蒼穹のカンヘル
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四十六枚目
冬休み間近という時だった。
「なぁ! 君悪魔なんだろう? オレを魔法少女にしてくれよ!」
神話伝承研究会の部室へ向かう途中、突然声をかけられた。
声をかけたのは、シュッとした感じの青みがかった黒髪をツインテールに纏めた大柄な女の子だった。
ふむ、俺が悪魔と知っている?
誰が話したのだろうか。
いや、それは重要じゃないな。
「おたくどなた?」
「オレの名前は柊深瑠璃(ひいらぎ みるり)! ミルって呼んでくれ!」
とりあえず、表の部室に案内した。
「えーと、柊先輩。あなた頭大丈夫?」
「?」
「いや、悪魔とか魔法少女とか」
「貴方達が悪魔なのは事実だろう?」
「いや、だから」
「オレの瞳がそう言っている。君達神話伝承研究会のメンバーが人間ではないと」
「ほう?」
柊深瑠璃の両目に、紋様が浮かぶ。
白目の部分に赤いルーンが浮かび、黒目が鳥の形に変化した。
「さぁ、オレを魔法少女にしてくれ、この瞳は役に立つぞ?」
知覚系神器か。
「先輩の言いたいことはよくわかった。だが、先輩の素質がまだわからない。だから三日の準備期間を置いてから貴方を魔法少女にしようじゃないか」
「ありがとう。悪魔さん」
「今日はもう帰るといい」
「………わかった」
柊深瑠璃が出ていった。
うん…。これはそういう事か。
あの子……………ミルたんだよなッッ!?
なんであんななってんの!?
何あれ男の娘? TS? しかも神器持ちとか何なの?
これは、あれだな。うん。
パチンと指を鳴らす。
「どうしたのよご主人様」
「む、今日は休日ではなかったのか?」
レイナーレとカラワーナを呼び出す。
レイナーレはメイド服、カラワーナは…パジャマだった。
「くぁ……眠いのだが」
「お前1日中寝てたのかよ?」
「いや、8時までネトゲを…」
「OK。それはどうでもいい。仕事だ」
今動かせる駒はこの二人だけだ。
二人以外は学校通ってるし。
「お前達には柊深瑠璃という少女の事を調べてほしい」
「ストーカーかしら?」
「いや、さっきいきなり俺が悪魔だと看破して、魔法少女にしてくれとほざきやがった。
どうやら知覚系の神器持ちらしくてな」
「ご主人様。知覚系なら、バレるのではないか?」
「あり得なくはない。だがさっき見た限りではアクティブ型でしかもそれなりの集中力が必要なようだ。乱発はできまい」
「わかったわ。じゃ、私達で調べるけど、ご主人様もちゃんと調べなさいよ?」
「わかってるよ。理事に言ってデータもらうさ」
この学校の理事は悪魔だ。
それもグレモリーの息のかかった。
っていうか、サーゼクスが理事長だ。
生徒のデータくらい集められる。
サーゼクスに頼んで柊深瑠璃のデータを集め精査してみたが、特におかしな事はなかった。
俺達の二個上の学年で、女子ボクシング部のエース。
ただ、親元を離れてひとりで駒王町に引っ越してきたらしい。
「ふむ……」
そこで、レイナーレがロストで書斎に入ってきた。
「ご主人様。報告よ」
「ん? なんか進展あったの?」
「進展かはさておき、柊深瑠璃だっけ? あの子襲われてるわよ?」
「はぁ?」
カラワーナの居るポイントにロストで転移すると、真下で本当に柊深瑠璃が戦っていた。
相手は五体の蛇人間。
探査術式をかける。
「なんだ。ダークビーストじゃないか」
「「ダークビースト?」」
「ん? ああ、俺らの管轄じゃねぇもんなアレ……。
簡単に言えば、暴走してる人造生命体だ」
ダークビースト。
意思ある生命を契約によって従える使い魔ではなく、魔術師達が作ったミニオン(使い魔の人造生命体)が暴走した物だ。
若い魔導師が身の丈に会わない素材を使った時に生まれたり、後は魔術師が死んで残されたり、とかな。
「見たところ、下級だな。頑張れば中学生でも倒せるレベルだ」
柊深瑠璃は木刀でダークビーストと戦っている。
一撃で吹っ飛ぶが、すぐ戻ってくる。
「なるほど魔法少女云々は力が欲しかった訳だな」
「どうするんだご主人様」
「なーに。少し手を貸してやるだけで終わる」
アポートで、試作した魔装を呼び出す。
「さぁ、柊深瑠璃よ。手は貸してやろうじゃないか」
その魔装を、真下にぶん投げた。
side out
「ああっ! もうっ!!!何なんだお前ら!」
