『魔術? そんなことより筋肉だ!』
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SS21 散りゆく者達
前書き
前回と同じくシリアス回。
グロ注意かも。
言峰教会に、凛と士郎、そしてライダーとアーチャーが来た。
「アーチャーはともかく、なんでライダーが?」
「桜が心配していたので。」
「だいじょうぶだって言ったのに…。」
「念には念をです。」
「そういう遠坂は、なんでセイバーを連れてこなかったんだ?」
「桜を一人で残しておけるわけないでしょ?」
「それじゃあ本末転倒だ。」
桜のサーヴァントが来て、凛のサーヴァントが来ないのでは、ずいぶんと戦力の差があるだろう。
「今はそんなことより、綺礼を探すわよ。
言峰教会に来たはいいが、無人だった。
不気味な静けさのある教会の中を、綺礼を探して回る。
「あら?」
「どうした?」
「こんなところに…、階段なんてあったかしら?」
凛が今まで見たことがなかった階段を見つけた。
その階段は地下に続いている。
「なにかしら? 嫌な感じ……。」
「どうする?」
「……もしかしたら、この地下にいるかもしれないから、行ってみるわ。」
「分かった。」
「では、私が見張りをしておきます。」
士郎は頷き、凛と共にその地下への階段を降りていった。ライダーが見張りとして残り、アーチャーが二人の後ろについて行った。
そして、妙に長く感じられる不気味な階段を降りていった。
やがて奇妙に開けた場所、しかし壁に空いた隙間には棺のようなものが置かれており、そして奥の方に扉もないどこかの部屋へと通じる入り口があった。
「なにかしら…。薬品の匂い? 霊薬かしら…。」
「人の匂いがする…。」
「えっ? こんなところに?」
「それも……なんか…死体っぽいような…。」
「あ、待って!」
士郎が奥の入り口に向かって走って行った。
そして入り口のところで士郎が立ち止まった。
「どうしたの? ……っ!?」
追いかけてきた凛が、士郎の横から顔を出し、中を見て……、そしてヒュッと喉を鳴らしてしまった。
そこには、棺のような石の箱がいくつも並んでおり、その中には死体のような、ミイラのような物が寝かされ、あるいは、座っていた。
「こ、れ…は…。」
一流の魔術師である凛は、一目でそれがどういう仕組みになっているのか、そしてその棺の中の物がなんであるか理解し、口を押さえた。
「生きてる…のか?」
「…ええ。生かされてる…わ。」
「…どうして…?」
「おや、不法侵入だぞ。凛。」
「綺礼!?」
その声が聞こえたので凛が、バッと振り返る。
開けた場所に綺礼が立っていた。
「どうかね、士郎くん。同じ境遇を味わった兄弟達ともいえる者達との再会は?」
「…ま…まさか…。あんた!?」
その言葉を聞いて凛は理解した。
ここで無理矢理に生かされている者達が、かつて冬木の大災害時に生き残った生存者達であると。
「つまり、餌というわけか?」
アーチャーが眉間にしわを寄せて言った。
「その通りだ。なにせ“彼”はワガママで、まるで私の言うことを聞かんし、ここで搾り取った魂を餌に大人しくさせているのだ。」
「えさ…だと?」
「士郎!」
「この……野郎おおおおおおおおおお!!」
士郎がリミッター解除をして、ピストル拳を放った。
綺礼に当たる直後、その拳の圧を、7枚の花弁の盾が防いだ。
「ロー・アイアス!?」
アーチャーが驚き声を上げた。
それは、アーチャーが使う贋作のロー・アイアスでもなく、本物のロー・アイアスだった。
「…なにをボーッと突っ立っているのだ?」
そこへ、カツンッと音が聞こえ、階段の上から、黄金の鎧をまとった、あの男…ギルガメッシュが降りてきた。
その手に、ぐったりとしたライダーの腕を掴んで引きずっている。
「ライダー!」
「安心しろ。殺してはいない。」
そう言ってギルガメッシュが、ライダーを階段の上から士郎達の前へ放り投げた。
「うぅ…。」
「ライダー、だいじょうぶか?」
「申し訳ありません…。」
「あなたじゃ分が悪…、っ?」
次の瞬間、凛の身体にドスッと衝撃が走った。
「凛!」
「遠坂!?」
凛の腹部を貫くのは、赤い槍。
いつの間にか背後にいたランサーが凛を槍で貫いていた。
「あ……ぁ…!」
「悪く思うなよ。」
そう、すまなさそうに言ったランサーが凛から槍を抜いた。
凛が介抱していたライダーの上に倒れた。
「ランサーーーーーーー!!」
「来いよ…。坊主!」
怒りに震えた士郎がランサーに殴りかかった。
ランサーがすんでのところで拳を避け。
「ゲイ…ボルク!!」
すべての力を集約した槍の一撃が、士郎の胸に向かって突き出された。
「……ハハ…。」
少しの間を置いて、ランサーが疲れたように笑った。
「やっぱ、ダメか。」
