか、シンフォギア装者の殲滅が目的か。その行動理由は未だ分かっていない。
切歌と調は自分たちとの世界の差異を調べていた。本当はギャラルホルンが無いかと調べてみた所発見されていないようなので、他にする事が見つからなかったと言う事の方が大きい。
song本部潜水艦内部のリラクゼーションスペースでソファに腰を掛けながら今まで自分たちなりに調べた事を二人ですり合わせをしていた。
「まず、この世界のわたし達はマリアも含めてリンカー頼りの時限式装者みたい」
「デスね。でもそれは仕方が無いデス。わたし達だってアオさんの血が無ければ出来なかった選択デス。この世界にはアオさんは居ない…もしくは出会っていないデスから…」
コクリと調も切歌の言葉に頷いた。
「次に、響さんがなぜか正規適合者になっている」
自分たちの世界との差異はそれほど大きくない。もともと響は融合型の装者であったはずだ。
「未来さんが装者じゃないのと何か関係があるデスかねぇ」
とは言え、その辺のデリケートな事柄については今の自分たちでは調べようも無い。
「響さんの融合症例もアオさんの血が無ければ命の危険が迫るレベルの物だったはずデス」
今はうまく融合しているが、一方的に聖遺物に蝕まれていればいずれ命を落としていただろう。
「未来さんのシェンショウジンは聖遺物のエネルギーを分解する。…でも」
「この世界の未来さんは装者じゃないデス。…いえ、わたし達の時と同じなら一度は装者になっているかもしれないデス」
と言う事は、体を蝕んでいた聖遺物を取り払った可能性も出てくる。
まあ、だからと言ってどうと言う訳では無いが。
と、その時。少しカン高い声が掛けられた。
「調さん、切歌さん。少し良いですか?」
現れたのはエルフナイン。
「大丈夫」
そう言えば、と二人はこの少女の差異を見て取った。
(目の下の黒子…)
(この子、本当にエルフナインデスかね?)
二人の世界にももちろんエルフナインは存在している、がしかし。二人の世界のエルフナインには黒子は存在しない。これではまるで…
「二人のギアに不備が無いか、検査させてもらえませんか?この世界の彼女達との差異も出来れば調べたいですし」
とエルフナイン。
(情報を引き出そうとしているのかな)
(エルフナインはそんな子じゃないデス…でも)
調と切歌の念話での内緒話。
(たぶん、いろいろあるのデス。リンカーの存在しないこの世界デス、少しでも縋るものが欲しいのかもしれないデス)
正規装者並にリンカーを必要とせずにシンフォギアを繰る二人なのだ。ほんの少しでもこの世界の二人の為に欲しい情報が有るのだろう。
なるほどと調も納得する。
「これを調べたいのは分かったけど、これギアじゃないから」
チャラリとネックレスを持ち上げる調。
「え?」
調のこの答えには流石のエルフナインも驚いた。
外見だけならばどこからどう見てもギアなのだが…
「シュルシャガナ、挨拶」
「イガリマ、挨拶するデス」
「え?」
『こんにちわ、レディ』『ごきげんいかがでしょうか』
ピコピコと光りながら機械の様な合成音声が木霊する。
「ええっ!?じ…人工知能なのですか?」
エルフナインがギアだと思ったものがまさかのAIに驚きの声を上げる。
「分類するなら人工知能搭載型の補助デバイス」
「…わたし達がしている装者のモニタリングなんかも」
「当然、この子達がしてるデス」
どのような構造を組み込めばただの宝石に見えるそれに人工知能などと言うもの組み込めると言うのか。
彼女達が事ある事に言っているアオと言う人物にエルフナインは畏敬の念を抱いた。
「もしかして…響さんのデータで見た…融合適正型…体は聖遺物に浸食されているという…」
「あ、誤解の無い様に言うとデスね、最適化されているので問題ないのデス」
「そんな事が…」
出来るのか?と錬金術師の少女は思考する。
「なんかアオさんの特殊能力?が習得、習熟、最適化、らしいのデス」
「なんなんですか、それは」
本当になんなのだろうか。本人はそんな能力は無い、と言っているのだが、周りの人にしてみればそうも行かないらしいい。
「で、アオさんの血を取り込んだ時にシンフォギアに含まれていた聖遺物を最適化してしまった、と言う事みたい」
「みたいって…そんなんで良いんですか?」
とエルフナイン。
「とは言え、それで今の所問題はない訳デスし」
何とも、彼女達からリンカー製造の有用な手がかりは得られなそうなエルフナインであった。
「それはそうと、こっちも質問があるのデス」
「質問、なんでしょう?」
「未来さんは装者じゃないのデスか?」
…
……
………
この世界の未来はリンカーの力で後天的にシェンショウジンに適合し、シェンショウジンの放つ分断する極光で適合して響を助けたようだ。
結果、その光をもろに浴びた二人は響の融合は解除され、シェンショウジンも失われてしまった。
「さらっと聞くと所々違う所は有るけど」
「わたし達の世界とそう変わらないデス」
エルフナインから聞いた情報をも照らし合わせた結果である。
「でもやっぱり大きな違いはアオさんかな」
「マリアに聞いてもそんな人居なかったって言ってたデス」
「アオさんと出会わなくても何とかなった世界、か」
「そんな事言っちゃダメデスよ調。調は会わない方が良かったデスか?」
フルフルと首をふる。
「そんな事無い。絶対無い」
どんな別の世界が有ろうと、それだけは無い。
マリアと翼がバルベルデ共和国より持ち帰った資料の解析に長野県松代にある風鳴機関本部へと向かい、調と切歌はマリアを共に周囲の警護を請け負っていた。
しかし、辺りは田舎の農村その物。さらに機関周辺には完全な人払いがされ、住民も一時避難が実施されていた。
故に…
「何にも無いデス、人っ子一人見当たらないデス」
「お日様が気持ちいい」
「あなた達…もっと緊張感を持ちなさい、任務なのよ?」
田園風景を呑気に散策している二人にため息を吐くマリア。
「マリア、でも今は何の敵意も感じないから」
そう調が言う。
「敵意って…それ、これだけ開けてても感じられるものなの?」
「あー…それくらいの事を普通に出来なければ生き残れない状況になれば出来るようになるものデス…」
切歌が答えた。
「本当…あなた達ってどう言う生き方をして来たのよ…聞いているだけじゃそうこっちのあなた達と変わらないはずよね?」
「あはは…ダンジョンとか潜って気の休めない状況でモンスターに襲われていれば嫌でも出来るようになると思う」
「っとと、これは本当にニィゴォニィの気配デス」
切歌の言葉で気配の有った所と捜索すると避難指示のはずなのにおばあちゃんが一人野菜の収穫をしていたのを説得して避難させようとしていると…
「…来た」
ピクリと調が何者かの気配を察知した。
「あーら、当たりをひいちゃったかしら?」
三十メートルほど先に錬金術師、カリオストロを発見。
「どうする切ちゃん」
「それは勿論…」
調に問われ、マリアがかばう様に背中に担いでいるおばあちゃんを見るとすっと胸元をまさぐった。
だが、取り出されたのはギアでは無く…
「逃げるが勝ちデース」
手に持った丸い何かを思いっきり地面に叩き付けるとたちまち立ち込める煙。
「な、煙幕っ!?こ~ら~、まちなさーいっ!」
驚き戸惑いを隠せないカリオストロをよそ眼に一目散に走り去る。
