ロックマンX~Vermilion Warrior~
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第2話:ロックマンX
ルインがイレギュラーハンターとなって瞬く間に数週間が過ぎた。
今回もイレギュラー騒動が起き、ルインはイレギュラーをZXバスターのショットで撃ち抜きながらエックスの方を見ていた。
エックスの動きは悪くない。
バスターの威力も機動力だって申し分ない。
戦闘スペックは他のA級や特A級ハンターと比べても遜色がないくらいに高い。
そもそも、シグマやその他のレプリロイドの元となったエックスの性能が低いわけがないのだ。
「くっ…」
しかしエックスはイレギュラーの動力炉を狙わないようにバスターの照準を合わせているのが見えた。
エックスはハンターとしては優し過ぎるのだ。
その性格が災いして、本来なら特A級の実力を秘めながらB級に甘んじている。
あれではやられてしまうと考えたルインはZXセイバーに切り替え、イレギュラーの両足と右腕のバスターを斬り落として無力化した。
「あ…」
倒れたイレギュラーを見つめるエックスにルインは優しく伝える。
「大丈夫だよエックス。イレギュラーの武器と両足を破壊しただけだから、修理すれば大丈夫だよ」
そう言って他のイレギュラーと戦っているゼロの方を見遣るが、苦戦している様子はないために問題なしと判断した。
まあ、下手に加勢しても邪魔になるだけだろう。
「あ、ありがとう。助かったよ…それに…破壊しないでくれてありがとう」
ルインは倒れたイレギュラーの方を見遣りながらエックスの方を見て笑みを浮かべた。
「イレギュラーだって元は私達と同じだからね。殺したくないっていうエックスの気持ちは分かるよ。修理すれば直るかもしれないんだしね」
ZXセイバーでイレギュラーの武装と足を破壊しながら次々と先へと進んでいく。
「ルイン…」
イレギュラーハンターはイレギュラーに対して効率の関係もあって破壊の措置しか取らないから、エックスのような考え方を甘いという奴は沢山いる。
しかし彼女はそんな者達と違い、自分の考えを尊重してくれたのだ。
「エックス!!バスターで牽制してくれる?イレギュラーの武装と足を破壊するから!!」
「わ、分かった!!」
エックスがバスターで牽制してルインがセイバーとバスターを状況に応じて使い分け、イレギュラーの武装と足を破壊していくのだった。
数十分後、ルインとエックスが相手をしたイレギュラーは全員、戦闘不能にされてはいるが生きている。
「ふう、これで最後かな?お疲れ様エックス。」
「あ、うん……君も…」
「エックス!!ルイン!!」
エックスがルインに礼を言おうとした時、それを遮るようにペンギン型レプリロイドが駆け寄ってきた。
「あ、ペンギーゴ…」
「えっと…君は確か、第13極地部隊の特A級ハンター…だっけ?」
不思議そうにペンギーゴを見つめるルインだが、ペンギーゴは首を傾げるルインを無視してエックスに詰め寄る。
「何故イレギュラーを始末しない?」
「そ、それは…」
「俺達イレギュラーハンターはイレギュラーを排除するのが役目なんだぞ!!それが出来なくてイレギュラーハンターが務まると…」
「今回のことにエックスは関係ない。今回は私の独断だよ。」
「なっ!?ルイン…」
それを聞いたペンギーゴは呆れと嘲笑を浮かべてルインを見遣る。
「はっ…エックスの他にもまだ甘ちゃんハンターがいたのか。こんな奴が特A級ハンターなんて世も末だクワ」
「ペンギーゴ!!そんな言い方はないじゃないか!!」
あんまりな言い方に流石のエックスも声を荒げる。
「たかがB級が特A級の俺に偉そうに説教するな!!ふんっ」
ペンギーゴはエックスとルインを一瞥し、鼻を鳴らすと去っていく。
「やれやれ、あのペンギン君も黙っていれば可愛いのに勿体無いね。さあ、早く行こうエックス。ゼロと合流しなきゃ」
「あ、ああ…」
こうしてルインとエックスはゼロと合流し、共にハンターベースへと戻っていく。
「ごめん…」
「へ?」
メンテナンスルームでメンテナンスを終え、屋上で寛いでいると、ハンターベースの屋上でいきなりエックスに謝られたルインは目を見開いた。
「俺のせいで君が…」
「え?ああ、あのペンギン君のこと?別にエックスは気にしなくていいのに。」
「そうはいかないよ。本来なら責められるのは俺のはずだったのに…」
「私は私の気持ちのままに動いただけ。別にエックスが気にすることじゃないよ」
「でも…」
