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社会人共がクトゥルフやった時のリプレイ

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クロノスを喰らうもの
  Part.8

 【理子の部屋】は装飾らしい装飾のない、殺風景な部屋です。部屋の隅に簡素なベッドと勉強机、真ん中には丸テーブルがぽつんと置いてあります。とても年頃の少女の部屋とは思えないほど、寂しいです。
 そんな部屋の真ん中、丸テーブルのそばに、その少女は立っていました。
 顔の左半分に大きな火傷の跡がある、焦点の合っていない虚ろな表情の少女は、大きな紺色のローブを羽織っており、その手に何かを持っています。
 と、その少女を見た理人が声を上げます。

「り、リコ……リコ!」

「おっと、待ってください理人くん。まだダメです。GM、理人くんの肩を掴んで押さえておきます」

 咲夜に対しての理人の信用は最大値ですので、大人しく引き下がります。

「よし。では話しかけよう。やあ昨日ぶりだね、祟道理子くん」

「そうですね。それにしてもこんなところで奇遇ですね、皆さん。見慣れない方々もいるようですが」

「連れだよ連れ。今日はここの近くでキャンプをする予定でねぇ。でもこんな辺鄙な村にこんな立派な建物があったから気になってしまってねぇ、こうしてお邪魔させてもらっているのだよ。いやぁそれにしても、先日は占ってくれてありがとう。君の言った通りに無人島と別荘を買ったよ。実に気分がいい」

「そう。それは良かったわ。で、そんな見え見えの嘘とどうでもいいことを話しに来たんじゃないんでしょう? 何か御用かしら?」

 質問は1人1回までです。

「じゃああたしから行こうかねい。その手に持っているものはなんだい?」

「ん? これかしら? これは【クロノス様】を模した偶像よ。これからの儀式に使うの」

 と言ってその像をあなたたちに見せてきます。皆さん、0/1の《SAN》チェックです。

 古美門《SAN》55 → 67 失敗
 勇儀 《SAN》59 → 75 失敗
 咲夜 《SAN》39 → 93 失敗
 遊星 《SAN》41 → 39 成功
 京楽 《SAN》44 → 13 成功
 理人 《SAN》62 → 85 失敗

「次はボクだ。初めましてだね。ボクは京楽。警察官をやっているよ。ところでそんな暑苦しい恰好をして、どこかに行くのかい?」

「ええ。これから私は【クロノス様】をこの世界にお招きする儀式を行うために、とある場所に行くの」

「俺が質問しよう。その場所はどこだ? 俺たちも暇つぶしにその儀式とやらに参加したいんだ」

「それは教えられないわ。これは神聖な儀式なの。選ばれていない人間を巻き込むわけにはいかないわ」

「トリは十六夜さんに任せた。GM、質問じゃなくて普通に話しかけることは出来るか?」

 それならご自由にできます。

「よし、ロールプレイだ。理子くん、君の過去を調べさせてもらったよ。第三者で君にとっては完全な赤の他人である私の言葉など薄っぺらいものだと思うがね、あえて言わせてもらおう。実に不幸な人生だったようだねぇ。いや違うか。君は今でも充分不幸だぁ。むしろ悪化していると言ってもいい」

「……なんですって?」

「度重なる両親からの虐待を受ける子供というのはそれほど珍しいことはない。言い方は悪いがありふれた不幸にすぎないのだよ。だが今の君はどうだ。かつての君の両親以上に質の悪いカルト思考をした頭のおかしいキ○ガイな大人に捕まって洗脳されて、そして今が幸せ自分こそ特別な選ばれた人間と思い込む始末。君を引き取った大人たちが君のことをただの使い捨ての道具扱いしていることにすら気付かない。ああ、そういう意味では君は幸せ者なのかもしれないなぁ」

「こいつエグイ正論をさらっと言いやがる」

「だけどそれこそ古美門だねい」

 あ、それ言っちゃいますか。その古美門の言葉を聞いた理子は、その虚ろな表情を崩します。その感情は《心理学》を振るまでもなく、怒りと憎悪であることがはっきりとわかります。

