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力と竪琴

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第一章

力と竪琴
 天空の神ゼウスとカドメイアの王女アンティオペの間に生まれた双子アムピオンとゼトスは簒奪という形でカドメイアの主となった、簒奪であったが二人が王族の出でありしかもゼウスの血を引いていることもあり民達は彼等を主と認めた、だが。
 カドメイアの城壁はこの時荒れていた、それで民達はカドメイアの城壁のことで彼等に対して必死に言った。
「あの、最早ないに等しいまでに荒れていて」
「若しここで他のポリスが攻めてきますと」
「獣が来ても危ういです」
「ケンタウロス達も守れないです」
「ですから」
 それでと言うのだった。
「どうかすぐにです」
「城壁を築いて下さい」
「カドメイヤを守る城壁を」
「お願いします」
「わかっている」
 双子の兄弟は揃って答えた、二人共黒髪を短くしており太く黒いはっきりとした眉に若々しく引き締まって日によく焼けた顔をしている、見れば瓜二つの顔立ちだ。そっくりなのは顔だけでなく大柄で実に逞しい身体つきをしているのも同じだ。二つの玉座に並んで座しているのでどちらがどちらかわからない程だ。
「そのことはな」
「ではお願いします」
「すぐに城壁を修繕して下さい」
「そうして下さい」
「そうさせてもらう」
 双子も答えてだ、そしてだった。
 実際に城壁の修繕を行うことになった、カドメイアの者達は二人の返事に心から喜んだ。そうして二人は早速だった。
 城壁の修繕もっと言えば新たに築きなおしにかかった、それで早速だった。
 まずは怪力を誇るゼトスが次々と材木や石材を持って来た、彼は巨人もかくやという怪力で街の前にそれ等を堆く積み上げた。
 その材木や石材の山を見てだ、カドメイアの者達は驚いて言った。
「何と多くの木や石か」
「ではこれからですね」
「その木や石で、ですね」
「我々が築いていくのですね」
「これより」
「違う」 
 ゼトスは街の者達に笑顔で答えて述べた。
「そなた達がすることは一切ない」
「と、いいますと」
「この木や石をどうされるのですか」
「これから」
「次は私が働こう」
 ここでアムピオンが言ってきた。
「一瞬で城壁を築いてみせよう」
「ではアムピオン様もですか」
「怪力を使われるのですか」
「そうして城壁を築かれますか」
「違う、これを使う」
 アムピオンは自分がいつも奏でている竪琴を出してカドメイアの者達に答えた。
「この竪琴をな」
「竪琴をですか」
「これより使われてですか」
「そうしてですか」
「城壁を築かれるのですか」
「そうしてみせる、一瞬でな」
 こう言ってだ、アムピオンは竪琴を奏でた。すると。
 その竪琴の音色に乗って木や石達が自然に動いてだ、まさにあっという間にだった。
 街を見事に囲む城壁が出来た、その城壁は高く堅固で街を完全に守っていた。カドメイアの者達はその状況を見て唸った。
「何と、一瞬でか」
「本当に一瞬で城壁を築かれたか」
「何ということだ」
「竪琴のお力でか」
「そうされたのか」
「これでいいだろうか」
 双子はカドメイアの者達にあらためて問うた。
「城壁は」
「はい、申し分ありません」
「これで我等も安心出来ます」
「これだけの城壁があれば」
「外からの敵も心配ありません」 
 皆二人に心から感謝の言葉を述べた、それでだった。 
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