『魔術? そんなことより筋肉だ!』
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最終話 今(現在)を生きる
前書き
最終回。
ハッピーエンドを目指しました。
士郎は、いつもの朝の鍛錬のあと、いつものようにシャワーを浴びてタオルで頭を拭きながら台所の方に来た。
「おはようございます。せんぱ…、し、士郎さん…。」
台所で朝ごはんの支度をしていた桜が赤面しながら、士郎のことを先輩ではなく、『士郎さん』と呼んだ。
「おう、おはよう。桜。」
「あっ。」
桜に近寄った士郎が、ん~、チュッっと桜のほっぺたにキスをした。
「ひゃあああ!」
「桜が可愛いのがいけないんだぞ~?」
「もう! 朝からやめてください!」
「イヤだったか?」
「……イヤじゃないです。」
桜は俯き、ボソボソと小声で言った。
「聞こえないぞ?」
「い、イヤじゃないです!」
「じゃあ、もう一回しちゃうぞ。」
「いやああん。」
「味噌汁が噴くぞ。お前ら。」
「あ、やべ。」
アーチャーの言葉でハッとした士郎が、噴きこぼれかけた味噌汁の鍋の火を止めた。
桜は、士郎に見えないよう、一瞬だけ、ギッとアーチャーを睨んだ。
アーチャーは、士郎に悟られぬよう、ため息を吐いたのだった。
あの壮絶な戦いから、数週間……。
第五次聖杯戦争は、士郎の勝利で終わった。
そして、汚染が除去された聖杯により、士郎の願いは叶えられ、異世界の住人であるユーリとの再会が果たされた。
これにより、第四次で消費されることなく残っていた大聖杯の魔力がすべて消費され、次の聖杯戦争の開催は、少なくとも百十数年後と見積もられた。(※だいたい60年ぐらいの周期)
単にこの世界にいる人間(あるいは死人)との再会ではなく、異世界の人間との再会を願っため、異世界との境界を繋ぐために普通に願いを叶えるより多くの魔力が消耗されすぎてしまったためだと、遠坂凛は見ていた。
そして、士郎の中に封じられたアヴェンジャー…、この世全ての悪であるが…。意外にも士郎の魂の中がお気に召したのか、実に大人しかった。
聖杯を穢し、汚染し、最悪の形で願いを叶えるモノになってしまった件について、アヴェンジャーを自らの魂に封じた士郎が、夢で、その原因となったのが、第三次聖杯戦争における、アインツベルンのルール違反によるアヴェンジャーの召喚と、その後間もなく敗北したことにあると知り、それを冬木の地を管理する凛に伝えたところ、アインツベルンに対し、聖杯の汚染への責任追及がなされたとか?
ルール違反により召喚されたうえに、何の力も無かったために四日で敗北し、最初に聖杯に入ってしまったことがアヴェンジャーの身に宿る呪いの力と、聖杯の魔力が深く結合。そしてなによりこうなった原因が、アヴェンジャーの基になった人間がこの世全ての悪として人々から願われたために、万能な願望器である聖杯が合致してしまい、その後、聖杯の中のこの世全ての悪の母胎となったこと。
それが、聖杯が汚染されてしまった真相だ。
それらの真相は、すべてアヴェンジャー本人から士郎が魂を通じて、夢の中で知ったことである。
そして、凛が、魔術協会と、聖堂教会に、聖杯戦争の監督役であった言峰綺礼の所業と、アヴェンジャーの存在と、それによる聖杯の汚染を伝えた。
魔術協会と、聖堂教会の使者が来て、アヴェンジャーの存在を確認するために、ちょっと士郎の魂を調べたりもした。そしてその存在が確かなことを確認すると、新たな監督役を寄越し、そして聖杯戦争そのものの見直しと共に、開催を無期延期とした。
アヴェンジャーの処分については、冬木の管理者である凛に追々伝えられることになり、それまでの封印についても、実質凛に任された。
