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ツインズシーエム/Twins:CM ~双子の物語~

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ツインレゾナンス
  第24話 続き得た未来の可能性


「あのー、すみませーん」

──すみませんって、何か用なのか?

「起きてください」

──起きてくださいって、俺死にかけだと思うんだけど……

「あの、図書館で寝ないでもらえますかー?」

──としょ……かん?

 魔法を食らって倒れていたはずなのに、何故寝ていると見られたのか。そもそも森にいたはずの自分が、何故図書館にいるのか。

 連鎖して次々に浮かぶ謎を解明すべく、エースは顔を上げ、目を開けた。

「あの、試験勉強でお疲れなのは十分分かってるんですけど……図書館で寝るのは止めてもらえませんか? 他の生徒の迷惑になる可能性もあるので……」

「え、あ、はい……すみません。気を付けます」

 自分の状況を把握するのに少しだけ時間がかかったが、図書委員に注意されれば嫌でもある程度は分かる。そして周囲を見回せば、たくさんの本が丁寧に所狭しと置かれた本棚がいくつもあった。

 どうやらここは本当に学校の図書館で、自分は今放課後の学習に来ていて、その学習の途中で眠ってしまったようだった。


──じゃあ、あれは夢だったのかな……?

 これまでエースがいた森の中は、自分の家の近くにある森とほどんど変わりなかった。加えて、そこにいること自体はあり得ない話ではない上に、妙にリアル感のある細かい設定が随所にあった。

 そのリアルさのせいで、どうやらエースは現実と混同してしまったようだった。

「おっかしいな……。ちゃんと睡眠時間とってるはずなんだけどなあ……」

 横に置いている参考書を見ながら、エースは独り言を呟いた。これでも毎日きっちり睡眠時間をとっているはずなのだが、突然眠くなってしまうことがたまにある。何故なのかはもちろん分からない。

──まぁいいや。考えてもしょうがないし、勉強しよ

 そんな考えても仕方のない、もしくはほぼ確実に分からないことを考えるのは時間の無駄になるため、エースは好きではない。気分転換も兼ねて、参考書の山から1冊取り出して勉学に取り掛かることにした。


 それから15分後、ペンを持って唸ることになるエース。再び考えても分からないことに直面するが、先ほどとはそもそもの種類が違うので今回は必死に考える。

 しかし、どんなに頑張っても思い出せない。思い出せそうで出せない、テストなどでよくある感覚になる。結局正解が思いつかず、ギブアップするしかなかった。

「はぁ……わっかんねぇ。ミストに聞いてみるか」

 しかしながら、解けないと今後の試験に支障が出てしまうので、エースは一番頼りになるであろうミストの知恵を頼ることにした。手っ取り早く教材をカバンにしまいこみ、図書室を出たその足は3階へと向けられていた。





 多分まだ教室にいるはずだという推測が当たり、普段エースがいる教室には他の女子と楽しそうにしているミストの姿があった。

 その手元には参考書があるが、手が止まっているのを見るあたり雑談込みになっているのだろう。もっとも、エースと違って要領よくやるタイプなので、それでも問題はない。

「おーい、ミスト、分かんないとこ教えてくれ」

 教室の外からミストに声をかけると、呼ばれたミストは一つため息をついてから出て来た。

「ちゃんと自分で考えたの?」

「考えてこれなんだが」

「そう。居眠りとかしてない?」

「ギクッ」

「やっぱりしてたのか……はぁ、全く」

 そうは言いつつも毎回きちんと教えてくれるミストに感謝しつつも、エースは参考書の詰まったカバンを一度置いて、必要なものだけを取り出した。指をずらしながらページをめくり、聞こうとしていた箇所を探し出す。

「そのいつもに関して1つ聞きたいんだけどさ、なんで君は真っ先に僕のとこ来るの?」

「いやだって弟だしさ。一番身近で聞きやすいじゃん」

 その途中でミストに聞かれた質問に対して、視線をミストに向けることなく、またなんの迷いもなく言ったエースの言葉。

 それに対してミストが首を傾げるまでにかかった時間は、誰もが認識出来ないほどに短かった。

「君は何を言っているんだい? 確かに顔は似ているって言われたことはあるけども、君と僕は赤の他人だよ。その証拠に、僕の誕生日は君の一日後、12月26日だ。それに僕の姓はスプラヴィーン、君の姓はフォンバレン。全然違うじゃないか」

「それは…………そうだったっけ?」

 言葉ではそう返しているが、内心では自分で言っておいて確かにそうだよな、と納得するという、行動が矛盾している状況。なぜこんなことになったのか、エース自身にも分からない。