「でも、こっちの視界も塞がれてどっちに行けばいいのか…」
「マリア、こっち」
そうマリアの手を引く調。今回の勝利条件はカリオストロの撃破ではなく、一般人の保護である。調と切歌は目的を間違わなかった。
「見えているの?」
辺りはさらに煙が広がっている。切歌がさらに煙幕を投下しているのだ。
「…感じ取っているの」
円を広げて地形を把握、煙幕の中でも自由に動き回っていた。
その間に異変に気が付いた本部がクリスを投入、その間に調たちは無事に安全圏へと退避する事に成功できた。
調たちが救助者を移送している間にどうやらカリオストロは撤退したらしい。
つかの間の平穏、いや嵐の前の静けさだろうか。
錬金術師たちが此処を襲撃したのは、持ち帰ったデータを解析されることを恐れたのか、それとも装者の一掃か。
諦めたとは考えられなかった。
夜─
大量のアルカノイズを引きつれて現れた錬金術師のカリオストロ、プレラーティ、サンジェルマンの三人。
被害拡大を抑える為に、響、翼、クリスが向かう。
「わたし達も行くデス」
「うん、切ちゃん」
「二人ともっ!」
「マリアにもまだリンカーがあるデスよっ!何もしないでいいのデスかっ!?」
力はそこにちゃんとあるのだ。まだ…
「…くっ…指令っ!」
「無茶だけはするなよ。特にマリアくん、残酷だがリンカーの残りは少ない。十分に気を付けてな」
「はいっ!」
先行した響達三人はイグナイトモジュールを駆使して錬金術師の決戦装備であるファウストローブを着込んだ三人の前にイグナイトを解除されて劣勢に陥っている。
下手すれば命が危ない。そんな時…夜空に一筋の明かりが灯り、一瞬で膨張し辺りを染め上げた。
「な、なんてものを乙女に見せてるデスかっ!」
現れた敵は大柄な筋肉質の男性で…なぜか真っ裸だった…
「切ちゃん、見えない」
慌てて調の視界を塞ぐ切歌。
「バカやってないっ!」
響達さんにんは錬金術師たちの攻撃で行動不可能な状態。そこにあの夜空を照らすほどの熱量を放たれればどうなるかは分かろうと言うもの。
「Various shul shagana tron」
「Zeios igalima raizen tron」
「Seilien coffin airget-lamh tron」
すぐにギアを発動し、駆ける。
「イグナイトモジュール、抜剣っ」
マリアは胸元に有ったギアを引き抜くと、ダインスレイブの呪いに染まったそれをその身に受け入れた。
「マリア…それ…」
「あなた達の世界には無いの?」
黒く染まったギアはダインスレイブの呪いか、かなり禍々しかった。
「企画はあったデスけど…アオさんが止めたデス」
「代わりに…シュルシャガナ」「イガリマ」
「「コード・イグナイト」」
『『モード・ビースト』』
調と切歌のギアも黒く染まり、マリアのそれよりも獣のようなフォルムが大きいそれに変化した。
「あなた達のそれは…?」
「プロセスは違うけど、マリアのそれと同じだと思う。暴走の力を制御したもの」
「ここまで違うものなのね…」
マリアは調達のそれを見て察したのだ。自分たちのそれよりもきちんと制御されていると言う事実を…
しかし、そんな差異に落胆している暇は無い。
「爆心地には翼達三人が居るわ、助けないと…」
とマリア。
マリアの中では翼達を担いで効果範囲外へと抜ける算段が取られていただろう。しかし…
放たれるであろう攻撃の正確な効果範囲が割りだせないのならばその攻撃の方をどうにかしようと調と切歌は動き出したのである。
「わたし達にアレを止める事が出来ると思う?」
「イガリマもシュルシャガナも切り刻む専門デスっ!そう言うのはアオさんや未来さんの出番なのデス」
だが、そのどちらもこの世界には居ない。
しかし…
「シュルシャガナ、カードリッジ…シェンショウジン、有る?」
『各種一本ずつ格納されています。使用しますか?』
調が頷こうとした瞬間、切歌の声が掛けられた。
「ちょっと待つデス。このカートリッジは調の方が相性が良いデス」
そう言って投げられたのは切歌が持っていたシェンショウジンのカートリッジ。
「切ちゃん」
予備の受け渡しは戦闘後でも良いのだろうが、万全を期してと言う事だろう。
「お願いするデス、調」
コクリと今度こそ頷いて見せた調は受け取ったカートリッジを空中に投げるとヘッドギアから後部に伸びるブレード部分に形成されたチャンバーが開きカードリッジが封入され、そしてロード。
ガシュっと薬きょうが排出されカートリッジに込められた力を取り込んだギアが変形を始めた。
「何をしているの?」
「説明している暇は割とないから後回しデス。マリアは翼さんを、私は響さんとクリス先輩を回収に向かうデス」
と言った切歌は影分身をすると左右に散った。
カートリッジのエネルギーを取り込んだ調の変化は劇的だった。
ヘッドギア後部のブレードが鉄扇の様に開くと稼働確認が済んだのか一度格納される。
一瞬覗いたそれはどれも鏡面の様だった。
このカートリッジシステムはアオが考案し、実用にこぎつけた物で他者のギア特性を封じ込めたものだ。
本来異物で有るはずのそれを拒絶反応なく使えるようにするには苦労させられたのだが、アオの人生における経験とデータの蓄積により実用化できてしまったものだった。
足元の駆動輪に力を込めると調は錬金術師から放たれるであろう直下へと駆ける。
が、しかし錬金術師の投擲の方が早かった。
「まだ間に合うっ!」
調はヘッドギア後部のブレードを扇状に開いていくと、フリスビーの様に投擲し、落下直上へと滑り込ませた。
それは大きな鏡のようで、また地面に落下させまいとする盾だ。
鏡面と太陽が接触する瞬間、どうにか調は鏡の下へと滑り込みヘッドギアから小型の鏡面を連続射出。
接地面を取り囲むように円状に覆い共鳴させて遮断フィールドを形成。
さらに後部のギアを伸ばすと左右から持ち上げるように包み込んだ。
「何?」
驚きの声は遥か直上。
鏡面に当たった膨大な熱量は膨張と収縮、目を覆うような閃光をまき散らし辺りを昼の様に照らした後収縮。
錬金術師が金を錬成しようと放たれたそれは最初に調が投げた鏡面を取り込み収縮を続け跡形もなく消し去った。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
片膝を着きそうになるほどの消耗。しかし錬金術師はまだ健在だ。倒れる訳にはいかない。
「調っ」
響とクリスの救出を終えた切歌が調に合流。空を見上げた。
「驚かされたよ。シンフォギアとはこれほどか。今宵はここまでにしておこう」
そう言って錬金術師であろう男は空間転移で消え去って行った。
「…逃げてくれて助かった」
はぁと大きく深呼吸一つ。
「調、大丈夫ですか?」
「ちょっとだけ疲れた、かな」
調は見た目以上に消耗が激しそうだ。
「肩貸すデスよ調」
「ありがとう、切ちゃん」
「それにしても錬金術師はトンデモな存在デス」
「ふふ…でもアオさんほどじゃない」
「それはそうデスね」
と言ってふたりはふふ、と笑った。
ひとしきり笑った後、敵正反応が消えた事を確認して二人は本部へと戻るのだった。
song指令室にて、キボードを叩く音が響く。
操作しているのはエルフナインで彼女を囲むように弦十郎や藤尭、あおいなどのメインスタッフが囲んでいた。
映し出されているモニターを覗けば先ほどの映像だ。
