魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epica32とある片想いのお話~Scrya's Love~
†††Sideユーノ†††
ミッドチルダの首都クラナガン、その南にあるホテル・アグスタで開催される考古学会の論文発表会に出席することになっている僕は、発表会のことより今日、無限書庫の未整理区画へと入るヴィヴィオ達のことを考えていた。ベルカ諸王時代のハープスブルク王家が所有していた書物庫をそのまま収めた、4年前の一次調査では特に危険性は無しと判断した場所だ。
(あれから何度か、時間に余裕がある時には調査に入っているけど、危険なものはやはり見つけられなかった)
たとえそれでも、だから安全だ、なんて言い切れないのが辛いところ。でもヴィヴィオ達と一緒に探検するのは、インターミドルチャンピオンシップっていう、10代の少年少女が己の強さを競い合う大会の常連かつ都市本戦の上位選手、さらに言えば一昨年のチャンピオンもいるという話だ。
(それに付き添いにははやてやアインスさん、ノーヴェ、アルピーノ姉妹も一緒だ。多少の問題なら実力で解決できるはず)
とは言っても、僕だって無限書庫のの統合司書長、何か問題があったらすぐに応じられるように携帯端末に注意を払おう。携帯端末を一度確認して、メールを受信してないかを見ておく。時間的に見てもう無限書庫の中に入っているだろうから、今のところは問題ないみたい。
「スクライア先生。そろそろお時間です、ステージの方へ移動してください」
「あ、はい、判りました」
発表中に受信音が鳴るのはさすがにまずいから電源を切っておく。よし、と気合を入れて控え室から発表のステージへと向かう。ステージ上には演台と、僕と同じように考古学会に所属してる学会員が座る長テーブルがある。僕は自分の名前が書かれた会議用席札のある席に座った。
「お久しぶりです、スクライア先生」
「先生、ご無沙汰しております」
「ええ、お久しぶりです、トゥディ先生、ギア先生」
アレク・トゥディ、サム・ギア。お2人は僕より2つ年上だけど、学会員歴としては僕の方が先輩になる。そして僕にとっては姉とも言えるセレネとエオスの彼氏さんでもある。セレネとエオスからお2人を恋人だって紹介された時、嬉しさと寂しさが半々だった。本当の姉弟でもないのにこれほどまで感情が揺れるんだから、本当の姉弟だったらどうなるんだろう。
「今日はですね、僕たちの将来の妻となる彼女たちも来てくれているんですよ」
「A席の、前から3列目です」
観客席の前の辺りに見慣れた顔が2つ。レディーススーツを着た、ミルクティブラウンの長髪を結うことなく流したままにしたセレネと、シュシュで一房に纏めて体の前に流したエレスが居た。化粧をしているようで、とても大人びているからすぐには判らなかった。2人が小さく手を振ってくれたから、僕も応じようとしたけど「えー、それでは――」司会者の進行が始まったことで微笑みだけを返した。
「――これにて本日の論文発表会を終了いたします!」
発表会は粛々と進んで、質疑応答などの時間も無事に終了。僕たち学会員もステージから降りて、発表会を行ったホール前のロビーで関係者の方々のお見送りと挨拶回りとなる。先ほどの質疑応答の時間内で応じられなかった方とも話していると・・・
「アレクさん!」「サムさん!」
「あ、セレネさん!」
「エオスさん!」
トゥディ先生とギア先生の声が響いた。そっちを見るとセレネとエオスが、トゥディ先生たちと合流して楽しそうにお喋りをしていた。僕も同じ考古学者の方々と話す中、セレネ達が気になってチラチラ見てしまう。
(あ・・・)
何度目かのチラ見でセレネとエオスの目とバッチリ合った。でも僕がいま応対中っていうこともあって2人はすぐに視線を外して、トゥディ先生とギア先生に寄り添うように彼らが話してる相手に目を向けた。それから挨拶回りも少しずつ落ち着いてきた時・・・
「きゃあああああ!」
