魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第6章:束の間の期間
第200話「戦いに備えて」
前書き
第6章最終話。
なお、閑話が残っている模様。
本編にあまり関わらない修行パートとかは飛ばして閑話で書きます。
「改めて、申し訳ありませんでした……!」
「黒幕が黒幕だ。僕はもう気にしてないからいいよ」
ソレラが目を覚まし、祈梨がこの世界に来てからの経緯を説明する。
その後、ソレラは改めて姉が優輝に行った事を謝罪した。
「ただ、気になるんだが……魅了が解けている事はともかくとして、あの時の僕はよく無事で済んだな?当時は神界の法則に当て嵌まっている訳でもないし、魂ごと消滅したと思っていたが」
「それは……」
優輝の問いに、ソレラは祈梨へと視線を逸らす。
「魂の循環から外れた状態だったため、貴方は咄嗟に導王の時の力を使って抵抗したのです。そして、無理矢理“格”を昇華させ、抵抗したのです」
「……記憶にない、と言う事は……」
「反動でその時の記憶を失いました。しかも、それは魂ごと削られたもの。もう戻る事はありません。記憶を失う直前に、貴方は転生特典を指定し、転生したのです」
「なるほどな……」
何気にずっと不明だった転生の経緯が判明した。
詳しい説明ではなかったが、優輝にはそれで十分だ。
「話を切り替えましょう。先程話した通り、ソレラさんには神界への道を辿ってもらいます。そして、干渉すると同時に私が力を行使、皆さんが神界の存在に干渉出来るようにします」
「そこからは僕ら次第、か。……ざっと見ても、僕らだけじゃ心許ない。大した足しにはならないかもしれないが、少しは力を付けたい」
相手はピンキリとはいえ平均が大門の守護者以上の強さを持つのだ。
戦力は明らかに不足しているため、少しでも改善したいのは当然だった。
「祈梨さんは干渉可能にするための力を蓄えないといけませんし……適した場所を作るには、私だけでは……」
「……霊脈を使う事は出来ないか?」
「霊脈一つでは……ただ、霊脈を通じてこの星そのものに呼びかければ、私の負担を減らして修行のための空間を作り出せるようになります」
本来、ソレラの能力はこういった事には向いていない。
そのために、適した空間を作るには負担が大きすぎた。
しかし、地球に呼びかける事で世界の修正力を抑え、負担を減らす事でソレラ一人の力でも修行のための空間を作り出せるように出来るようだった。
「他世界との関係が曖昧になっている状態だからこそ出来る、時間から切り離した修行空間。それを作り上げます。神界からの戦いの余波が来るまでは、何とかそれで……」
「……やるしかない。という訳か」
方針は決まった。
後は、それを実行するだけだ。
「さて、準備はいい?」
「ああ」
「はい……!」
翌日、八束神社に優輝、鈴、葉月の姿があった。
実際は三人だけでなく、鈴と葉月を送り届けた葵や、話が終わった椿もいる。
それどころか、司達、なのは達、さらには式姫達やヴォルケンリッター、プレシア、優輝の両親など、とにかく地球上の戦える者はほぼ全員集まっていた。
「私がとこよの」
「私が姉さんの……」
「僕が緋雪の、それぞれに縁がある存在として、媒体にする」
霊脈の直上に、大きな陣を三つ展開する。
その三つの前に、三人がそれぞれ一人ずつ立つ。
「三人の依代になる型紙は、私が一晩掛けてしっかりと作っておいたわ。二つの境界がなくなって、幽世と繋がった今、式姫とは違う三人を呼ぶのに、型紙の質なんてあまり関係ないけど……」
「その意気や良し、よ。少なくとも損にはならないわ」
鈴が型紙を三枚取り出し、二枚をそれぞれ葉月と優輝に渡す。
実は、この型紙は本来の型紙とは違う。
式姫を収める型としての機能を取っ払い、ただ依代としての機能を増していた。
だが、今回はそれが最適解。椿もその意気に同意していた。
「じゃあ、行くわよ。二人共、しっかり召喚相手の事を思い浮かべなさい」
「はい……!」
「ああ」
霊力が練られ、召喚のための術式が起動する。
「(緋雪の召喚。これで……)」
「(優ちゃんの心に揺さぶりをかけて、感情が戻ってくれれば……)」
召喚を開始した三人を眺めながら、椿と葵は密かに期待する。