「幼い頃からの付き合いである君って親友の誕生日を簡単に忘れるほど物忘れひどかったっけ? 姓は普段使ってないからしょうがないかもしれないけどさ」

「うーん……いや、今日なんか変なんだよな。朝きちんと寝たはずなのに、さっき図書館で寝てて図書委員に起こされたしさ。おまけに見た夢は殺される夢だったけど」

「夢の内容は置いといて、それは君割といつものことじゃなかったっけ」

「……だっけ? まぁなんにせよ、気を付けないとダメだなー」

 確かに居眠りは割と日常茶飯事だった気がしなくもない。

 だがそれとは別に、エースは今自分が夢を見ているわけではないのに記憶があいまいになるこの状況に違和感を感じていた。何かしらの病気か、もしくは疲労の蓄積によるものなのか。原因は分からないが。

「んで、結局何しに来たんだっけ」

「分かんないとこ教えてくれ、って奴」

「なるほど、ちょっと見せて」

 エースは自分の参考書を開いて、該当箇所をミストに見せた。一通り眺めたあとに、ミストの口からその答えが出てくるのに時間はかからなかった。

「この故事成語、『胡蝶の夢』って奴だね」

「胡蝶の夢……っていうとなんだっけ。聞いたことあるような気がする」

「どこかの国の古い言い伝えでね、ある人が蝶になってひらひら飛んでる夢を見て目覚めたんだけど、今の自分が蝶の見た夢なのか、蝶が自分の見た夢なのかどっちなんだろうって迷ったってお話だよ」

「へー……」

「ちなみにこの話、1週間前にされたばかり」

「へ、へー……」

 ほとんど間を置かずに意味の違う同じ言葉を言うことになるエース。視線を泳がせて、なんのことかな、とでもいうようなバレバレのとぼけ方をする。

「じゃ、じゃあ、さっき俺が見た夢の中の俺がホントで、俺が夢かもしれないってこと?」

「古い言い伝えだから、そこまで気にしなくてもいいと思うんだけど。疑うなら今頬を引っ張れば?」

「あ、そっか」

 ミストに言われるがままに、エースは自分のほっぺたを軽く引っ張ってみた。伸ばされた皮膚に引っ張られた筋肉が、エースに痛みを訴えていることがすぐに分かる。

「どうやら夢じゃないっぽい」

「よかったね。聞いた感じ夢の中の君は、試験勉強なんてしてる場合じゃないくらい苦労してそうだし?」

「ああ。あ、教えてくれてありがとな。助かった」

「別に来てもいいけど、他の頼り口を探しておきなよ」

「りょーかい」

 何故か今この場から逃げ出したくなったエースは、使った参考書をもう一度カバンに収めてから教室を離れた。その背後では、ミストが他の生徒に何かを聞かれているのか、再び会話の声がしていた。


「なんかスッキリしないな……」

 それは、分からない問題に対してのものではない。解答を聞いているうちに心の中に居座り始めたモヤモヤを意識し始めたことで漏れたものである。何故モヤモヤし始めたのか、どうすれば晴らすことが出来るのか、それらが一切分からないエースには、帰宅の途につく以外の選択肢はなかった。






* * * * * * *






 家の位置は、先ほど夢で見た森の中にある道を抜けた、通りから少し離れた場所。帰り道の途中、夢の中の自分がいたであろう方向を少しだけ見つめて、それから黒塗りの自宅へと戻ってきた。

「ただいまー」

 いつものように玄関から中に入り、リビングまでの道をたどる。ここもまた、夢の中と変わらない場所だった。

「お帰りなさいエース。今晩御飯作ってるから」

 少し違うとすれば、キッチンで母親が料理を作っている光景がそこにあることくらいだ。声を聞いて、エースは思わずその場に立ち止まってしまった。

「どうしたのエース。ぼーっとして」

「ああ、いや……なんでもない」

 母親が家で出迎えてくれるということが、何故だか新鮮味を感じる。当たり前の光景に、ありがたみも感じる。しまいには涙すら出てきそうになるのをこらえて、部屋の中へと入った。

「で、今日の学校はどうだった?」

「どうだった……って言われてもなぁ。別に何もなかったよ」

「ガールフレンドとも何もなかったの?」

「ガールフレンド……って違うよ。スプリンコートさんはそんなんじゃないって」

 言っておいて、エースは思わずハッとしてしまった。母親はガールフレンドが誰か、ということに関しては詳しく言っていないことに気づいたからだ。自らの失言にやらかしたという想いでいっぱいになる中、そんな息子の心の内を知らない母親が追撃の如く聞き返してくる。