まず現れたのが調、切歌がイグナイドモジュールを使ったであろう場面。
「これは…イグナイト…か?」
と弦十郎の呟き。
ギアの色合いは黒をベースにしていて確かにイグナイトに近い。
が、しかしそのフォルムはもっと攻撃的だった。
「イグナイトはダインスレイフの呪いの効果で意図的にシンフォギアのロックを外したものでリミットのある不完全なものです、ですが…」
そこでシュンと肩を落とすエルフナイン。
「暴走を制御すると言うアプローチは一緒のはずなんです。…ただそのアプローチにダインスレイフを使った形跡が見当たりません」
場面は二人がギアにイグナイトのオーダーを通す場面に戻っていた。
「そして使用からのバックファイアも低く抑えられているにもかかわらず出力はイグナイトモジュールよりも上なんです」
「制限時間なんかは…」
と藤尭が問う。
響達適合者でさえイグナイトモジュール使用にはタイムリミットが存在している。
「現時点では何とも…そもそもモジュールではなく、シンフォギアが持つ元々の特性の解放と言った方が良いのかもしれません」
「それと、これだな」
弦十郎が指したのは変化した調のギアだ。
「切歌くんから受け取った薬きょうの様な物を取り込んで更なる変化…これは…」
「音声データログで確認するとシェンショウジンと言っているわね」
と、あおいがつぶやく。
「ああ。そして、これだ…」
調が使ったギアの特性変化は驚きを禁じ得ない物だった。
「恐らくシェンショウジンの特性を取り込んでいるとみて間違いないでしょう。保管されていた未来さんのデータを参照するにそうでなければあの錬金術師…アダム・ヴァイスハウプトの錬金術を止める事は出来ないハズです。そして彼女達の発言から使用回数があるみたいです。彼女達の言うカートリッジが変化の要因ですが、持ち込めた本数が少ないのでしょう」
「我々では補給が難しい物は戦力に入れる事は考えん方が良いな」
弦十郎が顎に手を当てて試案する。
「ボクは悔しい」
「エルフナインくん?」
「こうまで違うものを見せられて…こういう風に出来ると言う事を突き付けられたのがとても…」
「我々は誰も完ぺきではない」
「え?」
「故に、自分の未熟さも後悔も抱えて生きている。それを知るものは誰も君のした精いっぱいを責める事はしないし、不満に思う事も無い」
「弦十郎さん…」
「大丈夫だ」
「はい…はい…」
ほろりと一筋の涙がエルフナインから流れた。
それを手の甲で拭ったエルフナインは平静を取り戻す。
「そう言えば、切歌ちゃんなんか分身使ってますね。まるで忍者だ」
と場を和ませようと言った藤尭一言がまた場を緊張させる。
「それも不可解な点の1つです」
「そうだな」
と弦十郎がエルフナインに同意する。
「元来分身の術と言うのは高速移動による残像、光の屈折などによる投影などになるが…彼女の分身は実体を持ち、別々の意思を持って行動している」
「そうです。計測値的にもエネルギー量は半分になっていますが両方とも切歌さんで間違いないと証明しています」
「むぅ…本当にこの一年で分岐した世界から来たのかさえ疑問だな」
「はい。彼女達の言うアオと言う人物がこれだけの躍進を促したとすればその人はきっと人ではありませんよ」
「むぅ…」
答えの出ない問答に一同押し黙るしかなかった。
songが抱える問題…正確にはシンフォギアが抱える解決しなければならない問題も複数存在する。
リンカーの問題。そして響達のイグナイトが強制解除された問題。
特に後者が致命的だったが、錬金術師は待ってはくれない。
東京湾上に現れたのは複数の首をもつドラゴンの様な巨大アルカノイズ。
すぐに動いたのは響、翼、クリスの三人。
マリアはリンカー製造の目途が立ったと本部から出てこれない。
「わたし達は…」「どうするデスかねぇ」
いくら巨大なアルカノイズとは言えあの三人が後れを取るとも思えない。
『すまない、二人は反対側に出現したもう一体の対処をお願いする』
突如弦十郎から通信。
「ガッテン招致の助デス、ね調」
「うん。行こう切ちゃん」
二人は任せろと頷き返す。
『すぐに移動手段を用意する。頼めるか』
「必要ない」
「走った方が早いのです」
二人はギアを取り出すと聖詠を口にする。
「Various shul shagana tron」
「Zeios igalima raizen tron」
一瞬の発光の後、ギアを身に纏った調と切歌は踏み出すと残像を置き去りにして駆ける。
『悪い知らせだ。その巨大アルカノイズはダメージを与えると分裂するらしい』
そう弦十郎からの通信。
まだ現着していないのだが、もう一体にエンカウントした響達が攻撃した所分裂したらしい。
「めんどう」「厄介デス」
どうする、と二人はすぐに思考する。
「でも、わたし達に出来るのは…」
「切り刻むことだけデス…でもっ!」
「うん。再生するのならそのベクトルを変えてやればいい」
「今度はわたしの番なのデス」
「露払いは任せて」
巨大ノイズから排出されつアルカノイズを切り刻みながら切歌の進路を開ける調。
「ロード・アガートラーム」
『カートリッジロード』
鎌の付け根部分に備えられているチャンバーがスライドし薬きょうが排出され銀のオーラが吹き出すと鎌は輝かんばかりの銀色を帯び始め、鎌の刃がスライドし剣の柄のように変形すると中心か光刃が突き出して光り輝く巨大な剣へと変貌した。
「それじゃ、いっちょやったるデースっ!よいっしょーーーーっ!」
横にその巨剣を薙ぐと剣から放たれた衝撃波が巨大アルカノイズを襲いその動きを阻害した。
動きが阻害されたその巨体へ空を飛んで近づくと一刀両断に切り伏せる。
『それでは分裂するだけですっ…え?』
とあおいさんからの通信が入るが、すぐさま驚愕の声が続いた。
両断されたアルカノイズは分裂するでもなく逆に細胞が何かに喰われているようなと表現する感じで死滅していき跡形もなく灰となって消えていく。
「ブィっ!」
グルンと巨剣を振り回して右手を突き出す切歌。
『なんで…どうして…』
「まぁ、ベクトル操作した結果デス。増殖するならそれを反転してやれば消滅するのは自明の理デス」
「やはりお前たちが最大の障害か…リンカー頼りの三流と言うデータは間違いか?」
上空に巨大な戦艦が浮いている。その上に乗ってこちらを見下ろしているのは錬金術師、サンジェルマン、プレラーティ、カリオストロの三人。
突如として現れた所を見るとステルスを使用していたのだろう。
「かっこつけてる所悪いのデスが…」
「なんだ、怖気ついちゃった?」
と頬をかく切歌におかしなものを見るとでも言いたそうに答えたカリオストロ。
「その船、もう切れてるデスよ?」
ツツーとズレるように軋んでいく甲板。
「は?」
切歌が答えた次の瞬間、真っ二つに斬られた戦艦は浮力を失い海の上へと落ちていく。
『…あなた…どうやって?』
通信越しのあおいさん。
「ステスルって言うのは不自然に何もない状態なんですよ?なのであの巨大アルカノイズを斬って振り返りざまにこう…剣先を伸ばして斬っておいたデス」
『斬っておいたって…』
崩れ落ちる戦艦から新しいおべべ…ファウストローブを着込み脱出する三人の錬金術師たち。
「もいっちょいくデスっ!」
ブオンと振るわれる巨剣から繰り出される衝撃波は落下する三人を縫い留めた。
