オルフェノクの使い魔
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オルフェノクの使い魔11
サイトにとって一番の癒しは、『水』である。ミズチの本能なのか、『水』と触れ合うことは、とても気持ちがやすらぐ。普段生活している中で、一番、水に触れていられるのが、『風呂』だ。学院には、貴族専用の『ローマ風呂』と、平民専用の『サウナ風呂』がある。
ローマ風呂には入れないため、ためしにサウナ風呂に入ってみたが、3秒でやめ、コルベールの実験室に置いてあった大釜を譲ってもらい(半ば強奪した)、それを五右衛門風呂の要領で、風呂として使い、オスマンから許可を(脅して)もらって、人のあまり来ないヴェストリの広場の隅に風呂場を作った。
風呂場といっても、周囲から見えないくらいの木造の壁をつけただけであり、建物の窓からは簡単に覗けてしまう。
「さてと…」
サイトはフレイムに頼んで火をおこし、適度な温度になったところで服を脱いで蓋を踏みながら大釜につかった。
体が温まっていくのを感じながら、サイトはオルフェノク化した。大釜につかるオルフェノクというのもなかなかシュールだが、どうせ、誰も見ていないと気にせず、集中する。
子どもの拳くらいの大きさをした水の球が大小二つ浮き上がり、水が人の形に変わった。水は大釜のふちで向き合い、二体の内、大きい方の人型が恭しく頭を下げて手を差し出す。小さい方がその手をとり、踊り始めた。
大釜のふちを舞台に踊る。踊りながら縁を一周するたびに人型のペアが一組ずつ生み出され、踊りつづける。ペアは一組一組、違う踊りを披露していった。
月明かりで照らされたそれは、まるで、水が王であるミズチオルフェノクを歓迎するために開いた宴のようだった。
サイトは、他者に努力しているところをあまり見られたくないため、一人であるはずの時間に訓練を行っているのだ。
「うわぁぁ!! すっごぉい!!」
「ッ!?」
水の操作に集中していたため、周囲に意識を向けていなかったミズチオルフェノクは、突然、背後からかけられた声に集中を乱した。その瞬間、宴は終わり、水はただのお湯となって流れた。
相手が誰なのか確認してサイトに戻って振り返った。
「シエスタ…」
「あ、す、すみません。あんまり綺麗だったものだから…」
「…いや、アレくらいで周囲への警戒を怠った俺が悪い。で、何かようか? こんなところに」
サイトは、シエスタに自分に近い匂いを感じていた。人間であるこの少女から何故、そんなものを感じるのかは、わからないが、彼女は自分に好意的に接してくるので、さほど気にしなかった。
「あ、はい! 東方、ロバ・アル・カリイエから運ばれた珍しい品とかで、『お茶』って言うものなんだそうですけど、サイトさんがたまにここでお湯につかっているのを思い出して持ってきたんです」
サイトはシエスタが差し出したティーカップを受け取って口をつけた。村上が紅茶やコーヒー派だったため、さほど呑んだことはないが、その味は緑茶とほとんど変わらないものだった。
「なかなか美味しかった」
(折角だし、できれば、熱燗とか、日本酒のほうがよかったなぁ。月見酒…)
心の中でないものねだりをしつつ、サイトは礼を口にして、空になったティーカップをシエスタに差し出した。
「いえ、キャァ!!」
カップを受け取ろうとしたシエスタが、足を滑らせて大釜に飛び込んだ。
「…おいおい」
サイトは湯の中に手を突っ込んでシエスタを引き上げた。
「大丈夫か?」
「ケホケホ……ありがとうございますぅ。だ、だいじょうぶですけど……わーん、びしょびしょだぁ」
ずぶ濡れになってしまったメイド服を見て涙目になってからサイトが裸だったことを思い出し、顔を真っ赤にして下を向いた。
「早く出て、乾かした方がいいんじゃないか?」
「え、あ、そうなんですけど…なんだか、勿体無くて…」
(裸のサイトさんがすぐ側に…あぁ、とっても鍛えてあるんですね…普段は、服で見えないけど、がっちりした筋肉がス・テ・キ(はぁと)……)
「勿体無い? ああ、風呂のことか。なら服を脱げ、服を着たまま風呂に入るのはマナー違反だ」
「ぬ、脱げ!? そ、そんな、いきなり、私、心の準備が!!」
「? 濡れた服はそこにかけておけ」
顔色一つ変えずに脱げと言ったサイトは、やはり、顔色一つ変えずにハンガー(地べたの上に置くのもなんだったので、作った)を指差した。まぁ、彼の生い立ちを考えれば、女の裸一つで大騒ぎするわけもない。
なんだか、自分だけ大騒ぎしていることが、悔しくなったシエスタは言われたとおり服を脱いで見よう見真似でハンガーにメイド服をかけた。
でも、やっぱり、サイトの顔は変わらない。
「私って魅力ありませんか?」
(ミス・ツェルプストーほどはないけど、結構、おっぱい大きいんだけどなぁ…)
「は?」
「だって、サイトさん、私が裸なのに全然、気にしてないみたいだし…」
「感情が出にくいだけだ」
(人間だった頃にイヤというほど見たから今さら、慌てたりしないって、だけなんだけどなぁ)
「じゃあ、緊張してたりするんですか?」
「…そろそろ、出るか。湯はそのままでいい。じゃ」
「え? ちょっとサイトさ……ッ!?」
(わーわー!? サイトさんの見ちゃったぁ!!)
