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ロックマンX~Vermilion Warrior~

作者:setuna
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第13話:Subterranean Base

ルインが次に選んだのはオクトパルドのいる海であり、オクトパルドが占拠した時点で水中戦を想定してはいたが、この動きの悪さは予想以上だ。

動きが地上と比べて緩慢になり、何時もの迅速な動きが行えない。

HXアーマーも水中では自慢の機動力も役立たずになってしまい、FXアーマーも炎を使えず、PXアーマーは電磁迷彩を使えない。

故にもしエックスからプログラムチップを受け取らなければ、ルインの基本のアーマーであるZXアーマーで戦わなければならなくなるところであった。

現在のルインのアーマーは青を基調としたヘッドパーツに二基のウォータージェットとハルバードを装備したアーマーで水中戦に特化したLXアーマーに換装して挑んでいた。

「それ!!」

ルインのハルバードを振るいマンボウ型メカニロイドを両断する。

ハルバードは使い慣れたセイバーと比べれば使い勝手はあまりいいとは言えないが、これから慣れればいいかと考えて奥へと進む。

この先にいるオクトパルドを倒すために。

深海の武装将軍 ランチャー・オクトパルド

元第6艦隊所属で銃火器で全身を武装し、狙った獲物は決して逃さず、常に“手数の多さ”でイレギュラー達を圧倒していた。

作戦や戦闘に美しさを求め、美しく戦う事に至上の喜びを感じ、自らを“水中戦闘のアーティスト”と自称し、長らく周囲に理解されてこなかったが、シグマにその美意識を認められた事から、反乱に加わる事となる。

そして蜂起後は海上都市を襲って海路を遮断している。

「うー、数が多過ぎるよ…エイリア、何とか出来ないかな?このままだとオクトパルドの所に辿り着く前にエネルギー切れを起こしそうだよ。ハッキングでメカニロイドをどうにか出来ないかな?」

地上ならまだしも、慣れない水中では疲労が溜まりやすいためにルインはエイリアにハッキングでメカニロイドを停止させられないかを尋ねた。

『さっきから試みているけど、一筋縄ではいかないわ。時間を頂戴』

通信用モニターの向こうで渋い顔でハッキングを繰り返しているエイリアの姿が映っている。

「(レプリロイド工学のトップのエイリアでも苦戦するなんて…かなり厄介な防壁のようだね)」

やはり反乱軍にハンターベースの優秀な人材がかなり持っていかれたのだろう。

ルインは思わず溜め息を吐いたが、このままじっとしていても何にもならないのでハルバードを構えて突撃した。

しばらくしてようやくメカニロイドが停止した。

「止まった…と言うことはやったんだねエイリア?」

『ええ、状況の報告をお願いルイン』

「うん、視認出来る範囲のメカニロイドは全て停止してるよ。流石だねエイリア」

『了解。それじゃあルイン、先に進んで頂戴』

「分かったよ、軍事施設までの最短ルートをお願い…それからあまり気を張らないでね?多少のミスなら何とか出来るから」

ルインの言葉にどこか固かったエイリアの雰囲気が少しだけ和らいだ気がした。

『ありがとう…軍事施設までの最短ルートは海底都市を駆け抜ける形となるけど、そのルートで構わない?』

「勿論、1分1秒が惜しいからね」

そう言うとジェットを噴かしてルインは海底都市を駆け抜けて軍事施設に向かうのだが、そこで予想外の物を見ることになった。

「何これ?」

海底都市を抜けたルインが見たのは、軍事施設とは程遠い色鮮やかな建造物である。

いや、確かに外観と言うか造形は以前の軍事施設のままなのだが、別物に見えてしまうくらいに塗装が全面的に施されており、例えるなら美術館のようだ。

「オクトパルドらしいと言えばそれまでなんだけど…トラップは無さそうだし…オクトパルドがいそうな場所まで進むしかないかなあ…」

あまり気は進まないが、駆け足で施設内部を進んでいくと1分も経たない内に兎のレリーフが彫られた1枚の扉が見えた。

LUST(色欲)と書かれた扉にルインは首を傾げた。

「何これ?」

『LUST…“色欲”ね。多分だけどキリスト教の西方教会、主にカトリック教会において用いられる七つの大罪と言う人間の罪を分類した物ね。』

「七つの大罪?」

『色欲、暴食、強欲、憤怒、傲慢、嫉妬、怠惰の7つが人間を罪に導く可能性があると見做されてきた欲望や感情のことを指す物よ。この国では七つの罪源とも言われているわね』