「ッ……!」
召喚陣が光に包まれる。
その光が晴れてくると、誰かが息を呑んだ。
「ぁ……」
その声を漏らしたのは誰かは分からない。
優輝の両親か、式姫の誰かか。はたまたそれ以外の誰かか。
「……成功だね」
召喚された紫陽が、確かめるようにそう言った。
同時に、沸き立つようにそれぞれの関係者が飛びついた。
とこよと葉月には式姫達が。緋雪には優輝の両親が。
「緋雪……!」
「大きくなったわね……!」
「お、お父さん、お母さん……!?」
まさか召喚直後に抱き締められるとは思わなかったらしく、緋雪は戸惑う。
「ま……何はともあれ成功ね」
「言った通り、召喚してくれたね」
鈴と、式姫達に飛びつかれながらもとこよが、落ち着いてそんな会話をする。
「話は聞いたよ。あたしらも、力になろう」
「このまま、何もせずにいる訳にはいかないからね」
既にとこよからは話は通っており、紫陽は素直に協力することを了承した。
「お父さん、お母さん……生きてたんだ……」
「えっ?そこから!?」
「……そういえば、緋雪には伝えてなかったな」
緋雪は緋雪で、両親がいた事に驚いていた。
「まぁ、それなら知らなくても当然か」
「実は私達はね、こっちで亡くなったとされた時に、遠い次元世界に飛ばされたの。そこでずっと生きていたのよ。……帰って来るのが遅くなってごめんなさいね」
「……そうだったんだ」
簡単に経緯を聞き、緋雪は微かに微笑む。
安心したような嬉しさに、僅かに目尻に涙を浮かべていた。
「……緋雪……」
「……また、会えたね。お兄ちゃん」
どこか虚ろな足取りで、優輝は緋雪に歩み寄る。
以前のような一時的なものではない、本当の再会を確かめるように。
「……おかしいな。また会えて嬉しいはずなのに……だと、言うのに……」
「……お兄ちゃん……」
「……どうして、こんなにも心が動かされないんだ……?」
しかし、それでも、優輝に感情が戻る事はなかった。
「(……ダメ、なのね……)」
「(もう、どうしようもないのかな……?)」
椿と葵は、落胆したように悲しむ。
ただ勝手に期待していただけに過ぎない。
だとしても、緋雪を前にしても兆しが見えなければ、そう思うのも無理はなかった。
「……大丈夫だよ。お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから」
「そうか……ありがとう、緋雪」
感情を失った優輝を前にして、緋雪も悲しい想いはあっただろう。
だが、その上で気にしないと、それでも兄に変わりはないと言った。
「……あっ、お兄ちゃん、それよりも……」
「っと、そうだな」
周りが注目している事に気付いた緋雪が、優輝に催促する。
「行けるか?」
「少し待ってください……行けます……!」
召喚と同時進行で、ソレラが霊脈を通じて世界に干渉していた。
そして、霊脈を基点に大規模な結界を展開する。
「っ……はぁ、はぁ……これで、この結界内は時間の概念がなくなりました。神界に対しては効果がほとんどありませんが、この世界だけなら……」
「好きなだけ、鍛えられるという訳だ」
基点となった霊脈が出入り口となっており、広さは海鳴市をまるまる覆う程だ。
結界の外と内で時間の流れが違う、修行のための空間。
それが出来上がった。
「……なんてこった。概念も、理論も、まるでない。ただ“そうある存在”として成り立っているようなものじゃないか。この結界……」
「元々、“エラトマの箱”によって、既にこの世界の法則が曖昧になっているからこそ出来る荒業です。本来なら、抑止力としてこの世界の法則に沿うように修正されてしまいますから」
紫陽が結界の異常性に戦慄し、ソレラが結界について軽く説明する。
「足りない戦力、足りない力はここで補う他ない。……それでもなお、勝てるかどうか怪しいものだけど……」
「クロノ君達、まだ戻ってこないのかな……?」
地球にいる戦力は軒並み集まっているが、クロノ達のような、ミッドチルダに行ったメンバーは戻ってきていない。
『その事なら安心したまえ』
「えっ!?」
突然の通信に、何人かが驚きの声を上げる。
『分霊と言ったかな?それが既にミッドチルダにも行っている。私も仕掛けておいたカメラで確認してみたが……いやはや、概念や法則に囚われない力とは何とも興味がそそられる』
