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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica29-C大隊の罠~Overture~

†††Sideイリス†††

「おはよ~」

ぐっすり眠った後、2階の共同リビングにやって来たわたしは、馬の蹄のような形をしたロングソファに腰掛けたルミナとクラリスとアンジェとアイリ、テレビのチャンネルを変えてるセレスに挨拶。するとアイリが慌てた様子で「シャル!」ってわたしの元に駆けて来た。

「どしたの?」

「出掛けたルシルとトリシュが全然帰ってこないの!」

「え、そうなの?」

窓の外は真っ暗で、時刻は21時を回ってる。道理でお腹が空いてるわけだ。じゃなくて、「連絡は取ったの?」ってみんなに尋ねると、通信は入らずメールも届かないということで・・・。トリシュがルシルにデートの催促したんじゃないかな~って思ってたけど、これはちょっとおかしい。トリシュの真面目っぷりからして連絡は絶対に入れるだろうし。

「連絡が入らないって言うのは、コールに出ないって感じ?」

「いいえ。コール音すら鳴らない、完全に遮断されているような感じです」

アンジェからの返答に、ますますルシルとトリシュに「何かあった・・・?」と考えてしまう。これなら眠いのを我慢してでもどこへ出掛けるのか聞いておけば良かったと後悔。セレスが携帯端末を取り出して、「トリシュにもう一度連絡してみるよ」って通信を入れてくれるんだけど・・・。

「やっぱりダメっぽい」

「・・・真面目が服着てるような2人が、何の連絡もなしに帰りが遅くなるなんてありえない」

「これは・・・やられたっぽいね」

信じたくはないけど、「大隊が仕掛けてきた・・・?」と考えるのが妥当だ。その辺の雑魚犯罪者に後れを取るわけがないルシルとトリシュを、わたし達に連絡させないほどの速さでどうにか出来るのは、大隊くらいしかいない。

「アイリ! ルシルは、ヴィヴィオ達に渡したミサンガのような、発信機能を持ったアイテムとか持ってない!?」

「うえっ!? えっと、え~っと・・・!」

アイリが腕を組んで考えた結果、「たぶん、持ってないと思う」ってガックリ項垂れた。あちゃあ、とルミナ達が頭を抱える中でわたしは、ヴィヴィオの囮作戦の要になるルシルがそういった類の物を持たずに出掛けるのもおかしいって考えた。確かに今はまだ冬休み中で、ヴィヴィオ達も安全なフライハイト邸で過ごしているから、ルシルもちょこっと抜けてるかもだけど。でもルシルがそんなつまらないミスをするとは思えない。

「リヴィア、もう帰ってきてる?」

「ええ。今はヴィヴィオ達やチャンピオン達と入浴してると思うけど・・・」

「ちょっと行ってくる! みんなは準戦闘用意で待機!」

「あ、アイリも行く!」

ルミナ達の「了解!」って返事を背中に受けながら、わたしとアイリは1階の大浴場へと向かう。まずは脱衣所だ。スライドドアの取っ手に手を掛けると、「あれ? シャル、そっち違――」アイリからの制止。それをスルーしてドアを開けると、真っ先に視界に入ったのは小さなお尻。

「ん? ~~~~~~っ!!!!???? な、ななななな、何やってんのアイリお姉ちゃん、シャルさん!! こっち男風呂!!」

今まさに下着を履こうとしてたフォルセティがわたし達の入室に気付いて、バスタオルを手に取ると同時に体を包んで蹲った。

「うん、ごめん。ちょっと冷静になろうと思って」

「意味が解からない! もう! 服を着るから出てって!」

腰にバスタオルを巻いたフォルセティがズンズン!と大股で近付いて来て、「ほら早く!」ってわたしとアイリを廊下まで押し出した。んで、ピシャン!とドアを閉めた。

「もう! シャルの所為でアイリまで怒られちゃったじゃん!」

「でも焦りは消えたでしょ?」

「そうだけど、そうゆう問題でもないよね!」

プンスカ怒るアイリをスルーしつつ、今度こそ女子脱衣所へと繋がるスライドドアを勢い良く開ける。脱衣所には誰も居ないけど、浴場からはヴィヴィオ達、ジークリンデ達の喋り声が聞こえてくる。浴場と脱衣所を隔てるスライドドアへと歩み寄る。