「へえ、流石だねエイリア。物知り…と言うことはここは色欲をイメージした部屋なわけだね…あまり気乗りはしないけれど」

ルインはハルバードを握り締めながら色欲の扉を開いて部屋の中を覗くと顔を顰める。

「何これ…?」

『…確かにこれは色欲の名に相応しいわね……』

女性であるルインとエイリアは色欲の部屋の内装に思わず顔を顰めた。

そこは文字通り人間の欲望が凝縮されたような部屋で一本道な通路は様々なピンク色をあしらった塗装が施されており、その目に痛い色だけでも眩暈を起こしそうになるのだが、それ以上に際立つのがルインとエイリアと同じくらいの年齢に設定された女性型レプリロイドのボディである。

数百体に及ぶ女性型レプリロイドは、まるでショーをさせられてるかのような色気のあるポーズで通路を挟むように飾られている。

「ここに飾られてるボディは拐われてきたものなのか、自我をインストールされる前のニュートラルなボディか、それともハリボテかは分からないけど…同性としてあまりいい気分はしないなあ…まあ、オクトパルドらしい感性と言えばそれまでなんだけどね…」

この飾られてるボディを調べるのは調査隊に任せてルインは先に進み、今度はGLUTTONY(暴食)の部屋の扉である。

部屋の中を見るとルインはその中身に目を見開いてしまう。

「エネルゲン水晶の海底鉱脈…成る程、確かにこれを主なエネルギー源にしている私達からすれば“暴食”に相応しいね」

周囲一帯が埋め尽くされる程のエネルゲン水晶。

一平方メートルでの埋蔵量で言えば現時点で発覚している山岳地帯の水晶鉱山よりも遥かに高密度だ。

『もしかしたら反乱軍はここをエネルギー補給の要にしているのかもしれないわね。あなたがここを奪取したらケイン博士に頼んで運び出してもらった方が良さそうだわ。これだけの量なら逆にイレギュラーハンターの重要な補給路になるもの』

「うん、でもこの部屋も結局罠はないんだね」

次の部屋はGREED(強欲)だった。

「うわあ、これは凄いね。銀行の金庫みたい。“強欲”らしさが出てるねこれは」

強欲の部屋はまるで銀行の金庫のように大量の金塊が積み上げられており、部屋も床も天井も全てが金だった。

レプリロイドであるルインも思わず足を止めてしまうくらいなのだから、人間なら欲望を刺激されて全く動かなくなるに違いない。

「まあ、ここにも罠は無さそうだし…先を急ごう」

次の部屋はWRATH(憤怒)の部屋であり、その部屋の中身にルインとエイリアは息を飲む。

そこは正に怒れるレプリロイド達の部屋であり、壁一面に並べられたのはどんな殺され方をしたのか分からない程に歪み、怒り、叫びを上げた鬼面のような表情をしたレプリロイドの生首である。

