SAO-銀ノ月-
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「わたしは、わたしです」
「行ってくれ、ユイ」
「……はい! ショウキさんもお気をつけて!」
小妖精となったユイが背後に飛んでいくのを見届けることはなく、一息、深呼吸。対面する《Pray The Origin Medium》を前に、ショウキは隙をうかがいながらジリジリと接近する。半透明の殻に閉じ籠った本体は動くことはないらしく、目の前のプレイヤーを倒してから《聖大樹》に向かうルーチンらしい。周囲に浮かぶ剣は明らかに攻撃用であり、それらを警戒しながらもショウキはチラリと背後を見る。
「ね、ねえ……プレミアを倒す気かよ! どうにか、どうにか出来ないのかよ!」
キリトたちはコンソールの守護者である影の死神と未だ戦闘中であり、更新されたクエストログと飛んでいったユイで事情は把握できるだろうが、やはり援護は望めそうもない。こちらに残るはガーネットにリズであり、目尻に涙を溜めながらガーネットは《Pray The Origin Medium》とショウキに叫ぶものの、どちらからも反応はない。
「落ち着きなさい、ガーネット。あの子はさっき、ショウキって名前を呼んだわ」
「それが……あ……」
「ええ、まだプレミアはあそこにいる。だから、あたしたちも戦うのよ……ショウキの邪魔にならないようにね」
残っているものはショウキ自身。家出騒動の時はショウキのデリカシーが欠けて言い方が悪かったことが原因だが、今回ばかりはプレミアがクエストに操られたことが原因だ。そんな風に育てた覚えはないと、しっかり怒る権利があるとショウキは無理やりニヤリと笑いながら、無感情なプレミアと視線を交わして自らを鼓舞する。
「……ナイスな展開じゃないか――」
――その言葉とともに一歩を踏み出すと、《Pray The Origin Medium》はショウキを改めて敵として認識したようで、周囲を旋回していた剣々がショウキに殺到する。それら全てがソードスキルを伴っていることを示すライトエフェクトを発光させ、まるで雨が降り注いでいるようだ。
「あいにく経験済みだ!」
とはいえそのような攻撃は、ショウキにとってOSSを秘伝書として受け継がせてくれた者との戦いで、先のアバターの時に経験済みだ……あいにくショウキに同様のことはできないが。ただし防ぐことは容易いと、両手にバックラーを出現させると同時に殴り飛ばし先んじて飛来してくる剣に当てて防御した後、大鎌を取りだして第一波の剣を根本から裂いていく。
嵐を伴った雨からただ落下する雨へと変化した剣を避けるように接近しながら、ショウキは鞭を取り出すと飛来する剣に巻きつけ跳躍し、第二波の剣の雨の直上へと跳ぶことでそれらは今までショウキがいた床に数秒遅れで突き刺さる。跳躍そのまま天井にクローを刺して、ショウキは自身の落下を阻止すると、更なる剣を出現させている《Pray The Origin Medium》を眼下にする。
『ッ――』
錯覚か、中の本体が少しばかりうろたえたように思ったが、その気配は一瞬のうちに殺意へと変わる。新たに出現させた剣は、天井で自由に身動きが取れないショウキへと飛来し、明らかに避けることは出来ない――避ける気などもとよりないので問題はない。天井から《Pray The Origin Medium》へと落下するとともに、ショウキの身体をすっぽりと覆い隠すほどの大盾を幾つも取りだし、まるで剣山のように飛来した剣は大盾に突き刺さっていく。剣は衝撃とともに大盾を幾つか破壊していくが、その度にショウキは大盾を追加していく。
――そうして出来上がったのは、《Pray The Origin Medium》に落下する、大盾や剣の破片だった巨大な質量という最強の武器。ただしボスも新たに飛来する剣を出現させており、大盾の裏側からショウキに襲いかかったものの。
「……悪いな」
あいにくと、そこにもうショウキはいない。破片に乗じてボスに隠れながら床に落下していたショウキは、ボスが落下する巨大破片弾から逃げないように、一瞬だけでもその半透明の殻を鞭で拘束する。そして飛来する剣を大盾の背後から受けた巨大破片弾は勢いを増し、更なる威力を伴って《Pray The Origin Medium》本体を守る殻に炸裂した。