「ちょい待って、シャル。何する気? まぁ聞かなくても判るけどね・・・」

「焦らず冷静に。でもちょっぴり急いでゴー」

「ダメ、やっぱダメ。訴えられたら負けるよ? いくら自分んちでも」

アイリに手を引っ張られてドアから離されて、そのまま脱衣所からも出された。そこには「何をしてるの、アイリお姉ちゃんとシャルさんは・・・?」フォルセティが居た。どうせ後で知るだろうし、何より仮にも父親であるルシルの話だ。

「ルシルとトリシュが帰ってこないの。連絡がないし、こちらからの連絡は一切届かない。たぶん、最後の大隊が仕掛けてきたんだと思う。ニュースに出ないということは、連中の転移スキルでどこか遠い世界に飛ばされたかも」

「あ、あのね、フォルセティ! ルシルはきっと・・・!」

「うん、判ってるよ、アイリお姉ちゃん。お父さんは、トリシュさんも、大隊なんかに絶対負けない。今もきっと戦ってる!」

「(あぁ、本当にこの子も強い)だね!」

フォルセティが先に自分の部屋へと戻るのを見送り、待つこと数分。ヴィヴィオ達も脱衣所から出てきた。

「あ、シャルさん!」

「お風呂ありがとうございましたー!」

ヴィヴィオ達と手を振り合って、あの子たちが部屋へ向かうのを見送る中、「リヴィア、ちょっといい?」ルーテシアと一緒に戻ろうとしていたリヴィアに声を掛ける。

「ん、なーに? あ、お姉ちゃんは先行ってていいよ」

「ううん、待ってる」

リヴィアとルーテシアに、ルシルとトリシュが大隊に拉致された可能性があることを伝える。でも一方的なものじゃなくて、2人は今もきっと抵抗しているとも。それで「リヴィア。ルシルの居る場所、判らない?」と本題を切り出す。

「私がルシルさんから貰ったプロミスリング、ヴィヴィオ達が拉致された際には自動で座標やら何やら、必要な情報を教えてくれることになってて。ルシルさんが、ヴィヴィオ達と同じリングを持ってるなら、私のリングに何か反応があると思う・・・」

リヴィアが右手の中指にはめたリングを、わたし達の前にまで掲げてくれた。どう反応するかは知らないけど、確かに何の反応を示してないっぽい。腕を組んでう~んと唸るわたしは「最後の希望が・・・」って肩を落とした。

「ねえ、リヴィア。リングって相手側からの一方通行なの?」

ルーテシアがリヴィアの右手を取って、「こっちからは調べられないの?」ってリングをつんつんと人差し指で突いた。わたしとアイリとリヴィアは顔を見合わせていると、リヴィアは「やってみる!」ってリングに触れた。

「ルシルさんは今どこ?」

「「「「・・・・」」」」

その問いに返答はなく。リヴィアは「じゃあ・・・!」足元に藍色のベルカ魔法陣を展開。魔力を生成して、その魔力をリングに流し込んだ。すると「リングが・・・!」淡く光って、リング上に小さなモニターが展開された。

「これ、世界名と座標・・・?」

「ミッドチルダに7つ。・・・7つ?」

「フォルセティとヴィヴィオとイクスとアインハルト、それと・・・予備だね」

「じゃあ、このSpruceは・・・」

「スプールス、第57管理世界!」

ミッドチルダ以外には、スプールスという世界名と座標のみ。間違いなくルシルとトリシュはここに居る。わたしはリヴィアに振り向いて、「お風呂上がりで悪いんだけど・・・」って声を掛けると、「問題ないっす!」ってリヴィアは胸を張った。