ゲイボルクの先端を士郎が掴んで止めていた。
その手からは血がポタポタと垂れている。
「けど…やっとお前に傷を付けられたぜ。」
「そうか…。」
「殺れよ。坊主。でないと、嬢ちゃんが死ぬぞ? なにせ、因果律を死に導く槍で貫いたんだからな。」
「ああ…。」
士郎は、そう返事をすると、拳を振りかぶった。
そして、ランサーの身体の上半身がバラバラに弾け飛んだ。倒れた下半身が、やがて光となり、消えた。
「ごほっ…、ごほ!」
「凛!」
凛が咳き込み血を吐く。ライダーが傷口を押さえていた。
「遠坂! アーチャー! 遠坂を!」
「いや、行くのはおまえとライダーだ。」
「何言ってんだ!?」
「私が足止めをする。」
「アーチャー…、おまえ…。」
「ギルガメッシュの宝具は知っている。」
「ほう? 贋作者が我にたてつくか?」
「その贋作者が宣言する。お前を倒すとな。」
「はっ…! よくもそのようなことを言う!」
ギルガメッシュが、階段から飛び降りてきた。
「行け!」
「…くそ。」
「士郎。行きましょう。このままでは…。」
「分かってる! アーチャー…、帰ってきたら、歯ぁ食いしばっとけよ。」
「…分かった。」
アーチャーは、静かな口調でそう言った。
凛を抱え、士郎は綺礼とギルガメッシュの横をライダーと共に通り過ぎた。
しかしその瞬間、鎖が飛んできて、ライダーの足に絡まった。
「あ!」
「ライダー!」
「行ってください!」
「けど!」
「今は生き残ることを最優先に!」
「…分かった!」
士郎は、ライダーとアーチャーを残して凛を抱えて階段を駆け上がった。
鎖に引っ張られ、ライダーは、階段の下の広間にたたき落とされた。
士郎と凛がいなくなったあと、アーチャーは、ポロッと涙を零した。
「なにを泣いている?」
「いや…。これでようやくアイツと縁が切れると思うと…つい…。」
「どうしたのかね?」
「色々とあるのだ…。」
「ほっほう…。では、君が泣くほど嫌いな相手に報復をする気はないのかね?」
「残念だが、貴様らの組む気などこれっぽっちもない。腸をぶちまけ、そして……溺死しろ!」
アーチャーが双剣を手に、ギルガメッシュと綺礼に襲いかかった。
***
桜は、セイバーと共に病院に走り込んだ。
「先輩!」
「桜…。」
「姉さんは…?」
「今…手術中だ。」
そう言って、手術室のランプを見上げた。
「…アーチャーは?」
「……分からない。」
士郎はそう言いながら、自分の手ある令呪を見た。
令呪はまだ残っている。つまりアーチャーはまだ生きているということだ。
「ごめんな、桜…。遠坂を…守れなかった。」
「生きて帰ってこれただけで、十分です。」
「あ…。」
やがて手術室のランプが消えた。
そして扉が開き、搬送用のベットに寝かされた凛が運ばれていった。
「遠坂!」
「姉さん!」
「先生、遠坂は…。」
「手術は無事に終わりました。あとは麻酔が切れて意識が回復するのを待つだけです。」
「そうですか…。」
どうやら手術は成功し、凛は無事に生還したらしい。
その後、集中治療室に運ばれ、呼吸器とともに、心拍数を図る機械を取り付けられ、凛は眠りから覚めるのを待つ状態になった。
病室を出て、病院をあとにし、衛宮宅に帰った一行。士郎は、教会で何があったのか話した。
「つまり、ギルガメッシュのマスターが、言峰綺礼だったと?」
「たぶんな…。」
「おそらく、ランサーも彼の下にいたのでしょうね。でなければ、そんなタイミング良く凛を襲えません。」
セイバーがそう言った。
「……これから、どうします?」
桜が不安そうに言った。
「……戦う。」
「先輩…。」
「聖杯なんて、もうどうでもいい。アイツらを…野放しにはできない!」
「シロウ。私も協力します。」
「ありがとな、セイバー。」
「あんたらだけで、やるつもり?」
「遠坂!?」
「姉さん、どうして!」
「バカね…。仮にも私は魔術師よ。これくらいなんとかなるわよ。」
そう言って病院服のパジャマ姿の凛がドカッと座った。
「けど勝手に病院を…。」
「適当に暗示をかけてきたわよ。」
「おまえ……。」
士郎は、呆れて言った。
「それに、私が近くにいないと、セイバーは全力を出せないわ。」
「すみません。リン…。」
「……あっ。」
「どうしたの?」
「………………ライダー…。」
桜は、自分の手から令呪が消えたのを見た。
すると、そこへ、足を引きずる音が聞こえた。見ると、アーチャーだった。全身ボロボロの。
「アーチャー!」
「……すまん。ライダーは…。」
「…分かってます。」
残るサーヴァントは、アーチャー、セイバー、そして、……ギルガメッシュのみとなった。
後書き
ライダーとランサー、退場。
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