しかし敵もさる者、未知の拘束術式もどうにか解除して見せこちらに向かって飛翔する。
「はっ!」
しかし距離が有るのが調には有利に働いたようで、ギアの後部ブレードから大量の投擲鋸をばら撒き面でけん制。
数の多さにてこずっていると…
「馬鹿者、近づきすぎだっ!」
サンジェルマンの言葉もすでに遅い。
調によって意図的に一か所に集められた三人にいつの間にか自分たちよりも上に登っていた切歌が正に大剣を振り下ろすところだった。
「よっとっ!」
「カリオストロ、プレラーティ」
「わーってるってっ!」
「っ!」
サンジェルマンの声にカリオストロは怒声を、プレラーティは静かに、しかし全力で上方へとシールドを張る。
「下ががら空き」
隙を見逃さない調はバリアの薄い下部からの投擲攻撃。
「く…転移を」
バキリと小瓶を砕くサンジェルマン。
「それは知ってる」
調の投げた無数の鋸がジャミング魔法陣を展開し転移を阻害。
「転移しない、だと?」
錬金術師の転移術は既にアオによって解析済みでアンチ手段は用意されていたのだ。
「非殺傷設定なので安心してぶっ飛ばされるのデスっ!」
「三人がかりのバリアをぶち抜く勢いの攻撃で何を安心する訳だ」
とプレラーティが悲壮感漂う呟き。
「ちょっとバチっとするだけデスからっ!」
切歌は気合一閃そのまま巨大な剣を振りぬいた。
「くっ…」
バリンと割れる障壁と、貫かれる体。
巨大な水しぶきが舞う。
自然落下よりも強烈な威力で海面に叩きつけられサンジェルマンは一瞬意識が飛びかけた。
(くっ…カリオストロ…プレラーティ…)
二人は意識を失っていた。ファウストローブが解除されていないのは幸いだろう。
五体満足で命に別状は無いが、このままでは水圧で死にかねない。
(シンフォギア…これほどとは…これがジャミングされれば後は無いな…)
最後の気力を振り絞り転移。海中まではジャミング効果が及んでいなったのが幸いした結果だった。
錬金術師たちを退けた調と切歌だが、待っていたのは翼たちの疑惑のまなざし。
流石にあれほどの事をやれば仕方ないのかもしれない。
「それで、あれはなんだ?」
本部の薄暗い会議室で険しい顔の翼とクリスにたじろぐ調と切歌。
自分たちでさえ苦労した相手を圧倒した二人は今までの彼女達からして異常だったのだ。
「えっと…翼さん…クリスちゃん…」
響は訳も分からずオロオロしていた。
「はぁ…他言無用で頼むぞ」
と諦めた口調で弦十郎が顛末を語った。
「ってーとなにか?この二人はあの二人の偽物って事か?」
クリスの怒声が響く。
「偽物って…」「酷いのデス…」
「偽ものではありません。別の世界のお二人で彼女達の別の可能性と言うだけです」
しょんぼりする調と切歌。フォローするようにエルフナインも補足する。
それが分からないのだとクリスはガシガシと頭をかいた。
「だったらあの力はなんだってんだ。同一人物なんだろっ?」
クリスが吠える。
「あれはまだシンフォギアの力…ちょっとマリアのアガートラームの力を借りただけ」
「借りただぁ?じゃあ何か?お前らはあたしらのシンフォギアの力も使えるってのか?」
クリスの問いかけはしかしsongスタッフ一同の疑問だった。
彼らは二度、調達のその力を眼にしている。
誤魔化すのは難しいかと調はギアを出すと格納領域から一揃いのカートリッジを取り出し目の前に浮遊させた。
「浮いてる?」
響なんかはむしろ浮いている方に驚いたらしい。
「カートリッジシステム。…外部に蓄積させたフォニックゲインを炸裂させて瞬間的に爆発的に力を高めるシステムだけど…あなた達が知りたいのはそっちじゃない」
過去二回使ったそれは他者のギア特性を引き出していたのだ。
「カートリッジの中でもこれは特別。予想は出来ているだろうけれどこれには一つに付き一つの自分以外の聖遺物の力が込められている」
間違わないようにそれぞれカラーリングが異なる七つの弾丸。
「七つ?一つ多いか?」
装者の数からいえば都合六人なので確かに一本多いだろう。
「いいえ、二つ多いのです」
弦十郎の呟きをすぐさまエルフナインが訂正する。
「二つ、だと?」
「ガングニール、アメノハバキリ、イチイバル、アガートラーム、そしてイガリマ。調さんが持つならこの五つのはずです。自分の物を持つ必要はありません」
そして、とエルフナイン。
「わたし達は一つは知っています」
「シェンショウジンかっ!」
と弦十郎。
「シェンショウジンだぁ?どういうこったよおっさん。そっちの世界にはシェンショウジンのギアがあるって事なのか?」
そうクリスが言う。
「そちらの世界の未来くんは装者なのだろうか?」
こくりと調が頷くと周りから驚きの声が漏れた。
「では逆に最後の一つはなんなんだ?」
とは翼の言葉だ。
それに調と切歌は視線を合わせてから答える。
「最後の一つはナグルファル」
調のその言葉にエルフナインはすぐさまコンソールを弾いた。
「北欧神話の神々の黄昏、最終戦争ラグナロク。その先陣を切る巨人の船…ですか」
「そいつは誰のギアなんだ?」
クリスが腕を組んで問いかけた。
「この世界では出会ってない人デス」
エルフナインの尽力で完成したリンカーは、マリアのパーソナルにカスタマイズされていて以前のモデルKよりはアガートラームとの適合性が高く安全だ。
その試運転も兼ねて模擬戦となったのだが…
「化け物かってんだよ…」
と肩で息をするクリス。
周りの翼、響、クリスも同様だ。
二対四で始まった模擬戦。しかし終わってみれば息切れすらしていない調と切歌に翻弄されただけに終わっていた。
「わたし達なんてまだまだデス…アオさんに比べたら…ブルブル…」
「そう…でもむしろソラさんのしごきのほうが…ガクガク…」
何かを思い出した風の二人は体を震わせていた。
「本当にあいつらはあたしらのとこの二人と同一人物なのか?」
とクリスがボヤく。
「本当に強すぎだよー」
へろへろと座り込む響。
「彼女達の話を聞くにクリスさんが出会った頃の彼女達との差異は殆ど無いはずです。つまりその後ここまでの力を手に入れた事になります」
エルフナインが通信で答えた。
「それにしちゃ強すぎだろ、弦十郎(おっさん)を相手にしているみたいだったぞ…」
「あー…平行世界にや異世界に移動していると実際の時間はもっと流れているデス…」
「てー事は何か?そのなりであたしより年上ってーのか?」
「ギリギリまだ年下デス」
たははと切歌が笑った。
「しかしだとしてもあの強さは…」
「…あれは修行だけじゃ身につかん。何度も死線を潜り抜けた戦士の気配だ」
翼の問いにはそう答えつつ考え込む弦十郎。
(あれは相当に殺し慣れているな…どう言う経験をすれば彼女達があそこまで変わるのだろうか…)
響達が弱いのではない。彼女達が強すぎるのだ。
(人体の破壊にも慣れているともなれば翼達が勝てる訳もなかろう)
とは言え調と切歌が人殺しをしたという話ではなく、ダンジョンには人型のモンスターが大量に居たと言う事なのだが…
リンカーの問題は解決した。次はイグナイトが無効化される問題だ。
ダインスレイフの呪いの分断に対抗するにはどうやらこの世界の響が昔生成したガングニールの生体結晶の欠片が必要だと言う。
しかし保管されていた施設は海中で、しかも破壊されて流失しているらしい。
「どうするの?」
「海底探査機で砂利を掬いあげ地上で精査するほかあるまい」