気にしなくていいと言ってもエックスの表情は全く晴れない。
しかし、エックスがこういう真っ直ぐな性格だからこそ彼女は彼に好感を持てるのだが。
「…さっきの戦闘でエックスの動きを見ていたけど…エックス、君は特A級クラスの力を持ってるんじゃないの?その気になれば」
「え?俺にはそんな力なんか無いよ…」
「そうかな?私はそう思うよ。戦士としての力量は充分だと思うし。エックスの戦いを見た限り…イレギュラーに劣っているようには見えなかった…大体本当に弱かったら第17精鋭部隊に入れないと思うんだけど…」
第17精鋭部隊は文字通り、高性能なレプリロイドで構成された精鋭揃いのためにそこに配属される時点でエックスの能力は優秀のはずだ。
事実エックスは数々の大戦を生き抜いて生ける伝説とまでなったのだから。
「…ルイン。でも俺はいつもいつも失敗してるんだ。今回だって君に迷惑をかけた。こんなことじゃあ…ペンギーゴの言っていたようにハンター失格だ……。」
「うーん……でも私は、エックスのそう言う優しい性格も悪くないと思うよ。あのペンギン君やシグマ隊長達のような戦闘型よりも…君ならきっと違う視点でイレギュラーを見ることが出来るんじゃないかな?」
「え?」
「私もね、ケイン博士と同じようにエックスを信じてる…エックスならイレギュラーに対してのハンター達の指向も上手く変えてくれる可能性を…ね…」
「ルイン……」
「優しさが弱点になるなら私がそれを補ってあげるよ。私とエックスのコンビネーション。即興にしては上出来だったよね!!」
「うん。君が俺に合わせてくれたからね…助かったよ」
「どういたしまして、これからはエックスがバスターでイレギュラーを牽制して私が決めていくってことで」
ルインの言葉にエックスも笑みを浮かべた。
「それにしても…君の言うペンギン君ってペンギーゴのことかい?」
「え?当たり前じゃない。ペンギン型なんてペンギン君の他に誰がいるの?」
2人は朗らかに笑いながら会話を弾ませていく。
「やれやれ…」
今回のペンギーゴの言葉を気にしているのではないかと思って屋上にやって来たゼロであったが、ルインと共に笑っているエックスを見ると杞憂だったようだ。
「ルイン…不思議な奴だな…」
まだ数週間しか交流してないが、エックスのように人間臭く、レプリロイドなのに幽霊のような非科学的なものに怖がるような奴だ。
後、ワクチンを摂取する際は必ず逃げ出そうとしてルインが風邪を引いた時、ワクチンを飲ませるのが大変だった。
『ほれ、お前さん達のワクチンじゃ』
ケインがエックス、ゼロ、ルインに渡したのはナノマシンを粒子状にした粉薬のようなワクチン。
どういう訳かエックス、ゼロ、ルインの3人が同時に風邪を引いたためにケインが3人のために作ったのだ。
レプリロイドだってバグ等の原因によって風邪に近い状態となることがある。
通常のレプリロイドはワクチンプログラムを使えば治るのだが、エックスとゼロとルインは他のレプリロイドとは違い、未解析な部分が多いためにナノマシンを使ったワクチンを使わなければならない。
『ありがとうございますケイン博士…。』
少し怠そうに言うエックスは微熱。
『頭が痛くてイライラしていたところだ。助かる』
熱は無く、頭痛程度で済んでいるのがゼロ。
『………………』
『ルイン?どこに行くんだい?君もワクチンを飲まないと』
ワクチンを摂取し、通常の状態に戻ったエックスがワクチンを摂取しないでこっそりと部屋から出て行こうとするルインを不思議そうに見つめる。
ルインは3人の中で一番症状が酷いので誰よりもワクチンを摂取しなければならないはずなのに。
それに気付いたケインは手に持ったボタンを押すと扉が閉まる。
『!!?』
突然閉まった扉にルインの身体が硬直した。
『今じゃエックス!!早くルインを抑えるんじゃ!!』
『え!!?』
一体何が起きているのかさっぱり分からないエックスは扉を抉じ開けようとしているルインに目を見開く。
『早くせい!!逃げられてしまうぞい!!』
『は、はい!!』
ケインに促されたエックスは扉を抉じ開けようと手に力を入れようとしたルインを羽交い締めする。
『は、離して~!!』
『ルイン、どうして逃げようとするんだ…?』
羽交い締めにされてもジタバタと暴れるルインに困惑しながら尋ねるエックス。
『やだ…』
『え?』
『やだやだやだやだやだ~!!!!そんな苦いワクチンなんか飲みたくない!!ほっとけば風邪なんか治るもん!!』
ノイズが混じった声で泣き叫びながら必死に抵抗するルイン。
『え、ええ!?』