「……ジェイルか」
通信の声はリヒトを通じて聞こえていた。
相手は当然のようにジェイル。
しかし、優輝と椿、葵以外はジェイルと通信するのはこれが初めてだ。
「ジェ、ジェイル・スカリエッティ!?」
『優輝君と、椿君、葵君以外は初めましてだね。名前は知っているだろうけど、私こそがジェイル・スカリエッティさ』
ジェイルを知っている者全員が驚く。
何せ、相手は有名な次元犯罪者だ。
そんな存在が自分から通信してきたのだから、驚くのも無理はない。
「……優輝さん、どうして……?」
『私と繋がりがあるのか?……そう思うのも無理はないだろうね。まぁ、飽くまで利害が一致した事による協力関係さ。それに、私としては優輝君には大きな借りがある。騙したり、貶めるような真似はしないと断言させてもらうよ』
奏がなぜジェイルと繋がりがあるのか尋ね、優輝の代わりにジェイルが答える。
「彼は確かに人格破綻者と言えるような人物ですが、性根はそんな捻じ曲がったものではありません。……此度においては惜しみなく協力するようなので、頭脳及び技術面で大きな助けになるでしょう」
『……一方的に知られている立場になるのは初めてだね。さすがは神界の神。私の事はお見通しという訳か』
警戒している者に対して、祈梨が大丈夫だと説明する。
「……私としては、なんで優輝さんが知り合ってんのか気になるんやけど……」
「以前、海水浴行ってしばらくした時に、地球に来ていたのよ。なんでも、優輝が導王の生まれ変わりだから興味が湧いたみたいでね……」
「最初の遭遇はその時だけど、連絡出来るようになったのは優ちゃんが独自に彼の潜伏場所を見つけた時だね。ちなみに、優ちゃん曰く捕まえようと思っても、用意周到だから逃げられるから、今まで捕まえる事はしなかったみたい」
はやてが抱いていた疑問に、椿と葵が答える。
「彼は元々、最高評議会によって頭に爆弾を埋め込まれていました。そのため、言う事を聞かざるを得ず、次元犯罪者に仕立て上げられていたのです」
『ついでに言えば、優輝君によってその爆弾は取り除かれている。これが彼に対する借りさ』
「……まぁ、自他共に認めるマッドサイエンティストなので、どの道いつかは次元犯罪者になっていたと思いますが」
さらに祈梨、ジェイル本人が補足し、優輝との関係を明らかにする。
「さ、最高評議会やって!?」
『そうだとも。最高評議会の連中は、私のような意図的に生み出した“悪”を利用して、自分達の“正義”を保っているのさ』
まさかの最高評議会が黒幕だと言われ、はやてだけでなく管理局に所属している者は全員驚いていた。
「まぁ、トップがそんな悪事をしていたら、驚くのも無理はないわな」
「……帝君は知ってたんか?……って、そーか、知っててもおかしくはないんやった」
「まぁな」
転生者である帝達は知っていたため、あまり驚いてはいない。
緋雪は原作知識がもうほとんど覚えていないので、多少驚いていたが。
『なに、大事の前の小事さ。今はそれよりも集中すべき事がある。管理局の方は、私自身警戒していると言った情報操作などで、協力出来るように仕向ける。任せてくれたまえ』
「……そうだな。あんたは見たところ、相当な切れ者だ。多少の清濁を併せて吞むぐらいしないと、この状況には立ち向かえないだろうからねぇ」
紫陽がジェイルの性格や頭脳を見抜き、既に頼りにしていた。
実際、善悪関係なしに協力しないといけない状況だ。
疑うより、その力だけでも信用して協力した方が良い。
「では、そちらは任せます」
『期待に応えられるぐらいには成果を上げて見せよう』
通信が終わり、管理局所属の者達に若干の衝撃を残した。
まさか有名な次元犯罪者が協力するとは思わなかったからだ。
「気を取り直して、今より強くなりたい方は、ここで自由に鍛えてください。……私としては、時間一杯鍛えておいてほしいですが……」
「願ったり叶ったりだよ。……足手纏いにはなりたくないからね」
「うん……!」
なのはとフェイトの言葉を皮切りに、決戦に備えての修行が始まる。
鍛えるための場所も広くあり、一対一、多対一、多対多など、多岐に渡って様々な模擬戦を繰り返し、経験を積むことも出来る。
絶望に抗うための準備を、着々と進めていった。
