許されない罪、救われる心
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6部分:第一話 辛い気持ちその六
第一話 辛い気持ちその六
「頭は凄くいいって聞いたけれど」
「顔もって」
「才色兼備?」
「だよな」
しかしであった。ここで面白く思わない者も出るのだった。
それが誰かというとだ。長月達だった。
そのホームルームの後の休憩時間でだ。いきなり男子達に囲まれてちやほやされている神無を見てだ。頬を膨らませて言ったのである。
「何だよ、あれ」
「そうよね、ちょっと顔がいいからって」
長月の言葉に文月が応える。長月と同じ顔になっている。
「もてていい気になって」
「何か嫌な奴じゃない?」
霜月も言う。
「あの転校生って」
「だよな、何かいけ好かないよな」
長月はまた言った。
「ああいう奴ってな」
「私も。好きになれない」
「私もよ」
文月と霜月も話す。
「男に媚びてる感じ?」
「可愛いからってね」
「なあ、如月」
長月はここで如月に顔を向けてきた。
「どう思うよ、あいつ」
「そうね」
三人の話を聞いてだ。如月もそう思いはじめていたのだ。
「何か嫌な奴っぽいよね」
「そうそう、頭がよくて顔がいい」
「それを鼻にかけてるよね」
ここでまた文月と霜月が話す。
「嫌な奴が来たわね」
「これはね」
「あいつ何よ」
如月もその目に嫌悪の色を漂わせている。
「何だっていうのよ」
「本当にね」
「嫌な奴っぽいな」
最初からそうした感情を持ったのである。そしてであった。如月はこのことを家でも離した。テーブルに座って夕食を食べながら両親に言うのである。
「本当に嫌な奴なのよ」
「あら、初日でもう何かあったの」
「私には何もなかったけれどね」
自分と同じ顔の母に対して話す。母は彼女の正面に座っている。
「けれど男に媚びて嫌な感じ」
「そんな娘なの?」
「そうなのよ、嫌な奴なのよ」
御飯を箸で食べながらむくれた声で話す。
「はじめて会ってこんなに嫌に思うなんてはじめてよ」
「そうだな」
ここで如月から見て右手に座っている父が言ってきた。眼鏡をかけて黒髪を七三にして痩せた顔と身体をしている。サラリーマン風である。
「如月がそんなに嫌うなんてないからな」
「そうでしょ?頭がよくて顔もいいからって」
それは認めたのである。
「それでもよ。嫌な奴なのよ」
「そういう奴っているよね」
黒髪の前を切り揃えた男の子が言ってきた。顔は如月に似ている。まだ小学校高学年程の様である。
「何処にでも」
「あんたのところにもいるの」
「いるよ、頭と顔を鼻にかけてる奴」
こう如月に話してきた。
「皆から無視されてるよ」
「睦月のところにもいるのね」
「うん、いるよ」
彼はこう母の問いに答える。答えながらそのおかずを食べている。おかずはほうれん草のひたしに鮭のムニエル、そして大根の味噌汁だった。
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