ソードアート・オンライン ~生きる少年~
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第一章 護れなかった少年
第三十七話 終幕
前書き
随分掛かっちゃってるので、取りあえず書きためていた一話を出します。今現在描写に苦しんでいるので次以降が何時になるかはちょっとわかりません。申し訳ないです。
「......さて、これにてthe endってな訳だが......」
キラキラとした粒子が完全に消え去ってから数秒。ゆっくりと間を持たせながらPohはそう語る。
チラッとメイを見る。完全に憔悴しきって顔からは生気が失われている。顔色は青く染まり、その目は暗く沈んでいる。すでに猿轡も外されているが一言も喋る気配は見えない。喋れないのだ。さっきの光景が現実の物かそうでないのか、判断しかねているのだろう。
「amazing. 実にいい見世物だった。約束通りお前達は殺さない」
「......そうか」
「hey hey 随分と憔悴しちまってるなぁ。まぁ、信用されるとは思えないし、俺たちはここから消えるとしよう」
そう嘲笑いながら告げると、Pohはジョニーブラックとザザを呼ぶ。
「それじゃあな、ソラ。一応ここは安全地帯になってる。回復してから出て行くといい」
「......ああ」
返答を聞くとフン、と一回鼻で笑ってから、ザザ、ジョニーブラック、そしてヤコブを連れて、外へ出て行く。
その後ろ姿だけを睨み続け、漸く姿が見えなくなったその瞬間、今までの張り詰めた空間が崩壊したようで思わず息をつく。
「メイ、大丈夫?」
駆寄り、簡素な十字架のような物を見る。どうやらこれはアイテムらしい。簡素な十字架というそのまんまなアイテム名でどうやら一回使うと再利用不可の使い捨てアイテムのようだ。メイはこれに普通のロープで結びつけられているだけなようで結び目自体も簡単に解けるようになっていた。
そんな考察を終えてもメイからの返答は無い。恐らく聞こえてすらいないのだろう。無理も無い。大事な人間が今、目の前で殺されたのだから。
初体験で普通に出来る人の方が本当に稀だろう。
......かくいう僕だって、初めてだったら耐えきれなかった。今だって今すぐにでも泣いて喚いて暴れ回りたい感情の波を全て押し殺して何とか平静を保っている。
だけど今は。今だけは経験があってよかったと思う。不謹慎だが、一回目があったからこそ今、平静を保てて、それは結果的にメイを護ることにも繋がる。感謝なんてしたくもないし、あの光景を前にしたら恐らく僕はあの時の行動を何度でも繰り返すだろう。そして、今も。きっと繰り返す。人殺しの汚名を着ようとも、それだけは変えられないのだ。
取りあえず、メイを助けなきゃ。四の五の考えるのはそれからだ。
ロープの結び目をほどき、そのまま倒れ込む彼女を支えて座り込ませる。その後自分のHPを確認すると、殆ど回復しきっていた。対するメイは半分と三分の一の中間辺りだろうか。取りあえずアイテムボックスから予備の刀と上級ポーションを取り出そうとして気付く。
(何だコレ。いつの間にか新しいアイテムが......。《ランカー・インゴット》......聞いたこと無いな)
取りあえず今考えても仕方無い。予備の刀を装備して腰に佩き、メイにポーションをのませようとするも中々のんでくれない。数分掛けて漸く、飲ませることに成功した。ここまで来ると、漸くメイも自我をある程度取り戻せたようで、此方の言ったことに「......うん」と反応するようになっていた。
「メイ、取りあえずここを出よう。立てる?」
「うん......」
そう答えるも、メイの動きはやはり鈍い。まだ走ることは勿論、普段通り歩くことすら不可能だ。しかも意識はしっかりしていない。これでは真っ直ぐ歩けるかすら不安だ。仕方無いか......。
漸くフラフラと立てた彼女の手を掴もうと手を伸ばす。
「ほら、手を貸すから――」
「イヤッ!!」