「お母様とお父様を馬鹿にしないで。お母様とお父様は私を助けてくれたのよ。どうして私ばかりがあんな酷い目に遭ってきたか……もうずっとずっと考えてきたわ。この顔の傷のせいで、どんなに酷いいじめを受けたか、あなた達に想像できるかしら? できないでしょう?」

「できないな。なにせここに居る全員、君と全く同じ経験などしていないのだからね。君の気持ちを1ミリたりとも外さずにピタリと理解できるなんてハナから思ってすらいない。だが君ばかりが酷い目に遭っているという認識は改めたまえ。さっき言っただろう? 両親から虐待を受けている子供など星の数を優に超えるほどいる。いや、両親がいないどころか、赤ん坊の頃から貧困街に捨てられてまともな食事すらできないような環境で今も尚生き続けている外国の子供たちもいるんだ。比較すべきことではないが、君と比べるとするならば彼らの方が酷い目に遭っていると言えるねぇ」

「黙れ。私はそいつらとは違うの。【クロノス様】が教えてくださったのよ。私は神に選ばれた特別な人間で、叡智を持たぬ猿どもには到底理解の及ばない崇高な存在なんだって。私が理不尽に痛みつけられ、踏みつけられ、虐げられ続けてきたのは、奴らが宇宙の真理を解せず、計り知れぬ私の器を恐れているからなのだとね」

「ちょっと何を言っているのかわからんぞ。日本人なら正しい日本語を使いたまえよ厨二病の電波娘くん」

「ふん。あなた如きに理解してもらおうなんて思ってない。私には使命があるの。【クロノス様】を地上にお招きし、歪んだ姿を本来のあるべき姿に正すという崇高な使命がね。【クロノス様】がこの世界に蠢く理不尽全てを正してくださるのよ」

「……ここで質問しようか。その君の崇拝する【クロノス様】とやらはどんな神様だ。君の持つ、その未来予知にも似た能力もその賜物か?」

「そうよ。この力は【クロノス様】が私に授けてくれた叡智そのもの。【クロノス様】は時と次元の全てを司る全知全能の存在。ほら。そんな【クロノス様】が力を授けてくれたのよ、この私に。ふふふ、やっぱり私は選ばれた人間だったのよ」

「……これはもうどんな言葉も通じないな。十六夜さん、任せた」

「任されました。質問の前に《精神分析》を試みます」

 咲夜 《精神分析》76 → 31 成功

 理子にかかっている洗脳が昨日以上に強まっていることがわかります。この洗脳は非常に強固なもので、咲夜がどれだけの時間を費やしても解くことは不可能です。
 しかし強まっているゆえにこの洗脳がどのようなものであるかがある程度特定することができました。よって、この洗脳を解く方法を開示します。
 この洗脳……ヒプノーシスを解く手段は2つ。
 1つは洗脳をかけた人物が直々に洗脳を解くこと。
 もう1つは洗脳された本人が、何かのきっかけで正気を取り戻すこと。ヒプノーシスは外からの干渉に強い半面、内側からの干渉に弱いため、本人が自我を取り戻し、抗うことができれば容易に洗脳を解くことができるでしょう。
 さらにもう1つ情報を提供します。理子はこの洗脳によって何かの記憶が抜け落ちてしまっていることがわかります。

「いい情報です。では私もロールプレイですね。理子ちゃん、先日はどうも。無事にあの写真に写っていた男の子を見つけることができました……と言いたいところですが、ごめんなさい。実はあれは嘘だったんです。私たちはあの少年を捜していたわけではありません。逆なんです。私たちはあの男の子にお願いされて、リコちゃん、あなたを捜していたんです」

