【完結】猫娘と化した緑谷出久
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猫娘と神野区異変編
NO.090 供給過多
前書き
更新します。
オールマイトはオール・フォー・ワンの言う『ショー』というものには一切興味を持たなかった。
だが、それが出久が関わってくるともなればどうやっても阻止しないといけない。
「…………ショー、とは何の事だ? オール・フォー・ワン……」
「なぁに、緑谷さんの個性を鑑みれば簡単な事だよ、オールマイト。彼女に、僕のこの傷を治してもらうのさ、君の目の前でね」
「なっ!?」
それを聞いてオールマイトは焦りを感じてしまった。
ただでさえ過去の戦いでオール・フォー・ワンによって重傷を負わせられるまでに至ったオールマイトの腹部の傷。
それを犠牲にしてオール・フォー・ワンは死んだと思っていたのに、蓋を開けてみればこうして生きていて再び目の前に立っている。
オールマイトと同様に弱体化はしているだろうが、それが治るとすれば過去の脅威が再び姿を顕現することになる。
「それとね。ラグドールから奪った個性『サーチ』で緑谷さんの事を調べさせてもらったが……ククク、実に面白い。緑谷さんはなんと『ワン・フォー・オール』を君から受け継いでいるじゃないか。君がなにかと緑谷さんを目にかけている理由が分かったというものだったよ」
「くっ!?」
それでオールマイトは怯む様に焦った顔つきになる。
当然、それを隠れて聞いていた六人は、
「(ワン・フォー・オール……? 何のことだ?)」
「(受け継いだって……まさか、個性をですの!?)」
「(って、事はなにか? 緑谷はオールマイトの個性を引き継いでいるって事なのか!?)」
「(デクちゃんはそんなこと一言も……)」
「(緑谷……)」
五人はそれで色々と考察していたが、ただ一人、爆豪だけはなんとなくだが納得したような顔つきになっていた。
一年前にヘドロ事件の時にオールマイトに救われた自分達。
おそらくその前後で出久はオールマイトとなにかしらの接点を得たのだろうと……。
普段の爆豪なら隠していたことを怒るところだろうが、なぜかそんな気分にはなれなかった。
恐らく、オールマイトから隠してくれとか何とか言われていたのだろうという予想で。
そしてその爆豪の考えは当たっていたのだろう、オール・フォー・ワンは語りを続ける。
「フフフ……先ほどの記者会見は見させてもらっていたが、緑谷さんは将来は苦労するだろうね。唯一『ワン・フォー・オール』の個性だけは隠してもらっていたのだから。
まぁ、君が『ワン・フォー・オール』については隠しておいてくれと頼んだのだろうが、いつか個性を公開するときにはどう説明をつけるつもりだい……?」
「それは……緑谷ガールの個性の一つである『怪力』の力の一部だと……」
「相変わらず爪が甘いなぁ……『ワン・フォー・オール』はそれだけの個性ではない事は君が一番分かっているはずだ。君以前の先代七名から細々と繋いできた僕という脅威を打ち倒すためのタスキだろう? それをまだまだ覚悟が完璧じゃない彼女に引き継がせてしまったのは君の失態だろうな」
そう言ってオール・フォー・ワンは薄く笑う。
だが、オールマイトはそれを即座に否定する。
「そんな事はない! 緑谷ガールは私の後を引き継いで次の『平和の象徴』になりえる力を秘めているからだ!」
「それは……フォウの力も含めてのことかな?」
「ッ!」
それでまたオールマイトの表情が険しくなる。
「図星のようだね。いいかい? 君が思っているほどフォウとその個性は簡単なものでもない。初めて彼女と戦った時は個性の数という暴威がなければ僕も負けていたかもしれないからね。いや、首輪をするのには苦労したものだよ……」
そうしみじみと語るオール・フォー・ワン。
オールマイトはそれでフォウはどれだけの強さを持っていたのだ!?と戦慄の感情を抱く。
そしてマスクで見えない口元でオール・フォー・ワンはニヤリと笑みを浮かべて、
「……だが、今こうして『フォウ』と『ワン・フォー・オール』を兼ね揃えた緑谷さんが僕の支配下にある。それが意味する事は分かるかい? もう『ワン・フォー・オール』の燃えカスしか残っていないオールマイトぉ……?」
それでオール・フォー・ワンの笑い声が響き渡る。
それを出久が人質に取られているために悔しそうに拳を握りながらも見ている事しかできないでいたオールマイト。
「……さぁて、少しばかり無駄話をしてしまったね。そろそろ僕の傷を治してもらおうかな」
「させな―――……ッ!」
「言ったろう? 今は僕の支配下だって……」
出久の首に手を回してオールマイトに手出しできないようにするオール・フォー・ワン。
そんな事をされてまたしても体を強張らせるオールマイト。
その表情はもうかなりの怒りで燃え上がっていた。
「いい表情だね……オールマイト。そこでじっくりと見ているがいい。僕が『悪の帝王』として返り咲くその瞬間を……さぁ、緑谷さん。“命令だ”。僕の事を治療してくれないかい?」
「…………はい、オール・フォー・ワン」
そこで今まで黙っていた出久が無機質な声を出してオール・フォー・ワンの体に手を触れようとする。
「よすんだ、緑谷ガール!! そんな事をしてはいけない!!」
オールマイトは必死に叫んだ。
だが、一回出久は顔をオールマイトに向けて少し見た。
その瞳は何も映していなかった。
……だが、オールマイトはそこで出久の変化にいち早く気づいていた。
それはそうだろう。
