【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -
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番外編
【番外編】十五番目の弟子の回想
僕はミアと言います。十一歳です。
このたび、マコトさんの十五番目の弟子になりました。
それまでマコトさんのことは知らなかったので、弟子入りは自分から言いだしたわけではありません。
ある日突然、父に
「弟子入りの話が来ているがどうする?」
と言われたのが始まりです。
「軍の参謀さんからお誘いを受けた」と聞きましたが、詳しい経緯はよくわかりません。
もちろん、驚きました。
「師匠は人間だ」と言われたこともそうなのですが、僕は体が弱かったので、徒弟としてどこかに入るのは難しいだろうと言われ続けていたためです。
でも、ずっと家にいても、母のお手伝い以外にやることがありません。
僕でもいいのなら、ということで、
「弟子入りしたいです」
と答えました。
ちなみに、僕の父は城で働いていまして、主に宰相様の世話をしているそうです。
前に一度だけですが、宰相様と父が一緒に街を回っているところを見かけたことがあります。
まったく和気あいあいとはしておらず、あまり仲がよさそうではありませんでした。
どうしてなのかはよくわかりませんでした。
弟子入りを決めた次の日の夜。
父や母と一緒に、マコトさんのいる魔王軍参謀さんの家へ、挨拶をしに行きました。
到着した家は全部木でできていて、とても変な造りでした。
金髪の参謀さんが、人間の家に似せたと言っていました。
その理由について長々と説明を受けましたが、よくわかりませんでした。
仕事は完全に肉体労働と聞いていたので、僕の体が弱いことについて、何か言われるかもしれないと思いました。
でも、マコトさんは一通り仕事内容の説明を終えると、ちゃぶ台の向こうからこちらにやってきて、僕の手をスッと取って、
「うん。いい手だと思うよ。よろしくお願いします」
そう言って、ぺこりと頭を下げてきました。
なぜいい手なのかはよくわかりませんでした。
次の日、つまり弟子入りした初日のことです。
少し早めに治療院に行ったのですが、マコトさんはもう来ていました。
そして他の兄弟子さんたちと一緒に、掃除をしていました。
「マコトさんは師匠なのに掃除をやるんですか?」
少しびっくりして、そう質問してしまいました。
「うん。専門学校で病理学を教えてくれた先生がさ。『物をきれいにすることは、心をきれいにすることなんだよ』って言ってたんだ。弟子が何人いようが、やったほうが自分のためにもいいのかなって思うよ」
マコトさんはそんなことを言っていた気がします。
難しくてよくわかりませんでしたが、僕も一緒に掃除しました。
弟子入り一日目は、受付と施術室を行ったり来たりでした。
治療院はとても忙しく、僕のようにまだ施術できない弟子にも、雑用の仕事がいくらでもありました。
診療時間終了後の勉強会にも参加し、マッサージの基礎を教わりました。
でも、ずっと立っていることに慣れていなかったせいか、終わったころには少しフラフラになってしまいました。
もう帰るだけだから大丈夫と思い、特に誰にも言わなかったのですが、マコトさんにはバレてしまったようです。
「大丈夫? 初日から無理させて悪かったね。心配だから家まで送っていくよ」
マコトさんはそう言ってくれました。
なぜバレてしまったのかはよくわかりませんでした。
「たぶん家まではたどり着けると思うので、大丈夫です」
僕は、初日からいきなり迷惑をかけてしまうのは申し訳ないと思って、そう返しました。
でもマコトさんは「いいのいいの」と言って、外出用だという鎧を着け始めました。
真っ黒で、見かけがものすごく怖い鎧でした。
どうしてあんなに怖いデザインなのかはよくわかりませんでした。
マコトさんは僕を背負ってくれました。
鎧は硬かったのですが、冷たくはなかったです。
マコトさんが揺れないように気を付けてくれていたらしく、気分がより悪くなることもありませんでした。
帰り道の途中、「大変ですよね、申し訳ありません」と謝りました。
でも、マコトさんは「気にしない気にしない」と笑って、
「弟子って抱えるものじゃなくて、背負うものだと思うからね。そのほうが責任の重さを肩でしっかり感じられそうだしさ」
と言いました。
意味はよくわかりませんでした。
家の前に着くと、マコトさんはゆっくりとしゃがみ、僕が降りやすいようにしてくれました。
「ありがとうございました」
僕がそうお礼を言うと、
「いいんだって。師匠としては、体調不良の弟子を家まで送るのは当然だと思うよ? 通勤時間も労働時間だからね。何かあれば労災認定もされるし。それに、『家に帰るまでが遠足』って言うでしょ?」
そんなことを言われました。
何を言っているのかよくわかりませんでした。
最後に、マコトさんは鎧の籠手を外して、僕の頭を撫でてくれました。
「じゃあ、いい夢見てね……あ、でも悪い夢でも大丈夫だよ。悪夢って、現実世界での問題点を洗い出してくれることもあるんだ。だから、現状で何か思い当たることがないかどうか分析して、これからに役立てていけばいいと思う」
そう言って、マコトさんは来た道を戻っていきました。
どういうことなのかよくわかりませんでした。
父はもう家に帰ってきていました。
「どうだった?」
と聞かれました。
「何がなんだかよくわかりませんでしたが、これから毎日が楽しくなりそうです」
僕はそう答えました。
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