「…………」

「ですがあれはもう何年も昔の写真です。今は立派に成長してほら、この子ですよ。この子があなたを捜していたんですよ。と言って理人くんを前に優しく押します」

「り、リコ……。俺だ。理人だ。覚えていないか?」

 そういう理人に理子は目線を移しますが、特に表情を変えることはありません。
 虚ろな目で理人を一瞥すると、

「……あなたは誰かしら?」

 という冷たい言葉が続けられます。

「これは……成程。洗脳の影響で抜けていた記憶というのは理人くんのことですね。おそらく洗脳が昨日以上に強まっていたのは、理人くんの写真を見せたときの影響を掻き消すために、改めて仕掛け直したからでしょう。GM、理人くんは今どんな状態ですか?」

 理子の無慈悲な言葉を受けて固まってしまっていますね。具体的に説明しますと、《SAN》値が5点失ってショック状態に陥っています。

「一時的発狂ですか。無理もないですね。本当にわかりませんか、理子ちゃん。この男の子とは昔、とある場所で長い間同じ時を過ごしていたんですよ」

 理子は訝し気に見つめ返すだけで特に反応しません。

「……【ぬくもりハウス】。覚えていませんか? あなたがここに来る前に、預けられていた児童養護施設のことです」

「……! ! !?」

 【ぬくもりハウス】の言葉を聞いた理子はピクリと眉を動かして反応します。そして、改めて理人を見た後になにか動揺しているようです。先程までの虚ろな表情が崩れかけています。

「お、これはここで《説得》すれば行けるかもしれないねい」

「だな。洗脳を解かすことができるかもしれない」

「ですね。GM、《説得》で判定します」

 おっと。残念ですがそうはいきませんね。
 動揺の色を見せた理子でしたがそれはすぐに収まり、元の無表情に戻ってしまいました。そして壁に掲げられている時計を見ます。

「……もう時間ね。あと1時間もすれば儀式が始まるわ。そろそろ出かけないと。じゃあ皆さん、御機嫌よう。【クロノス様】が作る新しい世界でまた会いましょう」

 と言って歩き出します。

「おっと、行かせるわけにはいかないな理子くん。と言って刺股を構える」

「ボクは入り口を塞ぐように立つ」

「あたしも前に出ようかねい」

「俺も前に出る。今のうちに睡眠薬をガーゼに染み込ませておこう」

「私は固まっている理人くんを守るように前に立ちましょう。あと先生たちとは少し離れた場所に移動します」

 わかりました。どうぞ続けてください。

「理子ちゃんは普通にこちらに歩いているのかい?」

 はい。なにも気にした様子もなく歩いてきます。戦闘開始です。

「俺が一番手だ。睡眠薬を染み込ませたガーゼを理子ちゃんに嗅がせる。《こぶし》で判定させてくれ!」

 どうぞ。

 遊星 《こぶし/パンチ》50 → 12 成功

 それでは理子の《回避》判定。

 理子 《回避》?? → 10 成功

 理子は遊星を躱して歩き続けます。

「なにっ!?」

「次はあたし。理子ちゃんに対して《組みつき》だ。ただし優しく、軽く動けないような感じでやる」

 勇儀 《組みつき》75 → 72 成功

「成功だ。もう《回避》できまい。動きを封じさせてもらうよい!」

 ところがどっこい。この理子はそんな常識通じません。再び《回避》判定。

 理子 《回避》?? → 82 成功

 勇儀が理子を取り押さえようと動きますが、やはり理子は難なく躱して歩いてきます。

「82で成功!? こいつの《回避》はどうなってんだい!」

「十六夜さんは理人くんを守っているし京楽警部は入り口を陣取っている。今度は私だ。刺股で理子くんの動きを封じる。……そういえば刺股ってなにで判定すればいいんだ?」

 50パーセントでどうぞ。

 古美門《刺股》50 → 98 ファンブル

「ぐっ、ファンブル!?」

 刺股を突き出したときに勢いをつけすぎたのでしょう、すっ転びました。そんな古美門を他所に理子は歩いていきます。

「最後はボクだけど……入り口塞いでいるし、このまま立っていればいいかな」

 ではそんな京楽のもとに何事もなく辿り着いた理子。しかし、彼女の歩みは止まりません。どんどんどんどん京楽に近づきそして……なんと理子は京楽の身体を透過して部屋から出て行ってしまいました。