どこからか悲鳴が上がって、ドドド!と雪崩のように学会員や関係者たちがこちらに戻ってきた。中には真っ赤な・・・血のようなものを浴びてる人も居て、僕は「何かあったんですか!?」って誰彼関係なく大声で聞く。
「だ、大隊だ!」
「逃げろ!」
「巻き込まれるぞ!」
「いや! 死にたくない!」
最後の大隊が犯罪者狩りをしている。大隊はあくまで、罪を逃れていていたり、再犯をしていたり、償っていても遺族から怨まれ続けていたりする犯罪者だけを殺害する。何の罪もない一般人が殺害されたことはこれまでにないって、なのは達からは聞いている。だから下手に逃げてターゲットに近づく方が危ない。
「セレネ、エオス! トゥディ先生、ギア先生!」
人波に飲み込まれた4人の名前を呼ぶけど、僕自身も「すいません! ちょっと・・・!」脱兎のごとく逃げ惑う人たちの所為でその場に留まることが出来ない。仕方ない。
「久しぶりの動物形態・・・!」
遺跡発掘に際して便利な小動物形態。ここ最近は遺跡に潜ることがなかったから本当に久しぶりだ。変身を終えた僕はソファの上に避難して、念話で『セレネ、エオス!』って呼び掛ける。
『ユーノ! こっちは大丈夫!』
『今、セレネやサムさん達と逃げてるから!』
『・・・うん、判った。ターゲットが判らない以上、下手に動き回るより他の人たちから距離を取って、ジッと待ってる方がいいと思う』
『ありがとう、ユーノ』
『後で合流しようよ! その方が安心するし!』
セレネからの提案の、騒ぎが収束したらもう一度このロビーへ集まることになったっていうことを、トゥディ先生たちにはセレス達が伝えてくれるそうだ。セレネ達との念話を終えて、大隊が今なにをしているのかが気になった僕は、ガラス張りの手すりの上に登って、そこから吹き抜けとなっている階下を覗き込む。
「っ!!」
そこは真っ赤に染まったロビーだった。死体は5体で、考古学会に所属してる学士と教授、あと見覚えのない老人と青年と女性。大隊のメンバーの証である仮面を付けた男女ペアが1組。
「残りのターゲットは?」
「同志ヴィスタが向かっているわ」
「そうか。しかし同志ヴィスタが犯罪者狩りに参加するなんて、今回のターゲットはよほどの悪なんだろうな」
「これまでに何人もの女性を騙しては捨ててきた男たちだそうよ。被害女性の中には自殺に追い込まれた人もいるって話よ」
「そりゃ殺されても文句はねぇよな」
「ええ、まったく。私が殺してやりたいほどのクズよ」
断罪のターゲットはまだ残っているようで、しかも仮面持ちがこの場から動かないとなると、ここでの合流はかえってまずい気がする。だからすぐに『セレネ、エオス! こっちはダメだ! 合流場所を変えよう!』って念話で伝える。
『あ、今わたし達、地下駐車場へ向かってる!』
『えっと・・・Bの32だって! 車で逃げるって言ってるの!』
『(避難するためとは言え車でホテルから離れるのは、あとあと管理局からの事情聴取などで手間が掛かるんじゃ・・・?)・・・判った、とりあえず僕も急いでそっちに向かうよ!』
罪のない一般人は殺されない。それを解かっていても見つからないように、慎重に動いてしまう。小動物形態になったのは正解みたいだ。仮面持ちの視界に入らないように廊下の端っこを駆け抜けて、地下の駐車場を目指す。
「学者って、頭が良くても人格に問題がある人ばかりですね」
「ああいう連中は、歴史に名前を残してナンボだからな。必死になるのさ、学者同士で潰し合ってでもな」
「だからって研究を盗んだり買ったり、果てには殺したりするんですか? 僕には解からない世界ですよ」
「ま、それも一部なんだろうけどな。どっちにしろ名声を残そうとする奴は頭がおかしいんだよ」
別の仮面持ち達がそう話しているのを聞きながら、なんとかホテルの1階まで降りてこられた。警備員や従業員はバインドで拘束されていて、眠らされたのか静かに寝息を立てている。エントランスには仮面持ちは居ない。脱出するなら今だ。外へと通じる自動ドアの前に立つけど・・・。
(あ! 人間じゃないから反応しない!)