「おっ……らぁ!」
流石にボスと言えども無傷とはいえず、半透明の殻に入ったヒビに、ショウキは間髪入れずにハンマーを叩き込む。するとガラスを叩き割ったかのような綺麗な音とともに、殻が割れて本体が攻撃できるほどに露出する。そこでハンマーを投げ捨て新たに武器を――
「――プレミア!」
――取り出すことはなく、ただ呼びかける。呼びかけを受けて反射的ににショウキの方を向く本体は、やはり何ら感情を見せることない表情を変えることはなく。さらに何かを呼びかけようとする前に、半透明の殻の内部に光の鎖が出現し本体を拘束していく。本体を攻撃から守るためにか、それともプレミアが逃げられないようにか――その答えがショウキの脳内で導き出されるより早く、鎖はプレミアを拘束しながらも外部へと進出していく。
「ッ!」
このままでは鎖に巻き込まれると、ショウキは舌打ちとともに後退する。そうして鎖は邪魔者がいなくなったとばかりに増殖を続け、また何かを形作るように変化していくと、本体がいる殻がまたも中空に浮かんでいく。高速で鎖が動いていく状態に妨害はとても出来なかったが、せめて殻の場所は把握しようと投げナイフを殻へと突き刺した。
そうして原初の祈りはさらに触媒として相応しい姿へと生まれ変わり、鎖で出来あがったのは蒼色のケンタウルス。鎧を全身に包んで四足をけたたましく鳴らし、両腕にはそれぞれ長剣と盾を持っており、古代の伝説にでも出てきそうな雰囲気を醸し出していた。さらに先程までの飛来する剣の代わりに、中空には二本の巨大な槍が浮かび、地上には独楽が回転していた。独楽と聞けばかわいいものだが、それが人間大で刃とともに回転している殺人独楽でなければの話だ。
「今!」
ただしその巨大な二槍は、竜のアギトを模した炎の奔流に巻き込まれて蒸発していく。さらに炎の竜は花火のように炸裂し、そのまま地上を回転する殺人独楽へも巻き込んでいく。リズの合図とともに放たれた、ガーネットがMPポーションを限界値まで飲みつつその全てを一発で使いきる炎魔法らしく、疲労感からかペタンと床に座り込んだ。
「ナイス、ガーネット! あとは任せときなさい!」
「ナイスタイミング、リズ」
とはいえ本体を守るケンタウルスは無傷、殺人独楽も全滅したわけではない。そもそもこの戦いの終結点すらはっきりせず、何が勝ちなのかもハッキリとしないままだ。
「ふふん、まあね。あとは代わってあげましょうか?」
「……冗談。これからだろ?」
ただその勝利条件がなんであれ。こうして彼女と軽口を叩きあいながら、背中を軽く叩いてもらえればショウキに負ける気など一片も起きることはない。
「なら行くわよ!」
接近していた殺人独楽を槍で貫きながら、ショウキは疾走してくるケンタウルスを迎え撃つ。リズは少し離れながら殺人独楽の相手を一人でする気のようで、安心してそちらは任せることとする。肝心のケンタウルスの胸には先程の投げナイフが刺さっており、本体とそれを守る殻がそこに収納されていることが示されていた。
「プレミア! 聞こえてるかどうかは知らないが!」
疾走とともに放たれた渾身の突きを、ショウキはあえて前に身を屈みながらステップで避けると、その遠心力を活かしつつ大剣を放つが、それはケンタウルスの左手の盾にたやすく防がれてしまう。そのままカウンターに打ち付けられるシールドバッシュを、大剣を盾に見立てることで衝撃を出来るだけ相殺し、追撃の片手剣を側面に長剣を押し当てることで軌道を逸らす。
「いつまで助け出されるのを待ってるつもりだ!?」
その攻防を交えながらも、殻は破ったのだから聞こえているだろうと、本体ではなく『プレミア』へと呼びかける。さらにリズから拡声魔法の支援を受け、攻防の衝撃音をものともせずに伝えることを可能としつつ。
「もう皆から過保護だ過保護だって弄られてな、プレミアも一人の人間なんだって家出したんだ」
そして不思議にもショウキを黙らせようとばかりに、ケンタウルスの攻撃は苛烈する。片手剣の横振りを小さく跳躍して避けながら、鞭を取り出しながら右足へと巻きつけていく。そうしてケンタウルスを中心にグルリと回り――なにせ四足だから安定感はピカ一だ――その身体の下に潜り込むと、取り出した短剣を膝の裏の間接に突き刺した。