「……え?」

「え? ボクの身体を通過していったの? ボクは大丈夫なの?」

 はい。京楽は特に何の体の異常もありませんね。ただ、理子が京楽の体など関係なしに通過しただけです。京楽の身体のど真ん中を通って。この現象を目撃した皆さんは1/1D4の《SAN》チェックです。

 古美門《SAN》54 → 35 成功
 勇儀 《SAN》58 → 96 ファンブル
 咲夜 《SAN》38 → 24 成功
 遊星 《SAN》41 → 30 成功
 京楽 《SAN》44 → 34 成功
 理人 《SAN》56 → 17 成功

「あたしだけ失敗……しかもファンブルかい」

 1D4+1で判定してください。

「(コロコロ)……3。まだ安いか。助かったねい。どうする? 追いかけるかい?」

「やめておこう。それよりもこの部屋を探索だ。まだ儀式に1時間も時間がある」

「だね。というわけで部屋を漁ろう」

「GM、勉強机の引き出しの中を漁る」

 引き出しの中にはアルバムがあります。

「アルバムを読む」

 アルバムの1ページ目には【ぬくもりハウス】前で優しそうな里親……祟道夫妻に挟まれて笑顔を浮かべている理子の写真が入っています。

「さらに捲っていく」

 アルバムには引き取られた後の理子の様子を収めた写真が収められています。しかし、ページを進めるにつれて最初こそ表情豊かだった理子の表情から感情が少しずつ少しずつ抜け落ちていく様を確認することができました。

「こんないい笑顔を作れるようになっていたのに……本当に酷いですね。許せません」

「そうだな。絶対に助けよう」

「GM、他に調べられる場所がないか《目星》だ」

「あ、ボクも振るよ」

 古美門《目星》25 → 70 失敗
 京楽 《目星》80 → 66 成功

 成功した京楽は扉付近にキラリと光るものがあることに気が付きました。

「それを手に取る」

 校長室、と書かれた鍵のようです。

「お、それで校長室に入れるねい。探索するかい?」

「するぞ。ここで出してきたということは、校長室を探索した後に理子くんを追いかけても間に合うということだろう」

 露骨にメタ読みしないでくださいよ。その通りですけど。じゃあ校長室に向かいますか?

「向かうよ。鍵を持っているボクが1番手ね」

「なら私が2番手だ」

「私と理人くんが続きます」

「その後ろに俺が付こう」

「じゃああたしが最後尾だねい」

「鍵を差してロックを解除。部屋の中に入ろう。【校長室】には何がある?」

 【校長室】には大窓を背にするようにして部屋の奥にデスクが置かれており、両脇には普通であればトロフィーやらメダルやら、はたまた賞状やらを飾るであろうガラス棚になっています。しかしガラス棚には、平面の円に囲まれた五芒星を無理矢理立体化したような形のオブジェがずらりと並んでいます。
 部屋の奥には少し大きめの黒塗りの金庫が置かれており、鍵がかかっています。