調が問えば砂漠で砂金粒を見つけるようなやり方だった…
「シンフォギアで潜った方が早いデス」
「いくら何でもシンフォギアにそこまでの事は…」
「……?」
「出来る、のか?しかしどうやって見つける?」
「聖遺物の波動を視覚的に探せばいいだけ」
「はぁ…お前たちの常識はどうなっているのだ?」
切歌と調の無茶ぶりについついため息が出る弦十郎だった。
ドポンとシンフォギアを纏って海中へと先行する調と切歌。
「すごい…生命維持、水圧の調整…彼女達は重力制御が可能なようです」
計器が観測する数値をみてエルフナインが驚愕の声を上げた。
そもそもシンフォギアは単騎で成層圏どころか宇宙空間まで活動が可能なのだ。そこにPIC(パッシブイナーシャルキャンセラー)搭載型の彼女達のギアなら水圧も調整可能。深海での活動も問題が無かった。
一応微弱なフォニックゲインの観測の為に計器を持っているが、その光景はまるでスキューバダイビングする潜水士の様。
『切ちゃん、そっちはどう?』
すでに海底に到着して一時間。二人距離を置いて捜索しており、調からの念話が入る。
『なかなか見つからないデス…要らないものはいっぱい見つけたデスが…』
それはこの海底施設竜宮で保管していた聖遺物由来の物品で、サルベージが不可能だったものだ。
危険なものはギアのストレージにポイポイ投げ込んでおくスタイルのようだ。
『あとで返してくれよ』
とは弦十郎の言葉。
それでも凝で目にオーラを集めて目を凝らせば微かに見える込められた神秘の残滓。
何十回目かの掘削の末…
『見つけたデスっ!』
そう言ってつまみ上げる鉱石の様な物体。
錬金術師が使う賢者の石に対抗するための、クリス命名『愚者の石』だ。
捜索が終了し、浮上。
「なにかひと悶着あった気配デス」
指令室に集まった装者達面々。
どうやら二人が潜っていた間に錬金術師たちの襲撃があったらしい。
ついでに彼らの目的も大方分かったそうだ。
「月の遺跡の掌握と人類の解放デスか…」
「バラルの呪詛が解呪されれば人類に統一言語が戻る。でもそれと相互理解は別の話。わたし達は例え同じ言語を繰ろうとも争う生き物なのだから」
「全くの無駄な行為デス」
「お二人とも…」
調と切歌の辛辣な物言いに流石のエルフナインもたじたじだ。
「そして気付いたデス…わたし達のイグナイトはダインスレイフ由来じゃないので無効化されないんじゃないデスか?」
「あ……でも響さん達の戦力強化は重要…」
「しかし、月の遺跡の掌握デスか…アオさんなら勝手にしろって言いそうデス」
「うん…まぁでも、何だかんだでやり方を考えろって言うと思う。あの錬金術師たちは殺しすぎた」
「自分の正義に他者を犠牲にするのなら、それはすでに正義じゃなく迷惑行為なのデス」
「正義じゃ…ない?」
切歌の言葉に響が呟く。
「犠牲を許容するのなら他者じゃなくまず自分が犠牲になればいい。犠牲が死だと言うのならまず自分が死ぬべき。出来ないのならそれはただの我がまま。切ちゃんの言う様に確かに迷惑行為」
調も辛らつだ。
「お前たち、達観しすぎていないか?」
「おじ様、しかし二人が言う事はもっともです。犠牲を許容する事は出来ません」
翼が弦十郎の言葉に応える。
「ま、なんにせよ次に会ったら今度はイグナイトでぶっ飛ばすだけだな」
クリスが力強く宣言すると弦十郎が立ち上がる。
「ふむ。それでは皆シミュレーションルームに集合だ」
「なんだよおっさん、藪から棒に」
「良いから着いて来いっ!」
シミュレーションルームで始まるのはシンフォギアを纏っての模擬戦。
しかしその相手は生身である弦十郎。
だがその生身相手に手も足も出ない響達。
愚者の石による措置は単純にイグナイトを無効化させないための手段なだけで、錬金術師相手に翻弄されている現状を打破しなければならないと弦十郎は考えているらしい。
そこで考えたのはユニゾンによる戦力アップだ。
ギアの相性でユニゾンを可能にしている調と切歌。それをどの組み合わせでも使いこなせるようにしたいと言う事なのだろう。
しかし、極限状態でも無ければそう簡単に他者と心を繋いだユニゾンは難しい。
比較的相性の良いだろう翼とマリアですら難儀なようだった。
が、そこに調と切歌が入ると話が変わる。
「響さん、そっちは任せたデス」
「あ、あれ?動きやすい…?」
何故だと首を傾げる響。
今は響と切歌で弦十郎と戦っていた。
フォニックゲインも劇的に上昇してその数値を上げていた。
「翼さん、こっちも」
「あ、ああ…」
調と切歌に引っ張られるように互いのフォニックゲインを高めていく翼と響。
「想像以上だな…」
そう弦十郎が呟いた。
ユニゾン特訓はうまく行ったように見えまずまずの結果を出した訳だが…
訓練を録画したモニタを緒川さんと一緒に見直している弦十郎。
「どう見る?」
「調さんと切歌さんの技量が高すぎですね。同調と言うより同期でしょうか…あえて自身をダウンサイジングして疑似的にユニゾンしているのではないでしょうか」
「やはりか…だが」
「ええ、ですが響さん達のフォニックゲインが高まっているのも事実。これは指摘しない方が良い事実でしょう」
軽自動車の前をスーパーカーが風よけをしているようなものだ。
「むぅ…」
こっそり二人だけ呼び出してユニゾンしてもらった時の数値など正規適合者である翼達三人のユニゾンをも遥かにしのぐ数値を叩きだしていたのだ。
「これで元々のポテンシャルがこちらの世界の二人と変わらないと言うのだからな…平行世界…別人でないだけに異様に思えるな」
錬金術師たちがいったい何を目的としてどのような手段を取っているのか。
一部分かった所を纏めると、神の力と呼ばれる物を利用して月の遺跡を掌握し、バラルの呪詛を解呪すると言う事だろうか。
潜水艦の指令室に集まるsong主要メンバー。
「神の力に対抗する手段を検討中だ。バルベルデから持ち帰った資料では錬金術師たちが神殺しにまつわる伝承やら物品やらを収集、もしくは破壊を試みているという事のようだが」
神の力が存在するのだから、それを打倒するものの存在を許しておけなかったのだろう。だがそれが逆に神殺しの存在を物語っている。
「神殺し…」
「…なるほど。もしかしたらそれがわたし達がここに居る理由なのかもしれないのデス」
「はぁ?何言ってんだ、お前たちは」
とクリスが不機嫌に言う。
「何かあるのか?」
弦十郎が試案しながら問いかけた。
「わたし達は神を殺したことがある人を知っている」
「神殺しを知っている…だと?」
「誰だよそいつはっ」
「当然、この世界にはいないのデスっ」
「かー…居ないんじゃ意味ねぇだろっ」
「デスが、神は神の力なら倒せる可能性が有るのデスよ」
「だからそれが神殺しってーんだろ」
神を殺したと伝承されている武具の類だ。
だが忘れてはいまいか。二人は以前ヨナルデパズトーリを倒していると言う事を。
その刃は神に通ると言う事を。
ミーティングを纏めると、神に対抗する聖遺物の捜索を視野に入れた錬金術師のたくらみの阻止へと舵をとる事になる。
その後クリスと翼は連れ立ってどこかに行ってしまって自由時間。
しかしその自由時間は錬金術師の襲撃で終わりを告げる。
現着すると市街地はアルカノイズで溢れてはいるが人は少ない。どうやら逃げてくれているようだ。