「だからもう、優しい優しいショウキはあいにくやめてるんだよ! お前を助けるのは俺じゃない!」
ただし相手は生身のケンタウルスではなく、あくまで鎖で出来たアバターでしかない。膝裏に刺された短剣は対して意味はなく、ケンタウルスは身体の下に潜り込まれた状況を打開しようと、部屋を疾走してショウキを死角から追い出そうとする――したところで、ショウキは自身の全体重をかけて取り出した両手斧を支えた。
「らあああああああ!」
そうして疾走したケンタウルスは、身体の下に取り出されていた両手斧の刃が引っ掛かり、自らの疾走する力で両手斧を胴体に炸裂させた。もちろん両手斧も耐えられずに自壊したものの、代償にケンタウルスは身体の下半分が両断され、そのダメージにしばし膝をつく。
「自分も一人の人間だって言うなら、自分ぐらい自分で責任もって助けてみせろ!」
膝をついたケンタウルスの隙を逃すまいと、背後からショウキは疾走するが、新たに鎖で作られた尻尾がそれを阻む。まるで鞭のようにしなる尻尾を、作られた瞬間に長剣で斬り裂くと、ケンタウルスを踏みつけながらその手に持っていた巨大な片手剣を奪ってみせる。
「っく……」
「よいしょ! せーの!」
もちろんケンタウルスのサイズで片手剣だったボス用のものをショウキが扱えるわけもないが、まるでショウキがどのように動くかを読んでいたかのように、殺人独楽を排除したリズもまたしっかりと支えていた。二人ならば支えられるとばかりに、鎖による胴体の回復が済んだらしいケンタウルスが立ち上がった瞬間に、残った左手の盾をケンタウルスの片手剣でぶつけ合う。
「行ってきなさい!」
矛と盾、ケンタウルスの武器はそれぞれに打ち付けられて自壊していき、そのまま左腕を押し潰していく。そうしてショウキはリズに押された勢いのまま、盾が破壊されたことでケンタウルスに肉薄する。投げナイフが刺さったままになった、本体を守る殻が収納された胸部へと。
「――でやっ!」
そこで抜かれるのは、腰に帯びていた日本刀《銀ノ月》。カイサラから返却されていたその刀は、先のアバターのために作られた一点物であり、今のショウキのアバターでは十全に力を発揮することは出来ない。
……そう、十全に力を発揮できないが故に。
「……ショ、ウキ」
――日本刀《銀ノ月》による抜刀術は全てを斬り裂くことはなく。ケンタウルスと本体を守る殻、そして本体を守るためにか巻きついた鎖のみを斬り裂き、本体はまったくの無傷のまま残っていた。
「プレミアは、どうしたいんだ」
とはいえ、ショウキに出来るのはせいぜいここまでだ。沈黙するケンタウルスはせいぜい少しの間であり、その本体は相変わらずに無感情にショウキのことを見つめていた。一人の人間として見られたい感情の発露から始まったこの家出騒動で、何度目になるか分からないその問いに対して、本体のNPCではない彼女が答えを出さなくては、この戦いが終わることはない。
「わたしは皆さんとずっと一緒にいたいです……ですが、ですがわたしは、やはり『にんげん』ではありません……ショウキたちと! 一緒の存在になりたいんです!」
本体の少女が、初めて声を荒げて叫ぶ。まるで殴りかかってくるかのような剣幕に連動するように、ケンタウルスを形作っていた鎖がまたもや動き出した。これ以上ボスが新たな形態ともなれば、もはやショウキになす術はなく、本体のNPCではなく彼女へとさらに語りかけていく。
「もうプレミアは、人間じゃないか」
「……え?」
「ただちょっと、住む世界が違うだけだ」
食べ物が美味しいからと喜んで、人間ではないからと自分自身を怒って、その力を持ったせいでこの世界から拒絶されたと哀しんで。デリカシーのない根暗男や仲間たちといる日々のことを、これでもかと楽しんで。それのどこが人間ではないというのかと、ショウキはプレミアを初めとしてキズメルやカイサラ、ギルバートと出会って思う。
「それじゃショウキたちと一緒にはなれません……ショウキたちに恩返しも出来ません! わたし独りだけ、残されるくらいなら……」
「確かに今は出来ないかもしれない。でも幾らでも未来はある……まあ、俺が見つけ出すなんてことは、言えないけど」
