許されない罪、救われる心
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57部分:第六話 暴かれた時その一
第六話 暴かれた時その一
第六話 暴かれた時
体育の授業の後でだ。女子は更衣室で着替えていた。ロッカーと壁、それとプラスチックの青い机と白い椅子があるだけの無機質な部屋の中である。ジャージから制服に着替えていた。しかしその時だった。
神無がだ。自分が制服を入れていたロッカーを開けて。暗澹たる顔になった。
「どうしたの?」
その彼女に隣にいる弥生が尋ねた。
「まさかまた」
「ええ」
弥生に対してその暗鬱な顔で応える。
「制服が」
「ないのね」
「うん・・・・・・」
頷く。見ればロッカーの中には何もなかった。
「何処なのかしら」
「探しましょう」
弥生はすぐに彼女に話した。
「いいわね」
「うん、じゃあ」
「今度は制服なのね」
いよいよだった。弥生はその顔に明らかな義憤を見せていた。
「それもこの時間にするなんて」
「何かあるの?」
「うちのクラスの誰かかしら」
こう考えだしたのである。
「まさかと思うけれど」
「同じクラスの」
「そうじゃないとおかしいわ」
神無に対しても話す。
「だって。体育の時間を狙ってしたじゃない」
「うん・・・・・・」
「間違いなくうちのクラスよ。こうなったらね」
「こうなったら?」
「誰か探し出してそれで」
考えるものもだった。自分の顔に見せていた。
「許さない、徹底的にやってやるわ」
「徹底的に」
「いじめは許さない」
正義感の強い彼女らしい言葉だった。
「だからよ」
「それでなの」
「椎葉さん、本当にね」
ここまで話したうえであらためて神無に問うてきた。
「心当たりはない?誰がやったのか」
「誰がって?」
「そう、誰がこんなことをするのか」
問うのはこのことだった。
「心当たりない?」
「それは」
「なかったら仕方ないけれど」
弥生はまた失態を犯してしまった。気付かないうちに今の言葉で神無の言葉を塞いでしまった。元々言えないことであってもだ。
「とにかく制服ね」
「うん、探さないと」
「行きましょう」
こうしてだった。弥生は自分も着替えもよそに神無を連れてそのうえで彼女の制服を探しに向かった。制服自体はすぐに見つかった。
しかしである。その制服はだ。ゴミ捨て場にあった。
おまけにずたずたに切り裂かれ落書きまみれだった。そのうえで磔の様に掲げられゴミ捨て場に晒されていたのだ。二人もそれを見た。
その無惨な有様を見てだ。弥生は呆然とした。神無は泣きそうな顔で俯いた。
「酷過ぎる、何よこれ」
「私の服が・・・・・・」
「ねえ」
そしてだ。ここで弥生は神無に顔を向けてここでも問うた。
「本当に心当たりない?誰が一体ここまでするの?」
「それは」
言いたかった。だが言えなかった。それだけ神無のいじめへの恐怖が強くなっていたからだ。それはもう絶対のものにさえなっていた。
それで言えなかった。口ごもる彼女を見てだ。弥生はここでも誤解した。
「なかったらいいけれど」
「うん・・・・・・」
「けれどもうこれ犯罪よ」
弥生の怒りはさらに高まったのは確かだった。
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