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徒然草

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101部分:百一.或人、任大臣


百一.或人、任大臣

                   百一.或人、任大臣
 ある人が大臣の任命式を取り仕切った時のことですが帝の直々の任命書を持たないまま壇上に上がってしまいました。それから気付いて失礼極まりないと思いはしたのですが今更その任命書を取りに戻るわけにもいかずただ呆然としていますと康綱の係長がその外見がこれといって目立たない女官に継げてこの任命書を持たせてそのうえで内緒で手渡しました。これまたかなり気が利く人であります。
 いざという時にどれだけ気が利いてそれに適した行動を取れるのか。できる人はそれをしっかりと見せてくれます。この係長はまさにそれで本当にこの人が困り果てているその時にあえて目立たない女官を行かせてそのうえでフォローしました。このフォローできるかどうかもただ人の情を見せるだけでなくその人ができる人であるということを見せるものであります。幾ら学があると言われていても常に呆けていて仕事をしないような人にはこうしたことは決してできはしません。こうしたタイミングでまことに上手に話を収めることができる、それができてこそであります。この人はそれができました。そのうえでこの壇上にあがってしまった人も恥をかくことがありませんでした。誰も困ったことにはなりませんでした。全てはこの係長のおかげであります。そしてそれを誇るような人でもないようです。そのことも思えばさらに素晴らしい人であります。陰徳を積めばそれだけ何処かで生きてくるものであります。この係長もまた同じです。何事も実にいいものであります。


或人、任大臣   完


                  2009・8・23
 
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