「それで、誰が一緒に――」

「アイリが行く! アイリがルシルとユニゾンさえすれば、どんな相手だって勝てるんだから!」

家のセキュリティは万全とはいえ、出来るだけ護衛戦力は残しておきたい。だから「アイリ、出撃!」って指示を出した。

「ヤヴォール! リヴィア、よろしく!」

「うんっ! じゃあお姉ちゃん、シャルさん、いってきます!」

「行ってくる!」

――ケレリタース・ルーキス――

リヴィアとアイリが手を繋ぎ、そして音も無く瞬きの間にその姿を完全に消した。

†††Sideイリス⇒アイリ†††

一瞬の浮遊感の後、「っと!」アイリはリヴィアと一緒に地面に降り立った。そこは廃棄都市区画らしくて、見渡す限り廃墟だった。

「座標はここ。・・・でもかなりの速度で移動してるっぽいな~」

「ルシルとトリシュ、マクティーラに乗ってるみたいだしね・・・」

でもマイスターとトリシュがこの世界に居ることだけでも判っていれば、なんにも問題ないね。アイリは腰に一対の白翼を展開して、リヴィアの手を取って空へと上がる。まずは周囲一帯の確認からということで、一番高い廃墟ビルの屋上まで上がった。

「ルシルの魔力、かなり遠いけど感じ取れる・・・」

廃棄区画の周りはほぼ荒野で、さらに向こうはぐるりと山脈が円形に囲ってる。リヴィアに「ちょっと待ってて」って伝えて、アイリひとりでさらに空へと上がる。山脈の奥には荒野や岩石、砂漠地帯が広がっていて、街がいくつか点在してるのが判った。

「ここ・・・島なんだね」

そして海が広がってた。この島以外にも大小様々な島が列を成してることから、ここは群島水域みたい。それは置いておいて、今はマイスターとの合流を最優先にしないとね。

――曙光神の降臨(コード・デリング)――

リヴィアに方角を伝えようとした時、砂漠地帯にサファイアブルーの光球が発声した。間違いない、アレは「コード・デリング!」だ。アイリは急降下してリヴィアの元へ。

「リヴィア! ルシルを見つけた!」

「うんっ。魔力をここまで感じた! そこまで跳んでみよう!」

――ケレリタース・ルーキス――

アイリがリヴィアと手を繋ぐと同時、視界がスッと白くなって、浮遊感を得る。そして次の瞬間には・・・

「アイリ・・・!? それにリヴィア!」

「どうしてここに!?」

停車してる“マクティーラ”に2人乗りしてるマイスターとトリシュの側に到着。でも2人に言葉を返すより先に「なに、このAMF!?」に驚くアイリとリヴィア。白翼が一瞬にして解除されて、体を重くて自由に動けない。

「こんなAMFの中で魔法なんか使ったんですか・・・!?」

「ああ。このAMFを展開している兵器を潰すためにな」

「私もなんとか魔法を使えるのだけど、件の兵器には魔術しか通用せず、しかもこの強烈なAMFで碌に威力も出せず、役立たずの極み・・・」

よく見なくてもマイスターの顔色は悪いし、額には脂汗が浮かんでる。完全に記憶を失ってるって判るほどの状態。

(アイリが・・・アイリが一緒に付いていれば、マイスターが記憶を失うようなことなかったのに・・・!)