ガーン!と自分の間抜けさにショックを受けていると、ゾクッと背筋に悪寒が走った僕はすぐさまその場から離れる。受付の陰に隠れて、ホテルから出て行く女性仮面持ちの後を追う。外に出られたら後は問題ない。
「えっと、地下駐車場の入り口は・・・!」
エントランス前のロータリーには仮面持ちが1人。ホテルから逃げ出した利用客や従業員たちを一箇所に集めて監視している彼が、自動ドアを開けてくれた女性仮面持ちに「お疲れ様です、同志ヴィスタ!」と敬礼。
(じゃあこの人が残りのターゲットを断罪するヴィスタ・・・)
ヴィスタと言うコードネーム(さすがに本名なわけがない。それにしても、どこの世界の言語だろう)で呼ばれた女性は小さく頷くだけで応えた。ヴィスタは地下駐車場とは別の方角へと向かって歩き出したから、挨拶をした仮面持ちもそちらに目を向けた。今なら見られない。彼らを横目に僕は地下駐車場へ向かう。
『ユーノ! アレクさん達が・・・!』
『ユーノを置いて先に逃げるって!』
セレネとエオスからそんな念話が入ってすぐ、ブォン!と地下駐車場の入り口から1台の車が飛び出してきた。運転席に座っているのはギア先生で、助手席にはトゥディ先生。後部座席にはセレネとエオスが乗っていた。
「セレネ! エオス!」
追い駆けようとしたところで、ガガガとエンストを起こして停車した。焦っている所為だと思うけど、それにしては焦りすぎなような。僕は変身魔法を解除して、車へと近付く。
「ギア先生! 待ってください! エントランス前ロータリーに、従業員や他の利用客が集まっています! 彼らは断罪のターゲットではないので、そこに居れば安全です! そっちで事が終わるまで待ちましょう!」
「ダメだ!」
「僕たちはこのままホテルから離れる!」
鬼気迫る形相で怒鳴ったトゥディ先生とギア先生に、僕とセレネとエオスはビクッと肩を跳ねさせる。何かがおかしい。2人は何かを隠している。そう考えると嫌な考えが湧き上がってきた。信じたくはない。けどまさかという考えももう・・・払拭できない。
「セレネ、エオス! 車から降りて!」
「「え、どうして・・・!?」」
「くそ、動け!」
「早くしろ!」
「いいから降りるんだ!」
後部座席のドアを開けようとしたんだけど、それより早く車が急発進したから「待て!」と走って追い駆けるんだけど、車に人が敵うわけもなく。くそ、と悪態を吐いていると・・・
「ヴィスタ・・・!?」
いつの間にか居たあの女性仮面持ちが車の前に立ちはだかった。車は急ブレーキを掛けながらハンドルを切った影響で後輪が滑って、車体の横っ腹がヴィスタと相対した。ヴィスタがサッと右腕を振り上げたかと思えば、キン!と金属音が鳴って、車が前と後ろとで真っ二つに断ち切られた。
「セレネ、エオス!」
2人が乗っている後部は、ヴィスタがガシッと両手で捕まえることで問題なく停車したけど、トゥディ先生とギア先生の乗っている前部は、後輪の支えがなくなった車体を擦りながら暴走。その間にもヴィスタは、セレネとエオスを気遣って車から脱出させていた。
「アレクさん!」「サムさん!」
街路樹に突っ込んで止まって、エンジンルームから白煙を上げてる車へと駆け寄ろうとしたセレネとエオスだけど、ヴィスタが2人の腕を取ってそれを制止した。2人は痛がったから「その手を離せ!」僕はフープバインドを発動させて、ヴィスタを直立不動の状態で拘束した。自由になった2人は、ふらふらとドアを開けて出てきたトゥディ先生たちに駆け寄った。
「(僕には逮捕権は無いけど・・・)時空管理局、ユーノ・スクライアです! 抵抗せずにそのまま投降してください!」
ヴィスタは首を横に小さく振ると、バインドをまるで紙テープのように簡単に引き千切った。そしてセレネ達へと体を向けて、「セレネ、エオス。あなた達のためなの」と優しい声色でそう言って、仮面と目出し帽を外した。
「「「フィヨルツェンさん・・・!?」」」
