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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第6章:束の間の期間
  閑話16「修行の一風景」

 
前書き
タイトル通りな話。
つらつらと模擬戦内容の一部を書くだけです。

結界に関してですが、現在は時間の法則も曖昧になっているため、外との時間の流れの違いも変動しています。基本的に等速~時間停止までの間を漂う感じになっています。
なので、ずっと結界内にいてもその内外から誰かが入ってきたりもします。
 

 








「優輝さん、管理局の方が来ましたよ」

「分かった」

 修行を開始してから、二週間分。
 外では管理局(厳密にはクロノ達)が戻って来たのか、結界に入って来た。
 何度か外との時間に連動したため、それなりに時間が経っていたようだ。

「……凄いな、ここまでの規模の結界とは」

「クロノ、そっちの動向はどうなったんだ?」

 入って来たクロノやユーノは、結界内を見回して驚愕に溜息を漏らす。
 そんなクロノに、優輝が管理局の対応がどうなったのか尋ねた。

「警戒態勢にはなっている。あのジェイル・スカリエッティが情報操作したと聞いたが……そのおかげか、上層部も信じて対処に乗り出した」

「というか、上層部には祈梨さん……だっけ?あの人が感覚共有して無理矢理信じさせたからね。……なぜか僕らも連れて」

 ジェイルは宣言通りに情報操作し、神界の件について浸透させた。
 それに加え、祈梨によって世迷言ではないと証明された。
 次元世界どころか世界そのものの危機なため、管理局も慌てて腰を上げたのだ。

「……それよりも、僕は結構頑張って“揺れ”について調べてたんだけど……当事者の祈梨さんがいたから意味がなくなっちゃったよ」

「結局調べた所で分からないようなものだ。仕方ない」

「いや、祈梨さんに教えてもらった後、その方向性で調べたら……世界の構成とか、別世界の存在とかの情報は分かったよ。“揺れ”が世界そのものに起きたと推測出来るくらいにはね」

「は―――?」

 一瞬、聞き間違えかと優輝は思った。
 祈梨から齎された情報を基にしたとは言え、ユーノは“揺れ”について推測出来る情報があったと言ったのだ。

「僕もあるとは思わなかったけどね。祈梨さん曰く、無限書庫はアカシックレコードに近い代物らしいよ。だから、“世界そのもの”の情報があった」

「……僕も聞いた時驚いたさ。……目の前の問題が片付いたら、改めて無限書庫に関して会議しなければならないだろうな。ロストロギアなんてものじゃないぞ、あれは」

 元々ロストロギアとして見られていた無限書庫。
 しかし、その実態はアカシックレコード擬き。
 ロストロギアの範疇に収まらない代物だったのだ。

「まぁ、無限書庫に関しては置いておこうよ」

「……そうだな。来たのはクロノとユーノだけか?」

「ああ。艦長が他の事は引き受けた。管理局は組織として、僕らはこっちと関わりがある分、それぞれの戦力を伸ばすようにしたんだ」

 管理局の武装隊が全員入れる程結界が大きい訳でもない。
 その上、管理外世界である地球に人員を割いて、神界との戦いが迫る中、ミッドチルダなどの治安を疎かにする訳にもいかなかった。
 そのため、少数精鋭且つ、地球の戦力と関わりがあるユーノとクロノが抜擢された。
 戦力を上げつつ、メッセンジャーとしても二人は動くようになっている。
 
「一応、僕ら以外にもエイミィを含めた何人かはこっちで行動するようになっている。まぁ、今までの君達の戦いを見てきた経験から、今度の戦いではほんの少しの足しにならないかもしれないけどな」

「何もないよりはマシだ」

 ジュエルシード、闇の書、U-D、アンラ・マンユ、幽世の大門。
 様々な戦いを見て、関わって来たクロノだからこそ、経験から察した。
 いくら信じられない事態でも、今度の戦いは持てる全て以上を出さなければならないと。

