魔弾の王と戦姫~獅子と黒竜の輪廻曲~
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ミライトーク『機械文明』
それは、ブリューヌ国内のネメタクム……正確には、地下世界である魔大陸より浮上した『物質瞬時創世艦フツヌシ』をめぐる事変によって、ティッタがガヌロンに拉致されたことから始まった。
徹底的に自分の無力さを叩きつけられたティグルは、エレン等戦友の叱咤激励を受け立ち直り、ブリューヌ王ファーロンから『魔弾の王』の知られざる伝説を告げられる。
――かつてその弓は『黒』ではなく『暁』の輝きを放っていた。そのチカラを制御しきれなかった始祖シャルルは、ブリューヌ王家に伝わる霊堂『聖洞宮』に、『力のティル=ナ=ファ』を封印したと。
それぞれの過去を明かしながら、様々な試練が訪れるものの、力を合わせてそれらを乗り越えていくティグル達。そしてやっと聖洞宮に辿り着いたが、突如シャルルと思しき幻影に襲われる。絶体絶命の危機に際して、同行していたエリザヴェーダ=フォミナ――リーザがついに戦姫……もとい、勇者としての産声を上げたのだ。――もう……自分を誤魔化して誰かが傷ついていくのを『この目』で見ていくなんて、もういやだ。
赤い髪の少女の声に呼応するがごとく、唸りを挙げるリーザの右腕。
その右腕は、かつてバーバ=ヤガーに祈りをささげて奇術を施された、呪われし右腕。
だが、そんな印象を焼き払うがごとく、リーザの右腕には『雷紋様』が輝く。
まさにそれは、古より伝わる『雷神の右腕』のように。
――自由でいいのよね――
――この『姿』も――
――この『瞳』も――
――何もかもが自由でいていいのよね――
――そうでなければ、私がこの世界に生まれてきた意味がない――
――教えてくれてありがとう……ウルス!!――
それは、雷禍の閃姫からの、せめてもの感謝。
気づかせてくれた若者への言葉。
対してティグルもまた、想いあふれる言葉を返したのだった。
――俺も大好きだ!!リーザ!!――
――エレンのことも!!ティッタのことも!!君のことも!!――
好き。その言葉の匙加減は、言い放った本人にしか分からないだろう。
差別がない。かつて、少女は生まれながらに持つ『瞳』によって、光と影の差別を受けた。
きょとんとしたリーザの表情。まるで、『猫』が豆鉄砲を喰らったかのような顔。
今になって思えば、あれもいい思い出だといいあったものだ。
草原のようにどこかすがすがしい、そんなティグルの言葉にリーザは思いっきり笑ってしまったものだ。
――ええ!戦いましょう!大切なもののために!——
大切なもののために。
自分を受け止めてくれる『ルヴーシュ』のためにリーザは戦う。
そして何よりも、自分を最後まで信じてくれた雷禍ヴァリフアイフの輝きにこたえるために!
共に支え、ともに進み、道を照らすために。
心の竜具で描く暁の軌跡。
心の弓矢で走らせる夜明けの風景。
道は照らされた。そして、導かれたのだ。
シャルルの幻影と死闘を続けること約半刻。
『……戦うのだな』
突然意識に響く冷厳なる声。
――誰だ!?――
目の前の幻影の戦闘に夢中であるはずのティグルでさえ、はっきりと聞こえる声。
『お前は……戦い続けるのだな。大切なものを守る為に』
まるで当然のことを聞く声に、ティグルはそれを挑戦的なものとして受け取った。
――そんなことは……当たり前だ!――
ティグルの声に熱がこもる。呼応するように、謎の声にも熱が帯び始める。
『俺は待ち焦がれていた!』
果たしてそれは一体何を?
――待ち……焦がれていた?――
誰を?この時を?
『お前のような若者が現れることを!』
とまあ、とにかく、始祖シャルルと邂逅したティグルは、ティッタを助けるために必要なことを教えてもらった。
彼女に必要なのは、想いを――運命を受けとめること。
『――力の巫女……彼女が抱く恐怖を、君の勇気がすべて受け止めたとき、君は、真の魔弾の王になれるはずだ』
力は、その後でいい。
そしてティグルの出した答えは『ティッタのすべてをこの俺にくれ!!』だった。
手に入れた『暁の魔弾』。スペリオル・ロード・マークマン。
紡がれた『勇者と王の絆』。グランド・グロウリア・ギャザリング。
結ばれた『運命の同調』。イレインバーセット。
取り戻した『暁の巫女』。ティッタ。
真の魔弾の王に覚醒した『勇者王』の力は凄まじく、世界樹そのものと化したグレアストを容易に跳ねのけた。
本人曰く『射抜くべき敵の姿が、射抜いた先の未来が見える』とのこと。
ともかく――物語はここ妙な地下世界から始まる。
「ミライトーク」【機械文明】
世界樹・地底世界・座標軸ヤーファ相当
(現実世界の元日本列島・東京スカイツリー跡地)
ティグル。エレン。ソフィーのトーク。
どこまでも続く暗雲。されど雷光と雷鳴が生命体の存在位置を示す指標となっている。
渇きと生ぬるしさを含んだ風。その匂いは無機質の亡骸を連想させる何かがあった。
ティグル達は知らない。
その匂いの正体は、かつて『ヒト』と呼ばれし知的生命体が編み上げた『機械文明』の成れの果て。
そんなものが、今まで自分たちの踏みしめる地面がこんなになっているとは、エレンも思っていなかった。
エレン「まさか私たちの大地の下がこんなことになっているとはな」
ティグル「……ああ」
赤い髪の少年が驚くのも無理はない。
なぜなら、今目の前にある『建造物』は、どうあがいても自分たちの技術力では到底たどり着けない『極み』でもあるのだから。
均一な幅の立体建造物。それらが全面に鏡が張られている。もはやこれは芸術品といっても過言ではない。
どうやってこの建物は造られているのだろう?
