『魔術? そんなことより筋肉だ!』
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SS1 養父の不安
前書き
養父・切嗣の不安……。
士郎の朝は早い。
どれぐらい早いかって言うと、簡単言えば、朝日も昇る前に起きる。
そして、自己に課している朝の鍛錬をし、それからシャワーを浴びて、朝ごはんの支度をする。
「爺さーん。朝飯できたぞー。」
衛宮切嗣は、その実年齢に反して、すっかりと老け込んでしまった。
かつて、魔術師殺しなどという二つ名を持っていた強い魔術師は、なりを潜め、すっかりと、老人のように弱り、落ち着いてしまった。
切嗣は、自分の命がおそらく長くないことを悟っていたが……。
「…おはよう。士郎。今日も早いね。」
「当たり前だろ? 朝の鍛錬のためなんだから。」
「士郎…。」
「なにさ?」
「ちゃんと…、魔術を教えてあげるから、朝練、その他諸々…、やめないか?」
「なんでさ? それよりさ、爺さん! こないだやってくれた雷バリバリのやつ! またやってくれよ! あの時は体痺れて倒れたけど、今度は防げる自信があるんだ!」
「あのな…士郎…。」
「なあ、やってよ!」
「……。」
残る命もいくばかり……、だが切嗣は、猛烈に養子の息子の将来が不安でたまらなくて、死にたくなかった。こんなに、誰かのために死ねないと思ったのは、いつぐらいだろう?
攻撃魔術を自分に向けて放ってくれと言われたのは、つい一ヶ月前ほどだ…。
いきなり言われて、最初こそ困惑したものの、魔術師になることの厳しさと痛みを体で分からせて、魔術師になることを諦めさせる機会と思い、苦痛を訴える体にムチ打って、攻撃魔術を使ったのが、運の尽き。
殺さない程度にやったものの、士郎は痛がるとかそういうことより……。
『防げなかったーー!』。っと、絶叫したのだった。
どうやら、己の肉体のみで魔術を防ごうとしたらしかった。
それからというもの、士郎の鍛錬の内容はますます重度のものとなり、最近じゃ握った小石を砕くどころか、砂状の塵にする程度にはパワーアップしていた。
切嗣は、どこで教育を間違えてしまったんだ!?っと頭を抱えて悶々としたが、士郎がそんな風になる心当たりが全くないのである。
そりゃそうだ。
士郎の人格…そしてすべてを形作る支柱である起源は、切嗣ではないからだ。
筋肉魔法の使い手、ユーリ
この世界の何処を探しても見つかるはずのない、その人物こそが士郎を形作っているのだから。
切嗣は、ユーリの名前だけは士郎の口から聞いていた。助けた当初、うわごとのようにユーリの名を呼んでいたのである。
切嗣は、その名前が士郎にとって、兄弟とかそういう身近にいた人物の名前だろうと思っていたが…、その後、切嗣が亡くなる数ヶ月前に、士郎が終始目指している筋肉魔法なるデタラメな筋力を使った力業の元凶であることが判明した。
そりゃもう…、世界中探し回ってでもユーリに報復したいほど恨んだものだ。可愛い義理の息子がデタラメかつ、メチャクチャ過ぎる筋肉魔法なる力業に人生を捧げているのだから。
だが、残念無念。第四次聖杯戦争でボロボロになっていた切嗣は、この世界のどこにもいない人物であるユーリを恨みながら、この世を去るのであった。
そして、切嗣というストッパー(あまり意味はなかったが)がいなくなったことで、これまで以上に己を鍛え始めた士郎は、約17歳の頃、ついに、自身の記憶にあるユーリの勇姿に近い、筋肉魔法を手に入れたのであった。
後書き
切嗣、残念無念。
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