先に到着していた…と言うより外に出た所を襲われていた翼とクリスに合流し、錬金術師であるカリオストロを相手取ろうとした所、どうやら相手は戦力の分断を選んだようで…
「切ちゃん」「調っ」
切歌と調は互いに離される形で特化型のアルカノイズが作った閉鎖空間に閉じ込められてしまった。
異空間の内部に閉じ込められはしたものの、その特性自体は響達が以前経験したタイプのノイズで、空間内部の姿を消したアルカノイズを倒せば脱出できることは証明済だった。
「なるほど、わたしと調を分断してユニゾンによるパワーアップを阻止したデスか…でも」
切歌は鎌を一振り。
「これくらいでわたしと切ちゃんの絆は切れはしない」
調もヘッドギア後部のブレードをガシャンと動かした。
それぞれ別々の空間で、しかし互いに同じことを考えている二人は、その実行を命令する。
「ロード・シュルシャガナ」「ロード・イガリマ」
切歌は鎌の付け根にあるチャンバーが、調はヘッドギア後部のブレードに着けられたチャンバーが引かれ薬きょうが排出される。
切歌と調はそれぞれ互いの特性を取り込んでアームドギアを昇華、巨大化させていく。
「それじゃあいっちょやったるデス」「うん」
互いの声を聴いて二人はアームドギアを一閃。
巨大な鎌と巨大な鋸が空間一面を一文字に切り裂く。
「ちょ、ちょっと切歌ちゃんっ!」
「し、調そう言う事は事前に言ってくれっ!」
慌てて腰を落とし頭を下げる翼と響。その頭上を光刃が振り抜かれると空間に亀裂が入り元の空間へと戻っていた。
「どんなもんデスっ!」「ブイっ!」
「見えないからと空間全てを切り裂くとは…」
トンデモな行為に若干翼が引いていた。
しかし閉じ込められていた時間も少なくは無い。外の状況はイグナイトを使用した上でユニゾンしたクリスとマリアがカリオストロを追い詰め互いの大技が衝突し、爆風が覆う。
「やったか」
と翼。
クリスとマリアは消耗しているが健在だ。
「勝ったのか?」
「ええ、わたし達の勝利よ」
「そう言う事は下手人を捕まえてから言うデス」
「「え?」」
切歌の言葉に驚くクリスとマリア。
突如とても見当違いな方向に切歌のショルダーアーマーが展開するとワイヤーが射出される。
ヒュっと空気を切り裂く音が終わるとブワンブワンと鈍い音が響きボコリとくさびを打ち付ける音が聞こえた。
「ええ、ちょっとっ!なんで分かったのよっ!」
すると何もない空間から色がにじみ出るようにカリオストロが拘束されて現れたのだった。
「視てたデスから」
カリオストロは爆風に飲まれる瞬間に姿を消して忍んでいたのを切歌と調はしっかりと凝で追っていた。
いくら姿が見えずとも視えていたのだ。
「もうっ!これって力が抜けるぅっ…」
切歌の拘束はあらゆる強化、術の行使を無効化する。
「そうじゃなきゃ拘束できない相手デスから仕方ないのです」
これから彼女にはsongなのか風鳴機関なのか、それともそれに準ずる機関からの取り調べが続くのだろう。
「命があっただけでも儲けものデス」
あらゆる拘束具を行使されて移送されて行くカリオストロからはすぐに有用な情報が得られると言う訳もなく、しばらくはまだ相手の出方待ちだった。
錬金術師の一人は拘束したが後二人残っているし、あの巨大熱量を発生させた真っ裸の男も残っている。
だが、錬金術師相手にイグナイトが使えたのは良かったが、その反動でしばらくクリスとマリアのギアが使えなくなってしまったのは痛い。
エルフナインが大急ぎで普及に尽力しているがどれほどかかるかはまだ分からない状況だ。
カリオストロは黙秘を続けている。
神の力の降臨と、東京におけるレイラインの関係は恐らく関係あるのだろう。
レイライン上に存在する神社仏閣を張っていた所、何人ものエージェントが連絡を絶ったのだ。
錬金術師に殺されたとみて間違いない。
レイライン上の要石の護衛とリフレッシュを掛けて装者達は一路、調(つき)神社を目指す。
神の力とレイライン、要石と調査していた所、首都高を爆走する錬金術師が現れたとの一報がsongに入った。
「高機動戦闘になりそう…行ける?切ちゃん」
「勿論なのデス」
「おい、お前らっ!」
止める翼を振り切って聖詠を謳うとギアを纏う。
「ロード・ナグルファル」
調のギアが変形し、それに同調したように切歌のギアが調のそれと連結されそのまま音を置いて走り抜ける。
「見えた」
「被害が拡大してるデス」
大きなけん玉を回転させて首都高を爆走するプレラーティ。
「切ちゃんっ」
「大人しくしさせてからトッ捕まえるデスっ!」
「接近は任せて」
ギアを制御して一瞬の加速。
「お前たちの相手などしている暇などない訳だ」
爆走するプレラーティからばら撒かれる大量のアルカノイズ。
しかし調はギアを変形させて前面に巨大な鋸を突き出すと速度を落とさず切り刻む。
「わたしは…サンジェルマンにこの事を伝えないといけないんだぁっ!」
「話は牢屋で聞かせてもらうデスっ!」
ついに並走される調とプレラーティ。
「デースっ!」
その一瞬で調は鎌を振りぬいた。
「ぐはっ!」
そのままプレラーティはアスファルトを削りながら転がり道路を転がりガードレールに激突して意識を失った。
「これで二人目」
プレラーティの回収をsongのエージェントに任せて見守っているとレイラインを震わせる衝撃が走った。
「何事デスっ!?」
『神の力の覚醒か、だがっ!』
しばらくしてレイライン上の力の収束は分断させて消え去ったのだが…
「失敗?」
「じゃないのデスっ!」
レイラインは確かに絶たれた、だが再び集まるエネルギーは空を通って収束されて行く。
その収束点はここからは遠い。
「すぐに現場に…く…」
「すぐには無理デス、調」
消耗に膝を着く調を抱きかかえる切歌。
「あっちは響さんと翼さんに任せるのデス」
切歌達を欠いた響達はそれでも錬金術師の野望を打ち砕いた。がしかし…
暴走した神の力が響を取り込み繭状にに変化してしまったのだった。
ビルの間に根を張る巨大な繭は明滅を繰り返す。それこそ内部で何かが胎動しているかのように。
すぐには動き出さないと言う予想で時間的な余裕が生まれた響以外の装者達は本部に集まりやるせなさと戦っていた。
「あの時駆けつけていれば」
「わたしが調を止めたのデス。あまり自分を責めないで欲しいデス調」
「なにか手はあんだろおっさん」
クリスもイライラしながら声を発した。
「目下思案中だ」
「クソっ!」
ダンと壁を殴りつけたクリスは自身の感情の発露を破壊衝動に置き換えるのがやっとだ。
「ぶった切っていいなら簡単なのデスけど」
それ以外の事は切歌には難しい。
「アオさんが居れば…」
「エルフナイン、これを」
「何ですか…っ…これは」
調が差し出したのは一つのカートリッジ。
「シェンショウジンのカートリッジ。…もうこれ一本しかないのだけれど」
「これをわたしにどうしろと」
「シェンショウジンの特性は聖遺物由来のエネルギーを分断する。…たぶん神の力を弱める事くらい出来る…だから」
「これを聖遺物の代わりにするのですね」
「どう言う事?」
とマリアが問う。
「この世界ではギアは失われたけれど適合者は居ます」
「おい。それはまさか未来かっ!?」
「これを使えば一回限りですがシェンショウジンのギアを纏えるはずです」
「それしか、無いのか?」
その翼の問いかけにエルフナインは左右に首を振る。