オーディナル・スケールで出会った、作り物のアイドルでありながら自意識を獲得したユナのように。オーグマーを利用して現実世界に現れたユイのように。今はまだ彼女たちに触ることは出来ないが、数年後がどうなっているかなど分かるわけもない。もちろんVRとAR分野のことなどショウキには門外漢だが、不幸なことにそれらの進化は目の当たりにしてきた。
「少なくとも、その殻に入ってたらその未来はない」
ただしここでただのクエストボスとして始末されてしまえば、どうあってもその未来が訪れることはない。そうして話している頃には鎖は新たな形を成しており、かつての100層ボス《An incarnate of the Radius》を模した姿と化していた。あとは中心部に殻に入った本体を嵌め込むだけで動き出すようで、ショウキから守るように鎖が殻を包み込んだ。
「ショウキは、やっぱり『ずるい』です」
「ああ。人間はずるいから」
「……せっ!」
ただし殻の内側からの攻撃には対抗できず。かつての《閃光》仕込みの細剣術により殻はあっという間に破壊され、本体のNPCが丸見えとなってしまう。ショウキはそっと少女に手を差しのべて――
「わたしは……プレミアです」
――その一言と少女が自ら殻を破って外に出るとともに、ケンタウルスを形作っていた鎖は消えていく。目の前にいるのは《Pray The Origin Medium》というボスの本体ではなく、《プレミア》という確固とした意思を持った一人の『人間』なのだから。もはやクエストに意味はないとログを叩けば、カーディナルもそう思ったのかは知らないが、《聖大樹の巫女》のクエストは成功でも失敗でもなく消失していった。
「おかえり、プレミア……っと」
ひとまず終わったのだろうとショウキは一息つきつつも、急激な緊張感の欠如から倒れてしまいそうな身体を踏ん張ると、プレミアが抱きついてきていて。少し距離をとろうかと思ったものの、ショウキの胸の辺りに顔をうずめてすすり泣く音を聞いてしまえば、そういうわけにもいかなくなって。
「こわかった……こわかったです……」
「ああ、もう大丈夫だから」
「頭の中に知らないことが無理やり流れ込んできて…………でも言ってこと、嘘じゃないんです。わたしの本当の気持ちも入ってました。わたしは、『悪い子』です……」
「これくらい、人間なら誰だって自分探しとか言ってやるもんだよ」
ちょっとした騒動になってしまった家出だったが、こうしてプレミアが人間になれたのなら悪いことばかりではないと。慰めるように言った言葉に、腕の中のプレミアがピクリと反応する。
「ショウキもこういったこと、したのですか?」
「あー……その話はまた、な」
「はい。またです。約束です」
そうしてうずめていた顔をあげたプレミアの顔は、涙ながらに笑っていた。もう心配はいらないとばかりに、ここにいるのは、呼びかけられた《プレミア》当人であるという証明のように。そんな笑顔を見せたプレミアを移す視界の端に、いるはずのない鼠や他数名のニヤケ面が映って。
「あー……いい雰囲気のところ悪いんだけどナ、そろそろいいカ?」
「そ、そうだな……」
わざとらしく咳払いなどしつつ話しかけてくるアルゴに、ショウキはさっとプレミアの側を離れていく。名残惜しそうな少女の声は聞かなかったことにすると、どうやら影の死神は倒し終わったようで、そちらと戦っていたメンバーはみんな見学ムードに入っていたようだ。
「急いで駆けつけたらこれか? ショウキ」
「まあまあキリトくん……プレミアちゃんも無事だったんだから」
「しかしアスナ。ショウキはリズとそういう関係で――」
「――何が起きるか分からない、もう手早く済ませよう」
そのままショウキへの糾弾会に転移しそうな場の雰囲気を、お前が言うなと言わんばかりの正論で押し止めたおかげか、リズからの抗議は小さめの一撃で済んだようだ。今のところ邪魔する者は何もないとはいえ、ユイはプレミアを連れ小走りでコンソールに向かっていく。
「なあ、言いたくはないけど……大丈夫か? プレミア、またあんな風にならないよな……」
「大丈夫です、ガーネット。わたしはもう、改めてわたしですから」
「そっか! なら大丈夫だな!」