「早速混ざろう。……っと、その前に挨拶ぐらいはしておかないとな」

「そうだね」

 ユーリ達やとこよ達など、初見ではないものの関わりが薄い者もいる。
 混ざる前に挨拶ぐらいはしておこうと、二人は皆の所へ向かう。

「……ねぇ、優輝」

「なんだ?」

 その途中で、ユーノがある事に気付いて優輝に話しかける。
 クロノも気づいており、耳を傾けていた。

「……君の妹がいるように見えるんだけど……」

「生き返ったのか……?」

「……そういえば、二人は居合わせていないから知らなかったな」

 ユーリ達がいる事もだが、まずは緋雪がいる事に二人は驚いた。
 そんな二人に、優輝は大まかに経緯を説明する。

「―――という訳だ」

「僕らが向こうに行っている間に、そんな事が……」

「元々幽世にはいたから、幽世の神と一緒にいる時点で、何かしらの訳はあると思っていたが……それ以上に色々起きていたみたいだな」

 緋雪の事だけでなく、ユーリ達に関する事も説明した。
 ユーノも記憶を封印していたが、その説明の際に封印は解けていた。

「経緯も聞いた事だし……行ってくるよ」

「ああ」

 改めてクロノとユーノは皆の所へ向かう。
 それを見送り……出していた“休息のサイン”を仕舞う。

 ……刹那。

「ッ―――!」

 優輝が屈み、頭があった場所を刀が通り過ぎる。
 振るったのはとこよだ。
 さらに、間髪入れずに飛び退く。……それも、優輝だけでなくとこよも。

   ―――“Zerstörung(ツェアシュテールング)

 その瞬間、二人の間に爆発が起きる。
 飛び退いていなければ確実に爆風に巻き込まれていただろう。

「あー、外しちゃったか」

 当然、下手人は緋雪だ。
 優輝も使えるが、手軽に使えるのは緋雪だけだ。

「三つ巴……いや」

 上空にいる緋雪と、地上のとこよを視界に収め、優輝は呟く。
 しかし、その直後には、上空にいる緋雪すらも範囲に入れた魔法が降り注ぐ。

   ―――“Schwarzer regen(シュバルツェア・レーゲン)

「四つ巴か……!」

 赤黒い魔力弾は、一発一発が並の砲撃魔法よりも強い。
 そのため、まともに受け止めずに優輝は駆ける。
 創造魔法で瞬時にいくつかの剣を展開し、とこよへ放つ。
 一方でとこよは霊術で魔力弾を最低限相殺し、強力な一矢を優輝に放った。

「ッ……!」

 優輝の剣はあっさりと弾かれる。
 同時に優輝は追撃の矢を放ち、飛んできたとこよの矢を蹴って跳ぶ。
 魔力による保護を利用して踏み台にしたのだ。
 さらに魔力弾で壁蹴りをするように駆け上がり……。

「はぁっ!」

 緋雪が放った魔力の刃を体を逸らす事で避ける。

「っつ……!」

 さらに魔力弾を防御魔法で逸らすように防ぎ……。

「えっ……!?」

 その反動を利用して、緋雪の第二撃を回避した。
 優輝はそのまま、振り抜いたシャルを足場にさらに跳ぶ。

「抜けてくるとは……!」

「はぁ……っ!」

 向かう先は魔力弾を放っていたユーリ。
 魔力の足場を踏み込み、間合いを詰める。
 同時に創造魔法による剣を緋雪に放ち、追撃を阻止する。
 すぐに抜けてこようが、優輝がユーリに攻撃を放つまでは時間を稼げる。

「ですが、それ以上は―――」

   ―――“Schwarzer schneesturm(シュバルツェア・シュネーシュトゥルム)

「―――近づかせません!」

 間合いを詰めるために踏み込んだ瞬間、ユーリが魔法を切り替える。
 広範囲ではなく、目の前に迫る優輝に向けて、確実に倒すように。
 弾速を早く、密度も高くし、転移でもしない限り躱せないようにした。
 その転移も、間合いを詰める動きをした時点で間に合わない。

「ふっ……!」

 故に、優輝は転移の行動を()()()()
 転移魔法を使うためのリソースを防御魔法の展開に割く。
 魔力弾が当たる箇所だけに的確に防御魔法を展開し、逸らす。
 直撃を避け、最低限の被害で魔力弾の吹雪を凌ぐ。

