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NARUTO日向ネジ短篇

作者:風亜
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【対等で在れるなら】

 
前書き
 和解後の少年篇、ネジとヒナタ。 

 
「ネジ兄さん……わたしに敬称や敬語を使うのは、やめにしてくれませんか……?」

「…………」


 暖かな日差しに包まれる日向家にて、ヒナタとネジは縁側で間を置きつつ並んで座り、二人だけで話していた。


「わたしは、とっくに跡目から外されている身だし……呪印を刻まれて分家に落とされていても、おかしくない立場なのに──そんなわたしに敬称なんて、必要ないんです」

「……当主があなたに呪印を施さない以上、宗家であることに変わりはありません」

 ヒナタは俯いていて、ネジは特に表情を変えず淡々と述べる。


「父上に、どうしてわたしに呪印を刻まないのか尋ねてみても、まともに取り合ってくれなくて……」

「跡目からは外したとはいえ、実の娘に呪印を施すのを不憫に思っているのではないでしょうか」

「そんなのおかしいです、身内にこそ厳しくあらないといけないのに──」

 ヒナタは少し声のトーンを上げたが、すぐに弱々しくなってしまう。


「十分厳しいのでは? 実際あなたは宗家の身でありながら分家の俺と同じように下忍として普段任務についているのですから。……それも時に、死を伴います」

「…………」

 従兄のネジの落ち着いた声音にヒナタは黙って聴き入った。


「里に事あらば、当主とて表には出ますが普段は一族をまとめあげ、ヒナタ様に代わって跡目となったハナビ様に厳しい修業を課している。──宗家の身のあなたを忍の任務につかせ外へ出すのは白眼を守る上ではどうかと思いますが……、呪印を施さないのは当主なりの、あなたへの情けなのかもしれません」

「──いっそ呪印を刻まれて、分家になってネジ兄さんと
対等の立場になった方が、わたしは良かったとさえ思うんです……。対等でありたいと思うのは、わがままなんでしょうか……」

 項垂れたままのヒナタに、ネジは落ち着いた口調を崩さずに言葉を続ける。


「今現在、俺とあなたは対等と言えなくもないと思います。あなたが情けをかけられているのなら俺も似たようなもので、和解後は特に当主自ら分家である俺に修業をつけてくれるようになりましたから。──単に、俺の父の件に対する申し訳なさのようなもので特別扱いされているだけなのかもしれませんが」

「このまま、宗家も分家も関係なく、対等で在れたらいいのに」

「そう、ですね。いつか、本当に──」

 ヒナタは呟くように述べ、ネジはふとナルトに言われた言葉を思い出していた。『オレが火影になって日向を変えてやる』と───


「ネジ兄さんが、それこそ次期当主になることだってちっともおかしなことじゃないし、現当主の父上も本当は、ネジ兄さんが次期当主に相応しいと思っているはずです」

「いえ、それは……それではハナビ様が報われません。幼い頃より次期当主となるべく厳しい修業を課せられているのですよ。そんな軽率に、ハナビ様の努力を無下にするわけにはいかないでしょう」

「そう……ですよね、ごめんなさい……。本来なら、嫡子のわたしがその立場でないといけなかったのに、わたしが弱くて次期当主に相応しくないばかりに、五つ下の妹のハナビに負担を押し付けてしまっているのは他でもない、わたしなんですよね……」

「…………」

 ネジはヒナタの言葉を否定も肯定もするでもなく黙っている。


「ネジ兄さん、わたしに……定期的に修業をつけてくれませんか?」

「俺があなたに……ですか」

「はい。父上は、やっぱり……わたしより跡目のハナビやネジ兄さんに修業をつけることを優先しますし、わたしはネジ兄さんから修業をつけてもらいたいんです。もちろん、ネジ兄さんの負担にならないくらいでいいですから……」

「…………」

 ネジはすぐには答えないが、ヒナタは言葉を続ける。


「ネジ兄さんに、少しでも近づきたくて。あ、えっと、近づきたいというか追いつきたいというか……わ、わたしがこんなこと言うなんて、百年早いですよね。ううん、千年くらい──」