柊深瑠璃は木刀で気持ちの悪い蛇人間の頭をぶっ叩く。
「キシャァー!」
「キモいんだよォっ!」
ぶっ叩かれて怯んだ蛇人間の胴を薙ぐと、吹っ飛んだ。
「はぁ…はぁ……」
深瑠璃の周りには、倒れた蛇人間が五匹。
「さっさと引いてくれねぇかなぁ…」
倒れていた蛇人間のうち一匹が飛びかかる。
が、それを木刀のフルスイングで殴る。
蛇人間は塀に当たりズシャッと落ちた。
フルスイングしてスキだらけの深瑠璃に、もう一匹が飛びかかった。
「やばっ!?」
深瑠璃が思わず目をつぶった時だった。
ガキィン! という金属音。
深瑠璃が目を開けると、目の前で蛇人間が剣に貫かれていた。
否、剣ではなかった。
刃の無い、丸い刀身。
それは持ち手の短い槍だった。
『柊深瑠璃』
「ッ!?」
深瑠璃の頭に声が響いた。
『上だよ』
深瑠璃が上を向くと、そこには神々しい光を放ち、十二枚の翼を広げる篝がいた。
『魔法少女になりたいんだろう? 武器はくれてやる。魔法少女になりたいなら力を見せてみろ』
「!」
深瑠璃が蛇人間に刺さった槍を抜く。
蛇人間が砂と化した。
『あと、四体。ルガーランスがあれば楽勝だろう?』
深瑠璃が槍を構える。向かってきた蛇人間のどてっ腹に、一突き。
ガシャ! と音を発てランスの刀身が割れ、蛇人間を引き裂いた。
「次!」
向かってきた蛇人間を刀身が開いたままのルガーランスで突き刺した。
『トリガーを引いてみろ』
抵抗する蛇人間。
その拳が深瑠璃に届く前に、深瑠璃がトリガーを引いた。
バチチチ…バシュン!
刀身の間に紫電が迸り、何かが発射された。
『その槍には俺の雷の力が宿っている』
「雷撃槍……」
蛇人間が立ち上がり、深瑠璃に背を向ける。
「キシャッ! シャー!」
「ギシャー!」
壊走する蛇人間。
『撃て。アレは人を襲う類いの者だ』
「わかったよ…」
深瑠璃がライフルのようにルガーランスを構える。
瞳に紋様を浮かべ、深瑠璃がトリガーを二度引いた。
二度の射撃で二匹を倒した。
パチパチパチパチと拍手と共に篝が降りてくる。
「見事だ。柊深瑠璃」
篝の後ろにはレイナーレとカラワーナが控えている。
「……ありがとう。悪魔…? さん」
深瑠璃がルガーランスを返そうと、差し出す。
「君が持っていなさい」
篝がパチンと指を鳴らすと、ルガーランスが光に包まれた。
ルガーランスが消えた場所には、チェーンがついた小さくデフォルメされたルガーランスがあった。
「首にでも巻くといいよ」
深瑠璃は宙に浮くアクセサリーを手に取り、首にかけた。
「では。君の家まで送ろう」
篝が指を鳴らすと、深瑠璃の視界が闇につつまれた。
だがそれも一瞬の事。
闇が晴れると、深瑠璃は自分のマンションの玄関の前にいた。
side in
放課後、柊深瑠璃が部室にやってきた。
「やぁ、柊深瑠璃」
彼女を座らせ、ファイルを渡す。
「これは?」
「最近君を襲っていた蛇人間に関してだ」
例の蛇人間はやっぱりダークビーストだった。
グリゴリで調べた結果、一月前に死んだ魔術師のミニオンだったらしい。
「読んだな? もう君を襲う奴は居ない。とはいえその瞳は強力だ。
知られたなら狙う輩も出てくるだろう。
さぁ、どうするかね柊深瑠璃。
龍魔天使として俺の配下になるか、それとも龍天使になるか、それともルガーランスだけ持って人間のまま過ごすか」
柊深瑠璃が、ファイルから顔を上げた。
「なるよ。君の配下に。オレは君に恩がある。でもオレには返せるのが、この瞳しかない。だから、この体ごと、瞳を君にあげよう」
「宜しい」
柊深瑠璃を、立たせる。
「アポート」
呼び出したのは、ルークの駒だ。
「これはルークの駒。簡単に言えば力を強くする駒だ。
ただひとつ。これを使ってしまうともう人間同士の戦いじゃなくなる。
人間同士のボクシングはもうできない」
「構わないとも。正直、この瞳だから最近はあまりやってないんだ。フェアじゃないからな。
だからこれを期にボクシングはやめるよ」
「そう。わかったよ。じゃぁ始めようか」
ルークの駒を浮かせ、柊深瑠璃の胸の前へ。
「我、創造の龍を宿せし者。万象の祝福を汝に与える者。汝我が祝福と呪いを以て転生せよ」
スッと駒が体に沈んだ。
「これから宜しくな、ミルたん」
「ミルたん言うな」
え? ダメ?
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