「(……今!)」

 そして、その凌いだ時間で転移魔法の術式を構築。
 転移で背後に回り込む。

「はぁっ!」

   ―――“Aufblitzen(アォフブリッツェン)

 直後、優輝は強力な一撃を繰り出す。

「くっ……!」

 だが、その一撃は“魄翼”と防御魔法に防がれる。
 魄翼に防御魔法を付与する事で、その堅さを増しているのだ。

「ッ、堅い……!」

「魄翼のみでは防げないのは、わかっていますから……!」

 一閃と魄翼を拮抗させながら、二人は言葉を交わす。
 防御魔法を付与したのは、ユーリの言う通り魄翼だけでは防げないからだ。
 既に優輝は何度かユーリと模擬戦をこなしている。
 お互いに戦闘力が向上したため、こうしてお互いにどこまで攻撃を徹すか理解していた。

「だが、怠ったな」

「え……?」

 優輝の言葉を、ユーリは一瞬理解出来なかった。
 次の瞬間、ユーリに殺気が襲う。

「しまっ……!」

 “怠った”。それは、他の二人への牽制の事。
 緋雪は優輝が足止めした際にユーリの魔力弾に被弾していたが、とこよは違った。
 ユーリが優輝に集中した瞬間、その隙を見逃さなかった。

   ―――“弓技・瞬矢-真髄-”

「防いで!!」

 神速の矢がユーリへと迫る。
 ユーリは咄嗟にもう片方の魄翼で防ぐ。
 優輝と同じようにこちらも防御魔法を付与している。

「やはり、まだ甘い!」

「ッ―――!」

 意識が優輝から逸れる。
 それを優輝は見逃さない。
 即座に頭上に転移し、リヒトを振りかぶった。

「ぉおっ!!」

   ―――“Hacken schlag(ハッケン・シュラーク)

「ぁああっ!?」

 威力を重視した一撃がユーリを襲う。
 魄翼は既に両翼共に防御に使い、今の優輝の一撃を防ぐには間に合わない。
 そのため、咄嗟の防御魔法しか張れなかった。
 それでも三重の防御魔法。一枚一枚が相当な強度を持っている。

「……ッ……!?」

 “あと少し”。そう思った優輝だが、次の瞬間に転移魔法の術式を練った。
 間一髪、転移魔法が間に合う。
 そして、優輝がいた場所をユーリごと砲撃魔法が呑み込んだ。

「うあっ!?」

 転移した直後の優輝に、攻撃を食らった声が聞こえた。
 その方向を見ると、そこにはとこよに蹴り飛ばされた緋雪の姿があった。
 緋雪はユーリの魔力弾に被弾した後、復帰してそのままとこよに攻撃を仕掛けたのだ。
 ユーリを狙った矢を放った直後にとこよは襲われ、攻防を繰り広げていた。
 そして、とこよと優輝達が直線状に並んだ時、緋雪は砲撃魔法を放ったのだ。
 先程の砲撃魔法はそれが飛んできたもので、とこよはその砲撃魔法を躱し、そのまま緋雪に蹴りをお見舞いしたのだ。

「はぁっ!」

「っ!」

 即座に優輝はとこよへ攻撃を仕掛ける。
 猶予はユーリと緋雪が復帰するまでの僅かな時間。
 しかし、優輝ととこよにはそれで十分。

「(死角……後ろ!……いや!)」

 転移魔法で間合いを詰め……即座に二度目の転移魔法を発動。
 とこよはそれすら見切り、後ろに回り込まれたと理解する。
 そして、対応する前に……三度目の転移に反応した。

「(前!)」

「防ぐか……!」

「初見じゃない相手の動きだからこそ、だよ」

 今回だけでなく、優輝ととこよは何度も模擬戦をしている。
 既に同じとは言わないが似たような連続転移は見ていた。
 そのため、こうして対処が出来たのだ。
 ……尤も、とこよならば初見でも防御しきれたかもしてないが。