「ですが、他の手段よりも調さんに提示された手段が一番成功率が高いと思われます」
リンカーは完成している。聖遺物の代わりになるものも存在する。
なら一時、未来がシェンショウジンのギアを纏う事も可能になるかもしれない。その力なら響を助けられるかもしれない。
「あいつは断らないだろうな…」
クリスが達観のため息を吐いた。
こちらの要請をやはり未来は断らなかった。
「二人はこの世界の二人じゃないんだってね」
とsongの要請で連れてこられた未来は簡単に現状を聞かされ、その中には調たちの事も含まれていた。
「そっちのわたしは装者なの?」
「そうデス。シェンショウジンのギアを纏った未来さんは頼れる盾なのデス」
「なに、それ」
と言う切歌の言葉に未来はクスクスと笑った。
笑い終わると突然未来は切歌と調の手を握ると眼をつむった。
「ありがとう。この世界に来てくれて」
「未来さん?」
「ありがとう。わたしに響を助ける手段を与えてくれた事、本当に感謝している」
「でも、ギア本体が無い以上チャンスはたった一度きり…」
調の弱々しい声に未来は握る力を強めた。
「大丈夫。大丈夫だから」
エルフナインの頑張りでシェンショウジンのカートリッジを使った即席ギアとリンカーは完成し作戦開始を待つ。
作戦はシェンショウジンのギアを纏った未来がその力で神の力を弱め響を覚醒させると言うものだ。
エルフナインは奥の手で融合している響に対してのアンチリンカーも用意したらしく、そちらでも神の力の分離を試みるらしい。
「さて、作戦開始だ」
弦十郎の合図で響救出は始まった。
「Rei shen shou jing rei zizzl」
聖詠を謳うと未来が纏うは紫のシンフォギア。
「お願いね、シェンショウジン。響を助けるために」
「くっ…調整に時間を取られました…羽化します」
エルフナインが悔しそうにつぶやいた。
中から出てくるのは巨大な異形の女神。
「露払いは任せろ」
「おまえはどでかいのをお見舞いしてやれば良いんだよっ!」
「此処が正念場ね」
「道はわたし達が必ず開くから」
「安心するのデス」
翼が、クリスが、マリアが、調が、切歌が駆け出していく。
巨体が繰り出す攻撃をいなし、逸らしながら動きを封じる。
「今デス」
「やっちゃって、未来さん」
皆の攻撃で数秒確かにその巨体が無防備に止まっていた。
「ひびきーーーーーーーーっ!」
補助具も使って増幅された暁光が巨躯の胸元を貫き神の力を確かに霧散させている。
すかさず巨体にむかってアンチリンカーを注入し更に抑制。
穿かれた胸元からはスルリと響が滑り落ちて来た。
「ひびきっ!」
その体を駆け出した未来が優しく抱き留めた。
「やっぱり未来はいつでもわたしを助けてくれる」
意識を取り戻した響。
「響…よかった…助けられて、よかった」
そんな感動も長くは続ける暇を世界は与えてくれなかった。
一度は拡散したはずのその神の力が依り代を求めて集い始めたのだ。
調と切歌は互いにコクリと頷くと集まる粒子にアームドギアを投げ入れた。
『何をしている、二人ともっ!』
「多分デスけど、わたし達はこの為に来たのデスっ」
アームドギアを依り代に神が形成されて行く。
「神を打倒するために」
「それでわざわざ体を与えるってのかっ!?」
クリスの怒声が響く。
イガリマとシュルシャガナのアームドギアを取り込み生まれてくる神。
それは紅と緑の一対の剣を持つ女神。
『軍神ザババ…だと』
『AaaaaaaaAAAAAAAaaaaa』
うめき声とも鳴き声とも聞こえる甲高い音を発しながらこちらを見つめるザババ。
「あのバカ二人が何を言っているかはわかんねぇけど、こいつをこのままにしておけねーだろうがっ!」
クリスのアームドギアが巨大化しミサイルを雨の様に打ち込むが…
「効いてねぇってかっ!?」
「はぁっ!」
「やぁっ!」
翼とマリアが左右から切り付けるが…
「薄皮一枚傷つかない…だと…」
「自身無くしちゃうわね…」
そこにアームドギアを形成しなおした調と切歌が言葉を発した。
「離れていてください」
「これからちょっと本気モードなのデスっ!」
『Aaaaaaaa』
その女神はこの中で一番誰が自身に手っと脅威か感じているらしい。
紅と緑の巨剣を調と切歌に振り下ろすと爆音と土煙が舞い視界を奪った。
「バカっ!」
クリスが焦って声を上げるその先で煙が晴れると黒く染まったギアを纏った調と切歌が互いにアームドギアで巨剣を阻んでいた。
「あの巨体の攻撃に力負けしてない…だと…」
「行くよ切ちゃんっ」
「ガッテンデスっ」
ザババの口元に熱量が収束する。
何かが口元から放たれるのは確実だ。
「振り払うってのかっ!?」
体よりも大きいザババの剣を振り払いその拘束を抜けると次の瞬間口元から放たれたレーザーの様な熱量が地面を焼いた。
『お二人のユニゾンによるフォニックゲインの上昇が止まりませんっ!』
エルフナインがモニター越しに驚愕の声を出しながらキーボードを叩いていた。
「シュルシャガナ」
『ロート・イチイバル』
ガシュっと薬きょうが排出されると調のギアが変形し、後部ブレードから腕を経由して巨大なガトリングが現れる。
ドドドドッ
「そいつはあたしのっ!」
お株を奪われクリスが憤慨している。
「やはりダメージが…」
ハチの巣状に体を削られて行くザババだが、一定以上のダメージを負うとヨナルデパズトーリと同じくダメージを中た事にされてしまうが、それでも調はザババを削っていくのを止めない。
「それじゃあこっちもいくデス…イガリマ」
『ロード・アメノハバキリ』
切歌の鎌が変形し巨大な剣が空中に現れると気合一閃。垂直に振り下ろされる。
『Aaaaaaaa』
それをザババは二振りの剣をクロスさせて受け止めていた。
『ロード・ナグルファル』
ガシュっと調のギアから更に薬きょうが排出されると銃口がさらに大口径に置き換わり、さながら戦艦のようだ。
容赦のない弾丸の雨あられ。
「危ないっ、調っ!」
相手の攻撃に気が付いたマリアが注意を促すも、当然機動性は落ちている為ザババの収束砲が調を捕らえた。
「大丈夫っ」
『ロード・アガートラーム』
調のギアからは続けざまに薬きょうが排出されていた。
「…え?」
煙が晴れてみれば調の目の前にはギアの変化した巨大な鎧状の盾が現れ調をその攻撃の直撃から守っていた。
「まさか…ベクトル操作したと言うの?」
閃光は調が繰り出した盾に当たると上空へとその熱量を逃がされていたようで、雲を消し飛ばし消失している。
「よそ見している暇は無いデス」
『ロード・ガングニール』
「チェストっ!」
薬きょうが排出されると切歌の手にしたギアが変形し槍型のアームドへと変形。その柄を切歌は握りしめると思いきり投擲した。
投擲された槍は腹部を抉り、その瞬間にカートリッジをロード。
『ロード・シュルシャガナ』
アームドギアが変形すると巨大な鋸が無数に分かれ内部から切り刻む。
「調っ」
「切ちゃんっ」
ザババはダメージの修復に手間取っている今がチャンスだ。
二人は正面から手を取り合うと聖詠を口にする。
Gatrandis babel ziggurat edenal
「絶唱だとっ!?」
Emustolronzen fine el baral zizzl
「バカ、お前らやめろっ!」