サイトが立ち上がったため、シエスタは、慌てて両手で目を被うが、ここはお約束、しっかりと指の隙間からサイトの裸を見ていた。
――――――――――――――――――――――――
サイトが部屋に戻るとルイズはベッドの上に寝転んで難しい顔をして古ぼけた本を見ていた。
「なんだ、それ?」
「『始祖の祈祷書』。姫さまの結婚式で、選ばれた巫女が、これを持って式のミコトノリを詠みあげるっていう習わしがあって」
「オヒメサマが、おまえをその巫女に指名したと」
「そういうこと、どうしよう…何にも思い浮かばない。ああー!! もうッ!!」
頭をかきむしって叫ぶルイズの隣りに座り、手元から『始祖の祈祷書』とやらを奪い、中を見てみるが、どのページも真っ白で何も書いてなかった。
「大変そうだな」
「大変なの! だから、話し掛けないで!!」
つい先ほど、突然、オスマンに呼び出され、ミコトノリの件を何の前置きもなく、突然言いわれたルイズは、無理やり『始祖の祈祷書』を渡され、混乱したまま、ミコトノリを考えたため、頭の中に溜まっていたイライラをサイトに向かって吐き出してしまった。
ルイズは、しまった! と思い、慌てて言い訳しようとしたが、それよりも早く、サイトは、立ち上がった。
「邪魔なら、式までの間、外で寝てやる。そうすれば、ゆっくりと考えられるだろう?」
そういうと、『始祖の祈祷書』をルイズに返してさっさと出ていった。彼女は、あわてて、手を伸ばすが、既に遅く、サイトの姿はなかった。サイトは別に怒ったわけでもないのだが、ルイズにはサイトが怒っていたかのように見えた。
「…違うの…一緒に考えて欲しかったのぉ……」
ポツリと呟いたルイズの声は、一人になった部屋に響いて消えた。
―――――――――――――――――――――――――――
ルイズの部屋を出たサイトは、城壁の上でボーっと月を見ていた。
「兄さま」
「タバサか?」
「……(コクン)」
「どうした?」
「いるのが見えたから…」
フライで飛んできたらしいタバサはサイトの隣りにちょこんと座った。
「どうしてここにいるの?」
「オヒメサマの結婚式でルイズが、ミコトノリとかいうのを詠まなきゃならないらしくて、いいのがうかばないそうだから、言うからしばらく一人にしてやることにした」
(……ということは、兄さまは今日寝る場所がない? 部屋に呼べる? ……呼ぼう!)