「くっ……!」

「……!」

 優輝は魔力を、とこよは霊力を練る。
 その瞬間、周囲が二人を巻き込むように爆発が起きた。
 とこよが仕掛けていた御札に、優輝の創造魔法による剣が刺さったのだ。
 二人が魔力及び霊力を練ったのは、術式の発動とその牽制のためだった。

「「ッ!!」」

 爆発の範囲を抜けるように、二人は飛び退く。
 そして、追撃を放とうとして、優輝は転移を、とこよは障壁を張った。

「(……さすがに時間を使ったか)」

 直後、二つの砲撃魔法が直撃する。
 放ったのはユーリと緋雪だ。

「……避けた方が、無難だったかな」

 優輝は転移でも余波が避けきれず、とこよは障壁で防ぎきれずにダメージを食らった。
 しかし、戦闘はまだ続行出来る。

「……あーもう、埒が明かないよ!」

 緋雪がそう言って、優輝ととこよは苦笑いするように溜息を吐いた。
 ……中途半端だが、これで模擬戦は終了だ。

「―――終わりだ。悪路王」

「……ふん」

 戦闘終了から、“休息のサイン”を出すまで。
 その隙を狙い撃つかのように、悪路王が影から優輝を狙った。
 だが、その一撃は防がれた。

「あれ?悪路王、鈴さんの所にいたんじゃ?」

「吾は元々現世に留まれる縁の訳を知るためにいただけの事。……その訳を知ってなお、ここに留まり続けたが……そろそろ還るとする。今のは最後に試しただけだ」

 そう言って、悪路王は結界の出口へと向かう。

「ま、待って!」

「待たん。吾はこれ以上馴れ合う気はない。……それに、これ以上鍛えた所で吾の強さは打ち止めだ。ではな」

 とこよが呼び止めようとしたが、意に介さずに悪路王は去っていった。
 妖である以上、強さには上限があった。
 悪路王は既にそこに達しており、そのためにこれ以上は意味がないと断じたのだ。

「……悪路王……」

「……むしろ、あの悪路王がここまで付き合ってくれてた事が意外だよ」

「そうなんだけどね……」

 休息している間に、紫陽がとこよの傍に来ていた。
 とこよは悪路王が去っていった場所を少しの間見つめていた。

「まぁ、あんたが思う事も共感出来る。でも、あの悪路王本人がこれ以上鍛えても無駄だと悟ったんだ。無理強いしても悪化するだけだ」

「……うん」

 とこよは何も協力し合わなくなった事を寂しく思っていたのではない。
 去っていく時の悪路王の背が、どこか寂しそうだった事を心配していたのだ。

「(強さの上限に至って、これ以上鍛えても足手纏いにしかならない。……妖だからこその問題……か。幽世なら、もっと強くなれるだろうけど……)」

 妖は基本的に陰の気を持つ。
 それ故に、陰の気に満ちている幽世なら、さらに強くはなれる。
 裏を返せば、現世ではもう強くなれないのだ。
 別に、悪路王は強さに固執している訳ではないが……気にしない訳でもない。
 そのため、足手纏いになる事に思う所があったのだ。

「(……ううん、悪路王の事だし、心配する程でもないよね)」

 とこよは悪路王について人並み以上に理解している。
 その経験から、とこよは悪路王を心配する必要はないと判断した。
 思っていた事も、他の人に悟られないように、心に仕舞う。

