提督はBarにいる。
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
艦娘とスイーツと提督と・36
~黒潮:たこ焼き~
「さて……やっといてなんだが、これは果たしておやつなのか?」
「確かにおやつとして出されたり、縁日なんかの屋台で販売される事も考えるとおやつと言って差し支えない」
「だが、どっちかって言うとたこ焼きって食事じゃね?入ってる材料もタコに紅生姜、ネギ、揚げ玉とかさぁ……」
「まぁ、酒を出さないってルールに抵触はしてないから別にいいんだけどよぉ」
「提督、さっきから何をブツブツ言うとんねん。まぁ、手は休まずに動かしとるからエエけど?」
目の前で俺が焼いたたこ焼きを頬張りながら、怪訝な顔をしているのは黒潮だ。最近改二になって少し大人っぽくなった少女が、チケットでたこ焼きをご所望だったんだ。
「なに、ちょっとした自問自答だ。たこ焼きは果たしておやつなのか?それとも食事なのか?ってな」
「んなアホな事で悩んどんのかいな。あんまり悩み過ぎると禿げんで?」
「うるせぇほっとけ!」
ウチは代々フサフサの家系だ、死んだじいちゃんも死ぬまでフサフサだったんだぞ?そう簡単には禿げん。
「にしても、司令はんたこ焼き焼くの上手いなぁ。ウチの出番無いやんか」
「これでも学生バイトで色々やったからな。食いもん関係は一通りやったぞ?」
レストランの皿洗いから、屋台系も一通りはやった。昔取った杵柄って奴だな、うん。
「なんなら、今からでも焼くの変わってやろうか?俺も食いたいし」
「何言うてんねん、さっきからちょいちょいつまんどるやんか。それに、自分で忙しなく焼くよりもゆっくり待っとる方がエエわ。あんまり司令はんがぶきっちょやったら変わろうかとも思っとったけどな?」
「あ~……ならわざと失敗すりゃあ良かったか?」
「はいはい、アホな事言うとらんと手を動かす!折角のたこ焼きが焦げてまうやんか!」
「おっとっと」
黒潮に怒鳴られて止まっていた両手の千枚通しで、たこ焼きを回していく。
「ん~っ!やっぱり外はカリっと、中はトロトロ。やっぱりこれが正統派のたこ焼きやな!」
「焼き立ては火傷しそうな位熱いけどな」
「その熱いのを頬張って、ハフハフ言いながら食うのが良いんやんか!冷めてもうたらそれこそ食えたモンや無くなるで!?」
「……まぁ、それもそうか」
中身をなるべくトロトロにしようとすると、どうしても短時間で焼き上げるから外側の火の通っている層が薄くなる。それが冷めてしまえば中のトロトロ部分から水分が出てきてしまい、ベチャッとする。そうなったらもう台無しだ。
「でも、カリっとさせるだけなら銀〇こみたいに油を多量に使う方法もあるだろ?」
全国チェーンで展開しているたこ焼屋・銀だ〇。あの大玉のたこ焼と、定番のソース・マヨネーズ・青海苔・鰹節だけでなく、照り焼き風ソースに卵サラダを乗せた『てりたま』や明石焼きの様に天つゆに浸けて食べる『ねぎだこ』、明太マヨととろけるチーズがたこ焼との絶妙なハーモニーを生み出す『明太チーズ』等々、独創的なトッピングで客を飽きさせない工夫は素晴らしいと思う。俺も大ファンでな、ポイントカードは高校時代からゴールドカードだ。
〇だこの特徴といえば、その独特な焼き方も有名だ。ある程度たこ焼の形が整ったら、そこに多量の油を掛けていって揚げ焼きに近いような形でたこ焼を焼いていく。それによって普通のたこ焼器で焼くよりも外はカリカリ、中は熱々でありながらトロトロの状態を作り出す。
「う~ん、アレはアレで美味しいとは思うねんけどなぁ?でもアレじゃあたこ焼っていうよりたこ揚げやん!って思ってまうねんな」
「あ~、成る程なぁ」
「それに、銀だこのたこ焼って8個で550円とかするやん?高ない?」
「そうかぁ?俺は昔からあの値段で馴染んでるしなぁ」
「だって550円とか、最早おやつやなくて食事のレベルやん」
言われてみれば、550円と言えば牛丼の吉〇屋なら大盛りが食えるし、マッ〇ならランチだけだがハンバーガーとポテト、ドリンクを付けてもおつりが来るメニューすらある。
「大阪でたこ焼買うたら、8~10個入りで300円位やで?高過ぎるわ」
う~ん、そう言われると高いような気もしてきた。
「それにな?ウチは外側カリっとしたたこ焼も好きやけど、銀だ〇はカリカリ過ぎんねん。それに、大阪でたこ焼はしっとりしとる方が人気あると思うで?」
「そうなのか?」
「だって、明石焼きがルーツって言われとる料理やで?たこ焼って」
確かに、明石焼きはだし汁に浸して食べる。結果的にしっとりした食感になるだろう。そうなると、出汁に浸けずにソースで食べるたこ焼も、しっとりしている方が自然……なのか?
「それにや」
「……まだあんのか」
「たこ焼って、小麦粉とタコやで?結局。それに550円って……ボッタクリ言われてもしゃあないで」
「結局値段に行き着くのか」
「まぁ、ウチも嫌いでは無いんやで?〇だこ。不味くは無いし、たこ焼き以外の食いもんやと思って食えば普通に美味いわ。高いけど」
そう言いながら次々にたこ焼きを口に放り込んでいく黒潮。
こいつも粉もんとなるとよく食うなぁ。
「……ところで司令はん、『アレ』は用意してへんの?」
「『アレ』?何だよ『アレ』って」
「かぁ~っ、鈍いなぁもう。アレ言うたらご飯に決まっとるやん!」
「はぁ!?これ一応おやつって設定だからな!?ご飯出したら完全におやつじゃなくて飯のおかずじゃねぇか!って……アレ?」
さっきの黒潮との会話に違和感が出てきた。
「なぁ黒潮」
「ん?なぁに司令はん」
「黒潮的には銀だ〇が一番許せない理由って、『たこ焼としては高過ぎる』で良いんだよな?」
「せやで。それが何?」
「でも、黒潮はたこ焼をおかずに飯を食うのが定番なんだよな?」
「せやなぁ」
「じゃあ、たこ焼はおやつというよりおかずだろ?だったら550円は高過ぎるって論点はおかしくねぇか?」
そう俺が言うと、『その発想は無かった!』みたいな顔でビックリしたまま固まる黒潮。そのあと、暫くう~んう~ん唸っていたが、
「……アカン、ウチの今までの考え方が粉々に砕けそうや。今日はもう帰らしてもらうわ」
と、暗い顔をして執務室を出ていった。……なんか不味い事言ったか?
後書き
実はこの話、銀だこアンチの大阪出身の知人と交わした会話が元だったりします。
論破された友人はそれ以来、銀だこを否定するのを止めましたw俺は銀だこ大好きですよ?悪しからずwww
ページ上へ戻る