「ふっ……!」
「ッ……!」
とこよの刀が振るわれる。
相手をするのは優輝。リヒトを使って的確に逸らす。
「くっ……!」
術で間合いを取り、瞬時に弓矢に持ち替えて射る。
さらに、背後に回り込み、反転時の踏み込みを使って斧を力強く振るった。
「はぁっ!」
「ッ!」
優輝はその攻撃をリヒトで何とか逸らす。
直後、懐に槍が突き出される。
片手で放たれた一撃故、優輝は手で軌道を逸らし、そのまま回し蹴りを放った。
とこよも同じく回し蹴りに繋げていたため、相殺される。
「……ダメか」
「守護者の私の時より強くなっているよ?」
「いや、その事じゃない」
「……そっか、あの時の奥義だね?」
一旦戦闘を中断する。
充分良い動きをしていたのだが、優輝にとってはまだ不足していた。
「覚えているのか?」
「守護者の記憶は大まかにだけど私と共有しているからね」
全部が全部という訳ではないが、とこよは守護者の記憶も持っていた。
そのため、当時の戦いで優輝が使った導王流の奥義も知っていた。
「やはり、極意を意図的に使う事は出来ないか。……あの時は、半分無意識な状態でもあったからな」
「使いこなせたら、一対一ならまず負けないもんね」
導王流の極意である極導神域は、ありとあらゆる力の流れを利用し、最小限の力で最大限以上の効果を発揮するものだ。
一対一である以上は、その戦いの流れを乱す事が出来ないため、とこよの言う通りに原則的に負ける事はないと言えるほどだ。
例え複数戦であろうとも、その力は大きな助けとなる。
そのため、優輝は何とかして習得したかったのだが……。
「当時は感情を代償にした。だからこそ出来た訳か」
「もう一度使うには、また何か犠牲にしないといけないって事?」
「少なくとも、意図的に使えなければな」
習得出来なければ、また何かを代償とする。
それは避けたいのが、優輝以外のほぼ全員が思っている事だった。
なお、優輝はいざと言う時はそれも辞さないようだった。
「ただ経験を積み、鍛えるだけではダメだ。幸いにも、当時の感覚は何となく覚えている。そこを取っ掛かりにすれば……」
しかし、そう思う以上に難しい事だった。
故に、今こうして足踏みをしていた。
「とりあえず、私は他の人も見てくるよ」
「ああ」
一旦、優輝ととこよは別れる。
結界内の修行の大まかな目的は、経験を積んで出来る限り鍛える事だ。
いつまでも優輝ととこよのマンツーマンでやっている訳にはいかない。
「ぐあっ!?」
「ん?」
とこよが去り、入れ替わるように神夜が飛んできた。
その相手をしていたのは、奏だ。
「お前の防御を貫くようになったのか?」
「っつつ……そう、みたいだな」
奏と神夜の組み合わせになっていたのは、奏の弱点克服のためだ。
動きが早く、瞬間的な速さならばトップクラスの奏。
しかし、その分攻撃が軽いため、防御が堅い相手には弱かった。
そのため、普段から異常な防御力を持つ神夜と模擬戦をしていたのだ。
「刃に魔力及び霊力を込めて、攻撃を当てる瞬間に第二撃の刃とする……ただ炸裂させるんじゃなくて、一点に集中すれば……と、言う事よ」
「……シンプル且つ効果的な解決法だな」
「ええ」
追いかけるように、奏も近くにやって来る。
攻撃の軽さを克服した事が嬉しいのか、若干表情が柔らかくなっていた。
「後は、しっかりと実戦でも扱えるように慣れるだけ……」
「そうだな」
まだ決戦で使うには習得したばかり。
そのため、今後は慣らす方向で鍛える事に奏は決めた。
「……俺も、デバイスなしでも何とかなるように……」
「……そうだ、織崎。……いや、反省している今は神夜と呼ぼう」
「……なんだ?」
アロンダイトがサーラに返還されたため、神夜にはデバイスがない。
代わりを用意しようにも、通常のストレージデバイスでは、神夜の力に耐えられない。
そのため、デバイスがない分は強くなろうとしていた。
そんな神夜を、優輝が呼び止める。
「忠告しておきたい事がある」
「っ……」
優輝からの言葉なため、神夜は身構える。
罪悪感や自責の念が影響して、優輝に苦手意識を持つようになっていたからだ。
「……お前は、所謂邪神に選ばれてしまった道化だ。その事は魅了の力から分かっているな?」
「ああ……」