後悔ばかりでアイリ自身に怒りが湧いてきて、自然と悔し涙が溢れてくる。そんなアイリに、「アイリ。助けてくれるか?」ってマイスターが右手を差し出した。そうだ、悔やんでる場合じゃない。アイリはマイスターの融合騎。その真価はユニゾンにあり。袖で涙を拭って「うんっ!」頷いた。

「トリシュ。後は俺とアイリでやる。マクティーラでリヴィアと一緒に離れていてくれ。だが離れすぎないように。分かれたところで各個撃破なんて笑い話にもならない」

「・・・判りました。ルシルさん、アイリ、ご武運を」

「ありがとう。リヴィア。君にもありがとう、助かったよ」

「ううん。ルシルさんにもいろいろお世話になってるし、その恩返し!」

トリシュが“マクティーラ”のハンドルを握って、リヴィアがその後ろのタンデムシートに座った。トリシュがアクセルを開けて、マイスターの目が届く範囲内にだけど後方へは離脱した。これで巻き込まれず、すぐにフォローにも入れるね。

「アイリ」

「うん。アイリは、あなたといつまででもどこまででも共に・・・」

「「ユニゾン・イン」」

マイスターとのユニゾンを行い、アイリはマイスターの内へ。

『マイスター。AMFを展開してる兵器ってどんなの? 殲滅するって話だし、複数いるんだよね?』

『居ると言うか、有ると言った方がいいかもな』

マイスターの言葉に首を傾げてると、ゴゴゴって地面が揺れだした。ところどころにある砂丘が波打って崩れてく。アイリは『なに? なに!?』って、マイスターの内側から見れる外の景色を見渡す。

「来るぞ!」

ドン!と砂塵を噴き上げさせて何かが砂漠から飛び出してきた。それは機械で出来た『巨大ムカデ!?』だった。長く伸びた触角の先端には球体状のクリスタルがあって、そこから『砲撃!』が放たれてきた。マイスターは直立したまま、魔力付加した両手の甲でペシンペシン!と、上空へ向けて叩き逸らした。

『ウル、スタンバイ!』

『ヤー!』

マイスターは突っ込んで来る機械ムカデの上へと跳んだ。頭部には∴の形をした半球状のクリスタルがある。たぶん、アレも砲撃の発射体で間違いない。さらに何十個と連なる体節1つ1つの背中にも大き目の発射体が1基ずつある。発射体が次々光を点してく。発射されるより早く魔力炉(システム)への負荷を減らすべく、アイリのリンカーコアを同調させる。

(ずっと思ってた。アイリはまるで、マイスターの融合騎になるために生まれたかのようだって。魔術式や魔力炉(システム)への干渉や同調。アギトお姉ちゃんには無い、たぶんアイリだけ持ってるプログラム)

イリュリア製の融合騎は、アイリやアギトお姉ちゃん以外にも居た。けどマイスターとはユニゾンしたことがないから判らない。でも、なんとなくだけどアイリだけの能力だと思えてるアイリがいる。

『マイスター、いつでも!』

『ああ!』

マイスターが創り出した魔力弓に、同じく創り出された魔力槍が番えられた。

――弓神の狩猟(コード・ウル)――

射られた魔力槍は数百の矢となって、発射された砲撃を真っ向から撒き散らせながら発射体へと着弾して、完全に破壊した。機械ムカデは甲高い金属音を掻き鳴らしように蠢いていて、ちょっと気持ち悪い。それにしても魔術のウルを受けて、その体が残ってることに驚きだよね。

『あ、なんかAMFが弱くなった・・・?』

『ああ。発射体とAMF発生装置は一緒のようなんだ。ま、一石二鳥だ、嬉しい話じゃないか』

『だね♪』

金属を擦り合せるかのような不快な甲高い音を発しながら機械ムカデが砂漠へと潜行していく。着地したマイスターは機械ムカデを見送って、『つい先ほどまで、俺はアレに苦労していたんだよ』って沈んだ声でそう漏らした。

『まったく、俺も弱くなったものだ。AMF程度に四苦八苦して、アイリが居ないとまともに魔術も使えない』

『こんな事を言ったらマイスターに怒られるかもだけど、アイリはちょっと嬉しい。頼りにしてもらえてるってことだからね』

マイスターは強い。独りでどんな相手でも勝てるくらいに。記憶消失を必要な損失だって割り切れば、“エグリゴリ”相手にだって単独で挑んじゃうって思えるくらいに。でもマイスターはそんな事はしない。記憶はマイスターを支える“力”そのものだから。

