許されない罪、救われる心

第一話　辛い気持ちその八

「っていうか何処かおかしい？」
「あの、あの娘もう一度見てみたら？」
「絶対にそうした方がいいよ」
「あの娘って」
「だから。椎葉さんよ」
　弥生はその名前を具体的に出してみせた。
「椎葉さん。見てみたらいいわよ」
「うん、僕もそう思うよ」
　葉月も言う。
「その方がいいよ」
「別に。そんな」
　如月は戸惑いながら二人の言葉に返す。
「私、ただあの娘が」
「気に入らないっていうの？」
「そうよ。本当に何かいけ好かない感じじゃない」
「だから。実際に会って話をしてみればいいじゃない」
「それでわかることじゃない」
「う、うん」
　二人の言葉に今は頷いた。
「そうしろっていうのね」
「そうよ。それからいい人かどうか見極めればいいじゃない」
「僕もそう思うよ」
「そうなの」
　そう言われてだった。如月は少し弱い顔になった。
　そのうえでだった。彼女は言った。
「それじゃあ」
「ええ、お話してみて」
「人に対する好き嫌いってどうしてもあるけれどね」
　葉月はこのことは認めた。人が人である限り好き嫌いはどうしても存在する。そのことは認めるしかないことだとわかっているのである。
「けれど。それでもね」
「じっくりと話してから、なのね」
「うん、無闇に嫌ったらよくないよ」
　注意するその目での言葉だった。
「それはね」
「わかったわ。それじゃあ」
　ここまで聞いてだった。如月も遂に頷いた。
「そうするわ」
「絶対によ」
「そうしてね」
「わかったわ。それじゃあ」
　如月はその言葉に頷いた。そうしてであった。
　彼女はその転校生椎葉神無と一度話をすることにきめた。しかしだった。
　ここでだ。また長月達が神無を忌々しげに見ながら言っていたのだ。
「何かあいつラクロス部に入るらしいぜ」
「えっ、それマジ！？」
「洒落にならないわよ」
　長月の言葉を聞いた文月と霜月がすぐに言う。
「あいつが何でラクロス部に来るのよ」
「それ誰から聞いたの？」
「昨日の部活の帰りあっただろ」
　長月はこう二人に話す。そこには如月もいる。
「その時に先輩が話してるの聞いたんだよ」
「そうだったの」
「私達先に帰ったから知らなかったわ」
「一年の転校生が入部届けを出してきたってな」
　こう話すのだった。
「それでなんだよ」
「本当なのね、それって」
「嘘じゃないのね」
「ああ、嘘じゃねえよ」
　長月はまた話した。
「それはな」
「何よ、それむかつく」
「冗談じゃないわよ」
　二人は長月のその話を聞いて眉を歪ませた。その結果どちらも醜い顔になっていた。それは長月も同じだった。三人は意識しないうちにそうなっていた。
「何であいつがラクロス部なのよ」
「私達と一緒なわけ？」
「なあ」
　長月はここで二人に声をかけてきた。
「それでな」
「ええ、それで」
「どうするの？」
「あいつどうするよ」
　真剣な顔で問うてきたのだった。
「あいつラクロス部に入るんだけれどよ」
「決まってるじゃない、シカトよ」
「そうよ、シカトよ」
　そうするというのだった。
「冗談じゃないわよ、本当に」
「何であんな奴と一緒の部活なのよ」
「だよな。やっぱりシカトだよな」
　長月も文月と霜月のその言葉を受けて頷いた。
「あんな奴はな」
「そうそう、無視してやろうよ」
「ちょっと頭と顔がいいからって何よ」
「如月もそれでいいよな」
　長月は二人の言葉を受けたうえで彼女にも声をかけてきた。
「あんたもそれでいいよな」
「私も？」
「ああ、それでよくね？」
　こう如月に言ってきたのだ。
「それでな」
「そうね」
　弥生達に約束した言葉が脳裏によぎった。しかしだった。
　長月達との付き合いもある。それに彼女はやはり神無が好きにはなれなかった。その結果長月のその言葉に頷いてしまったのだ。
「わかったわ、じゃあ私も」
「あいつは無視だよ、無視」
「そうね、シカトね」
「あんな奴知らないわよ」
　三人は口々に言った。
　そしてだ。如月もだった。
「そうね」
「何があっても知らないわよ」
「何でラクロス部に来るのよ」
　文月と霜月も言う。彼女達は気付かないうちに入ってはならない道に入ってしまっていた。しかしそれに気付く時は今ではなかった。


第一話　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０１０・６・１９