提督はBarにいる。
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艦娘とスイーツと提督と・35
~雲龍:チーズスフレ~
「……うん、やっぱり戦の後の甘い物は格別に美味しいわ」
「そりゃどうも」
今日は非番、外は生憎の雨。チケットを持ってきた雲龍は、ご注文の『チーズスフレ』をご堪能中だ……俺の膝の上で。そして俺は、湿気を吸って大爆発中の雲龍の髪を梳いて、いつもの三つ編みを編んでやっている。
「?……どうしたの提督、あまり元気が無いようだけど」
「お前のせいだろうが、このドスケベ空母」
こいつの言っている戦というのは、昨夜の夜戦(意味深)の事で、明日は休みなのだからとさんざん相手をさせられた上に、先程まで同じベッドで寝ていたんだ。んでもって、朝の生理現象で俺より先にお目覚めになったムスコを雲龍が目敏く見つけて朝っぱらから夜戦の延長戦に突入し、汗だくになったからと風呂で汗を流して、お互い薄着のままで現状に至る。
「止めてよ、照れるじゃない」
「いや褒めてねぇよ!?」
お前にとってドスケベは誉め言葉なのか。ドスケベの上にド天然とか……これもうわかんねぇな。
「よし、出来た」
「ありがとう……はい、あーん」
三つ編みが終わると、雲龍が身体を捩って俺の口にフォークを差し出してくる。
「いや、別にあーんしてくれなくても」
チーズスフレはホールケーキサイズで焼いてあるから、俺の分は切り出せばある。それに、上半身が密着していると2つの巨大クッションが邪魔をして凄く座りにくい。
「……あーん」
普段から眠たそうな眼をしている雲龍だが、この目は違う。若干だが、苛立っている。所謂ジト目って奴だ。
「いや、だから……もがっ!?」
止めろ、と言おうとして口を開いた瞬間にフォークを突き入れられた。危うく喉に刺さるんじゃないか位の勢いだったが、その辺は加減していたらしい。
「どう?美味しい?」
「おみゃえがつくっひゃんびゃね~らろうが(お前が作ったんじゃねぇだろうが)」
俺が自分で作ったんだぞ?味は最高に決まってる。
三つ編みが終わったのだから、必死の抵抗を見せる雲龍を膝の上から降ろし、俺もチーズスフレをカットして食べる。……うん、メレンゲの柔らかさとクリームチーズの爽やかな酸味が合わさって絶妙だ。そこに鼻を抜けていく『隠し味』の香りが、またいいアクセントになっている。
「……そういえば、このケーキからはお酒の香りがするわ」
「お、良く気付いたなぁ。ご名答だ」
「私、空母の先輩方程お酒は嗜まないから敏感なのよ?」
「あ~、あの連中はウチの中でもトップクラスの飲兵衛揃いだ。比べる対象にすんな」
どうやったら赤城とのサシ飲みで一晩に7升も飲めるんだ?加賀。アルコールの摂取量云々の前に、胃袋の容量が間に合わんだろ、普通。
「でも、日本酒の香りとも違う……焼酎?」
「残念、ハズレだ。そりゃラム酒ってサトウキビから作る洋酒だ。カクテルで飲んでも美味いが、香りがいいからよく菓子の香り付けなんかに使われる」
「へぇ……そうなの。あまり食生活に恵まれて無かった記憶しか無いから、そういう知識に疎いのよ」
大戦末期組の定番ネタというか、粗食で普通の生活だっていう意識が根っこに染み付いちまってるんだよなぁ。大分マシにはなってきてるけどな。
「まぁ、小難しい知識は覚えたけりゃあ覚えればいいさ。料理は美味しく食べるのが一番だ」
「そうね。チーズとお酒の相性は最高だもの、美味しくないハズが無いわ」
「あ~っ!提督と雲龍が美味しそうな物食べてる!」
「ずっこい!私達にも分けて!」
「やっぱりきやがったなハイエナ共!」
コーヒーを飲みながらチーズスフレを楽しんでいると、どこから嗅ぎ付けて来たのか、蒼龍と飛龍の腹ペコ二航戦コンビが現れた。こいつらホントにおやつの時間には現れて、秘書艦達に振る舞っているお菓子をせびりやがる。
「諦めろ、これは雲龍がチケット使って俺に頼んだ物だ。どうしても食べたけりゃあ雲龍に頼め」
「雲龍お願いっ!少しでいいから分けて!」
「一生のお願い!」
この腹ペココンビ、土下座までしてやがる。食う事に命張りすぎだろ。
「お前らにはプライドはねぇのか!?」
「「プライドなんて腹の足しにもならないッッッ!」」
いや、そんなキメ顔で言われてもカッコ悪いからな?寧ろ滑稽だぞ?
「……どうする?雲龍」
「私、お二人をそれなりに尊敬していたのだけど。残念だわ」
「「へっ?」」
そう言うと、雲龍は胸の谷間に指を突っ込み、そこから何かを取り出した。指の間に挟まれていたのは、式紙。雲龍が艦載機を発艦させる時に使うアレだ。
「烈風、流星。少し懲らしめてあげて?」
2枚の式紙が発光したかと思うと、空中に浮き上がって艦載機へと姿を変えた。そして唸りを上げて二航戦の2人に襲いかかる。
「ぎゃああぁぁぁぁ!待って、タンマ!タンマって!」
「ごめんなさあぁぁぁい!もうしませええぇぇぇん!」
あいつらも懲りないねぇ、全く。
「……ふぅ。お茶の時間はお静かに、ね?」
「そうだな……流石は序列5位、先輩相手でも容赦ねぇな」
「そう?」
雲龍はけろりとして紅茶を啜っている。序列というのは単純に、ウチの鎮守府の艦娘を錬度順に並べた表の事で、雲龍は二航戦の2人を抑えて空母の序列5位にランクインしている。何?空母のベスト5が知りたいって?しょうがねぇなぁ。
1位:加賀。ぶっちぎりの1位。全艦娘でのランキングでも堂々の2位であり、空母筆頭の名は伊達じゃない。
2位:翔鶴。装甲空母に改装してから出番が激増。メキメキと頭角を表している。
3位:赤城。加賀と共に鎮守府を支えてきた空母の一翼。最近は鶴姉妹に出番を奪われがちだが、いざという時の安定感半端ない。
4位:瑞鶴。姉の翔鶴と共に装甲空母の必要な場面で大活躍。『加賀に勝つ!』と公言しちゃあいるが、どう見ても後輩としてデレている。
5位:雲龍。正規空母の中ではコスパの良さがウリ。俺に振り向いて欲しいからと頑張る姿は意外と健気だなぁと思う。
……とまぁ、こんな感じで空母の中でもこのドスケベは実力者なんだよ。青葉には『これ提督への愛情度ランキングじゃないんです?』と言われたりもしたが気にしない。
「提督、私ね?前世では苦労した分正直に生きようと思うの」
「ほぅ?」
「だから、美味しい料理を食べる事も、好きな人の腕の中で眠る事も、この人の姿でしか出来ない素敵な事。だから、それを邪魔される事が我慢ならないの」
そう言いながら雲龍は俺に胸を押し付けながらしなだれかかって来る。
「要するに、本能のままに我が儘に生きたいって事か?」
俺がニヤリと笑ってみせると、
「……そうね、そうかもしれない。提督は我が儘な女は嫌い?」
「……いいや、大好物だ」
そう言って雲龍を抱き締めながら唇を重ねる。そのまま座っていたソファに押し倒し、折角着た服を脱がせていく。……まぁ、たまにはこういう獣のような休日も悪くねぇさ。
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