(アイリとユニゾンすれば、魔力炉(システム)への付加も減って、マイスターを悩ます記憶消失のリスクを軽減できる)

つまり最後の最後まで、アイリはマイスターと一緒に戦えるということ。それが融合騎アイリにとっての幸せだ。あと出来ればひとりの女の子として愛してくれたら良いな~、なんて♪

『そうか。・・・頼りにしているよ、最期のその瞬間まで』

『・・・はいっ!』

最期と最後。マイスターとアイリの言う“さいご”には妙な齟齬を感じる。解かってはいるんだ、アイリも。ガーデンベルグを斃したら、マイスターも一緒にいなくなるってことは。あーあ、アイリもアースガルドに行きたいなぁ~・・・。

『アイリ、次の一撃で仕留める。ビヴリンディ、スタンバイ』

『ビヴリンディ? わざわざ苦手な土石系? 得意な風嵐系のロータで、砂漠の砂を巻き上げさせれば・・・?』

マイスターが生まれた世界、魔導世界(または原初世界)アースガルド。その世界に生まれた魔術師は、先天的に風嵐系の属性を得る。風迅王イヴィリシリアがその筆頭。マイスターは全属性を先天的に得たけど、アースガルド生まれということもあってやっぱり風嵐系の魔術だけは、他の属性に比べて威力や効果が高い。

『ロータ、か。・・・アレは直接的なダメージを与えるための術式じゃないからな・・・。いや、アイリからの提案だ。ロータでいこう』

『え、あ、でも、アイリが言い出したことだけど、やっぱりマイスターの考えどおりでいいかな~・・・なんて♪』

『そうか。なら、ビヴリンディとロータ、両方で行こう』

マイスターはそう言って、両腕を砂漠に突っ込んでアースガルド魔法陣を展開。

――盾神の暴虐(コード・ビヴリンディ)――

砂が両腕や胸部や背中、両足にも巻き付いてく。そして砂は魔力付加されたゴツイ岩石の籠手、脚甲へと変わり、背中には岩石の腕が6本と浮遊していて、先にある手の甲には円い岩の盾が装備されてる。

戦女神の(コード)・・・!」

籠手が装着されたマイスターの両手に風が集まってきた。両手の平の上で球体状に渦巻く2つ風を1つに合わせると、マイスターは大きく跳んだ。

暴天(ロータ)ッ!!」

そして遠く離れた場所へと投げ捨てた。直径で1mほどの風の塊が砂漠に着弾すると同時、天までそびえる竜巻が発生。さらに竜巻は螺旋軌道で砂漠を回りながら7つに分裂して、それぞれどんどん離れていきながらも砂漠の砂を空へと巻き上げてく。

『行くぞ、アイリ!』

隠れるための砂がどんどん空へと巻き上げられたことで、機械ムカデの姿が視認できるようになった。さらに言えば竜巻に巻き込まれて空に上がってくんだけど、巻き上げられる際の回転の力を利用して、こっちに向かって飛んで来た。

(でも・・・それはカウンターの餌食なんだよね!)

マイスターが左肘を後ろに引くと、背後に浮かぶ6つの腕も握り拳を作って機械ムカデに向いた。機械ムカデは口を大きく開いて、口の中にある大きな砲撃発射体にエネルギーを点した。

「ジャッジメントぉぉぉーーーーッ!!」

放たれる砲撃とマイスターの拳が真っ向から激突。砲撃は籠手を破壊することも出来ずに周囲に拡散して、マイスターの拳は口内の発射体に直撃。発射体は粉々に砕けて、右の拳によるアッパーで頭部を吹っ飛ばした。さらに背後の6つの腕も次々と機械ムカデの胴体に殺到して、ボッコボコに殴ってスクラップにした。機械でも頭を失ったら停止するようで、機械ムカデは完全に機能停止。

