『魔術? そんなことより筋肉だ!』
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SS15 アーチャーとの一騎打ち
前書き
vsアーチャー。
腕が千切れなどの、グロ注意。
キャスター達が逃げた後、士郎の怪我の手当のため、一旦退却した。
「まさか、あんたが怪我をするなんて…。」
「さすがにあの一撃は効いた…。」
士郎は、頭に包帯を巻いて、身体のあちこちにうけた火傷と軽い裂けた傷を手当てしてもらっていた。
「なんなんですか? 剣が爆発したように見えたんですけど?」
「おそらく…、アーチャーの宝具ね。」
「凛も把握していないのですか?」
「アイツ…真名が分からないのよ。」
「えっ?」
「私がメチャクチャな形で召喚したせいで記憶が混濁していて、真名が分からないって言ってね……。まさか本当の目的が士郎を殺すことだったなんて…。そりゃ、真名を知られるわけにはいかないわけだわ。」
「彼は、一体なぜ、士郎を?」
「それは分からない。」
「許せない…。」
「桜?」
「先輩を殺そうとするなんて、許せない…!」
「桜…。ありがとな。」
「先輩…。私…私…。」
「ほら、泣くな。俺は生きてるから。」
泣き出す桜を士郎が抱きしめて慰めた。
「はあ……。あら?」
「ん?」
「あんた、傷が……。」
ちょっと目を離した時、士郎の身体の表面の傷が無くなっていた。
「ん? ああ…そういうや、俺、昔から傷の治りが早いんだよな。」
「えっ? 普通そんなのおかしいわよ?」
「そうなのか? これが普通だと思ってたけど。」
「はあ…、ほんとデタラメね…。」
アーチャーから受けた傷は、すべて癒えていた。包帯を外してみても、そこには傷跡ひとつ残っていなかった。
「まあ、とにかく……、アーチャーが裏切った以上、遠坂も脱落ってわけか…。」
「笑いたきゃ笑いなさいよ…。」
「笑うかよ。」
「けど、諦めてないから。」
「っと言うと?」
「私は、令呪を引っぺがす方法を知ってるわ。」
「姉さん! どうしてそのことを…。」
「馬鹿ね。敵に塩を送るようなことするわけないでしょ?」
「では、あなたならば奪われた令呪を取り返せると?」
「ええ。」
「先輩! 聞きましたか!」
「ああ。……頼めないか? 遠坂。」
「……あんたには貸しがあるものね。協力してあげるわよ。」
「ありがとな。」
「礼なんていらないわ。」
「オーっす。」
「ランサー。また勝負か?」
そこへランサーが実体化して現れた。
「ちげぇよ。そうしたいのは山々なんだが…、悪い知らせだ。」
「なんだ?」
「キャスターが言峰教会を襲撃した。言峰綺礼は行方不明。生死不明だ。」
「なんですって!」
ランサーからの言葉に凛が声を上げた。
「で、お前らどうするよ? 聞いた話じゃ、アーチャーの野郎も離反してキャスターの傘下に入ったらしいな。ライダーひとりしかいない状況で、どうやって突破する気だ?」
「お前には関係ない話だろ?」
「俺にしてみりゃ、坊主が脱落するのは見てらんねぇの。坊主をぶっ殺すのは俺なんだからな。」
「殺されてやる気はないぞ。」
「いいや。必ず殺すからな。…じゃあな。」
そう言い残すとランサーは消えた。
「って…ことは、今、キャスターは、教会にいるってことか。」
「そうみたいね。どうする?」
「決まってるだろ? 今度こそぶっ飛ばして、令呪を取り返す。。」
「ええ。そうね。そう言うと思ったわ。」
「でも先輩…怪我は?」
「もう治った。」
士郎は、ストレッチをした。
そして一行は、キャスターがいるであろう、言峰教会へ向かった。
***
言峰教会に来てみると、不気味な静けさがたちこめていた。
「見張りも立ててないなんてね…。」
「とにかく、今のうちに行くぞ。」
「待ってください。」
「どうしたの、ライダー?」
「来ます。」
その時、教会の屋根の上から何かが飛び降りてきた。
「セイバー!?」
士郎達の前に、セイバーが飛び降り、剣を向けてきた。
その顔は、無表情だ。
「どうやら…、令呪の強制力に堕ちてるわね。」
「セイバー…。」