『は?』
ケインが調合したエックス達の専用のワクチンは相変わらず滅茶苦茶苦く、前世の時から苦いのが大嫌いなルインにとってはあまり摂取したくない忌むべき存在。
『ル、ルイン!!?か、簡単には治らないからワクチンを摂取しなきゃいけないんだぞ!!?』
駄々っ子のように手足をバタバタさせながら必死に逃げようとするルインにエックスも必死に抑える。
風邪のせいで本来の力を発揮出来ないルインは何とかエックスでも抑えることが出来た。
『…………』
既にワクチンを摂取したゼロは呆気に取られていた。
『それでも飲むのはやだ~!!お願いエックス、離してよ~!!』
『何の騒ぎかね?』
『シグマ隊長!?』
『うえ!?』
『今じゃ!!!!』
突然のシグマの登場に驚いたルインの隙を突いて、ケインは口の中にワクチンと水を流し込む。
『むぐっ!?……~~~~っ!!!!』
声にならない悲鳴を上げて、ルインはワクチンを飲み込むと床に倒れ伏した。
『だ、大丈夫かいルイン…?』
『う、うぅ~…に、苦いよう……』
『ガキだな…』
あまりの苦さに倒れ伏し、涙目のルインを心配そうに見遣るエックスとそれを呆れたように見つめるゼロ。
因みにやはりワクチンの効果は抜群で一発で風邪は治った。
当時のことを思い出したゼロは苦笑して、2人の部屋に食事を届けに向かう。
当然、食事代は2人のツケで。
「あ…そうだ。ねえ、エックス」
「何だい?」
「今まで気になってたんだけど、どうしてエックスはハンターになろうとしたの?」
「え?」
いきなりのルインの問いにエックスは思わず目を見開く。
「だってエックス、戦いが嫌いなんでしょう?なら、どうしてかなって…」
ルインの問いにエックスは少し沈黙したが、ゆっくりと口を開く。
「……ハンター試験はケイン博士に勧められたんだ。でも結果は散々で腕をバスターを切り替えることすら出来なかった。」
「え?な、何で?」
バスターの切り替えすら試験の時には出来なかったことにルインは目を見開く。
「怖かったんだ。誰かを撃つのが、殺してしまうのが…試験の結果もあってハンターの件は流れそうになったんだけど、ある事件が起きたんだ」
「事件?」
「うん、ケイン博士が一番最初に作ったレプリロイド…俺にとっては兄のような存在だったアルファが修理の時にイレギュラー化して、生みの親であるケイン博士を殺そうとした」
「え…嘘…」
エックスを元にした全てのレプリロイドのプロトタイプと言うべき存在のイレギュラー化にルインは目を見開く。
「本当だよ、彼が突然イレギュラー化した理由は今でも良く分からない。アルファに聞いてもケイン博士を殺して自由になるとしか言ってくれなかったし…そしてケイン博士を殺そうと襲い掛かってきたアルファを…俺が処分した。試験の時は切り替えることすら出来なかったバスターで…」
「エックス…」
「」アルファの件で俺は本格的にイレギュラーハンターとして活動することを決意した。平和のために、せめて目の前の人を守れるように」
「そうだったんだ…その、エックス…ごめんね。辛いことを思い出させて」
エックスの辛い過去を思い出させてしまうようなことをしてしまったルインは申し訳なさそうに謝罪した。
「良いんだよ、悪気があった訳でもないし」
「でも、本当に辛かっただろうね…エックスにとってはお兄さんみたいな人だったんでしょ?そんな人が突然イレギュラー化して…」
悲しげに言うルインにエックスは微笑みながら口を開いた。
「ありがとう、ルイン。みんなアルファは旧式だからイレギュラー化したとしか思ってくれなかったのに…」
「いや、寧ろ最初のレプリロイドだからプロテクトとかは他のより特別製にしてるんじゃないの?私達からしても全然他人事じゃないのに…」
エックスはそれを聞いてハッとなる。
確かにそうだ、ケインは自身が造ったレプリロイドやマシンには深い愛着を持つが、最高傑作であり、若い頃の自身をモデルとしたシグマと初めて造ったアルファには深い愛情を抱いている。
そんな彼が簡単にイレギュラー化するようなプロテクトをするだろうか?
アルファのイレギュラー化はそんな旧式だとかそんな単純な物ではないのではないのだろうか?
エックスの中で深い疑問として残った。
因みに食堂は閉まっており、夕食を食べ損ねたと気落ちするルインだが、ゼロが部屋に購買で買っていてくれたことに感謝したが、ツケであると言う書き置きを見て気落ちした。
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