『ふぅ。お疲れ、アイリ』

『マイスターも、お疲れ様~』

お互いに労った後マイスターは「トリシュ、リヴィア、帰ろう!」って避難してた2人に声を掛けた。とりあえず、ミッドに帰るまでは念のためにユニゾンしっ放しでいることにして、マイスターとトリシュがリヴィアと手を繋いだ。

「準備はいい?」

「ああ」「ええ」

『いつでも帰れるよ!』

リヴィアに念話でそう答えながらもアイリは周囲を警戒。マイスターもトリシュもしてるけど、眼は少しでも多い方がいい。竜巻によって巻き上げられていた砂が雨のように降り注ぐ中、アイリ達は・・・

――ケレリタース・ルーキス――

リヴィアの転移スキルでミッドへと無事に帰ることが出来た。

・―・―・―・―・―・

ここ第57管理世界スプールスはデッドサウス群島、第3島にて行われた、航空装甲列車ベールシャメン、戦術級装甲車両オーガⅡ、AMF-E搭載型移動要塞エキドナの試験運用。相手は最強クラスと名高いルシリオンとトリシュタンだった。結果は見てのとおり大失敗。試験機とはいえ、大きな痛手だ。

「やはり最強格の魔術師相手では、マスターの造ったAMF-Eでも大して効果がありませんでしたね。試験運用の相手にルシリオン君をわざわざ選んだのですが、残念・・・」

「そうね~。まぁトリシュタンには通用するようだけど~。オランジェ・ロドデンドロン隊には魔術を発動できないアンジェリエ、クラリスもいるわ~。トリシュタンもそうだし~。それに・・・」

第3島を見下ろすことの出来るデッドサウス群島で最も標高の高い山の頂、そこに仮面持ちが3人と居た。1人は豊満な胸を持つ女性、他2人は少女で、女性を主として扱うように側に控えている。3人ともウサギの仮面を被っており、セーラー服の上に白衣を纏っていた。

「ルシリオン君の弱点も判ったわ~」

ルシリオンの名前を親しそうに呼んだ女性が展開したモニターにはアイリが映し出されている。

「ユニゾンさえさせなければ~、AMF-Eの状況下限定で~・・・ルシリオン君を殺せるわね~」

間延びした口調で断言した女性仮面持ちに、「マスター。次はどうすんの?」ともう1人の少女が尋ねた。

「次など無いわね~。大隊は失敗したもの~。ルシリオン君とトリシュタンを逃がした、つまりは反撃の機会を与えちゃったってことよ~。明日か明後日か、何かしらの手段を用いて仕掛けてくるわ~」

大隊にとっては危険な状態だが、マスターと呼ばれる女性からは危機感を感じない。その返答に対し少女は「あはは! マスターとフィヨルツェン様の所為じゃん!」と大笑い。

「話は変わりますけど、同志グログから報告にあった、彼らが本物と偽者を区別できたというアレ。どういうことでしょう? 区別が出来るような失敗はしていませんが・・・」

「あぁ、それわね~。考えられるのはテロメアの長さね~。元より身代わり用のクローンは使い捨て前提だもの~。そこまで本物に似せるのは手間が要るもの~」

ルシリオンが本物と偽者の差が何か気付いたという話がやはり、大隊側へと流れていた。つまりあの通信に参加した者の中に、偽者が紛れ込んでいるということだった。

「まあ、どちらにしろ~。フィヨルツェン様がそろそろ大隊に見切りを付けると言っていたもの~。1週間以内に滅ぼされるわよ~」

大隊への未練など微塵もないのかそう言ったマスターは「じゃあ帰るわよ~」と踵を返し、少女2人が「かしこまりました」「う~っす」と返事をした。

――トランスファーゲート――

何も無い宙に歪みが生まれ、3人の仮面持ちはルシリオン達が居なくなったのを確認した後に歪みへと歩みを進めた。
 
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