ある晴れた日に
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105部分:谷に走り山に走りその一
谷に走り山に走りその一
谷に走り山に走り
オリエンテーションの結果は。まずは正道達にとっては満足のいくものだった。彼等は三番目でその賞もそれぞれ受け取っていたのであった。
「ボールペンか」
「まあこんなもんだろうな」
正道はそのプレゼントを開けた野本に対して告げた。
「安いしすぐ使えるしね」
「安いってところが一番気になるんだけれどよ」
「学校のイベントで何期待してるんだよ」
野本の今の言葉に突っ込みで返す。
「そんなに金あるわけじゃねえしこんなものだよ」
「うちの学校金あるんじゃねえの?」
だが野本はこう言うのである。
「設備だっていいしよ」
「まあ実質的に八条学園の姉妹校だしな」
その日本最大級のマンモス学園のである。同じ町内にある。
「公立つってもな」
「だろ?それでこれかよ」
「何言ってるのよ」
ところがここでたまたま側にいた江夏先生から言われる彼等であった。
「ボールペンだってね。安くはないのよ」
「けれど先生よお」
野本は眉を顰めさせながら先生に言葉を返す。その手にはしっかりとそのボールペンがある。見ればどのコンビニやスーパーや文房具屋にあるようなものだ。
「このボールペンさ」
「何よ」
「思いきり値札貼ってあるし」
見れば五十円と書いてある値札が貼られている。
「これってどうなんだか」
「そういえば何かこのボールペン」
「そうよね」
明日夢と奈々瀬もそれぞれボールペンを出して話をする。
「学校の売店で売ってるやつじゃないの?」
「そっくりよね」
「っていうかそのものにしか見えないけれど」
「気のせいよ」
強引にそういうことにしてしまおうという先生だった。
「それはね」
「そうですか?」
「見れば何か野本の値札も」
学校の売店のものであると言いたいのだった。見る部分が鋭い。
「それなんですけれど」
「じゃあそれも」
「全部気のせいよ」
あくまでこう言い切る江夏先生である。
「大体貰えるだけでもいいじゃない」
「うっ、確かに」
「それは」
言われてみればその通りだった。何も貰えないということは全くのゼロである。しかし貰えるとゼロではない。少なくともゼロと一ではそこに無限の違いがある。
「じゃあこのボールペンもですか」
「貰えるから」
「有り難く思いなさい。それで」
「それで?」
「使うのよ」
ここを念押しする江夏先生だった。
「いいわね、しっかりと使いなさい」
「落書きにですか?」
「無条件でゴールデンウィーク追試にしてあげようかしら」
野本の今の言葉には容赦なく返す。
「それとも補習がいいかしら」
「どっちもばくれますんで」
野本も怯まない。流石だ。
「ゴールデンウィークどうしても外せないですから、俺」
「何をするつもりかしら」
「午前中はちょっと家でゴロゴロしながらゲームして」
まずはこう言う。
「それから午後は公園か駅前でダンスして」
「夜は?」
「夜遅くまでゲームかカラオケを」
つまり遊び倒すというわけである。実に彼らしいスケジュールだ。
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