「久しぶりですね、ユーノ、セレネ、エオス。わたくしのことを憶えていてくれて嬉しいですよ」
――フィヨルツェンさん。また逢える?――
――ええ。いつかまた、わたくしと遭えるでしょう――
ブラウンの髪に真っ赤な瞳、耳に優しい声。幼少時、僕たちスクライア一族に付いて回っていた、僕たちにとってお姉さんとも言える女性、フィヨルツェンさん。10年以上ぶりの再会だ。でも・・・。
「こんな形で“逢”いたくなかったです」
「いいえ。きっとこういう形で“遭”うと思っていました。わたくしがエグリゴリであり、あなた達がセインテストの関係者である以上は」
フィヨルツェンさんは右手に美術品のような、黄金に輝く大弓を展開すると、トンッと地を蹴ってセレネ達の元へ突進した。フィヨルツェンさんが最後の大隊の一員としてここに姿を見せた以上、ターゲットがこの場に居る。さらに言えばセレネとエオスのすぐ側に。
「アレジアンス、ヴァリアンス。セットアップ!」
「グロリアス、グラヴィタス。セットアップ!」
2人はリボルバー拳銃型ストレージデバイスを両手に展開して、「止まって!」と銃口をフィヨルツェンさんへと向けた。4つの銃口を向けられたフィヨルツェンさんは急停止。“エグリゴリ”である以上、彼女に魔法は通じない。だからどれだけ2人の魔法攻撃を向けても無傷で済むはずなのに・・・。
「セレネ、エオス! ダメだ!」
僕はセレネとエオスとヴィスタとの間に割って入って、「解かっているんだろう? 大隊が狙っているのは・・・!」2人の後ろに居るトゥディ先生とギア先生を見る。大隊に狙われて殺されるだけの罪を犯している。ホテルで聞いた罪状には僕も反吐が出るようなものだった。それをあのお2人が犯しているなんて信じられない、信じたくない。だけど・・・。
「そんなの何かの間違いよ!」
「そうだよ、大隊の方がおかしいんだよ!」
そう言ってお2人を庇うセレネとエオスが「退いてください!」銃口をフィヨルツェンさんに向けたままで言い放った。
「セレネ、エオス。これはあなた達の為でもあります。あなた達が庇っている後ろの男2人はこれまでに詐欺、窃盗、脅迫、傷害・暴行、自殺関与といった罪を犯しています。しかも親の権力や財力で罪をもみ消すその所業、許すわけにはいかない」
フィヨルツェンさんが弓を構える。その瞬間、僕は「トゥディ先生、ギア先生。その手に握ってる物、捨ててください!」と怒鳴る。先生たちの手には銀色に輝く自動拳銃。デバイスなのか質量兵器なのかは判断できないけど、人を害する武器であるのは間違いない。
「「・・・今の、本当の話なんですか?」」
肩を震わせて俯き、弱々しい声でそう尋ねる2人に、「仕方がなかったんだ!」って答えるギア先生。トゥディ先生も「この世界でのし上がるためには、金や権力だけじゃ足りない! 実績が要るんだよ!」って叫ぶように答えた。
「だが君たちも楽しかっただろ!? 俺たちと遊べてさ! 高い服、高い料理、高い・・・!」
「どれもこれも普通の女なら喜んでさあッ! 2人も楽しいって言っていただろ!」
セレネとエオスの表情は窺い知れない。でもどんな顔をしているのかは判る。僕は握り拳を作って「なんだよそれ・・・!」そう言い捨てた。セレネとエオスを使い捨ての道具にされた。これまで僕は人に対して敵意も殺意も持ったことなかった。でもその初めてを今日、持った・・・。
「なんだよそれ! ふざけるなよ!」
「叫ぶなよ! 元はと言えばスクライア! お前にも原因はあるんだぞ!」
何をいきなり言い出すのかと思えば、「はあ・・・!?」わけの解からないことを。
「あんたが、エオスさんやセレネさんをフッたから、俺たちはチャンスだって思って交際を申し出たんだ」
「・・・・・・フッた? 僕が? セレネとエオスを?」
日本には、寝耳に水、と言う言葉があったのを思い出す。今の僕がまさにそれだ。フるどころか告白だってされたことないのに。それはまぁいろいろなスキンシップをされてきたけど、それは姉としての2人だったからで。セレネとエオスを見ても2人は顔を上げないから、真偽のほどはサッパリ・・・。
