徒然草
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110部分:百十.双六の上手
百十.双六の上手
百十.双六の上手
双六の名人と呼ばれている人にそれで必ず勝つ方法を聞いてみますと勝ちたいと思って打ってはいけない、負けてはいけないと思って打つものである。どんな打ち方をしたら忽ちのうちに負けてしまうのかを予測してその手は打たずに例え一マスでも負けるのが遅くなるような手を使うのがよいのですと答えてくれました。
その道を極めた人の言うことでありましてこうしたことが学者や政治家がやることにも通じます。双六といえどもこうしたことがわかり、またこうしたことを教えてくれる人がいます。それを考えますと双六といえども馬鹿にはできません。むしろこうしたことからわかるものではないでしょうか。何につけても勝とうと思えば欲が出るものであります。しかし負けてはいけないと思うとこれが欲が出なくなるものです。勝とうではなく負けない、そこには心に余裕を生じさせるものもまたあったりします。心に余裕が出来ればそれだけ打つ手も多くなります。考えてみれば勝とうというのはそれだけ力んでしまいます。ですが負けないでおこうと思えばその分だけ力が抜けて楽になるものです。そのうえで少しでも負けないように手を打っておく。逆説的でありますがこれもまた真実でありましょう。実にいいお話ではないでしょうか。何事もそこに余裕がなければ満足に動けるものではありません。力めば妙なことになってしまうのが世の常であります。だからこそ妙に勝とうとは思わない、それよりも負けない。その方がずっといいのではないでしょうか。
双六の上手 完
2009・9・1
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