手が触れるか否か、その瞬間に思いっきり手を払われる。彼女は思いっきり振った手に引っ張られてそのまま倒れてしまうが、そこに手を差し伸べることは......出来なかった。
やっぱりか。しょうがない。そう心の中で呟くも、感じた感情はちっとも消えてくれない。感じる鈍痛から眼を反らし、転んでしまったまま立ち上がる気配の無いメイの方に向き直る。
「大丈夫? ほら立って。ここから出るよ」
「......うん」
さっきよりかは若干速く立ち上がるメイ。立ち上がっても先ほど程はフラフラしていない。これなら普通に歩くくらいは大丈夫だろう。
それから、僕らは1時間かけてどうにか迷宮区を抜け出した。ハク、ブライ、セン、アンスに関しては、メイの口から死亡を聞いた。わかってはいたけど、実際に聞くと、とても重い物が心にのしかかる。
ズッシリと、まるで岩のようにのし掛かるその重さにどうにか耐えながら、僕たちは最寄りの街へ向かう。
幸いなことにモンスターにも、そして人にも狙われることはなく、ボヌールの街に着くことが出来た。突如ドッと襲ってきた疲労感に抗うことは出来ず、衆目も気にせず、その場で膝を突く。抜けていく力とは反比例して安堵が満ちていく。
「メイ、街についたよ......」
「......そう、ね......」
予想していなかった返答に思いがけず振り返る。元気とは言えない。元通りとは言えない。それでも先ほどまでとは違い、しっかりと日本の足でしっかりと地を踏みしめ、眼に少しながら力を取り戻したメイの姿があった。
「......メイ」
「......ごめんなさい。私酷いこと......」
「大丈夫。仕方無いよ。あんな状況だったし」
にっこりと笑顔を作って答える。だが、彼女は頑なに眼を合わせようとしない。違うのだ。行為は省みた。でも、心の中の疑心は消えていないのだろう。
......だけど、それはどうしようもないことだ。今は、少なくとも疑われようとも嫌悪されるよりマシなのだから。
吐き気を催すそんな嫌悪されることへの嫌悪感を必死に押しとどめ、彼女に笑いかけ、おちゃらけた様に手を叩く。
パァン、と大きな音を立つと彼女はビクッとしたようにこちらを見る。しまった。音によるショックとか考えるべきだったか。やってしまったことはしょうがない。そのまま僕は語りかける。仮面をかけて。
「さっ、何時までもここに居ても仕方無い。せっかく帰ってこれたんだし、取りあえず宿に戻って今日は休もう!! これからのことは明日話そうよ」
「......そうだね」
彼女は、そこで漸く、僕と眼を合わせ、嗤った。その笑みの意味はわからない。自嘲なのか、それとも元気に見せるためか、元気になるためか。僕にはわからなかった。
それでも、漸く彼女が眼を合わせてくれた。それだけで僕は嬉しかった。元の関係には戻れないだろう。それでも、それに近しい所までは戻れるかも知れない。そんな希望が見えたから。
これで。これで助かったんだ。結果的には護れたのはメイだけだった。それでも護ることは出来たんだ。
僕は舐めていた。僕は侮っていた。僕は愚かだった。僕は見えていなかった。見抜けていなかった。分かっていなかった。考えていなかった。思い込んでいた。これで終わりだって。甘かったんだ、全部。アイツを計り損ねていた。今ではもう遅すぎる反省。今ではもう遅すぎる後悔。黒はキャンパスに僅かに残った白をも浸食していく。全てが塗り潰されていく。
「あ、ごめん。メールきたからちょっと待ってて」
「うん? 了解」
「ごめんね。誰から......。――ッ!?」
「メイ、どうしたの? ......あれ、僕にもメールだ」
『
さぁ、メインディッシュの始まりだ。
Poh
』
悪夢はまだ、終わっていなかった。
後書き
お詫び代わりといいますかなんと言いますか、息抜きで現在オリジナルの方を執筆しています。
そちらも近々暁の方で後悔しようと考えています。
何時になるかはまだわかりませんが、もし投稿できたらそちらもよろしくお願いいたします。
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