タバサがグッと小さな拳を握り、サイトに話し掛けようとしたとき、それより早く、横から声がかかった。
「あら? じゃあ、ダーリン、暇なの?」
「今度はキュルケか…」
タバサと同じく、フライで飛んできたらしい、紙の束を抱えたキュルケが、サイトの隣りに立った。
「そ、あ・た・し♪ で、暇なの?」
「暇と言えば、暇だな」
「だったら、ちょっとこっちに来てくれない?」
そういうと、サイトの腕を引いて、城壁から飛び降りた。レヴィテーションで落下速度を殺し、着地するとグイグイと引っ張っていく。
「どこに行くんだ?」
「人目につかないところ♪」
そういうとキュルケはサイトを、夜遅くて見回りがくる様子もない噴水のある中庭まで引っ張っていった。いつもよりも3?ほど眉をしかめたタバサも二人の後についていく。
「宝捜しに行かない?」
そういうと、手に抱えていた紙の束を広げた。
どれもこれも地図のようだ。
「昔、こういうのに流行っていたころ、集めはしたんだけど、結局行かなかったの。で、今日、なんとなく部屋を掃除してたら、これを見つけてね。いい機会だから、行かない?」
(……ルイズには、外にいるって言っといたし、ライダーズギアの機能テストもしたいしな…)
「わかった、行こう」
「さっすが、ダーリン♪」
「行く」
「あら? タバサも?」
「ボクも参加するぞ!!」
第四の声に三人がそちらを向くと、顔に大きなもみじをつくったギーシュがいた。
「あんた、どうしたのよ。それ」
「姫殿下勅命の任を立派に完遂して、モンモランシーとよりを戻そうとしたんだけど、色々あってなかなか二人っきりであえなくて、ようやく合えたと思ったら、いつの間にか、ボクがまだ、ケティに手を出していたことになっていて、出会い頭に…」
「ビンタされたと」
「そうなんだ。でも、でもね! ケティとはなんでもないんだよ!? ただ、一昨日、ちょうど城下に行く用事があったから、一緒に行って食事しただけなんだ。やましいことなんて全然なかったんだよ!!」
「で、宝でも見つけて、それをプレゼントしてゴキゲンとりをしようと考えたってわけか」
(もう一人誰かいるな…)
サイトの襟首掴んで涙を浮かべて叫ぶギーシュをウザッたそうに剥がし、どうする? とキュルケに問う。
「…取り分は減るけど、まあ、人手があったほうがいいわね」
(宝を見つけたら、それを使ってサイトをゲルマニアの貴族にして…♪)
すでに真夜中を過ぎたため、出発時間や集合場所を話し合ってから四人はそれぞれの部屋に戻ろうとしたとき、サイトは思い出したかのように、ギーシュを振り返った。
「そういえば、なんで、俺たちのいたところにきたんだ?」
「そりゃ、こんな夜更けに男女が暗がりに手と手を取り合って入っていこうとしていたんだ。これはもう、アレしかないと確信…ニギャ!!」
最後まで言い終わることなくギーシュは、タバサが振り下ろした杖の一撃を受けてその場で気絶した。
「死ネ。変態」
「覗きも大概にしろよ。それとタバサ、殺すときは痕跡をちゃんと消すんだぞ」
「わかった」
「いや、あんたたち、殺しちゃダメだから」
――――――――――――――――――――――――
翌朝、サイトはルイズの部屋からライダーズギアを回収し、ついでに書置きをしてから集合場所にたどり着くと、昨日よりも一人多かった。
「私も行きます!」
血走った目をして、メイド服に身を包んだシエスタ(サイトの裸が目に焼きつき、一睡もできなかった)が、最低限の料理器具を抱えて集合場所に立っていた。
(そういえば、昨日、陰から覗いてたっけ…)
「危険よ。何もできない平民がいても、足手まといにしかならないわ」
「何もできないなんてことありません」
「じゃあ、何ができるの?」
「料理ができます」
「料理?」
「宝捜しって、野宿とかしたりするんでしょう? 保存食料だけじゃ、物足りないに決まってます。私がいれば、どこでもいつでも美味しいお料理が提供できますわ」
サイトがきたことに気がついたキュルケがどうするか、視線で問い掛けてくる。
サイトからすれば、保存食料だけで十分だと言いたいところだが、おそらく、キュルケとギーシュが満足しない。
ということで、OKすることにした。
「いいんじゃないか? 戦闘とかして疲れたその後に飯炊きなんてやる気にならないだろう?」
―――――――――――――――――――――――――
「偵察終了、戻る」
<了解、気をつけて>
ビデオカメラ型マルチウェポン・デルタムーバーで宝の在り処とされる周辺を撮りつつ、デルタフォンで連絡を取ったタバサは、シルフィードに指示を出して、仲間のいる場所まで戻った。
「おかえり」
そう言いながら伸びてくるキュルケの手を避けてデルタムーバーをサイトに渡す。
サイトはそれを受け取ると、再生し、手元の地図に色々と書き込む。
「ねぇ、タバサァ、今度の偵察代わらない?」
「代わらない」
「ボクにも…」
「イヤ」
何故、こんなに偵察をやりたがっているのか? その理由は簡単、偵察を言い渡されたタバサだけが、デルタムーバーとデルタフォンを使わせてもらえているからだ。
サイトは、遊びでツールの使用を許可しない。
それが、不思議なアイテムを使ってみたいという欲求をさらにかきたてるのだ。
「三人とも、作戦を説明するぞ」
――――――――――――――――――――――――――
サイトはカイザドライバーを装備して、作戦開始の合図をするため、カイザフォンをフォンブラスターにして合図のタイミングを計っていた。
宝のある寺院の、すぐ側を根城にしているオーク鬼に奇襲をかけ、殲滅か、根城を捨てさせるか、するつもりだった。
だが、焦ったギーシュが合図を待たずして、ワルキューレで攻撃を開始した。
(あの、バカッ!)