なお、アヴェンジャー(この世全ての悪)を自らの魂に封じた士郎を実験材料にしようとする動きがあったらしいとかなかったとか……、それを知った凛と、第四次聖杯戦争を経験していたロード・エルメロス二世が必死に止めて事なきを得たとか……。なにせ士郎の意思(魂)による封印そのものが破綻すれば、再び聖杯にアヴェンジャーが入ることになり、また汚染されるからだ。そうなれば、せっかく汚染が除去された聖杯が、今度こそ世界に災いを振りまくかもしれないのだ。
こうして、士郎の日常は保証された。平和であることが、もっとも魂に負担をかけないからだ。
「遠坂には、でっかすぎる借りができたな…。」
「なーに言ってんのよ。」
学校への登校中に凛とそんな話をした。
「あんたが平和な状態じゃないと…、世界がヤバいのよ? 分かってる?」
「ああ…。分かってる。アヴェンジャーも、とりあえず大人しくしてくれてるしな。」
「士郎さん…。本当にだいじょうぶなんですか?」
「ああ、だいじょうぶだいじょうぶ。なんともないから。」
「それならいいですけど…。」
「ねえ? ところで、いつから“士郎さん”なんて呼ぶようになったかしら?」
「姉さんには関係ありませーん。」
「桜! まだ認めたわけじゃないわよ!」
「いいもーん。二十歳になったら、身内の許可が無くても法的に結婚できますし。」
「くーー!」
フッと笑う桜に、凛は悔しそうに地団駄を踏んだ。
桜も、なんだかんだですっかり強くなった……(?)。
ところで、臓現が死んだことが発覚し、間桐の家は正式に魔術師としては完全に潰れた。
家そのものも、桜の身の上話を聞いた凛が、怒りのままに処分して、住むところが無くなった桜は、そのまま衛宮家に居候することになった。
遠坂の血縁ということで、魔術的に特異体質で魔道な加護がなければならない桜は、凛の情報網操作によりアヴェンジャーの封印を見守る役として士郎の傍に置かれることになったのだ。実際は、魔力の魔の字も使えない素人なのだが……。まあ、なんとかなった。
「私も、姉さんには大きな借りができちゃいましたね。」
「なーに言ってんのよ。そうでもしないと、あんたは……。」
「分かってます。でも…、本当にありがとう。姉さん。」
「バカね…。世界に一人だけの私の実の妹なんだから。当たり前じゃない。」
「じゃあ、結婚も認めてください。」
「ソレとコレとは話は別よ。」
桜のついでの言葉を、速攻で否定する凛だった。
キャスターによる魂食いの犠牲者も社会に復帰していき、決して表沙汰にならない聖杯戦争の爪痕は少しずつ癒えていく。
けれど、戻らないモノもある。
慎二の死は、表面上は事故死だし、葛木は行方不明扱い。イリヤについては、墓すらない。(※後々、士郎がアインツベルン本拠地に殴り込んでイリヤの墓を作らせる)
「忘れないようにしよう…。」
「はい。」
「痛みも苦しみも、俺達を形成する今(現在)と、未来に繋がる土台なんだ。絶対に、忘れちゃいけない。」
「はい。」
「なあ、桜。」
「はい。士郎さん。」
「一緒に、生きていこうな。」
「はい!」
「しろーう。ご飯まだー?」
「シロウ、アーチャー。今日の献立は?」
「サケの照り焼きと、アスパラとパプリカのサラダ、厚揚げとタケノコの煮物と、あと麩の味噌汁だ。それと、お隣からのもらい物で、サクランボがある。」
「あー、はいはい。もうちょっと待ててくれ。」
「……もう。」
いつもの邪魔を受け、桜は、プウッと頬を膨らませたのだった。
「…桜。」
「ふぇ?」
士郎が桜の耳元に口を近づけて囁いた。
「……結婚すれば、いつでもどこでもできるからな?」
「!」
その瞬間、桜は、ボンッと赤面した。
「あ~ら? な~にをする気なのかしら?」
「えっ? そりゃあ…。」
「お前ら…、このバカップルが…。」
「仲が良いですね。」
「もーーー! 邪魔しないで!!」
桜が爆発した。
今日も今日とて、平和。
この平和が長く続くことを願った。
後書き
凛が頑張って士郎の日常を手に入れています。
ジメっぽい終わり方嫌いなので、私が書くのはハッピーエンドが主ですね。
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