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【完結】猫娘と化した緑谷出久

作者:炎の剣製
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猫娘と回想、I・アイランド編
  NO.107 回想《12》 サムの狂気と出久の背負うもの

 
前書き
更新します。 

 




デヴィットは解除プログラムを打ち込みながらも、背中に今にも撃たれてしまうかもしれないサムが持つ銃に戦々恐々としていた。

「(私は……サムの言葉に耳を傾けてしまったのは間違いだったのか……?)」

まだ、サムの事を嘘だと思い、信じられていないデヴィット。
それで震えながらも、サムの方へとゆっくりと顔を向ける。

「どうしました、博士? まだプロテクトは解除できていないでしょう?」
「サム……本当の事を言ってくれ。これを仕組んだのはヴィラン達で、君はただ脅されて従ってしまっただけなんだろう……?」
「…………」

それはひとえに今まで築き上げてきたデヴィットとサムの仲で、まさか裏切られるなんて事は、これは嘘だ、嘘なんだという思い……。
だが、サムの表情はそれで一気に歪み、銃口を押し付ける力がさらに強くなる。
そしてこう言い放った。

「ですから、先ほども言ったでしょう? 私は、成果を誇れなければ、そしてお金と名誉も貰えなければあなたに付いて行く事ももうないと……」
「嘘だ! 今まで私達は二人三脚で頑張ってきたじゃないか!」
「そうですね……。まぁそれも嘘ではないと言えましょう。ですが、もう博士と私の間にあった関係はとっくに壊れてしまっているんですよ。
ですが、博士の悔しく思う気持ちだけは私と同じものだとは感じていました。
ですから、私がせっかくヴィランにまで協力を願い、私達の研究成果を取り返そうとあなたに相談したんですよ?
博士もそれで乗り気だったではないですか……?」
「しかし! 私はこの計画に協力してくれる人たちはヴィランの役を演じてくれる人達だと、それを信じて……!」
「はぁー……ですから博士、あなたは甘いのです。もとよりこんな計画に乗ってしまった時点であなたももうヴィランの仲間入りなのですよ? そこのところはその聡明な頭脳で理解していますか?」
「……ッ!!」

それで悔しそうに顔を俯かせるデヴィット。

「そして、もう後戻りができないところまで計画は進んでいたというのに、なにがあったのかは知りませんが、計画が発動したというのに直前になって突然あなたは心変わりをしたかのようにこの計画をやめようなんて言い出した……。それを聞いた時の私の頭に血がどれだけ上った事か……分かりますか? あなたは裏切ったというでしょう、ですが私も博士に裏切られたのですよ」
「さ、サム……」

情けない声を出しながらも涙を一滴垂らすデヴィット。
その一滴の涙にどれほどの感情が込められているものか、デヴィットももう分からないほどであった。それほどに感情がぐちゃぐちゃになってしまっていて、サムの顔を直視できなくなってしまった。
デヴィットが大人しくなったのを確認したのか、

「さぁ、早くプロテクトの解除をしてください。間違っても時間稼ぎなどとという考えは起こさないでくださいね? 私も必死に耐えていますが、いつヴィラン達にこの島の住人を殺してくれと命令するか、分かりません……」
「くっ……」

それで悔しそうにコンソールに向き直って必死にプロテクト解除コードを打ち込んでいくデヴィット。
それを愉悦の顔をしながら笑うサム。
そしてそれを隠れて聞いていた出久とメリッサも今にも飛び出していきたい衝動に駆られていたが、それはサムの銃がいつ暴発して、もしかしたらデヴィットの命も危ういという事になってしまうかもしれないという状況で理性を必死に抑えていた。

「(パパ!)」
「(メリッサさん、今は耐えて……! きっと、きっといつか隙が出来るから!)」

メリッサはもう涙を流していた。
デヴィットとサムの二人の関係を昔から見てきたために、信じたくないというデヴィットと同じ感情を抱きつつも、もし……もしサムが今しがた白状した事がすべて本当だったのだとしたら、サムは愛する父を誑かした悪人なのだという事実……。
それがもう許せないという一つの思い。
もし無個性ではなく個性が自身にあったのだとしたら、それをサムに向けてしまうのも構わないという危険な思想も浮かんでいた。
だが、それは自身の手を握ってくれていた出久の言葉で霧散する事になる。