これは正に“憤怒”の名に相応しい部屋だ。

思わずルインは生首にゆっくりと手を伸ばして、軽く小突くと生首から乾いた空洞音が響いた。

「良かった…」

ハリボテだと分かったことでルインは思わず呟いてしまった。

『でも悪趣味であることには変わらないわ…ルイン、急いでそこから出て貰える?あまり見たくないわ』

「同意見だよ…次は…」

憤怒の部屋を後にすると今度はPRIDE(傲慢)の部屋であり、部屋の中身にルインは表情を今までとは違う意味で顰めた。

「うわあ、これは別の意味で凄まじいね…」

『辺り一面にランチャー・オクトパルドの自画像や彫刻、銅像があるわね』

この部屋にはオクトパルドの写し鏡ばかりで、これだけ集められるなら確かに“傲慢”に相応しい部屋だ。

「早く出ようか、絵や彫刻とは言え大量のオクトパルドに囲まれてると落ち着かないし」

傲慢の部屋を出ると残る大罪の部屋はENVY(嫉妬)とSLOTH(怠惰)のみだ。

“嫉妬”の部屋に入るとやたら高価そうな装備で身を固めたレプリロイドが悔しそうな表情を浮かばせている一般レプリロイドを足蹴にしている部屋であり、元人間であるルインは何となく理解出来る。

