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許されない罪、救われる心

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29部分:第三話 歪んでいく心その七


第三話 歪んでいく心その七

「そんな奴だから何をしてもいいじゃない」
「そうそう」
「だよな。そういえばよ」
 長月がここで言った。
「転校生っていえばな」
「ああ、また一人来るんだって?」
「確かそうよね」
 文月と霜月は今度は長月の言葉に応えた。
「一体誰かしら」
「男?女?」
「確か男らしいぜ」
 長月はこう二人に答えた。
「何か名前はな」
「うん、何ていうの?」
「名前は」
「岩清水とかいったけれどな」
 長月は二人の問いに首を傾げさせて考える顔で返した。
「何かそういう名前だったな」
「岩清水?」
「下の名前は?」
「それはわからないんだけれどな」
 首は傾げさせたままだった。考える顔もである。
「そろそろ学校にも来るらしいぜ」
「どんな奴かしらね」
「格好よかったらいいけれどね」
 二人の表情は今は普通の女子高生のものだった。少なくとも歪んだものはなく至って明るく日常的なものであった。だがそれにも彼女達は気付いていなかった。
「そうよね」
「私達今フリーだし」
「彼氏ねえ」
 如月は二人の話に入って目を数回しばたかせた。
「私は今はちょっと」
「いない?」
「あんたも?」
「うん、中学の時に別れてね」
 こう三人に答えたのだった。
「それっきりよ」
「そういえば二年の時にはいたよな」
「ええ、あの時はね」
 長月の問いに対しても返した。彼女もまた考える顔になっている。
「キスもしていなかったけれどね」
「何だ、プラトニックだったのね」
「彼とは」
「うん、同じ陸上部が縁で」
 それで付き合っていたというのである。
「卒業してそれで終わりだったわ」
「高校変わったらね。それで終わりになるわよね」
「みたいね。一緒のところにいないと」
 文月と霜月は今一つ実感できていない顔であった。二人はまだ交際相手やそういったものを持っていないからこその言葉と顔であった。
 そしてであった。二人はさらに話すのだった。
「それで自然消滅しちゃうのね」
「あっけなくって感じで?」
「うん、そうなのよね」
 如月は首を捻りながら述べた。
「やっぱり」
「自然消滅ねえ」
「それで終るのね」
「うちもそうしたことは知らないけれどな」
 長月もこうした意味では二人と同じであった。交際したことはなかった。
「ちょっとな」
「けれど如月もキスとかしていないっていうし」
「結局何もなしってことなのね」
「ううん、キスとかはね」
 如月の顔は晴れないものになっていた。彼女はそうしたことにはまだまだ疎かった。
 
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