Gatrandis babel ziggurat edenal
「あなた達何を考えてっ!」
Emustolronzen fine el zizzl
更に残ったカートリッジをフルロード。
カランカランと薬きょうが空中に散らばり落ちた。
絶唱による高まったフォニックゲインにカートリッジを足してシンフォギアのロックを外していく。
一瞬閃光が辺り一面を包み込むと、そこに現れたのは…
「エクスドライブ…だと…?」
「ですが、その数値がこちらのデータを遥かに超えていますっ!これはいったい…」
二人のギアが黒色からそれぞれ紅と緑を基調とした白色に変化し神々しさを増していた。
「これが本当の」
「全力全開デスっ!」
二人は空を翔けるとその速度は音を置き去りにしていた。
「速いっ!」
見えなかったと翼が言う。
次の瞬間両腕が吹き飛んでいた。
「これは返してもらうのデス」
切歌と調が掴んだ巨剣は、その大きさが縮まり人間が振るえるサイズまで縮小されていく。
元は彼女達のギアが触媒になったものだから返してもらう発言も間違いでは無いのだろうが…
『Aaaaaaaa』
口元に収束する巨大熱量。
「危険です、避けてくださいっ!」
絶叫するエルフナイン。地上に放たれれば辺り一面焦土と化すだろうそれが放たれるが…
「なっ…何をしたんだあいつらはっ」
突如として霧散した放射攻撃に戸惑いを隠せないクリス。
「まさか…斬ったのか…」
信じられないと翼がこぼす。
「その熱量事斬ったとでも言うのっ」
マリアも驚きで目を見開いていた。
調と切歌を見れば確かに手に持った剣型のアームドギアを振り上げたポーズで止まっているし、ザババの胸元はX字に切り裂かれていて修復中だった。
『uUUuuuuuuUUUUUUUUUUAaaaaaaaaaaaaaaaa』
大技が当たらないならと弾幕を張り、腕をしならせ、しゃにむに攻撃を仕掛けるザババだが、そのような攻撃が今の彼女達には通じない。
「よ、はっ、そいやっ!」
「はぁあっ!」
弾幕を目にも留まらないいスピードでさけ、振り下ろされたコブシはすれ違いざまに切り落とす。
『HaAAAaaaaaaaaaaaaa』
痛みを感じているのだろうか、表情の読めないその顔が僅かに歪んだ気がした。
「だが、いくらダメージを与えようが回復されてしまうのだぞっ」
どうするのだ、と弦十郎。
「それは勿論っ」
「切り刻むだけデスっ」
「ですが、今のザババの状態はダメージを無かった事にしてしまいます。たとえるなら複数のいいえそれこそ無限の命を持っているに等しい存在です…そんなものをどうやって…」
「問題ない」
エルフナインの言葉を一蹴する調。
「全部まとめて斬ってしまえば良いだけデス」
二人が互いに振りぬいた剣から衝撃が走りザババの動きを止め、さらに射出したワイヤーアンカーで地面に縫い付け拘束。
ユニゾンは最高潮。エクスドライブの上に神の力の一端を行使している。故に…
神殺しは成る。
「わたし達なら存在するもののすべてを…」
「魂だって概念だって切り刻めるのデスっ!」
『『カートリッジロード』』
弾倉を入れ替え純粋に自身のフォニックゲインを圧縮していたそれを炸裂させて、ザババを拘束した隙に調と切歌はフォニックゲインを極限まで高めていく。
アームドギアへと送られたそれは周りの熱量を上げるだけにとどまらず周りの景色が歪んでまるで次元が揺らいでいるよう。
準備は整ったと、調は下から、切歌は上から、互いに最高にフォニックゲインを武器に纏わせて切り伏せ、切り刻み、砕く。
「「終わり」デス」
Xに切り裂かれたザババは置き換えるための存在すべてを切り裂かれ消滅、光の粒子になって切歌と調に吸収されて行った。
「二人に影響はっ!?」
「これは…そんな…先天的に原罪を持つ人間に神の力が吸収されて暴走しないなんて…」
「現状問題は無いのだな?」
「絶対とは言い切れませんが…親和性の高いザババに一度変化させたのが影響しているのかもしれません」
弦十郎とエルフナインが調と切歌の容態を気にしつつ変化が少ない事に安心しているようだ。
「神様、殺しちゃったね」
「これでわたし達も神殺しの一員なのデス」
一件落着か、と思いきや…空間の隙間から最後の錬金術師、アダム・ヴァイスハウプトが現れる。
「こんなバカな事があるかっ…神の力がただの人間に宿るだとっ!そんなバカな事がっ!」
この事件の真の黒幕であるアダム。
「呪われるぞ、神を殺したのだ。その身は既に人では無いっ」
人間の相互理解の為に月の遺跡の支配とバラルの呪詛の解呪をもくろんだサンジェルマン達錬金術師。
その最後、アダムはサンジェルマンを裏切り、ただの自身が望む手段の為に神の力を顕在化させ神の力による人間の支配をもくろんだ存在だ。
「わたし達は最初から人では無い」
「人と言う枷があの人に着いていけない理由になるのならそんなもの脱ぎ捨てるまでデス」
「そんなバカげた理由でっ!」
余りの現実についに限界を迎えたらしいアダムが自身の本性を現し化け物と変化。その形はどちらかと言えばネフィリムに似ていた。
「切ちゃん」
「調っ……て、このタイミングでデスかっ!?」
アダムを何とかしようと剣を握る腕に力を入れたタイミングで体が光に包まれた。
「どうした、二人ともっ」
「なんだってんだ」
「これは…どう言う事なの」
駆け寄る翼達三人。
「タイムオーバー」
「呼び戻されているみたいデス…」
「戻るのか…」
「最後まで何とかしたかったデスけど」
「どうしてこのタイミングで?」
とエルフナイン。
「神の力は何とかしたからかな」
その為に呼ばれたのかもしれないと調と切歌は考えていた。
用事が終わればこの世界には不要と言う事なのだろう。
眼前のアダムは巨大化を続けている。
「へ、大丈夫。最後は先輩にまかせておけ。後輩にしてやられっぱなしは先輩として立つ瀬がねーだろうがっ」
「マリア」
「何かしら」
「入れ替わりにこちらのわたし達が現れるだろうから…あとはよろしくデス」
「結構やっちゃった感はあるよね、実際」
「あなた達…ええ、分かったわ。それじゃあ」
「お別れデス、この世界のマリア、翼さん達も」
「楽しかった」
時間は無い、簡潔に挨拶を済ませる調と切歌。
「まぁ、こちらもお前たちのおかげで窮地を脱出したのだ、助かった」
「向こうでも達者でね」
「ちゃんと向こうのあたしの言う事を聞くんだぞ」
「大丈夫」
「わたし達は向こうじゃ先輩方に頭が上がらないのデス」
そうして唐突に二人の視界は暗転し、次の瞬間にはスキニルの中で機材に囲まれて立っていた。
目の前にはあの世界では見なかった人の姿を見て。
「「ただいま」デス」
「おかえり、二人とも」
さあ、向こうで何があったのか、いっぱい話してやろうと切歌と調は視線を合わせて頷いて笑い合うのだった。
後書き
そしてアオが出てこないと言う。ぶっちゃけこうでもしなければ錬金術師相手ではオーバー戦力で相手にもならなそうなので…
本当は劇場版リリなのとかも考えていたのですが…想像以上にアレでしたのでモチベーションが…
あとはディスクが出てからですかね…ただ、本当に二次に向かない感じで書けるかは難しいかもしれません。
それでは遅くなりましたが、本年もよろしくお願いします。
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