この奇襲、ワルキューレではなく、他の魔法ならば、まだ、救いがあったが、ギーシュはワルキューレを使ってしまった。
オーク鬼の棍棒がワルキューレたちを破壊した。
(…最悪だ)
これでオーク鬼は勢いづいた。
オーク鬼の思考は体の大きさと反比例して戦闘欲に忠実な獣程度だ。
サイトの作戦は、フォンブラスターによる長距離射撃での奇襲とともに、タバサの風で強化したキュルケの炎でオーク鬼を圧倒し、反撃しようと動くものがあれば、ギーシュが土で障壁を作り、妨害するという方法で、『勝てない』と認識させて逃亡をうながすというものだった。
しかし、すでにワルキューレを破壊して勢いづいたオーク鬼は、引き際をわきまえたりはしない。この巨大な亜人種は『勝てる』という認識を持ってしまったのだ。
これでもう、殲滅するしかない。
キュルケとタバサも、攻撃を開始した。
(あとで、シバく)
――― 9 1 3 Enter ―――
<Standing By>
「変身!」
<Complete>
変身したカイザは、カイザブレイガンを取り出し、ミッションメモリーΧを差し込む。
<Ready>
――― Enter ―――
<Exceed Charge>
フォトンストリームを通って光がカイザブレイガンに流れ込む。
キュルケとタバサの猛攻を抜けたオーク鬼たちの棍棒を避け、次々とポイントし必殺技・ゼノクラッシュをオーク鬼たちに連続で叩き込む。黄色の閃光となって駆け抜けるその姿はまさに雷。
オーク鬼たちは、Χの紋章が刻まれ、青い炎をあげて次々と灰となった。
―――――――――――――――――――――――――――
「アグッ!!」
オーク鬼の残りが居ないことを確認し、戦闘を終えたところで、サイトはギーシュを殴った。
「何故、作戦を考えるか、わかるか? ギーシュ」
「……」
殴られた頬を抑えたまま、黙っているギーシュを睨みつけた。
「答えろ、ギーシュ・ド・グラモン!!」
「目的を確実に達成するため…」
「…模範解答だな。だが、それじゃ、50点、ギリギリだな」
「そんな、ボクは父上から、そう教わった」
「頭に言葉が足りない」
「足りない?」
「味方の被害を皆無、あるいは最小限に抑えつつ、目的を確実に達成するためだ。
で、おまえのしたことは?」
「待機していなければならなかったのに、先走って仲間の輪を乱してしまった」
ギーシュは、うつむいていてつぶやいた。
「今回のミスのこと確りと覚えておけ。隊はまとまってこそ隊だ。ときにスタンディングプレイも必要だが、基本はチームプレイだ。忘れるなよ」
―――――――――――――――――――――――
「サイトさん、何も殴ることはなかったんじゃないですか?」
少し離れたところから覗いていたシエスタがそう呟いたが、キュルケが首を横に振った。
「ううん、殴っておくべきよ。ギーシュは仮にも、軍人貴族の人間だもの。作戦の大切さをちゃんと理解させなきゃダメよ」
「そういうものなんですか?」
「そうもの」
ギーシュと同じ軍人貴族出身のキュルケは、サイトの正論を誰よりも理解し、同じ軍人貴族としてギーシュに思わずため息をついた。
―――――――――――――――――――――
その夜、一行は寺院の中庭で、焚き火を囲んでいた。
「それにしても、全然、まったくもって、宝物なんて、ないじゃないか!」
シエスタの故郷の料理、ヨシェナヴェを食べていると、ギーシュがキュルケを睨みつつ、言った。
これまで手に入れた宝は、どれもこれもガラクタばかりで、売れたとしても、二束三文くらいにしかなりそうになかった。
「地図を見て気づかなかったのか? どれもこれも、キュルケの言うような昔のものじゃないぞ」
「どういうことですか?」
「適当に古そうな地図に、適当な話をくっつけて売っているってことだ」
「つまり、ニセモノ」
「なんで、気づいていて、それを言わないんだ! きみは!!」
「もう一つ、地図自体を魔法で加工して崩れないようにしていたって可能性があったからな。
まぁ、中には本物も混じってはいたみたいだけど、地図があるのの定番、先を越されたみたいだな」
サイトはギーシュのツッコミをさらりとかわし、ヨシェナヴェをすする。