「……あれ、緋雪ちゃんとユーリちゃんは?」

「その二人ならさっき入って来た執務官達に挨拶しに行ったよ。挨拶する前に戦闘を始めたからねぇ。とこよも少しは休憩しておきな」

 優輝はその二人を連れて行くために同行していた。
 つまり、とこよだけ何気に置いてけぼりになっていた。……さしたる問題はないが。

「そっか。……うん、じゃあ休憩」

 簡易的な結界を張り、とこよは座り込む。
 しばらく休みながら、他の人の模擬戦を観賞するのだった。













「……うーん、この組み合わせは何気に初めてかしら?」

「そうだね」

 一方で。なのは達仲良し六人は。
 三体三で対峙していた。

「魔導師組と、陰陽師組。ちょっとした夢の対決やな。……今までこの組み合わせで模擬戦してなかったのが不思議なくらいや」

「私達は経験不足を補うように、最近まで椿さん達が指定した相手としか模擬戦してなかったから……。その分この組み合わせになるのが遅れたんだと思うよ」

 なのは、フェイト、はやて。
 アリサ、すずか、アリシア。
 それぞれ魔法を使う組と霊術を使う組に分かれてチームを組んでいた。
 すずかが言ったように、今までは別の人が相手だったり、組み合わせが違ったりして、こんな夢の対決のような組み合わせは初めてだった。
 なのは達の場合、先にシュテル達も相手にしていたので、余計に巡り合わせが遅くなっていたという事情もある。

「……負けないよ。フェイト」

「……うん。私も、負けない」

 フェイトとアリシアは姉妹なため、今までの模擬戦でもよくコンビを組んでいた。
 そのためか、いざ敵同士になると、早速戦意を燃やしていた。

「じゃあ、この魔弾銃で撃った魔力弾が炸裂したら開始。いいね?」

「うん、いつでも来て」

 なのはの返事に、アリシアは魔力弾を撃ちだせる魔弾銃を上に向ける。
 そして一発放つ。その一発が上空で炸裂し……

「ッ!」

「やっぱり、初手はフェイトね!」

 フェイトがスタートダッシュを切る。
 しかし、アリサが反応し、すずかの背後に回った攻撃を受け止める。

「指示塔に値するのは確かに私だし、狙うのも正解だけど……」

「私達も、それぐらいは予想済み!」

 フェイトに一瞬遅れて、なのはがさらに斬りかかる。
 ……が、すずかは防ぐ素振りすら見せずに、代わりにアリシアが受け止めた。

   ―――“氷柱”

「っ……まぁ、椿さんに鍛えられたんや。これぐらいは出来るやろなぁ……」

 その間にすずかははやてに牽制の霊術を放っておいた。
 魔法の術式構築を妨害されつつも、そうしてくるのは当然だとはやては舌を巻く。

「っと、とと、っとぉっ!?」

「シュート!」

 まだ一手動かしたのみ。
 すぐになのははアリシアに矛先を変え、斬りかかる。
 アリシアは刀で何とか受け止めつつ、術式を構築。
 二刀と一刀の手数の差で吹き飛ばされた瞬間に、なのはの魔力弾と相殺される。

「っ!」

「……ヒット&アウェイ……フェイトに適した戦法ね……」

 一方でフェイトも次の手を打っていた。
 一度アリサと間合いを離し、また斬りかかる。
 防がるも、すぐに距離を離し、再度攻撃する。

「アリサ!」

「分かってるわよ!」

 直後、アリシアとアリサのポジションが入れ替わる。
 アリサがなのはの、アリシアがフェイトの相手をする。

「はぁああっ!!」

「選手交代ってね!」

 アリサが果敢に斬りかかり、アリシアが二丁拳銃に武器を変えて霊力の弾を撃つ。
 突然の入れ替えになのはとフェイトは戸惑うが、すぐに切り替える。

「ほらすずかちゃん、牽制ばっかりじゃ私は倒せへんで?」

「分かってるよ。でも、私の役目は流れ弾を出さない事。……それに」

   ―――“氷柱雨”

「術式もやっと組めた」

 互いに牽制し合っていたすずかとはやて。
 しかし、その間にもすずかは術式を構築しており、その霊術を発動させた。

「広範囲……味方ごとやと!?」

「はやてちゃんだって、隙を見れば魔力弾で援護するでしょ?無差別な攻撃だけど、互いに信頼していればこれぐらい……」

 その霊術は広範囲のものでアリシア達の方も巻き込んでいた。
 だが、そこまで密度は高くなく、攻撃を中断すれば回避は容易だった。

「……避けれるよ」

「なるほどなぁ。でも、愚策やったな!」

   ―――“Divine Buster(ディバインバスター)