「俺たちとのデートの最中でも時々出てくるんだよ、あんたの名前が・・・!」
「俺たちは結構本気だったんだぜ? なのに、ユーノなら、ユーノがね、ユーノってば・・・。ユーノ、ユーノ、ユーノ! ふざけんなよ、フッたなら出てくんなよ!」
「そ、そういうあなた達は、罪を犯しておきながら免れている! 償いもしないあなた達に文句を言われる筋合いはない! セレネとエオスを騙して、そしていつかは捨てる? 冗談じゃない!」
「捨てるつもりはなかった!」
「真剣に結婚だって考えていたんだ! こんな形で大隊に狙われるまではな!」
ギアさんがフィヨルツェンさんに銃口を向けた。そんな物じゃ彼女にかすり傷1つ付けられないだろう。そんな彼女は、ルシルの家族をも殺害したセインテスト一族の敵、“エグリゴリ”。親友の敵は僕の敵でもある。でも幼少の頃にお世話になったお姉さん的な人でもあるんだ。僕はフィヨルツェンさんを庇う位置取りに移動。
「ふふ。随分と会わぬ間に紳士になりましたね、ユーノ」
「この件が片付いたら捕まえますので、覚悟しておいてください」
「まあ! 怖いです♪」
「仲良く話してんなよ! 俺たちは殺されるわけにはいかないんだ!」
「セレネさん、それにエオスさんも。俺たちのことを愛してくれているなら、このまま大人しく付いて来てくれな?」
トゥディさんがセレネの頬にキスするように顔を近付けた。カッと燃えるかのような怒りが全身が駆け巡る。
「触れるなぁッ!」
僕がそう叫び、セレネも顔を背けてキスを回避。不満そうな表情を浮かべるトゥディさんが何かを言おうと口を開いたから・・・
「僕は!・・・正直、セレネとエオスが僕をひとりの男として見ていたなんて知らなかったし、気付けなかった! 鈍いにも程があるって思うよ!」
姉弟間のちょっと過度なスキンシップだと思い込んでた。血は繋がってないけど姉弟として一緒に過ごしてきたから。でも違った。恋愛感情を持ってのスキンシップだった、って今聞くと思い当たる節がチラホラ。あーホント、鈍すぎる僕自身に嫌気が差す。
「そんな僕にも言えることがある! 僕だってセレネとエオスが大好きだ! 僕にとって大切な家族なんだ、大事な人なんだ! あなた達のように罪も償わずにいる卑怯者には渡せない!」
「「ユーノ・・・」」
「「この・・・!」」
トゥディさんとギアさんが銃口を僕に向けたから「ここでは死なせはしない。罪を償わせてやる!」ミッド魔法陣を展開。バインドを発動する前にパァン!と発砲された。でも銃弾が当たることはなかった。セレネとエオスがトゥディさんとギアさんにタックルして、2人の体勢を崩してくれたからだ。さらに言えば、フィヨルツェンさんが僕を庇うように立ちはだかってくれたからだ。
「殺します。セレネとエオスとユーノは、わたくしにとっては妹であり弟でもある存在。ユーノを害そうとした殺人未遂、セレネとエオスへの様々な未遂。それだけでその首を刎ねる理由になるので」
「「「待ってください!」」」
フィヨルツェンさんを制止する声が重なる。僕たちだ。僕たちはフィヨルツェンさんの肩に手を置いて、グイッと引いて彼女を後ろに下がらせる。それと同時にセレネとエオスが同時に「シュート!」魔力弾を1発ずつ発射して、トゥディさんとギアさんの持つ拳銃を弾き飛ばした。
「「ぐぅ・・・!」」
「チェーンバインド!」
拳銃を弾き飛ばされた衝撃で手を傷めたのか、トゥディさんとギアさんが動きを止めたところで僕がバインドで拘束。2人は魔導師じゃないから、ここからの反撃も抵抗もないと見ていい。
「アレクさん」
「サムさん」
「「今日までお世話になりました。私たち、別れましょう」」
デバイスを解除してからの両手を前で組んでのお辞儀をして縁切りを告げたセレネとエオス。トゥディさんとギアさんはがっくり項垂れて、「どうしてこんな事に」って漏らした。
