ポケットモンスター〜翠の少年の物語〜
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第一話
前書き
どうも、キソスキーのV・Bです。本日からこちらの方も投稿していきたいと思いますので、どうぞよろしく。
―チャンピオンロード出口―
「……やっと、来れた」
人生で二度目のチャンピオンロードを無事に通り抜けた僕は、久し振りに拝めた青空を見上げていた。
眩しさに顔をしかめながら辺りを見渡すと、遠くにドンっと建っている建物が目に付いた。
以前ここに来たときは、最後の最後でやっと追い付いた彼に戦いを挑み、敗れてしまったから、引き返してしまった。
「……あれから五年、か」
まだラルトスだったラルをゲットしてから、早五年。僕は十六歳という年齢になっていた。
身体が弱くて、同年代の子供達と身体を動かして遊ぶなんてことが出来なかった僕は、トレーナーとして旅をするようになったばかりか、今となってはポケモンリーグに挑戦しようかという所まで成長していた。
あの頃の僕が聞いたら驚くだろうなと、軽く笑った。
「……エルッ?」
すると、僕の隣に立っていたエルレイド――僕の相棒のラル――が、不思議そうな表情でこちらを見ていた。
「あぁ、ごめんごめん。ちょっとね……昔の事を思い出してたんだ。それこそ、君と出会った時の事とか」
「エルッ、エルル!」
「ははは……確かに、懐かしいね」
僕はラルの頭を軽く撫でながら、優しく微笑んだ。
撫でられたラルは嬉しそうに目を閉じて、僕の手を堪能していた。
他人の前では恥ずかしいのか殆ど甘える事は無くなってしまったが、それでも根本の所でラルは、まだラルトスだった五年前と何も変わってなかった。
負けず嫌いで、甘えん坊で、それでいて、バトルとなったら何処までも頼もしい。
僕の、唯一無二の相棒。
これまで色んな出会いと別れを繰り返してきたが、ラルは、僕の側に居続けてくれた。
「……ありがとう、ラル。僕と一緒に来てくれて」
僕はそんな相棒のことを愛おしく感じて、思わず感謝の言葉を口にする。
「……エルっ!!エル、エルっ!!」
すると、ラルは若干抗議するように声を上げた。
人間にはポケモンの言葉は分からないが、僕にはラルの言いたいことが手に取るように分かる。
「……うん、そうだね。その言葉を言うのは──」
僕はそこまで言うと、目前に待ち構えている建物──ポケモンリーグを見た。
全てのトレーナーが一度は夢見る場所。
そして、その多くは失敗し、挫折し、諦め、到達することすら出来ない場所。
これから僕は、そんな場所で戦う。
「──彼に、勝ってからだよね」
──四年前の約束を果たすために。
ポケットモンスター 〜翠の少年の物語〜
─五年前─
「えっ……シダケタウン?」
僕は両親からの話に目を丸くしていた。
「あぁ、そうだ。あそこなら空気も綺麗だし、療養には丁度いいと思うんだ。叔父さんもいるし、心配はないしな」
机を挟んで対面に座る父さんはそう言って、僕の顔をじっと見つめていた。
「どうかしら?そりゃあ、不安はあるかもしれないけど──」
「いや、大丈夫だよ。叔父さんもミチルさんも居るんだし、ね?」
僕は母さんの言葉を遮りながら言った。ミチルさんと言うのは、僕の従姉妹に当たる人だ。
「そう……か。なら、引っ越しの準備をしないとな」
父さんは溜息をつくと、実に寂しそうな顔をしていた。本当に寂しいのは、父さんと母さんの方なんだろうな、と考えた。
僕も、当然ながら寂しいのは寂しいけど……正直な話、トウカシティから離れられるのなら、万々歳だ。
「……なぁ、ミツル。お前ももう十歳、だよな?」
「え?うん……そうだけど……」
つい先月に誕生日を迎えたばかりの僕は、晴れて十歳になっていた。
すると、父さんはゴホンと咳払いをすると、これまた真剣な表情で僕の顔をじっと見た。
「どうだ?ポケモンが欲しくないか?」
その言葉を聞いて、僕は再び目を丸くした。
ポケモン。正式名称、ポケットモンスター。
この世界に居る不思議な存在で、何百種類と存在している。人々はそんなポケモンと共存して暮らしている。