“魅了”の単語に、神夜は無意識に拳に力が籠る。
以前の一件以降、神夜は魅了に関係する話題には神経質になっていた。
「邪神にとって、お前は駒……傀儡だ。神界での戦いで、最も操られる可能性が高いのは自分だと言う事は、頭に入れておいてくれ」
「……そういう事か。と言っても、どうすりゃいいんだよ……」
元々魅了の力を植え付けられていたため、干渉してくる可能性は高い。
しかし、その場合だと神夜には対処のしようがなかった。
「事前に洗脳の原理を聞いておいたが……基本的に、自分の意志を保つ事が重要なようだ。自我を保ってさえいれば、抵抗は出来る」
「漫画とかでよくある抵抗の仕方でいいのか……分かった、覚えておく」
実際はもっと精神的な干渉などもあるが、洗脳の原理は神界の法則と似ていた。
そのため、意志が重要視される神界において、自我を強く保つのは抵抗するのに適した方法ではあった。
「(理力でも抵抗は出来るが……使えないからな。なら、こっちの方法に集中してもらった方が効率もいいだろう)」
他世界の力では干渉を防ぎきれない。
唯一可能な理力は神夜には扱えない。
そのため、優輝は今のようなアドバイスしか出来なかった。
「(緋雪はサーラさんと、司はユーリと……アリサとすずかは父さん達とか。アリシアは……フェイトと一緒にとこよさんとか。なのはとはやては……随分な混戦だな)」
魔力や霊力を目安に、辺りを探る。
様々な場所で様々な組み合わせで互いを高め合っていた。
特に、なのはやはやて、シュテル達がいる場所は、余った人で纏めて戦いまくれと言わんばかりに無差別な戦いをしていた。
紫陽を筆頭にした式姫達は、既に一戦終えたのか休憩していた。
リニスやアルフ、プレシアもその相手をしていたのか、今は観戦していた。
「……となると」
刹那、優輝はそこから飛び退く。
寸前までいた場所に、神速の矢が突き刺さる。
さらに、避けた先にも矢が飛ぶが、そちらは掴み取った。
「やはりか」
「不意打ちのつもりだったのだけどね」
二度目の矢を放ったのは鈴、一発目はとこよが召喚した式姫だった。
尤も、式姫の方は形だけの召喚なため、自我はない。
鈴が仮契約する事で使役していた。
「やっぱり、貴方が一番油断しないわね」
「感情がないからな」
「それを抜きにしても、よ」
予め決めておいた、“休息のサイン”を優輝は出していなかった。
そのために、鈴は実戦に備えた不意打ちを敢行したのだ。
「貴方と戦うのは何気に初めてね。……受けてくれるかしら?」
「ああ。……久遠や那美さんもか?」
「……うん。後方支援がメインだから、私はあまり戦いに入らないけど……」
「くぅ、やる」
鈴の他に、那美や久遠もいた。
那美は直接戦闘には参戦しないが、障壁や自我のない式姫……影式姫を使役していた。
「よし、なら―――」
「ッ!!」
優輝が言い終わる前に、鈴が斬りかかる。
「―――やるか」
だが、優輝は難なくその攻撃を受け流していた。
そして、それが開戦の合図となる。
「くぅ」
「行くわよ」
久遠が雷を放ち、避けた所へ鈴が斬りかかる。
優輝が受け流すのは予期していたようで、那美の使役する影式姫が追撃した。
「っと」
「くぅ、逃がさない」
―――“極鎌鼬”
「くっ……!」
魔力弾と霊術で近接戦を仕掛ける者に牽制する優輝。
しかし、久遠がすかさず強力な霊術で追撃する。
「ふっ!」
魔力で足場を作り、それを踏み台に優輝は跳躍し、霊術を躱す。
すぐさま弓矢に持ち替え、鈴の影式姫が放った矢を躱しつつ射る。
「そこっ!」
「くぅ!」
―――“雷”
すかさず那美が影式姫に指示を出し、影式姫の刀が矢を弾く。
同時に久遠が優輝を包囲するように雷を繰り出し……。
「はぁっ!!」
「ッ!」
鈴と那美の影式姫が同時に斬りかかる。
「ふっ!」
「ああっ!?」
しかし、挟み撃ちの攻撃も、優輝は二刀を以て受け流す。
さらにカウンターで那美の影式姫の頭を肘で打ち抜いた。
「甘い!」
「ぐっ……!」
そのまま鈴へもカウンターを放つ。
しかし、鈴はそのカウンターに対し、さらにカウンターで蹴り上げる。
辛うじて攻撃を食らう顎の前に手を滑り込ませるが、受け止めきれない。
ダメージは少ないが、優輝は仰け反ってしまう。
「そこ……!」