「ライダー…、悪いけど、セイバーの相手をしてくれる? その間に、私達がキャスターから令呪を奪い返すから、それまで頑張って。」
「頼めるか? ライダー。」
「分かりました。」
「桜。頼むわよ。」
「ええ。先輩…、頑張って!」
「行ってくる、桜。」
凛と士郎が言峰教会に向かって走る。
それを阻もうとしたセイバーを、ライダーが阻んだ。
「貴女の相手は、私です。」
「……っ…。」
「セイバー。辛いでしょうが、もう少しの辛抱です。」
セイバーとライダーの戦いが始まった。
***
凛と士郎が言峰教会の奥へと進む。
そして、奥の方の開けた場所に出た。
そこには、アーチャーが一人、立っていた。
「待っていたぞ。」
「アーチャー…。」
「キャスターは、どこ?」
「知りたければ、私を倒してからだ。ただし、衛宮士郎。お前と1対1でだ。」
「なんですって?」
「いいだろう。」
「士郎。」
「遠坂、お前は下がってろ。」
「……勝ちなさいよ。」
「分かってる。」
そう言葉を交わしてから、士郎は前へ出た。
そして、アーチャーと真っ向から対峙する。
「正直な話…、お前に勝つビジョンが見えなかった…。だが…、あの時の、アレ(ブロークン・ファンタズム)で分かった。私はお前に勝てんことはないとな。」
「ああ。すげぇ一撃だったぜ。アレは。」
「ならば、私…いや、俺は全てを使い、お前を殺す!!」
「来るか!?」
士郎がリミッター解除をして筋肉を膨張させた。
「I am the bone of my sword.
Steel is my body, and fire is my blood.
I have created over a thousand blades.
Unknown to Death.
Nor known to Life.
Have withstood pain to create many weapons.
Yet, those hands will never hold anything.
So as I pray, unlimited blade works!!」
長い詠唱を行い、そして空間が変わった。
それは、赤土の光景、しかし空に歯車が回る、地平線の彼方まで様々な武器が刺さった奇妙な世界。
「こ、固有結界!?」
「それが、おまえの全力か?」
「これは、私の世界だ。そして、これは同時にお前の世界でもある。」
「俺の?」
「しかし、お前はそれを知ることはない。」
「なに?」
「ここで死ぬのだからな。」
アーチャーが、刺さっている武器を抜いた。
それは、伝説上にしか存在しないはずの武具。
しかし士郎には分かった。それが本物ではないことを。
そして漠然とだが理解した。
この世界は、アーチャーが解析・構築し、そして貯蔵してきた武器が収まった世界なのだと。
アーチャーが動いた。
「ふんっ!」
「確かに貴様の筋肉はあり得ないほどの強度を誇る! だが…。」
アーチャーが次々に武器を手にして攻撃する。
「贋作とはいえ、必ず傷を付ける逸話を持つ武器にどこまで耐えられる!?」
「ぐっ!」
いくつかの武器の攻撃を受けたとき、表面の皮膚が切れた。
「ふ…、いかなる硬度を誇る石といえど、亀裂が入れば脆い!」
アーチャーが口元を釣り上げて笑い、士郎に傷を付けた武器で連続攻撃をした。士郎は腕を組んでガードするが、士郎の身体のあちこちに切り傷ができる。
アーチャー、贋作のゲイボルクを手にし、士郎に向けて投擲した。
士郎はそれを白羽取りで止めた。その隙に接近したアーチャーが、士郎が脇腹に負った傷口を狙った。
「やっぱりな。」
「っ!?」
「筋肉ぅうううう!!」
刃が傷口に刺さった直後、筋肉を固め、刃を筋肉で挟んで止めた。
「で、デタラメな…!」
「捕まえた!」
「ぐっ!」
抜くことも押すことも出来なくなったアーチャーの手を士郎が掴んだ。
士郎がアーチャーを殴る。あまりの威力に、掴まれていたアーチャーの腕が千切れ、アーチャーは血を飛ばしながら吹っ飛んでいった。
「ごほ…、は、ぁ…!」
「トドメだ!!」
「っ!」
士郎が追撃する。
迫ってきた士郎に向け、アーチャーが口から喉からこみ上げていた血を吹き出して士郎の視界を奪った。
