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魔法科高校の劣等生の魔法でISキャラ+etcをおちょくる話

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第百六十八話

カルタフィルスと相対して、二週間ほど経った日の夜の事だった。

アオオオオォォォォォォォォォォォン……!

狼のような遠吠えを聞いて、千冬は飛び起きた。

「サイオン波!?」

千冬の体を揺らしたのはただの音波ではなかった。

何度か弟や義妹が使っていた音波を媒体としたサイオン波放出。

千冬はコアのウィンドウを開くと周囲に張り巡らせたサイオンセンサーの値をチェックした。

結果、同心円状にサイオン波が放たれていた。

「面倒な…! またカルタフィルスか…!」

ベッドから出ると髪を無造作に結び、バトルスーツを纏う。

一夏が全力を以て造り上げた物で、ムーバルスーツをベースに千冬に合わせて最適化されている。

太股にはハードポイントが左右で5対付けられている。

「行くぞ、アリス」

そのハードポイントに四本の刀と六本の大振りのナイフが装着された。

『仰せの通りに!』

窓を開け放った千冬が、夜の闇に飛び込む。

基地の灯りはあくまでも人の領域を照らす物。

領域から出れば仄かな月明かりが照らすのみ。

「ハイパーセンサー起動! シンクロキャストシステム起動!」

ブワッ!と千冬の知覚領域が増大する。

視覚聴覚に加え、CADを通して得られるサイオン情報体。

それらを頼りに、千冬が野を駆ける。

郊外にある基地よりも更に外れ、野と森の境目で千冬が脚を止めた。

「二匹…か…?」

千冬の視線の先では、二匹の獣が戦っていた。

片方は人の背丈ほどある狼だ。

毛は月光に白く輝き、尾は長くたなびく。

ジェヴォーダン・ビーストと呼ばれる霊獣だ。

低い唸り声をあげながら、相対するもう一匹…異形の獣を睨み付ける。

そのもう一匹は前者よりも二周りほど大きな白い狼に、無理矢理コウモリやカマキリを混ぜたような姿だ。

「よくわからんが……カルタフィルス! 居るのだろう!」

『奴ならここから四キロ先の森の中だよ』

『わかるのか?』

千冬の視界にマップが表示された。

『そこのジェヴォーダンビースト、発信器がくっついてる。
呪術系じゃなくて、小型の虫ロボットみたい』

『潰せ』

『OK』

千冬のオーダーでバグロボットが停止した。

『ハック行けるか?』

『一対一のユニットみたい。侵入したけど何の情報もない』

「そうか…ご苦労アリス。後は私の仕事のようだな」

千冬が股に装着した刀を一本抜いた。

「そこの小さいの。疲れているだろう。後は私がやる」

グルルル…。と唸りを上げると、ジェヴォーダンビーストは後退し、千冬の隣についた。

「くるるる…」

「ん? アレはお前の身内だったりするのか?」

コクンと頷いたのを見た千冬は、いっそうキツく刀を握りしめる。

「言っておくが、アレはもう死んでいるぞ」

「ワウゥ…」

「それでも助けたいんだな?」

「わふっ!」

千冬が空いた左手でジェヴォーダンビーストのくびもとをワシャワシャと撫で回す。

「クゥーン……」

千冬が撫でる手を止めると、少し寂しそうな声を出した。

「直ぐに終わらせてまた撫でてやるさ」

千冬は刀を構える。

「秘剣:切陰」

千冬の刀が大太刀のようなオーラを纏う。

「アリス、真空障壁」

千冬の正面に、真空の場が出来る。

厚さは1ミリ程だ。

「直ぐに、解放してやろう!」

千冬が駆け出すと、キメラは迎撃するように超音波メスを放つ。

しかし、真空障壁に阻まれ、千冬を攻撃する事が出来ない。

「キシャァァァァァァ!」

キメラが胴に接合された鎌を振り下ろす。

「硬化!」

千冬はソレを刀で受ける。

金属がぶつかる大音量が響く。

がら空きの千冬の脇腹に、もう片方の鎌が迫る。

「剛気功!」

横凪ぎの攻撃を受け、千冬が吹き飛ぶ。

咄嗟に剛気功でガードし、ダメージは皆無だ。

空中で姿勢を立て直して着地すると、千冬は二本目の刀を抜き、同じく切陰を纏わせた。

四本の足で地を蹴ったキメラが鎌を振り上げ千冬に飛びかかる。

再びの金属音。

千冬は一歩も動かず、キメラの突撃を受けきった。

「嘗めるなよ」

ギチギチとつばぜり合いの中、千冬は刀を大きく振り抜き、付け根からキメラの鎌を切り飛ばした。

「ギシャァァァァ! キシャァァー!」

叫び声をあげるキメラの首を、サマーソルトキックで蹴り上げる。

キメラ後ろにひっくり返りながら、尾を千冬に向ける。

その尾は、蛇だった。

蛇の口が開き、喉奥に火種が生まれる。

千冬が障壁を張ろうとした時。

「アオオオォォォォォォォォォォッ!!!」

ジェヴォーダンビーストの咆哮が、炎をかき消した。

「よくやった!」

空中で一回転した千冬が、二刀を構える。

「安らかに眠れっ!」

光の刀身が、ジェヴォーダンビーストを十字に切った。

その霊体だけを切り裂く剣は、仮初めの命を、死者を冒涜する術を絶ち切った。

「クゥーン……」

ジェヴォーダンビーストがキメラのそばに身を寄せる。

「ジェヴォーダンビースト。これからどうする?」

「クゥーン……」

ジェヴォーダンビーストは千冬の手に顔を擦り付けた。

「一緒に、来るか?」

「あふっ!」

千冬は刀を量子格納庫に入れると、ジェヴォーダンビーストの首に抱きついた。

「わかった。好きにするといい」

わしゃわしゃと一通り撫でていると、千冬はふと思った。

「名前がないと、不便だな」

「くぅーん?」

「うーむ…………」

千冬がジェヴォーダンビーストと目を合わせる。

「お前、きれいな眼だな」

琥珀を思わせる、明るい瞳。

「よし、決めた。お前の名前はめいぷるだ」

「わふっ!」











翌日、シュヴァルツェアハーゼの隊員は目を見開いた。

「きょ、教官殿?」

「ん? どうしたクラリッサ?」

「えーと…そのー…あのー……」

皆が見ているのは、千冬の”腕に抱かれた”子犬だった。

「コイツはめいぷる。この間のキメラの娘だ」

「なっ!?」

「ああ、安心しろ。この間の奴のようにはならん。なぁ? めいぷる?」

「きゃふっ!」

と子犬が元気よく返事をした。

「そら! ウサギ達! 訓練の時間だ!鈍い奴はめいぷるのエサにするからな!」

ヤヴォール! とシュヴァルツェアハーゼ全員が返事をした。

そして、あふっ! とめいぷるが吠えるのだった。 
 

 
後書き
『めいぷる』
母をさらったカルタフィルスを追ってフランスからドイツまで来たジェヴォーダンビーストの末裔。
サイズは最大で乗用車くらい。最小で手乗りサイズ。 
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