「フ、大袈裟な物言いですね。いや、まぁそうかもしれませんが。……いいですよ、都合がつけばいつでもお相手します」

 不意に笑みをこぼしたネジにヒナタはほっとしたと同時に、笑ってくれたことに嬉しさがこみ上げる。


「えっと、その……わたしとネジ兄さんが対等なら、やっぱり敬称や敬語は必要ないと思うんです」

「そう言われても……そもそもあなたも俺に対して敬語ではないですか」

「それは、わたしがネジ兄さんを尊敬しているからです…! ネジ兄さんは、わたしが宗家だからって理由だけで敬称や敬語を使っているんでしょう? 大体、和解する前は……敬称は使っても割とタメ口だったじゃないですかっ」

「いや、それは……あなたに、理不尽な憎しみを向けていたからで──」

 いつもオドオドしていたヒナタがハキハキと物を言うので、ネジは若干困惑した表情で気後れしている。


「敬称無しで……呼び捨てにして下さい」

「ひ、ヒナタ⋯─さま」


「呼び切れてないです、ネジ兄さん」

 ヒナタは少し頬を膨らませている。


「仕方、ないでしょう。初めて逢った時から、敬称で呼んでいるのですから。あなたはあなたで、俺の事はずっと“兄さん”と呼んでいるし……試しに、呼び捨てにしてみて下さい」

 ネジは顔が少し熱くなるのを感じたがそれを誤魔化すように不機嫌そうな顔をしてヒナタに言葉を切り返す。


「い、いいですよ? ネジ兄──じゃなくて、ネジ……さん」

「あなたも呼び切れてませんよ」

 少しいたずらっぽい笑みを見せるネジにヒナタは頬が熱くなって恥ずかしさでつい下向く。


「あなたが急に俺を呼び捨てにし出したら周囲が不思議がるでしょうから、いつもの呼び方でいいです。それとは逆に俺があなたを呼び捨てにしたら、日向家内で疑念を持たれ兼ねないですし……」

「そんなこと、ないと思う……。わたしは日向家の落ちこぼれだし、表向きは宗家でも下忍として任務を受けて普段外に出ているから、ネジ兄さんがわたしを敬称で呼ばなくなったからって誰も不思議に思わないよ、きっと……」

 ヒナタのその弱々しい言葉に、ネジは小さく溜め息をつく。

「あなたは⋯──ヒナタは、そうやってすぐ自分を卑下したがるのは悪い癖だ」

「え……」

「中忍試験の俺との予選試合で見せた気概はどうした? ヒナタは、ここぞという時にはヒナタなりの諦めない強さを発揮出来ていたはずだ。何度となく倒れても、立ち上がっただろう」

(それは、ネジ兄さんにわたしをもっと見てもらいたくて……それと同時にあの時、ネジ兄さんに殺されてもいいとすら、思ってたから……。ネジ兄さんが苦しんでいたのは全部、わたしのせいだから──)


 ヒナタの心の内は言葉にならなかったが、ネジはそれを察したかのように言葉を掛ける。

「ヒナタは決して弱いわけじゃない。……これから共に、強くなっていけばいい」

「うん……、うん…! ありがとう、ネジ兄さん……」

 ヒナタは申し訳なさと嬉しい気持ちで一杯になり涙が溢れ、ネジはそれを見て少し動揺する。

「な、何も泣くことは……。ほら、ハンカチ」

「あ、ありがとう……ずびっ。──あ、後でちゃんと洗って返すね」


「あぁ……思ったより普通に話せたとはいえ、これからはその……二人だけの時になるべく敬称はやめようと思う。それでいいか、ヒナタ」

「うん、いいよ。……わたしがネジ兄さんに敬語で話さなくても、尊敬してることに変わりはないからねっ」

 ヒナタはやっとネジと対等になれた気がして、気持ちはとても晴れやかだった。

この先もずっと対等で在れたらいいとヒナタは願い、ネジ自身も宗家分家は関係なく仲間として、日向一族の家族として対等で在ることを、願ってやまなかった。



《終》


 
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