「ッ!」

 回避が容易……それははやてに砲撃魔法を撃たせる時間を作るも同義だった。
 夜天の書に記録されている砲撃魔法を、すずかに向けて放つ。
 広範囲の霊術発動により、少しの間移動できなかったすずかは、これを避けられない。
 咄嗟に氷の障壁を三重に張るが、破られる。

「……どうや……?」

 手応えを感じるはやてだが、油断はしない。
 相手によっては今のタイミングでも防いだり避けたりする。
 そのため、反撃を危惧して周囲を警戒する。

   ―――“槍技・影突(かげつき)

「生憎だけど、はやてちゃん」

「っ……!」

 砲撃魔法によって発生していた煙幕の中から、影状の一突きが繰り出される。
 はやては何とか障壁で受け止めるが、その間にすずかは次の行動を起こしていた。

「―――私、実は身体能力を活かした戦法の方が得意なんだ」

「速……!?」

 槍の代わりに爪を展開し、はやての背後に回る。
 身体強化に特化させていたため、はやての咄嗟の防御を破って吹き飛ばした。

「そこだよ!」

「ッ!」

 一方で、すずかの霊術を避けたフェイトへアリシアの矢が迫る。
 それをフェイトはザンバーフォームのバルディッシュで弾く。

「せぇい!」

「くっ……!」

 弾いた瞬間を狙い、アリシアが斬りかかる。
 フェイトはスピードを活かし、その一撃を間合いを取って避ける。

「むぅ、当たらないなぁ」

「(何とか避けられてるけど……やりにくい)」

 互いに決め手に欠けていた。
 アリシアは攻撃が当てられず、フェイトはそんなアリシアの当てようとする動きに攻めあぐねている状態だった。

「さっきの二丁拳銃は……使わないの?」

「ああ、あれ?牽制にはちょうどいいけど、フェイトには当たんないの分かり切ってるし。使うなら弓の方がいいしね」

 アリシアはトリッキーな動きを心掛けている。
 バランスブレイカーになる才能を持っているため、その力を持て余している状態では様々な戦い方で翻弄するようにしているのだ。
 そのため、二丁拳銃も使っていたが、フェイト相手では相性が悪かった。

「まぁ、銃による弾丸よりも……」

   ―――“神槍”

「こっちの方が、弾幕が張れるからね!」

「ッ、ファイア!」

 直後、二人の霊術と魔法がぶつかり合う。
 その中を駆け抜けながら、お互いに肉薄し……

「はぁっ!」

「せぇいっ!!」

 お互いの武器をぶつけ合った。

「わぁ、武器の差で力負けしちゃう!お姉ちゃん自信なくすよ!?」

「そんな事ない……姉さんは、強いよ……!」

 鍔迫り合いの中、二人はそんな会話をする。
 徐々にアリシアの方が押されるが、その顔には全く焦りはなかった。

「ありがとね!でも……」

「……?」

 そこまで言って、アリシアは笑みを深める。

「選手交代、だね。二度目だけど」

「え……?ッ!?」

 その言葉に、一瞬フェイトは困惑した。
 直後、横から来た攻撃に防御の上から吹き飛ばされる。

「すずか……!?」

「私達霊術使いの中で一番の身体能力の持ち主。フェイトにだって追いついちゃうよ」

「覚悟してね、フェイトちゃん……!」

 指示塔から一転、アタッカーになったすずかが、フェイトへと攻め入る。
 再び爪から槍へと持ち替え、果敢に攻め始めた。

「という訳で……」

 手が空いたアリシアは即座に矢を放つ。
 
「はやても、選手交代だよ」

「……今度はアリシアちゃんか……負けへんよ」

 用意していた術式を障壁に切り替え、はやては矢を防ぐ。
 交代する事で動きを見切られないように立ち回る。
 そんなアリシア達の戦法で、現在ははやての方が不利になっていた。



