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ある晴れた日に

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133部分:妙なる調和その五


妙なる調和その五

「御願いできるかしら」
「わかったぜ。それじゃあはじめるな」
「それで何の曲なの?」
「とりあえず覚えてる曲だけれどな」
「ええ。それで何なの?」
「空も飛べる筈な」
 この曲であった。
「それだよ。どうだ?」
「スピッツのね」
「ああ、それだよ」
 やはりそれだった。もう前奏をはじめていた。
「それな。どうだ?」
「実は好きなのよ」
 スピッツと聞いて微笑む千佳だった。
「スピッツ」
「ああ、そうなのか」
「特にその曲はね」
 微笑みがさらに深いものになった千佳だった。
「大好きよ」
「じゃあこれでいいよな」
「ええ」
 正道に対してその微笑で以って頷いたのだった。
「是非。御願いするわ」
「わかった。それじゃあな」
 前奏をさらに続けながらまた千佳に問うてきた。
「ところで歌はいいか?」
「歌?」
「ああ。流石にスピッツと比べるとちょっとだけあれだぜ」
 少し苦笑いを浮かべての言葉であった。
「それでもいいか?」
「ええ、いいわ」
 苦笑いの正道に対して千佳はにこりと笑っていた。その顔での返答であった。
「それでもね」
「気前いいな。結構文句言う奴いるんだぜ?」
「そうなの」
「こうした人様の歌歌うとな」
 言いはしてもそれでもさっきまでの苦笑いは消えているのだった。
「その人と違うってな」
「オリジナルじゃないってことね」
「オリジナルじゃないのは当たり前さ」
 これについてはいささか開き直りめいている正道の主張だった。
「だってよ。俺は俺だぜ」
「それはね」
 千佳は正道のその言葉に頷いて返した。
「そうよね、やっぱり」
「だからだよ。そりゃ人様の歌をあまりおおっぴらに歌うっていうのもあれだけれどな」16
 少し後ろめたさも自分で感じている正道だった。
「それでもな。やっぱり俺は俺なんだよ」
「ここで言ったらスピッツじゃないってことね」
「そうさ」
 この場限定ではこうなるのだった。
「スピッツじゃないぜ。それでもいいよな」
「ええ」
 この返事は変えない千佳だった。
「御願い。音橋君の空も飛べるはずが聞きたいわ」
「俺の!?」
「そう、音橋君のね」
「その言葉ってな」
 今の千佳の言葉を受けて急に晴れやかな顔になってきた正道だった。喜んでいるのがそれでわかる。顔に出て来ているからこそ。
「いいな、何か」
「あれっ、いいの?」
「おいおい、いいから言うんだよ」
 困ったような笑みになって千佳に返した。
「こんな言葉よ」
「そうなの」
「そうなのってな。だからだよ」
 少しムキになってきていた今の正道の言葉だった。
「こうして言うのもな」
「そうね。考えてみれば」
「ったくよお。委員長も結構天然だな」
「自覚はしてるけれど」
 それについては一応自分も、なのであった。
「それは。けれど」
「わかってるさ。俺の空も飛べるはずだよな」
「そう、それ」
 話がそこに戻った。どうも話が行ったり来たりしている感じであった。
 
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