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人徳?いいえモフ徳です。

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三十七匹目

王都リベレーソから20キロの位置には大きな森がある。

「キツネ君! えんご!」

「ジェネレート・エアリアルカノン! 轟け大気の咆哮!」

風、水(氷)複合魔法エアリアルカノン。

シャクティの前方の狼に向けて放たれた散弾氷球が狼達の胴体を貫き、絶命させた。

「シャクティ! 後退!」

僕達は狼の群れに囲まれていた。

なんでこんな事になってるかと言えば、それは少し遡る。








同日 朝

今日はシャクティの家族と一緒に遠出をして魔物を狩る予定だ。

アーグロ家の伝統らしい。

獣人種族は動物扱いされるのはとっても嫌いだけど、虎や鷹の獣人は種族に誇りを持っていて、動物に倣う事もあるらしい。

それでシャクティが狩りデビューする事になった。

第五師団長さんはやってもやらなくてもいいって言ってたけれど、シャクティがやりたがったらしい。

どうやらクーちゃんの話を聞いて魔物を狩りたくなったようだ。

「キツネ君。キツネ君は剣は使えるのか?」

行きの馬車でシャクティに聞かれた。

「うんお父様から習ったよ」

魔法を覚えて直ぐにお父様から剣術を教わった。

お父様の我流…というか魔法剣士の戦いかただ。

「魔法と剣の複合技術だよ」

「でもキツネ君、剣持ってないだろう?」

「それは大丈夫。いくらでも造れるから」

革製の籠手を着けた手を開く。

「ジェネレート、ウォータライトソード」

氷の剣を作り、握る。

「この氷。そこら辺の鉄より硬いから」

そう、この氷普通に鉄を断てる。

お婆様に聞いてみると、ここが異世界なんだと改めて思った。

魔法で作った氷には、魔力が含まれる。

その魔力が意志を伝達して、氷の強度をあげるそうだ。

「おお…鍛冶師要らすだな」

「魔法で作った氷なら意識し続ける限り溶けないしね」

氷を溶かし水球に戻してから魔力に還元する。

「きつねくん。おいで」

シャクティに手招きされ、体を乗り出すと抱き抱えられた。

とってもいい匂いがする。

「きつねくん」

シャクティの言葉に含まれたニュアンス。

要するに愛でさせろってことだ。

シャクティは口数が少ないが、一言一言にはきちんと感情が乗っている。

その期待に応えるため、獣化する。

この姿になるとシャクティはいつもモフモフの翼で包み込んでくれる。

そのままのんびりしていると、馬車が止まった。

御者の席に座っていた第五師団長が顔を覗かせる。

「シャクティ、シラヌイ君着いたよ」

なぜ爵位を持っている第五師団長殿が御者をしてるかと言えば、それも伝統だからだ。

家の事は家の中だけで済ませるのだそうだ。

馬車から降りると森の近くだった。

「これから二人には森に入ってもらう。危なくなったら空に逃げなさい。直ぐに迎えにいくから」

あ、シャクティがムッとなった。

奥さんがアイサインを送ってきた。

手綱握れってか。













森に入る。

背の高い木々が並んでいて、下には草が生えている。

腰のホルスターに入れている魔方陣を刻んだディアマンタイトナイフを確認する。

うん…大丈夫。

問題は…。

「シャクティ」

「なに? キツネ君」

ご機嫌のシャクティだ。

「シャクティまさか一緒に散歩したかっただけ?」

「そうだが?」

マジかよオイ。

「ここにはあのお転婆姫も毛玉もこない…キツネ君を独り占め…!」

「シャクティならいつでも来ていいと思うよ? たぶん、クーちゃんもOKするでしょ」

「そうなのか?」

「たぶん」

「では聞いてみるとしよう」

そんな風にシャクティとまったり森を散歩している時だった。

ピン…、と魔力が震えた気がした。

「シャクティ。戦闘用意」

革の籠手の上から氷のツメを纏う。

遥か前方に、黒い影。

四足歩行で、体高は一メートルはあるだろう。

「フォレストウルフだな」

シャクティが呟く。

その狼が唐突に遠吠えする。

「シャクティ。仲間呼んだみたいだけどどうする?」

「きつね君とのデートを邪魔したケダモノをぶっころす」

物騒だな…。

「シャクティって前衛?後衛?」

「前衛だ」

シャクティが剣を抜く。

なんとカタナだ。

「振れるの?」

「この剣なら、振れる。これは切り裂く事に特化してるからな」

「そ」

前方に狼が布陣する。

その他にも回り込んで包囲しようとしている。

以外と頭がいいのかな?