「はぁああっ!!」

「っ、はぁっ!」

「くぅっ……!」

 そして、なのはとアリサは。

「ッ……御神流の動きも使ってるのに、耐えるねアリサちゃん」

「ふぅ……!生憎、剣を鍛えてきた経験はあんたよりも長いのよ。それに、士郎さんや恭也さん達と手合わせした事もあるから、御神流の動きは知ってるのよ……!」

 御神流と魔法を駆使し、なのはがアリサを押していた。
 咄嗟の動きが上手いおかげで、アリサは凌げているが、油断すればすぐに負ける。
 そんなギリギリの状態だった。

「さすがだ、ねっ!」

「ッ……!」

 そこでなのはは動きを変えた。
 まだ馴染み切っていない御神流ではなく、今までの戦い方に。
 魔力弾で牽制し、アリサがそれを避けた所に設置型バインドを設置。
 バインドが発動したタイミングで砲撃魔法を放った。

「視線が見えていたわよ!」

「(避けた……!)」

 しかし、バインドに掛かる寸前、アリサは刀を振るい、そのバインドを破壊する。
 なのはの視線が何もない場所に向いていたのを、アリサは目聡く見つけ、何か仕掛けられていると読んでいたのだ。
 そして、直後の砲撃魔法はギリギリ回避した。

「(でも、こっちのペースに持ち込んだ……!)」

 それでもなのはは優勢だ。
 距離が離れ、元より得意分野だった砲撃魔法を使いやすくなる。
 接近されても対処が出来るため、完全になのはの土俵だった。



「はぁっ!」

「ふふ……」

 同時刻。フェイトは果敢にすずかに攻撃を繰り出していた。
 すずかはそれを落ち着いて槍で受け流す。
 速度では勝てなくとも、反射神経は負けていない。
 そのため、すずかはフェイトの攻撃をしっかりと見切り、攻撃をいなしていた。

「(……目が、赤い?)」

 そこで、フェイトはふと気づく。
 ブルーサファイアのように綺麗な青色なはずのすずかの瞳が赤く染まっている事に。
 まるで、自分の……いや、それ以上に赤くなっている。

「……ふふ、気づいた?」

「ぇ……ッ!?」

 すずかがそう言った瞬間、フェイトに倦怠感が襲う。
 まるで重力が強くなったように、体が重く感じた。

「精神干渉はトラウマなのと司さんの加護で防がれるからやらないけど……体に直接作用するのは効くでしょ?特に、フェイトちゃんみたいに速い子はこうしてちょっと体を重くするだけで……」

「ッ―――!?」

「簡単に、追い抜けちゃう」

 反応が鈍くなり、身体強化を施したすずかに背後を取られる。
 すぐに反撃しつつ間合いを取ろうとしたが、間に合わずに掌底で吹き飛んだ。

「ど、どういう事……?」

「なのはちゃん達は気にしてないから忘れがちだけど……私は“夜の一族”。吸血鬼と似た性質を持つの。そして、吸血鬼の特徴は再生や血を吸う事、体を蝙蝠に変える事とかの他に、“魔眼”っていうのがあるの」

「魔眼……」

 フェイトの動きが鈍くなったのは、魔眼が原因だった。
 精神に干渉する事は司の魔法によって出来なくなっている。
 そのため、すずかは目を通して脳に働きかけ、動きを鈍くしたのだ。

「緋雪ちゃんや葵さん、とこよさんが呼んだ吸血鬼系の式姫さん達に使い方を教えてもらったんだ。ちょっと高揚した気分になるけど……どうかな?」

 そういうすずかの表情は、どこか妖艶さを感じる笑みを浮かべていた。
 普段のお淑やかな性格から少しばかり変わっている。

「う……ぐ……」

「ふふ……初見殺しなのが効いたね。隙を見せたフェイトちゃんの負けだよ」

 直後、氷の霊術によってフェイトは完全に身動きが取れなくなった。
 氷漬けみたいになっているが、バリアジャケットのおかげで冷たい程度で済んでいる。

「まぁ、動きを鈍くするのが限界なんだけどね。ごめんね?寒いだろうから、解除しておくね?」

「っ………」

 氷漬けにし、悠長に会話している時点ですずかの勝ちだ。
 実戦であればもうトドメが刺されている。
 そんな状態になったため、フェイトもそれを認めた。

「……結構、悔しいな……」

 氷の霊術が解除され、フェイトは“休息のサイン”を出して戦闘区域の端に行く。
 そして、なのはの方へ向かうすずかを見送りながら、そう呟いた。
 何せ、今までの魔導師としての経験はすずかの霊術使いとしての経験よりもかなり長い期間あったはずなのだ。
 だというのに、負けてしまった。
 いくら初見殺しだったとはいえ、負けず嫌いな所もあるフェイトは悔しがっていた。





