『魔術? そんなことより筋肉だ!』
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SS2 凜と弓兵の憂鬱
前書き
凛と、アーチャーの憂鬱?
遠坂凜は、魔術師だ。
それも一流の。
五大元素使いという、希少な魔術師としての才能もあり、その能力は凄まじい。
十にもならない歳で、悲劇の運命により魔術師の家系である遠坂の家の家督を継ぎ、父と母を亡くし、そして養子に出された妹・桜と離ればなれでありながらも、父の教えを守って、魔術師として己を律し、魔術師として己を磨き続けてきた。
そんな彼女であるが……最近、これまでの己を価値観をひっくり返すどころか、ひっくり返しすぎて捻れまくりそうな輩に出くわすこととなった。
高校生になり、同級生となったひとり男子……、衛宮士郎。
小中高と同じ学校に行っていた学生は知らぬ者はいないというほどの、筋肉バカだ。
しかし、単なる筋肉好きのバカではない。
彼は、なんと魔術師でもあるのだ。
自称、筋肉魔法だと言う常識を越える筋肉には、明らかに魔力がある。それは、遠坂ほどの魔術師でなければ分からない微々たる程度であり、変人と関わりたくない凜としては、本当は関わりたくなかったが、放っておくわけにもいかなかった。
なぜなら……。
「先輩。手作りドリンクの新作です。」
「ありがとな、桜。うん、美味い。腕あげたか?」
「ありがとうございます! これで、いつでも先輩のお嫁さんになれますよね…?」
「ああ、もちろんだ。」
「先輩…。」
「桜…。」
「だあああああああああああああああ!!」
「おう、遠坂。おはよう。今日も元気だな。」
そう、この衛宮士郎。凛の妹である間桐桜と恋人同士なのだ。
知った当初は、なぜ!? どうして!? なぜそうなった!?っと、士郎に掴みかかって揺さぶったものだ。
小中が凛と違う桜であるが、その引っ込み思案な性格故に虐められていたところを、士郎に助けられ、また料理を教えて貰うなどして仲を深めたらしい。
事情を聞いたところで、許せるわけがない凛は、あろうことか士郎に勝負を挑んだ。
士郎は、魔術師だ。自分も魔術師だ。だから魔術で戦うことになった。
そして、半ば殺す気で自慢の宝石魔術を使ったものの……。
「おお! いい一撃だったぜ、もっと来いよ!」
っと、なけなしの宝石による攻撃をあり得ないほど膨張させた筋肉で防いだのだ。しかも無傷。
なけなしの貯金で手に入れた宝石を失った凛は、怒りのままガンドを放ちまくったが、これも無傷で防がれてしまった。
「なあ、遠坂。さっきの一撃の方がいいぜ。もっとやれよ。」
つまらなさそうに言われ、凛は、魔力切れで膝をついたのだった。
こうして、凛は、士郎に敗北した。
凛は、これまでいかなる状況でも優位に立ち続けてきた。
あかい悪魔などという同級生からの呼び名通り、勝つためならどんなことでもやってきた。
だが、士郎にはまったく勝てない。自分の命に等しい自慢の魔術を、筋肉魔法なる非常識でことごとく防がれ、心が折れてしまった……。
こんな屈辱を受けて黙っている凛ではない。
それ以来、凛は、ことあるごとに士郎に突っかかり、暇さえあれば勝負を挑んだりもした。
しかし、結果はいつも惨敗……。
士郎の筋肉魔法を前に打ち砕かれた。
しかし、転機は訪れる。
それは、第五次聖杯戦争の開催であった。
数多の強力な英霊を召喚し、戦い抜き、そして万能な願いを叶える聖杯を手に入れる戦い。
凛にとっては、このうえない機会だった。
これならば、士郎に勝てると! そして遠坂の悲願である、根源へ至り、平行世界へ通じる強大な魔法を手に入れられると。
そして、儀式を行うのだが…、うっかりという父・時臣からのいらん属性を色濃く受け継いでいた凛は、うっかりをやらかし、召喚予定だったセイバークラスのサーヴァントではなく、アーチャークラスの謎の英霊を喚ぶに至った。
言うことを聞かない彼に、業を煮やした凛は、三回しか使えない貴重な令呪を、一回使ってアーチャーを従わせた。結果、アーチャーは凛を認めた。
「アーチャー、私…どうしても倒したい敵がいるの。」
「ほう? どんな奴だ?」
「一言で言えば…、筋肉バカよ。」
「きんに…?」
「よりもよって私の同級生なんだけど…、衛宮士郎っていうのよ。」
「!?」
「? どうしたの?」
「いや、なんでもない…。しかし、単なる同級生というわけではあるまい?」
「そうね。何しろ、ああ見えて魔術師なのよ。」
「そうか…。」
「ただの魔術師だったなら、どんなによかったか!!」
「凛?」
「聞いてよ、もう!!」
凛は、アーチャーの胸をポカポカと叩きながら、これまでの敗戦歴を語った。
凛の愚痴を聞きながら、アーチャーは…思った。
それは、自分が知る衛宮士郎なのかと…。
アーチャーは、凛に悟られぬようそう考えつつ、落ち着いた凛と共に、最初の聖杯戦争の戦いに赴いた。
そして、アーチャーは、凛の言っていたことが現実であること、そして自分が知る衛宮士郎とは、だいぶ……かけ離れた存在となっていることを目の当たりにする。
「危なかった…。この鍛え抜いた大胸筋がなかったら、心臓一発だった……。」
「大胸筋、鍛えたぐらいで俺の槍を防げるかよ!!」
ランサーの叫びは正論だ。
気合いと共にありえないほど膨張し、上半身の服を軽く破った鋼のような筋肉。
必ず敵の心臓を穿つとされるランサーのゲイボルグを、その胸板(大胸筋)で簡単に防いだ士郎。
「気にしちゃダメよ、ランサー…。アイツの筋肉は非常識だから。」
アーチャーは、凛のその言葉を聞きながら、めまいを覚え、そのまま意識を手放したのだった。
後書き
凛、振り回される。
アーチャー、色々とキャパオーバー。
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