「もういい、学院に戻ろう。モンモランシーは、誠心誠意を持って説得する」
「えー!!」
「えー!! じゃない!こんな遊びに付き合ってられるか!」
「勝手に参加したのはあなた」
「うッ!」
タバサの鋭い指摘にギーシュは言葉を詰まらせた。
「まぁ、そろそろ、潮時って気もするわね。でも、なんにも成果が出ないまま帰るなんていやよ。
だから、最後にこの宝を探しに行きましょ。これがダメだったら、学院に帰りましょう」
そういって出した地図を覗き込んだ。
「『竜の羽衣』って宝物があるらしいのよ」
「えぇ!?」
「うわちゃァァァ!!」
メイドだからという理由で、給仕に徹していたシエスタが驚きの声を上げて思わずお代わりをよそっていたお椀を投げてしまった。投げたお椀は、狙ったかのようにギーシュに直撃し、中になみなみと入れられていたヨシェナヴェをかぶって大騒ぎしている。
即座にサイトが指を鳴らして水をぶっかけてやった。
「そ、それホントですか!?」
「なによあなた。知ってるの? えっと場所は、タルブの村の近くね。…タルブってどこよ」
「私、知ってます。だって私の故郷ですから。それに…」
「それに?」
「それに、それ、私のひいおじいちゃんのものなんです」
―――――――――――――――――――――――――
ルイズは授業を休んでいた。というよりも、引き篭っていた。食事、風呂、トイレ以外に部屋を出ず、ベッドの中に閉じこもっていた。
あの日、サイトが出ていったあと、不貞寝してしまい、朝起きると、『キュルケたちと宝捜しに出かける。ついでにギアの機能テストをしてくる。 by平賀サイト』と書かれた書置きが机の上に置いてあった。
聞いた話だと、他のメンバーはタバサとギーシュ、それからメイドが一人らしい。先生たちはカンカンで、帰ってきたら、罰として講堂の全掃除を命じるつもりらしい。
なんで、自分を誘ってくれなかったんだろう。最初は、そう考えたがその理由は目の前にある『始祖の祈祷書』だ。たぶん、自分が居なくて静かなうちに考えておけ、というつもりでルイズには声をかけなかったのだろうと予想できたが、それでも、納得できなかった。
ベッドの中で、サイトが寝るときに使っていたマントに包まり芋虫みたいになって丸まっていた。
部屋がノックされた。
適当に返事をすると、ドアが開いた。ルイズは驚いた。現れたのが、学院長のオールド・オスマンだったからだ。ルイズは、慌てて起き上がろうとするが、芋虫モードになっていた彼女は、ベッドから落ちて、その姿を思いっきりオスマンにさらしてしまった。
「……」
「……」
「新しい遊びか何かかね?」
「い、いえ、そういうわけでは…」
「まぁ、どうやら、具合は悪くなさそうじゃな」
何とか起き上がろうとくねくねもがいているルイズを面白いものを見るかのように見つつ、オスマンはイスを出して腰かけた。
「ミコトノリはできたかの?」
はっとした顔で、くねくねをやめてルイズは申し訳なさそうに首を振った。
「そうかそうか」
「申し訳ありません」
「まだ式まで、たっぷりと時間はある。ゆっくりと考えるといい」
ルイズが頷くのを見ると、オスマンは腰を上げた。
「サイト殿はどうしたね?」
ルイズは長いまつげを伏せて、黙ってしまった。オスマンは、微笑を浮かべた。
「彼は背中でものを語る漢じゃ。きっと言葉足りず、すれ違ってしまうこともあるじゃろう。だから、しっかりとそばで見ていなさい。彼の語るものをしっかりと一語一句逃さぬよう」
そう言って、オスマンは出ていった。
「…そばで見てろって言われても、あいつがどっかいっちゃったんだもん……
って、オールド・オスマン!!
せめて起こしてから帰ってぇぇ!!!」
その後、二時間ほど悪戦苦闘して芋虫モードから脱することができたルイズであった。
そのため、真っ白な『始祖の祈祷書』に一瞬だけ文字が浮かんだことにルイズは気づかなかった。
――――――――――――――――――――――――
「マントに包まって悶える少女…なかなかぐっとくるものがあったの~」
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