徒然草
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88部分:八十八.或者
八十八.或者
八十八.或者
ある人がこれが書の達人として誉れ高い小野道風が書き写した和漢朗詠集ですと言って大切に保管していました。別の人が貴方の家に代々伝わっているものでありますから根拠が妖しいなどと因縁をつけるつもりは毛頭ないのでありますが藤原公任が選集したその和漢朗詠集をそれよりも前にこの世を去っている小野道風が書き写しているということは矛盾していてどうも腑に落ちないのでありますが、と尋ねました。するとこの人は喜んだような声をあげましてお目が高い、だからこそこの和漢朗詠集は類稀なる珍品なのでございましと答えましてそのうえで今までよりも大切に保管したということです。
普通に考えればそれは有り得ない、どう考えてもいんちきであるような品でありましてもそこに面白いものがあればそれだけで珍品、秘宝となるものであります。確かに小野道風が和漢朗詠集を書き写してそのうえで残しておくなどということは絶対に有り得ません。小野道風といえど死んでいてまで何かを書けるということは有り得ないからです。ですがそれでもこうしたものであればそれで宝となるものであります。何も事実ばかりが貴重で有り難いものでもないでしょう。こうしたものも宝として扱うことのできるこの人の度量もかなりのものだと思います。全く以って世の中というものは面白く楽しいこともあるものだとこの話を聞いて思った次第であります。
或者 完
2009・8・10
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