「(メリッサさん……いま、個性があったら、なんて考えていなかった……?)」
「(それは……)」
「(それだけはダメだよ……。メリッサさんは言ったよね? デヴィット博士と同じように立派な科学者になりたいって……。そんなことをしちゃったらメリッサさんの夢は絶たれちゃう、そしてデヴィット博士もきっと悲しむ……。だから、そんな考えはしちゃいけない……。その握られた拳は、僕が代わりに“ヒーロー”として振り下ろすから)」
「(デクちゃん……)」

それでメリッサの中の黒い感情は次第に無くなっていく。
そして出久の事をこう思った。

『私の……“ヒーロー”……』

と。
それはまさしく意図せずに出久がメリッサの心を救った事に間違いない事であった。
そしてこうも思った。

『デクちゃんの為に出来る事をしたい……将来の夢を応援したい』

と。
それは近い将来に本当に実現するかもしれない未来予想図の一つである。
それほどにメリッサの感情は揺さぶられていた。






…………そんな、少し甘い空間が場違いで出来上がっている中で、それでも時間は過ぎて行ってついにデヴィットは最後の解除キーを打ち込んでしまった。
そして一つのブロックからなにかの解除音が鳴り響く。
それはサムの顔が一気に緩んで走り出すほどには歓喜の瞬間だったのだろう。
ブロックを開けたサムはとても嬉しそうに顔をほころばせながら、

「これですよ! 私はこれが欲しかった! 取り返したんだ! 成果を!!」

一つのケースを掲げるサム。
だがこの瞬間、一気にサムの隙が出来上がっていた。
弱い個性しか持ち合わせていないデヴィットでは反抗も難しいだろう、だが、この瞬間を出久は必死に耐えていたために一瞬にしてメリッサを抱えながらデヴィットの隣へと姿を出す。

「ッ!? 君は!?」

サムは出久の顔を見た途端に表情を歪ませる。

「ミドリヤさん! それにメリッサ!」
「パパ! 大丈夫!?」
「どうしてここに!?」
「デクちゃんの友達のおかげでここまでこれたのよ!」
「デヴィット博士。先ほどの会話は聞かせてもらいました」
「それは……!! じゃあ聞いてしまっていたんだね……私の犯してしまった罪を……」

出久に、そして溺愛しているメリッサにまでこの話を聞かれてしまったために、今すぐにでも死にたい思いになるデヴィット。
そんなデヴィットの心情を察してか、

「パパ……大丈夫……。私は気にしないから……そしてやり直しましょう」
「メリッサ……」
「デヴィット博士」
「ミドリヤさん……」
「あなたが侵してしまった罪は消えないのかもしれません……。でも、それも踏まえて僕はあなたを助けます! オールマイトならきっとこう言うでしょう。『絶望の中でも笑え、そうすればきっとどうにかなる』って……。きっと、やり直せます。ですからそんな絶望したような顔をしないでください」
「ッ!!」

デヴィットはそれで出久の背中に、オールマイトの力強い背中を重ねて見た。
そしてこう思うのであった。

「(あぁ……トシ、君は本当に素晴らしい子に個性を引き継がせられたんだね。今なら分かるよ、ミドリヤさんは君の後を継ぐ人だって……)」

そう思う程に出久に心を打たれていた。

「さぁ、サムさん! ここでお縄になってください! デヴィット博士は勿論の事、サムさん、あなたもまだやり直せます! だから……」
「くっ……そんな言葉に乗りませんよ!?」
「―――そうだ。サム、それでいい……」

そこにこの場ではいてはならない人の言葉が響いてきた。
今回の事件のヴィラン達のボスであろうウォルフラムであった。
次いで出久は感じ取った。
自身に向かって高速で伸びてきている金属の塊の群れを……。

「ッ! お前は会場にいた仮面の男!?」
「お前はここでおしまいだ」

金属の塊達は出久を包囲して一気に握りつぶすように出久を金属の塊で押しつぶした。

「デクちゃーーーーーん!!?」
「ミドリヤさん!!」

メリッサとデヴィットの叫びがその場に響くのであった。


 
 

 
後書き
メリッサに洸汰くんの思いを抱いてもらいました。
この話では『僕の……ヒーロー……』という思いを抱くまでには至りませんでしたから……。
そしてサムさんにはとことん悪に染まってもらいました。
 
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