「とりあえず、先手を撃とう」

脚から地面へ魔力を流す。

そして流した魔力を自分を中心に半径15メートル程のサークル状に循環させる。

「ウォータライト・ピルム・ムーリアリス」

地下十数センチで円環していた魔力が形を無し、斜めに突き出た剣山のサークルを作る。

感覚は30センチ、長さは1メートルほど。

そしてピルム・ムーリアリスの内側にも魔力を流しておく。

「なにしたの?」

「即席トラップ」

狼が駆けてくる。

後ろからも、魔力の揺らぎが来る。

ピルム・ムーリアリスを避けようと、狼がジャンプした。

「アゥフォーフ!」

ピルムムーリアリスの内側流した魔力を具現化し、上に氷鉱槍を突き上げる。

『キャィンッ!?』

今ので十体くらい死んだ。

「これで帰っては……くれないっぽいね」

「そうだな。ここからは私がやろう」

ピルム・ムーリアリスと突き上げた氷鉱槍を折り、狼がサークル内部に侵入する。

「一応ポーションとかあるから、即死じゃないかぎり大丈夫だから」

「わかった」

シャクティが駆け出す。

飛びかかる狼に対し六歳とは思えないその長身で刀を振るう。

その一撃は狼を文字通り一刀両断した。

「うそん」

「きつね君が魔法の練習してるのと同じさ」

シャクティの剣は一振りで狼を割り、首を落とし、臓腑を裂く。

シャクティの周囲に数匹の死骸が横たわる。

が、狼もバカじゃない。

サークル内に入って、シャクティを半包囲し始めた。

「キツネ君! えんご!」

「ジェネレート・エアリアルカノン! 」

シャクティの隣に砲を作る。

「轟け大気の咆哮!」

数千発の子弾によって狼がミンチになった。

「シャクティ! 後退!」

シャクティがバックステップで戻ってくる。

狼の上に氷の槍を作り、落とす。

「シャクティ。何匹か狼の尻尾取ったら逃げるよ」

「む。納得いかないが」

「僕なら全部倒せるけど、シャクティは嫌でしょ?」

「言ったな」

シャクティが刀を構え直す。

「しょうがないなー。今回だけだよ」

さっきまでと同じようにシャクティを援護しつつ、サークル外部の狼も狙う。

更には魔法攻撃を抜けてきた狼にはウォータライトクローを振り下ろす。

十数分程で、狼は後退した。

作り出した氷を可能な限り魔力に還元し、ピルムムーリアリスを消すと、周囲には狼の骸が無惨に横たわっている。

「じゃぁ討伐証明部位の回収しようか」

「しっぽ?」

「そうそう」

シャクティが腰の後ろに着けたディアマンタイトのナイフを抜く。

「きつね君。このナイフ使うぞ」

「べつにいいよ? そのナイフくらいなら1日二本作れるから」

「規格外……」

「一応褒められてると受け取っとくよ」

尻尾を回収すると、50本近くあった。

俺とシャクティのスコアは5:3くらい。

「じゃぁ帰ろっか」








森から出ると、第五師団長殿と奥さんが待っていた。

「ただいま。おとーさん」

「おかえり。狼の遠吠えが聞こえたが大丈夫だったか?」

「なんともなかった」

「そうか…。シラヌイ君」

「ゅ? うゅー…」

第五師団長の大きな手で撫でられる。

ごつごつした、戦士の手だ。

お父様? あの人基本魔法使いだから。

「むー…」

気づくとシャクティに後ろに引かれていた。

ふわり、とシャクティの漆黒の翼に包まれる。

「きつね君は私のもの」

「そんなに妬くなシャクティ。俺はシラヌイ君を取ったりしないから」

「第五師団長殿。狼の死体は放置でいいですか?」

「構わない。他の獣が食べるだろう」

さっきからシャクティが尻尾をモフモフしてる。

狐になれって急かされているようだ。

獣化してシャクティの腕の中で丸くなる。

「では、リベレーソに帰るとするか」

「きゅ!」











リベレーソに戻り、ギルドに顔を出す。

「こんにちはシラヌイ君」

「おねーさんおねーさん。この子の冒険者登録をしたいんだけどいいかな?」

「ええ、いいわよ」

シャクティはギルドに登録してなかったらしいので、登録を済ませる。

「シラヌイ君。この子の昇級試験はどうする?」

「また今度でいいや。あ、あと狼の尻尾を引き取ってもらえる?」

「はい大丈夫ですよ」

ドサッと狼の尻尾を出すとお姉さんの顔がひきつった。

「自分でやったの?」

「僕とシャクティだよ」

「そ、そう。すぐに換金するわ」

お姉さんからお金と証明書を貰い、ギルドを出……………………られなかった。

「おいそこのガキ」

ギルドの扉の前で道を塞ぐ巨漢。

「何でしょうか」

まぁ、”何時ものこと”だ。

「どうやってあんな量のウルフを狩った」

「僕が魔法使いだから」

「お前が? ぎゃははははは!」

何こいつ面倒くさい。

「邪魔。ジェネレートウォータライトキューブプリズン」

顔だけ出して氷のキューブに閉じ込める。

キューブの横を通って外に出ると、第五師団長殿が待っていた。

「見事な物だな」

「あれが一番簡単なんですよ」

「そうか。では送っていこう」

家に着くまでシャクティのモフモフの翼に包まれながらモフモフされてた。






「ではな、きつね君」

「ばいばい。シャクティ」 
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