「っ!!」

「やぁっ!」

 槍と刀がぶつかり合う。
 すずかはなのはとアリサを見つけると、即座に突貫した。
 既にアリサが追い詰められていたからだ。

「……もしかして、フェイトちゃんを倒してきたの?」

「そうだよ。……なのはちゃんは、耐えられるかな?」

 ブルーサファイアに戻っていた瞳が、再び赤く輝く。
 フェイトにも使った魔眼だ。

「ッ―――!」

「くぅっ……!」

 しかし、それを見たなのはの行動は早かった。
 魔力弾を横から槍に叩き込み、矛先を逸らして懐に入り込む。
 そのまま容赦なく膝蹴りを繰り出したのだ。

〈“Flash Move(フラッシュムーブ)”〉

「シュート!」

 膝蹴りで氷を砕くような手応えを感じたなのはは、即座に距離を取った。
 すずかは咄嗟に氷の障壁を張って防いでいた。そのため、ダメージはほとんどない。
 間髪入れずになのはは魔力弾を放ち、間合いを詰めていたアリサに牽制する。

「っ……痛た……対処が早いなぁ……」

「フェイトちゃんはそう簡単に負けない。……だから、初見殺しの攻撃かなって思っただけだよ。……嫌な予感もしたし」

「……そうなんだ。……アリサちゃん」

「真っ向勝負って訳ね」

 すずかの隣に、アリサが並び立つ。

「二対一。でも、今のなのはにはこれで充分よ。フェイトは倒したし、はやてもアリシアが抑えてる。……今の内に、倒させてもらうわよ」

「見事に分断されちゃったけど、負けないよ」

「それはこっちのセリフだよ、なのはちゃん」

 なのはは相手が親友であっても一切の油断をしない。
 むしろ、幼馴染だからこそ、そのコンビネーションを警戒していた。

「………」

「………」

「………」

 互いに間合いを計り……

「「「ッ!!」」」

 一斉に、動き出した。





















   ―――この後の決着は、早かったのか遅かったのか。

   ―――どちらが勝ったのかは、また別の話である……

















 
 

 
後書き
Schwarzer regen(シュバルツェア・レーゲン)…“黒い雨”。雨の如き魔力弾を広範囲に降らせる殲滅魔法。なお、どこぞの黒ウサギ隊隊長とは関係ない。

Schwarzer schneesturm(シュバルツェア・シュネーシュトゥルム)…“黒い吹雪”。上記のシュバルツェア・レーゲンの範囲を狭め、弾幕密度と速度を増した魔法。単純な回避で全てを避けきる事は不可能に近い。

Hacken schlag(ハッケン・シュラーク)…“叩き割る、一撃”。アォフブリッツェンと違い、威力を重視した一撃。こちらもベルカの騎士なら大抵の者は使える。

槍技・影突…中距離技として使える。影のようなものを撃ち出し攻撃し、次の攻撃に素早く繋げられる。ゲームでは“京スキル”と言う特殊枠のスキルで、攻撃後の行動ゲージが増える。

魔眼…厨二心をくすぐる能力の一つ。すずかのような夜の一族の場合、魅了やそれを応用した記憶改竄などが出来る。本物の吸血鬼などと比べるとそこまで強くはない。


なのは達の戦いを書いていたら文字数ががが……。
飽くまで一風景なので、最初から最後まで戦う事はしません。
まぁ、既にアリシア達もなのは達と同等になっていると分かっていただければ……。
なお、決着は想像にお任せします。

何気に、最近の戦闘描写では効果音を書かなくしています。
地の文で出来るだけ表現しようという試みでそうしています。
あってもおかしくはないんですけどね……新しい試みでレベルアップを図っています。
ここまで長く書いておきながらですが、この小説は処女作且つ習作みたいなものなので。 
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