優輝の体勢が崩される。鈴も無理なカウンター返しで追撃は不可能だった。
ならばと、久遠が追撃を務めた。
雷を上から放ち、優輝に避けさせ、そこへ薙刀を振るう。
体勢を崩した上での二段構え。普通なら回避不可能だ。
―――導王流壱ノ型“絡手突”
「つ、う……」
薙刀が腕に絡め取られるように軌道を逸らされ、直後に貫手の反撃が繰り出される。
そう。飽くまで“普通なら”。
導王流は普通の流派ではなかった。
「ふっ!」
「っ……今のにも反応するのね」
隙を突いたつもりの矢は、攻撃の流れをそのままに繰り出された刀によって弾かれた。
鈴と那美の影式姫に至っては、創造魔法の餌食になっていた。
「終了よ。全く敵わないわね」
「そうでもないぞ。何度も危なかった」
この後久遠は無事で済まない。
それが中断の合図となり、模擬戦が終わる。
「それに、今のは僕でなければ確実に食らっていた」
「それで倒せるほど甘くはないでしょ。私でも耐え凌ぐくらいは出来るわよ」
「でも、模擬戦の目的はそうじゃないはずだろう?」
「……まぁね」
飽くまで、強くなるための模擬戦だ。
今回の場合、鈴は那美や久遠との連携を重視していた。
以前から退魔師としての仕事で連携は取っていたため、それをさらに強化していた。
結果、掛け声などを用いずに、上手く連携出来ていた。
「それぞれが、一つ一つ模擬戦でのテーマを決めて、それをこなす」
「地道だけど、明確に強くなれるわね」
ただ我武者羅に模擬戦するだけでなく、弱点の克服や長所の強化など、模擬戦においてのテーマを決めて、それをこなす。
手近な目標を立てる事で、地道ながらも着実に実力を上げていた。
時間の概念を曖昧にし、その流れを失くしたからこそ取れる、確実な強化だ。
「えっと、これで通算……何回目だっけ?」
「マーリン」
〈そうだねぇ……124回。時間で言えば六日は経ってるよ。尤も、結界の外は一日も経っていないみたいだけどね〉
時間の流れがない事を利用し、空腹や老化などの不都合な点だけを取り除いている。
厳密には、空腹などは結界の外と連動している。
まさに、ご都合主義な結界で、優輝達は多くの模擬戦をこなしていた。
「皆、躍起になってるわね」
「自分の命どころか、世界の命運も関わっているんだ。神二人がその危機感を感覚として伝えてくれたから、こうして躍起になれている」
口頭だけで伝えられても、想像の範疇でしか、危機を覚えられない。
そんな程度では、どうしてもモチベーションは保てない。
そのため、祈梨とソレラが神界での戦い、その危険性の体験を感覚共有した。
これにより、如何に危険性が高いか全員が理解している。
だから、無茶をするレベルで皆が躍起になっていた。
「百聞は一見に如かず……と言うか、何というか。効果はあるけど……」
「……これでも、足りる気がしない。それが問題だな」
危機感を煽り、修行の環境も整えた。
実力も確実に伸びている。
……しかし、その上で……
まだ、“足りない”と、全員が感じ取っていた……。
後書き
ソレラの結界…世界の法則が曖昧になったからこそ展開出来る、時間の概念がない修行のための結界。某DBの精神と時の部屋やネギまの別荘みたいなもの。滅茶苦茶なご都合主義結界。ただし、神界の戦いの余波が届くと瓦解する。
休息のサイン…優輝が人数分創造しておいた、目立つ色のリング。優輝ととこよと紫陽と祈梨の四人が協力して、魔力や霊力ですぐに探知出来るようになっている。
影式姫…FGOで言うシャドウサーヴァントみたいなもの。燃費がいい。しかし、自己判断能力が乏しいため、使役者によっては雑魚と化す。
絡手突…間合いを詰めた状態でのカウンター技。相手の攻撃を蛇のように絡め取り無効化し、そのまま貫手による攻撃を放つ。
修行しつつフェードアウトしていく感じで第6章最終話完結。
地の文やセリフで軽く流していますが、この時点で全員が相当な経験を積んでいます。
今なら、同じメンバーで連携をとれば大門の守護者を倒せるぐらいには強化されています。
ちなみに、幽世との境界が薄くなっている事で、紫陽やとこよを経由してならティーダを含めた幽世に流れ着いた人達を召喚できます。
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