出久の瞳の色は緑色だというのに、今は金色に輝いていたのだから……。
それが意味することは……。
「(信じて、いいんだな……? フォウ君……)」
それでオールマイトは沈黙してしまった。
オール・フォー・ワンはそれでとうとう諦めたと感じたのか出久に「さぁ……」と指示を下す。
オールマイトの方を見ていた出久はそれで視線を戻してオール・フォー・ワンの体の傷の治療を開始するかのように淡い光が漏れだしてきた。
その変化はすぐに起こった。
「おお、おおおおお!! 体に力が戻ってくるのを感じるよ!! これだ、これを僕は求めていた!!」
「…………」
オール・フォー・ワンはそれで歓喜の声を上げ始める。
それに対して出久は無言で治療を続けていく。
「もっとだ、もっと僕に生命力の力を……」
オールマイトによって抉られた顔面の傷はまだ治らずとも力が戻ってくるのを感じていたオール・フォー・ワンはまるで酔っているかのように「もっと、もっとだ」と言葉を繰り返す。
そしてもう内面的な治療は終えているかもしれないところで、静かに顔を俯かせている出久の口が動いた。
「オール・フォー・ワン……」
「ん? なんだい? まだ終わらないのかい?」
「一つ聞きたいことがあるの……。私に与えてくれた『許容量限界を無くす』という個性の代わりになるだろう個性は会得しているの……?」
「ん……? いや、会得してはいないが……それよりも、君はもしかして緑谷さんではなく―――……」
それを聞けたのがよほど嬉しかったのか、洗脳されているはずだというのに次第に出久の口元がまるで三日月のように笑みを浮かべている事に、そこで初めてオール・フォー・ワンは何かの見落としと過ちに気づく。
「それじゃー……オール・フォー・ワン。ここで果てて!!」
俯かせていた顔を盛大に上げた出久の……いや、出久の瞳は爛々と金色に輝いていた。
そう、あくまでオール・フォー・ワンが洗脳を掛けたのは出久の方であって、フォウには一切個性の使用をしていなかったのだ。
そこから導き出される答えは、もう簡単だ。
怪異・猫又はついに憎っくきオール・フォー・ワンに牙を向いた。
ただの個性ならオール・フォー・ワンには敵わないだろう。
だが、今フォウには『与える』という個性がある。
『生命力を奪う』個性は出久との約束もあり、使うことはないが、逆に『与える』事なら無限とはいかずともできる。
そして、人一人の許容量に限界がない出久とは違い、オール・フォー・ワンにはその制限がある。
今の今までその質問をする機会を殺意の爪を研ぎながらも我慢して窺っていたのだ。
その結果が今から行われようとしていた。
すぐに逃げようとしたオール・フォー・ワンだったが、ピッタリと密着していた出久から逃れる事叶わず、出久から人の限界を超えた生命力……約1000年分を一気に送り込まれてしまい、それはすぐに効果を発揮した。
「ああぁあああああああ!? なんだ、なんだこれは!? まるで体が四散してしまいそうだぞ!!?」
「もうあと一押しってところかな……?」
さらに出久は追加で50年分の生命力を送り込んだ。
それでついに、オール・フォー・ワンは頭の中でなにかが破裂するような感覚を味わった。
地面に両膝をつきだして、うわ言のように、
「ぼ、僕は誰だ……? 一体……いや、僕は“オール・フォー・ワン”だ! 悪の帝王なんだ……!! だが、そもそも……そもそも……何をして、何をもって……?」
と、まるで錯乱しているかのように意味不明な事を呟きまくっていた。
それで用は済んだのか出久はオールマイトの隣まで脚力強化で瞬時に移動をして、
「フフフフ……これでもうオール・フォー・ワンは終わりだね」
「これは一体……!? オール・フォー・ワンの身にいったい何が起こったんだい!?」
「いいよ、教えてあげる。訳1000年分の生命力を一気に送り込んで『魂』という器がその生命力の量に耐えきれずに破損して零れだしてしまったんだよ。自らの魂に刻まれている記憶とかも一緒に、ね……」
「それは……」
オールマイトはそれで苦い顔になる。
それは、なんと恐ろしい事か。
つまり今のオール・フォー・ワンは廃人に近い状態だという訳だ。
「……それじゃ、オールマイト。後の始末はお願いしていいかな? そろそろイズクが個性の縛りが消えて目覚めてしまうかもしれないから……」
「始末……とは?」
「きっと、まだ完全に記憶が抜け落ちるまでの間に悪あがきをすると思うから」
出久の言葉通り、オール・フォー・ワンは一回オールマイトの方へと顔を向けたと思ったら、
「おぉ! おおぉおおお!! オールマイトぉぉぉ!! そうだ! 僕をこんな目に合わせた憎っくき敵!!」
ついにはオールマイトの事をヴィランと言い出し始めるくらいには倒錯してしまっている。
そして、オールマイトという目標を持ったオール・フォー・ワンは個性を高めているのであった。
「オール・フォー・ワン……哀れな姿だ。私が今度こそケリをつけてやろう。君はもう逃げなさい」
「うん」
そう言って出久はその場から飛び跳ねて姿を消した。
「(あっ! 出久!!)」
「(デクちゃん!!)」
それに気づいた爆豪達も出久の飛んでいった後を追ったのであった。
後書き
ドラゴンボールZ脳な話でした。
いや、悟空の気を吸った魔獣ヤコンという敵がいましたよね?気の量に耐えきれずに破裂した奴。
この小説を書き始めた時からずっとこれをしたくて今回の話になりました。
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