「ん、スプリンコートさん……って誰の事?」

「母さんによく似た声の、リボンカチューシャをしてるクリーム色の髪した女の子だって。見たことないっけ」

 聞き返されてはもう無理だと、エースは半ば諦めムードで答えを返していた。母親は少し思案した後、思い出したのか手をポンと叩いた。

「えーと……ああ、そんな子いたわね。可愛らしい女の子だったけど……あの子がガールフレンドなのね。前に行った時に親しくしてたし、てっきりプラントリナさんの方かと……」

「だからそんなんじゃないっての。てかその2人を見間違えるって……」

「よく似てるものね。双子かと思っちゃうくらい」

「双子……って、それ、絶対に人前で言うなよ」

「あら、なんで? 何の問題もないでしょ?」

「え……」

 その言葉に、エースは絶句した。

 双子が忌み嫌う世界に溶け込めるように隠し、それで生じる苦労とは、一体何のためにあったのか。

 そんなことを考えておいてから、エースはそれが夢の中のことであったことに気づいた。長く濃い夢を見過ぎたせいで、どうやら考え方まで感化されてしまっていたらしい。

「そうだよな。ちょっと明日聞いてみる。俺とミストみたいな感じかもしれないからな」

「ミストくんね……。エースとすごくそっくりよね。それこそ双子なんじゃないかと思うくらいに」

「ホントそうだな。でも世の中には似ている奴が3人はいるって話だから、案外あり得る話かもよ?」

 そんな感化された自分の考えをねじ曲げるように、エースは母親に同調する。何かが軋む感覚は無視して、さらには強引に話題を変えて、その会話を続けていた。

「で、今日のご飯は?」

「オムライスよ。あなた好きでしょ?」

「うん。あ、あと父さんは?」

「お父さんは長期の依頼で当分帰ってこないって何日か前に言ったはずだけど?」

「……そうだっけ?」

 母親に言われたことだけでなく、父親の顔すらもあまり思い出せない自分に気づいて内心ビックリするエース。だが、それだけで終わるくらいにささやかなものでもあった。

「今日の朝もだったけど、エースボケてるわね。そんなんじゃ、ガールフレンドに迷惑かけるわよ」

「……善処します」

 そうは言ったが、なんとなくこれは自分がボケてるのではないような気がしていたエース。今日夢から帰還した後の。いくつかのやりとりにおける乖離が激しすぎて、これは何か別の理由があるように思える。

「あと、なんか顔つきが別人みたい。とんでもない生活をくぐり抜けて今がある、みたいな」

「なにその違い」

 周りとの違いに感づき始めた最中に投げかけられた母親のよく分からない表現に対して、エースは苦笑交じりに聞き返した。その間自己主張の激しくなった心の中のモヤモヤは、触れないままにしておくことにした。

「言葉では上手く言い表せないのだけど……まぁ、私の思い過ごしよね。ずっと憧れてた学校に入って、ガールフレンドも出来て、友達もいっぱい。とんでもない生活の要素がないものね。むしろ幸せいっぱいだもの」

「うん、そうだ──ってだからそこまで親しくないっての」

 だが、母親が何気なく言った言葉が、何故か鋭い槍のようになって突き刺さった。抱えたままだったモヤモヤが、何かに気づいて欲しいのか心の中の引っかかりを刺激してその存在をより示してきていた。

 しかし、そんな息子の心の内の微妙な変化を、母親が知るはずもない。もちろんエースも、理由の分からないそれを表に出すことはなかった。

「そろそろご飯だから、さっさと着替えてきなさい」

「りょーかい」

 そう言うと、エースはリビングから玄関へと向かう道の途中で反対に折れ、自分の部屋に向かった。

「……なんかモヤモヤする。自分を否定されるような、そんな気分」

 たどり着いた自室の中にある机の横にカバンを置き、窓の外を見ながらそう呟く。夢の中の自分がまさにそんな感じであったからなのか、それともまた別の原因があるのか。

「気のせいだよな。夢に引きずられ過ぎだ。そんな生活なんてないんだからさ。世の中そこまでひどくない」

 自分にそう言い聞かせるも結局モヤモヤを晴らすことが出来ず、心の中に抱えたままエースは食卓へと向かっていくしかなかった。

 その日の夕食は、好きなメニューのはずなのに、何故か美味しく感じられなかったのだった。 
 

 
後書き
かなり遅いですが、新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。KZMです。新年一発目の公開ですね。そんな新年一発目の話ですが、思い切り話が変わってきてますね。察しのいい人は気づいていると思いますが、割とベタな展開です。KZMそういうのかなり好むので、多分予想の斜め上にはなりません。

ちなみにですが、今投稿しているのはツインレゾナンスの最終追加分でして、今日から4日連続投稿です。つまり、これ投稿したら、何かここ足りないなーが再発しない限りはツインレゾナンスの執筆はないことになります。本当のゴールはすぐそこですね。そこまで頑張っていきます。

では、また明日会いましょう! さいならっ! 
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