力と竪琴
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第二章
ゼトスが結婚した時にだ、彼等はこぞって言った。
「是非です」
「城壁のことを記念としたいのですが」
「そしてあらためてです」
「お二方の功を忘れず讃えたいのですが」
「それで、です」
だからと言ってだ、彼等は言うのだった。
「ゼトス様はこの度結婚されてです」
「奥様のお名前はテベと言われますね」
「それで我等は話し合ったのですが」
「テベ様のお名前を取ってです」
「以後この街の名前をテーバイとしたいのですが」
「宜しいでしょうか」
こう二人に言う、すると二人もだった。
彼等の言葉を聞いてだ、こうそれぞれ言った。
「テーバイ、いい名前だな」
「うむ、よい響きだ」
「ではその名前にするとしよう」
「街の者達も言うしな」
二人も頷いた、こうしてだった。
カドメイアはテーバイと名前を変えた、以後この街はテーバイとして知られる様になりギリシアにも知れ渡った。
以後この名前で知られる様になった、しかし。
今この街に城壁はない、それで観光客の中にはこんなことを言う者もいた。そのテーバイに来てだ。
「何でテーバイって名前なんだ?」
「アテナはわかるけれどな」
女神アテナに由来することがだ。
「テーバイは神様の名前でもないしな」
「じゃあ何からの由来だ?」
「それが知りたいな」
「どうしてだろうな」
こんなことを言う者達がいた、だが。
その彼等を見てだ、アムピオンとゼトスの魂はオリンポスにおいて酒を飲みつつ笑いながら話をしていた。
「ははは、もう知らない者もいるな」
「そうだな、我々の街の名前の由来は」
「もう知らない者もいるな」
「見ればギリシア以外の場所から来た者も多い」
「我々の聞いたこともない国の者達もいる」
「様々な肌の色の者達もいるしな」
黄色い肌や黒い肌の者達もいるというのだ。
「あれでは知らないことも当然だな」
「どうしてテーバイという名前になったか」
「それも当然か」
「まあ知る者だけ知ればいい」
「あの頃から随分経った」
「我等のことを知らない者達も多い」
それならというのだ。
「ならばな」
「それでいい」
「知る者だけ知ってくれ」
「そして我等のことも思い出してくれればそれでいい」
こう言って二人で酒を楽しむのだった、オリンポスの山から彼等の街を今も見守りながらそうしていた。
力と竪琴 完
2018・7・4
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