「うっ!」
「ブロー…クン……ファン、タズム!!」
百数本に及ぶ武器がいっぺんに投影され、士郎の周りに集まるや否や、爆発した。
その爆発の威力に、戦いを見ていた凛が吹っ飛び転がった。
そして、爆発が終わったあと、世界が戻った。
ボタボタと全身から千切れた腕と口から血を出すアーチャーが、煙がもうもうと舞う光景を見つめた。
「く、はは、ハハハハ…。」
そして狂ったように、宙を見上げ、どこか晴れやかに笑った。
アーチャーが宙を見上げていた時だった。煙が揺らいだ。
「……………………はっ?」
ボンッと士郎が飛び出し、アーチャーに向けて拳を振りかぶったのを、アーチャーは、ぼう然とただ突っ立って見ているしか出来なかった。
そして、腹に大きな衝撃。そして思いっきり喉からこみ上げてきた大量の血を、吐き出した。
「確かに、お前の攻撃は効いた。けどな…、同じ手が何度も通じると思うなよ? 攻撃が通じた頃の俺は、過去の物だ!!」
「…あ……ぁ…。」
アーチャーの腹を貫通するのは、士郎の右腕。
「なぁ、アーチャー。聞かせてくれ。お前は、どうして俺を狙った? お前はなんだ?」
「…ぅ…あ…、さっ…し…の悪い…奴め……。俺は……、お前…だ…。」
「? お前が、俺?」
「あとは……じぶん…で…かん…が、えろ…。」
フッと笑ったアーチャーが目を閉じた。
***
アーチャーは、ふと目を覚ました。
終わった…。っとまず思った。
自分の戦いは、これで終わったのだと。
結局、思考回路が違うだけで、まったく違う可能性へと到達した自分自身には、勝てなかった。
……勝ちたいと思った。それは素直な気持ちだ。
もし……もし、自分がどこかで思考回路があの士郎のように違えていたなら、違った未来を得ていたかもしれない。自分の消滅という自殺のため、別世界の自分自身を殺そうという暴挙に出ることもなかっただろう。
もしかしたら、羨ましかったのかもしれない……。
「おーい。生きてるかー?」
「……………………………………………………っ?」
「だいじょうぶよ。令呪はちゃんと手にあるでしょ? それがある限りは死んでないから。」
アーチャーは、感じた。
明らかに魔力の質がおかしいと。
なんというか……、マッスル!っという感じで異様に生気に満ちあふれた力強すぎる魔力だ。
「しかし…、本当によかったのですか、シロウ?」
「ああ。」
「まったく…自分を殺そうとしたサーヴァント…、それも未来の自分を自分のサーヴァントにするなんて、馬鹿じゃないの?」
「凛…………………………………………、どういうことだね?」
「あっ。起きた。どう、調子は? 魔力はちゃんと通ってる?」
「なんだね…この、なんというか……マッスル…という感じの…妙な魔力は…?」
「あー…、やっぱりそうなのね。」
「確かに、生命力の満ち方は、凛とは比べものにならないでしょう。」
「先輩…、本当にいいんですか? アーチャーを自分のサーヴァントにするなんて…。」
「またあなたを殺そうとするかもしれませんよ?」
「いや、それはそれでいい。それよりも……。」
士郎が、アーチャーの、千切られたはずの腕を掴んだ。
「こんな細っこいのが自分の未来だなんて考えたくないんだ! 鍛え方がまるで足りない! それが我慢ならないんだ! せめて…聖杯戦争の間だけでも鍛えに鍛えて、座に帰った後も鍛えるように躾ける!!」
「あ~らら。大変ね~~~。」
「な……。」
アーチャーは、士郎達の言葉を聞いて、ガタガタと震えた。
そして見てしまった。
士郎の右手に、凛の手にあったはずの令呪があり、逆に凛の方には、士郎の手にあったセイバーの令呪が移っていた。
つまり……。
「な……………………、なんでさあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
それは、かつて自分の口癖だった言葉だった。
後書き
アーチャー……、己の早計により、士郎のサーヴァントに。
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