しかしてカーディナルにアクセスしてしまえば、また先のクエストが始まってしまうのではないかと危惧したものの。どう通じあったのかはともかく、ガーネットとプレミアが言うには大丈夫ということらしい。もはや設定を持たないNPCではなく、プレミアという一人の人間だからか。
「ショウキ、リズ。二人がわたしを拾ってくれなければ、わたしはわたしになれませんでした」
「な、なーに今生の別れみたいに言ってんの! やめなさい!」
そしてユイと手伝い始めたキリトの方を見る限り、コンソールの方には特に問題はないようだ。そうしてプレミアは、リズが作ったアカウントを利用してザ・シードのクラウド上へその保存先を移し、ザ・シード世界で生きていくことになる。とはいえそれが上手くいくかは分からない上に、なんにせよしばらくはこの《ALO》には帰ってこれないだろう。
「またちょっとしたら会えるわよ。だからまあ、ちょっとした冒険に行くくらいのつもりでいなさい」
「なるほど。確かに、ショウキの『じぶんさがし』というのを聞く約束もあります」
そういったことはプレミア自身も察しがついており、今までのお礼を言おうとしたところを、リズに激励とともに止められる。いつの間にやら約束されていたショウキの自分探しとやらも、そんな約束程度でプレミアの無事が確約されるならいいことだと、ショウキは苦笑して受け入れながら。
「……プレミア。準備ができました」
「ありがとうございます、ユイ。お願いします」
そうしてリズのおかげで、別れだというのに湿っぽい雰囲気にはならないまま――
「わたしも『自分探し』にいってきます」
――プレミアは、この世界から消え去った。
「ここは……」
そうしてプレミアが次に目覚めた時には、今まで見たこともない空間が広がっていた。上下左右の感覚どころか、自分の形すらどうなっているのか危うく、気を抜けば存在すらこの空間と一体化してしまいそうな感覚に陥ってしまう。
「わたしは、わたしです」
ただプレミアはプレミアという存在だと、先程の戦いでようやく再確認できた自己を確立することで、どうにかその空間に適応する。そうしてから改めて見てみれば、辺りには無数の出口が広がっているとともに――隣に、プレミア以外の誰かが存在していることに気づく。
「……ごきげんよう。わたしはプレミアと申します。どちら様ですか?」
『これはご丁寧にどうも。私は……そうだな。ただの案内人だよ』
「案内人、ですか?」
『ああ。見てみたまえ』
その案内人と名乗った彼に、不思議とプレミアは懐かしい気持ちを覚えながら。彼が示したものを目で追っていけば、それらはやはりこの空間からの無数の出口を示しているようで。
『ここからはどんな世界にでも行ける。君は自由に、幾つもの世界を渡ることが出来るだろう』
「……どれだけの世界を渡れば、わたしの『自分探し』は終わるでしょうか」
『残念ながらそれは、私には分からないな』
「……申し訳ありません」
どうやら空間に広がる無数の出口は、それぞれが新たな世界への出入り口とのことで。全てがプレミアのいた《ALO》のような世界に繋がっているとなれば、思わず気が遠くなってしまったのか、プレミアはそんな弱音をこぼしてしまう。もちろん、そんなことが初対面の案内人に分かるわけもなく、謝って気を取り直しつつ。
「これが『ナイスな展開じゃないか』、というものですね」
『…………』
「どうかしましたか?」
『……いや、なんでもないさ。では、君の旅が上手くいくよう祈っているよ、プレミア』
プレミアの言葉の何が琴線に触れたかは彼女に知るよしもないが、案内人がはじめて苦笑なのか驚きなのか、そんな懐かしげな感情を発露させた。とはいえそれも一瞬のことで、その言葉を最後に案内人もどこかに消えていってしまう。彼もまた、どこかに旅を続けているのだろうと、プレミアはペコリと頭を下げて。
「出来れば、ご飯が美味しいところだと助かります」
そうしてプレミアもまた、新たな世界へと踏み出していった。
後書き
久々にショウキくんがぐりぐり動いてぼく満足。ボスももう少しすれば口や背中、尻尾からビームを発射したり、さらに進化すると増殖しながら飛来したりしたのですが。
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