戦国異伝供書
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第三十五話 天下一の武士その十一
「そして源次郎自身にもな」
「あの者にもですか」
「あの者も忍の者であるな」
「真田の家の者の中でもとりわけ優れた忍の者だとか」
「ではじゃ」
それならというのだ。
「あの者にも働いてもらおう」
「忍の者としても」
「今は信濃のことを隅から隅まで知りたい」
「今後のことを考えれば」
「だからじゃ」
「源次郎と十勇士達をそれぞれ信濃に送りますか」
「そうしようと思っておるがどうじゃ」
ここまで話してだ、晴信は山本に自分の考えの是非を尋ねた。
「それで」
「よいかと」
それでとだ、山本は晴信に答えた。
「それで」
「お主もそう思うか」
「あの者は只の武士ではありませぬ」
「忍の者であってもじゃな」
「はい、そちらでも天下一です」
そこまでの者だというのだ。
「そして十勇士達もです」
「天下屈指の者達じゃな」
「はい、ですから是非共です」
「使うべきじゃな」
「それがしもそう思いまする」
「ではな」
晴信はこれで決めた、そうして幸村達に信濃の隅から隅まで調べさせてそうしてそのうえでだった。
次の動きに備えていた、だがその中で彼は甘利と板垣に話していた。
「信濃に進んでいくが」
「それでもですな」
「後ろが気になりますな」
「どうしてもな」
このことを言うのだった。
「相模と北条家と駿河の今川家じゃ」
「どうしてもですな」
「両家とは今は誼がありますが」
「それでもですな」
「あの二つの家が気になりますな」
「隙を見せると来るであろう」
甲斐にというのだ、彼等の本拠地である。
「だからな」
「隙を見せぬことですな」
「兵を進める間も」
「信濃に進出しても」
「そうじゃ、若し隙を見せるとじゃ」
その時にというのだ。
「来るやも知れぬからな」
「兵の全ては信濃に向けず」
「常に甲斐にある程度置いておきますか」
「そして何かあればですな」
「その時は」
「退ける様にしておく、もっとも両家も甲斐よりもじゃ」
晴信は両家のことを冷静に見ていた、それでこうも言うのだ。
「それぞれ関東や三河に進んでおるわ」
「むしろそちらの方に忙しいですな」
「だから甲斐にはですな」
「油断出来ぬにしても」
「攻めてくることはあまりありませぬな」
「そうであろう、そしてそれぞれ近いうちに厄介な相手とぶつかるわ」
晴信は二人の重臣にこうも言った。
「北条殿は越後の長尾家、今川殿は尾張の織田家とな」
「越後と尾張ですか」
「それぞれあたられますか」
「そうなる」
間違いなくとだ、晴信は言い切った。
「だからじゃ」
「それで、ですか」
「そこから容易に進めなくなる」
「そうなるのですな」
「やがては」
「わしはそう見ておる、どちらも並の者達ではない」
長尾景虎そして織田信長はというのだ。
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