「フィヨルツェンさん。彼らは局員に引き渡します。どうかそれで許してあげてください」
「「お願いします」」
フィヨルツェンさんに体を向けて、頭を下げてのお願いをする。確かにトゥディさん達は罪を犯しておきながら、償うことをせずに同じ事を繰り返してしまっている。許される事じゃないのは解かっているけど、ここで殺されるのは間違っている。
「アレク・トゥディ。サム・ギア。セレネとエオスとユーノからの懇願で、あなた達への断罪は・・・」
――スナイプバスター――
「苦痛なき一瞬の死で行いましょう」
「「「っ!!?」」」
バス!と着弾音と一緒にトゥディさんとギアさんの頭が吹っ飛んだ。一拍を置いてセレネとエオスが「きゃああああああ!!」顔を両手で覆って悲鳴を上げた。僕も「ぅく・・・!」吐き気を堪えて「フィヨルツェンさん!」って怒鳴る。
「あの者たちにはもう更生の機会などありません。彼らの親もすでに断罪されています。これは被害者やその遺族からの願いです。あの者たちをこの世から消し去ってくださいという、魂からの悲願です」
フィヨルツェンさんはそう言って弓を消して、脱ぎ捨てていた目出し帽と仮面を付けて素顔を隠した。それは最後の大隊の一員、ヴィスタとしての立場に戻ったということを示す行為だ。
「セレネ、エオス、ユーノ。最期にあなた達とこんな形ですが再会し、お話が出来て良かったです。おそらくもう、二度と会うことはないでしょう。だから・・・さようなら」
泣いていたセレネとエオスも顔を上げてフィヨルツェンさんを見た。僕は「待ってください!」制止の声を掛けるけど・・・
――トランスファーゲート――
現れた空間の歪みの中へと消えて行った。
「セレネ、エオス・・・その・・・」
地面に座り込んですすり泣く2人になんと言って慰めればいいのか判らず、ただ2人の頭をギュッと抱きしめた。すると2人はビクッと肩を跳ねさせると、僕にしがみ付くように腕を回してきて、「うわぁぁぁぁぁぁ!」子供のように大きな声で泣き続けた。僕は彼女たちをあやすように頭を撫でたり背中を摩ったりと、2人が泣きやむまでずっと抱きしめた。
「えっと、ごめんね? スーツ、涙とかでぐっしょり・・・」
「クリーニング代は出すから」
「ううん、気にしないでよ」
首を横に振っていると、涙を拭った2人が僕の前で正座をして並んだ。
「「ユーノ」」
泣いて真っ赤に腫れた目は真剣そのもので、僕も正座して相対した。
「「ずっと、ず~っとユーノのことが好きでした! 愛しています!!」」
それは愛の告白だった。2人は続けて「なのはのことが好きなのは判っているけど、言っておきたかったの❤」と満面の笑顔を浮かべた。僕は確かに、なのはのことが気にはなってる。好きだと考えてもいい。だけど・・・。
(それは2人みたいな、異性として好き、という感情なのかどうか・・・)
一緒にいるのが自然すぎて、恋人とか夫婦とか、そういった関係にならなくてもいいんじゃないか?って考えることがあるんだ。なのはにはすでにヴィヴィオっていう娘もいるし、フェイトやアリシアっていう同居人もいる。
(恋人じゃなくて、昔からみたく親友というか、パートナーとしてこれからも過ごしていきたい)
なのは達は現状で満足しているし、だから僕もそれでいいと思う。
「僕はきっと、なのはとは結婚しないし、恋人にもならないと思う。でもセレネとエオスとも、今はまだ恋人になろうとは考えられないんだ。あ、もちろん2人の気持ちは嬉しいよ。ただ・・・」
そこまで言った時、セレネは僕の左頬に、エオスは僕の右頬にキスをした。
「「今はそれでいいよ♪ いつかユーノの方から、恋人になってください、結婚してください、って言わせてあげるんだから❤」」
その笑顔はドキッとするほどに綺麗で、可愛くて、魅力的なものだった。
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