恐らく傲慢な上流階級の人間が下層階級等の人間を見下すようなイメージをして作られた部屋なのだろう。

現実でも有り得る光景の為にあまりいい気分はしないが、一応このレプリロイド達を小突くと憤怒の部屋と同様にハリボテのようだ。

これだと色欲の部屋にあった女性型レプリロイドのボディもハリボテの可能性が高い。

嫉妬の部屋を後にして最後の“怠惰”の部屋に入ると、今までとは違う部屋に出た。

他の部屋よりも遥かに広く、ルインが部屋に入るのと同時に扉がロックされてしまう。

そして部屋が水で満たされるのと同時にウツボ型のメカニロイドが床から飛び出してくる。

「怠惰ってそう言う意味!?」

怠惰の部屋がどうやら戦いの場らしい。

この部屋で言う怠惰とは死によって全く動かなくなることを意味してるようだ。

ルインはジェットを噴かしてメカニロイドの背に乗ると頭部を斬り裂いた。

このLXアーマーは水中ではかなりの性能を誇り、地上でもZXアーマーと殆ど同じ機動力を誇るために水陸両用のアーマーなのだろう。

そしてハルバードにエネルギーを最大までチャージして、それを一気に振るう。

「フリージングドラゴン!!」

ハルバードを勢いよく振るうと氷の龍が放たれた。

龍はメカニロイドに向けて牙を剥き、ボディを凍らせていくが、倒すには至らない。

流石にあのメカニロイドは他に比べてそうが硬いが、ハルバードを動きが鈍ったメカニロイドの口に突っ込むと、内部を凍結させる。

極低温の冷気がメカニロイドの内部を破壊したのだ。

「弾けろ」

彼女の言葉に反応するかのようにメカニロイドは粉々になり、凍結したメカニロイドの破片が部屋の照明の明かりに反射して美しい光景を生み出した。

「素晴らしい…」

奥から聞こえてきた聞き覚えのある声は彼で間違いないだろう。

「オクトパルド…」

「そうです。お久しぶりですねルインさん。相変わらずお美しい…いえ、寧ろ美しさに磨きがかかられましたね」

紳士のような態度をする相変わらずのオクトパルドにルインは苦笑した。

「うん。久しぶりだねオクトパルド。君はこんなことはしないんじゃないかと思ったんだけど…」

「私は水中戦闘のアーティストでもあります。ルインさん。だが長らくそれはルインさんと彼…クラーケン以外誰にも理解されなかった」

「シグマがそれを認めたのオクトパルド?クラーケンは君のことを心配していたのに……」

「彼のことは申し訳ないとは思いますが、我々が認められる世界を創るのに、この戦いは非常に意味があります!!」

「そう…残念だよ。君という友人を失うなんてさ」

ハルバードを握り締め、ルインは頭部のジェットで加速し、一気に肉薄するとオクトパルドに向けて振るう。

「甘いですよルインさん!!」

全力のハルバードの一撃をオクトパルドはいとも容易く回避した。

「(やっぱり速い!!)」

オクトパルド自身と触手に装備された推進剤によって水中限定ではあるが、他の追随を許さない機動力を誇る。

「元が地上用レプリロイドとは思えないくらいに素晴らしい機動力です。どうやらあなたのアーマーを切り替えると言う能力の噂は嘘ではなかったようですね」

「何?疑ってたわけ?」

「私は自分自身の目で見ないと納得出来ない主義なので…さあ、ワルツを始めましょう!!」

オクトパルドはそう叫ぶとルインに向けてホーミング性能を持った魚雷を放つ。

「くっ…」

ハルバードを回転させて氷の盾を作り、それを防いだが、しかし立て続けに発射されるオクトパルドの魚雷がルインの氷の盾を破壊する。

「美しい…」

部屋の照明の光を氷の破片が反射することで煌めく水中をうっとりと見つめるオクトパルド。

「この…!!」

戦闘中にも関わらず、余所見をする余裕があるオクトパルドにルインは悔しそうにする。

「さて、行きますよ!!」

凄まじい速度で移動しながらミサイル、魚雷を放つオクトパルドに対してルインはハルバードをチャージする。

「フリージングドラゴン!!」

再び氷龍を召喚し、オクトパルドのミサイルと魚雷を迎撃させると氷龍をオクトパルドに向かわせる。

「甘いですよ」

オクトパルドは機動力にものを言わせ、氷龍から一気に離れると魚雷で破壊する。

「なっ!?」

「お次はこれです!!エクセレントッ!!」

オクトパルドは体を高速回転させ、自身の周囲に竜巻を発生させる。

「…っ!?」

竜巻に引き寄せられるように引っ張られるルインはジェットを最大出力で噴かすことで逃れようとする。

そして竜巻が消えた頃にはオクトパルドの姿は何処にもなかった。

「っ!?オクトパルドは何処に…」

「こちらですよ」

「何!?」

オクトパルドはルインの真上にいた。

ルインが上を見上げた時には既にオクトパルドの全砲門が向けられていた。

「ほら、ちゃんとついてきて下さい!!」

ルインに向けてミサイルと魚雷が一斉に放たれ、水中で大爆発が発生する。

「さようならルインさん。あなたとのワルツは楽しかったですよ」

残骸となったであろうルインにそう言うと背中を向けた時であった。

「勝手に殺さないでくれる?」

「!?」

背後から聞こえた声に反応し、煙から見える影にオクトパルドはミサイルを放つ。

しかしそれはルインの形に似せた氷の像であり、真横から手裏剣が飛んで来るとオクトパルドの触手は全て斬り落とされた。

「そのアーマーは…!?」

PXアーマーを纏ったルインが紫色の球体状のバリアで守られていた。

「…調査を怠ったねオクトパルド。私が切り替えられるアーマーは1つや2つだけじゃないの」

触手を失い機動力と攻撃力の大半を失ったオクトパルドはルインにとって脅威にはなり得ない。

「(ここまでですか…)」

戦闘の要である触手を全て失った今、ミサイルしか武装が残っていない。

だからと言ってそんなものがルインには通用するわけがないと分かっており、ルインがZXアーマーに換装するとZXバスターをオクトパルドに向ける。

「(すみませんクラーケン…)」

目を閉じ、思い出すのは自身の親友のボルト・クラーケンの姿だった。

彼はこんな自身を見たら何と言うだろうか?

“全くあなたは!!”と怒るだろうか?

それとも悲しむだろうか?

どちらにせよ親友である彼を傷つけるのに変わりはない。

内心で申し訳なく思うも後悔は微塵もない。

自分の心のままに従って戦い、死ねるのだから。

「これで終わりだよ、オクトパルド!!チャージショット!!」

ルインのバスターからチャージショットが放たれ、それを受けたオクトパルドは全身に襲う激痛を感じながら叫ぶ。

「…芸術は…爆発なのです!!」

叫んだ後、自然に笑みが零れた。

その理由はオクトパルド自身も分からないが、しかし至福のままに、この命を散らせるのならそれで構わない。

「(さようならルインさん…またお会いしましょう。今度あの世でお会いする時にはお茶をご用意して待っていますよ)」

もう1人の友人に胸中で囁きながらオクトパルドの意識は途切れた。

「さようならオクトパルド…」

かつての友人に頭を下げながら、ルインは簡易転送装置でハンターベースへと帰還する。 
 

 
後書き
ノベライズ版のオクトパルドは本当に影薄かったな 
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