そんな中でも、ポケモンをモンスターボールで捕まえて仲間にしている人の事を、ポケモントレーナーと言う。
「実は、この街のジムリーダーのセンリさんにも相談しててな……お前さえよければ、野生のポケモンを捕まえる手伝いをしてくれる事になったんだが……ど」
「欲しいっ!」
父さんが僕に問い掛けてくるより早く、僕は椅子から勢い良く立ち上がりながら叫んだ。
二人とも、そんな僕の様子に目を丸くしていた。これまで大人しい性格だと自他ともに認めていたから、初めてこんな大声を出した僕に驚いたのだろう。
それほど、僕は『トレーナー』に憧れていた。
「うっ……ゲホッ、ゲホッ!」
しかし、慣れないことをした代償はあったようで、胸が苦しくなって来てしまった。気管がぎゅっと狭くなっている気がした。
「ミツル!?大丈夫か!?母さん、薬を!」
「はい、ミツル。大きく吐いてー、はい、吸ってー?」
「……はー……すぅー……はぁ、はぁ……」
少し落ち着いた僕は、何度目か分からないけど、自分の体を憎んだ。何度来ても、喘息の陸で溺れるような感覚はなれることは無い。
「……ありがとう」
「あぁ……しかし、珍しいな。そこまで大声出すなんて」
父さんは本当に不思議そうに僕の顔を覗き込んでいた。
「うん……やっぱり、いつかは自分のポケモン欲しいなって思ってたから」
生まれたからには、ポケモンと共に暮らしたいと思うのは自然な流れだと思う。
できたら、ポケモンと一緒に遊んだり、可愛がったり……そんなことをしてみたい。
「そうか……それじゃあお前はもう夜九時だから寝なさい。細かい事は明日決めよう」
「うん、分かった。おやすみなさい、父さん、母さん」
僕は椅子から立ち上がると、リビングから出て、階段を上がり、突き当たりにある自分の部屋に入る。
後ろ手でドアを閉め、ベッドの反対側に置いてある本棚に歩み寄る。本棚には、たくさんの本が置いてあった。
「……ふふっ、ふふふふっ」
僕は、本棚の本を見比べながら、静かに笑った。急に体を動かしたらまた発作が起こっていますかもしれないから、可能な限り抑えて。
「やっと……やっと、ポケモントレーナーになれる」
そう考えると、ニヤけが止まらなかった。
モンスターボールの手触りはどんな感じなんだろう。初めて手に入れるポケモンはどんなのなんだろう。どんな性格なんだろう。どんなことをするのだろう……そんなことばっかり考えてしまって、とてもじゃ無いけど寝れそうにない。
「前にセンリさんが皆に見せてたのは……ケッキング、だったかな?あんなに大っきいのはちょっと怖いなぁ……ジグザグマみたいに大きくないのがいいかなぁ」
僕はそう呟きながら、昔から読んでいるお気に入りの本を手に取る。
僕のように臆病な主人公が、仲間のポケモン達と共に遠いシンオウの地を旅するという、ありがちな話だけど、幼い頃はポケモン達と一緒に居る主人公に憧れた。
まぁ、今でも憧れてるんだけどねと、軽く笑った。一緒に笑ってくれる人は居なかった。
「……旅に、出れないかな」
ポツリと、つい口に出してしまった。僕がこの本を読んでから、一番憧れていた所。
この本を読みながら、何度も自分がもしも旅に出れたら……なんて想像をしただろうか。それこそ、喘息で苦しんだ回数くらい……とは言い過ぎか。
でも、今の僕の身体じゃあ、どうすることも出来ない。
「……寝よう」
暗くなってきてしまった気分を晴らす為に、僕は本を戻して、いそいそとベッドに潜る。
しかし──どうにもなかなか寝付けない。
暗い気分になってしまったのは、言ってしまえばいつもの事だが、今回ばかりはワクワク感があるからか、興奮して寝れそうにない。
結局僕は夜中の一時くらいまで、目をつむっては開き、つむっては開きということを続けることになった。
後書き
読んでくれてありがとうございます。まったく進んでないですねはい。まぁ、次回にはパートナーを捕まえると思いますので……はい。
それでは、また次回。
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