ライトメリッツの公宮…いや、ジスタート王都シレジアの王宮でさえこれほどの高さは無い。
今まで自分たちが見てきたものと違う世界を目の前にして、ティグルは軽くつぶやいた。
ティグル「ブリューヌの、いや――大陸の真下にこんな広い空間があるとは思わなかったよ」
ソフィー「ここまで広い空間は大陸の……いえ、世界中どこを探しても見つからないでしょうね」
エレン「昔はここにヒトが住んでいたのか?」
見渡せば、ヒトが腰掛けるために作られたような『椅子』がある。
それだけじゃない。
巨大な建物をよく目をこらえてみれば、様々な用途で使っていたと思われる内装をしているのがわかる。
一人用の住まいが『一つの建物』に集まったような施設もある。
大勢の人を一か所に集めて演劇を行うであろう空間もある。
他には、ティグル達には到底創造もつかない用途の設備がたくさんあった。
エレン「今私たちがいる建物みたいなのが、向こうのほうまでずっと続いているとしたら――」
思わず銀閃の髪の少女は固唾を呑む。この文明を築き上げた人とその英知に。
エレン「相当な数の人間が、ここにいたことになるな」
ソフィー「そうね」
あまりの壮大さに、この見目麗しき金髪の女性も同意する。
無理もない。光景をまざまざと見せられただけで、自分たちの常識を覆されてしまったのだから。
ソフィー「ただ人の数もさることながら、この建物をあたり一面に作るなんて尋常ではないわ」
エレン「私たちには想像できない世界だな」
ティグル「独立交易都市や、外大陸からの舶来品で、俺たちには使い方が分からない品々がたくさん流れてきたけど――」
詳細は知らなくとも、該当するものさえあれば、ルーツが何処から来たのかは、流石に容易に察することができる。
ティグル「この世界が由来だっていうなら、納得だってできるな」
ソフィー「ええ。けれど、いつの時代でもそうであるように、文明というものは、ヒトの業によって栄え、ヒトによって滅ぶものなのね」
いかなる繁栄を遂げようと、ヒトがかかわる以上『インフレーション』つまり、膨張が起きる。
それも、風船の中の空気が限界以上に達するほどの。
大気を汚し、海を濁し、森を焼き払う人間の所業は、魔物という存在以上におぞましい。
そう思うとティグルの口から素朴な感想が漏れるのであった。
ティグル「――――悲しいな。そんなのは」
エレン「ここって、どうして滅んだんだろうな?」
ティグル「もしかしてと思うけど、きっと、昔ここで大きな戦争があったんだ」
ソフィー「そうね――悲惨な戦争があったかもしれないわね」
エレン「ちょっと待て、それでこんなに壊れるものなのか?リュドミラの母君の受け売りではないが、私たちの竜技だってここまで地形を歪ませるほどにはならないぞ」
エレン「天変地異というのは?」
ソフィー「その可能性も否定できないけど、このずっと先まで同じ状態になるとは思えないわ」
金色の神を振り乱して、ソフィーは確信する。
ソフィー「よく見て。どこまでも同じ景色よ」
エレン「うむ……でもそれは戦争でも同じことが言えるだろう」
ソフィー「それは……そうでしょうけれど」
エレン「こんなに広い範囲で破壊されるなんてありえるのか?」
ティグル「それは、俺たちが知らないような強力な兵器があるとか?」
ソフィー「あるいは、ものすごく数が多いとか」
独立国家同士の戦争ならともかく、グローバル化した情勢下での戦争なら考えられそうだ。世界同時戦争が起こりうる可能性があるとすればそれしかない。
ソフィーが出した仮説はこれだった。
ソフィー「ジスタート建国以前の統一戦争は、ものすごい数の人間が戦ったそうね。セシリー達がかつて戦ったという『代理契約戦争』もあるし――その可能性は否定できないわ」
エレン「それと同じことが起きたとソフィーは考えるのか」
ソフィー「そうだけど……もっとこの地底を探し回って考えましょう」
どのみち、ここであれこれ言いあっても埒あかない。もっと隅々まで見て考えをまとめるだけの情報を集めなくては。
ソフィー「私たちの理解を超えている範疇でしょうからね」
ティグル。エレン。ソフィーのミライトーク。
『終』
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