「デスクの上には何がある?」

 パソコンが置いてあります。

「机の下には何かありますか?」

 いえ、何もありません。

「デスクの引き出しを漁る。何か目ぼしいものは見つかるか?」

 特にありません。

「このパソコンと金庫くらいのようだねい。GM、あたしは金庫を調べるよ」

「私も金庫の方に行く。《鍵開け》を持っているからな」

「じゃあ俺はパソコンだ。ようやく出番って感じだ。張り切らせてもらうぞ」

「ボクはガラス棚を調べようかな。あ、そういえばあのオブジェ見たら《SAN》チェックあるかい?」

 ありません。もうさすがにそのネタで削りませんよ。見慣れてしまったということで。

「よし」

「校長室なのですからソファくらいありますよね?」

 あります。真ん中の長方形のテーブルを挟むように2つ。

「私は理人くんとそのソファに座って休憩します。これ以上《SAN》値を減らしたくありませんので」

 わかりました。じゃあどこからやりましょうか。遊星からやっていきましょうか。あんまり出番なかったですからね。

「よし。GM、パソコンの電源はどうなっている?」

 切ってありますね。

「じゃあパソコンを起動させよう。だが当然出てくるよな、パスワードが」

 はい。8ケタの暗証番号を入力しないといけません。それか《コンピュータ》で成功させてください。

「よし。《コンピュータ》は75ある。振るぞ。所持品の専用プラグインソフトを取り出して準備完了だ。行くぞ」

 遊星 《コンピュータ》75 → 09 成功

 ではあなたのハッキング技術により、パソコンを無事起動できました。
 デスクトップにはwebカメラでリアルタイム撮影された映像が流れています。その映像は、昨日あなたたちが探索した旧校舎跡の地下室の様子です。

「ああ、あのカメラか。ここから監視していたんだな。それで、他に目ぼしいフォルダはないか?」

 【日記】と書かれたフォルダがありますね。

「よし。それを読もう」

 わかりました。では、日記の大まかな内容を公開します。

◯月◯日
埼玉県所沢市「ぬくもりハウス」にて高い適正を持つ少女を発見した。
私達夫婦は少女を養女として引き取り、連れ帰る。今回は上手く行くといいのだが。

#月#日
理子の教育は順調に進んでいる。理子の幼少期の凄惨な体験は、世界の全てを憎むに至るに充分すぎる。もうすぐ理子は人類の繁栄など偽りでしかなく、この世界は真なる支配者にお返しすべきものだと理解するだろう。

@月@日
「マサト」とはあの施設の子供の名前だろうか?
理子の教育はもう一息で完了するというのに、この名前が理子の精神を繋ぎ止めているようだ。
やむを得ない。ヒプノーシスの心得はある。ここは多少手荒な方法を使ってでも……

×月×日
理子がその者との接触に成功。理子はその者の叡智を手に入れた。
我々は理子を通じ、約束の【時】を手に入れた。残る必要なものは【場所】である。

☆月☆日
また巫女候補の1人が自ら目を閉ざし、叡智を手放した。彼女……弓香の出来映えは理子に迫るものだっただけに残念でならない。
しかし、問題はない。弓香はスペアのようなもので、理子1人いれば元より計画に支障はないのだ。
脱走した真也の遺体を押さえられたのは痛手だが、新校舎の完成は間近だ。気取られる前に移転を完了させねば…

△月△日
約束の【場所】たる長野県面金村に新校舎を設立。しかし、新校舎はカモフラージュであり、兵隊を育てる錬成所に過ぎない。
儀式の要は村の外れに位置する公民館である。※月※日の夜、公民館にて儀式を執り行う。
我々の目的が成就する時が近づいている。大いなるクロノスにまみえ、世界をかの者の手にお返しするその時が。

$月$日
……まさか、ここまで早いとは。
時の彼方に存在する【角度の世界】の存在は知っていたが、よもやここまで早く理子が捕捉されるとは考えていなかった。
しかし、儀式を前倒しには出来ない。儀式には然るべき【場所】、そして【時】を要する。
約束の日は近い。【禁縛の宝珠】は手に入れたが、宝珠を使う前に猟犬を弱らせるための武器が必要だ。
猟犬には物理的な攻撃は意味を成さない。祝福されし武器だけがかの穢れたる怪物を傷付けることが出来よう。用意を急がねば……

 以上です。

「……このシナリオ、本当に殺意高いな。登場する神話生物の数が多すぎる上にどれも強力だ。だが対抗手段は用意してあるらしいし、それを見つけ出すことができればあいつとの戦いを有利に進められるな。それに儀式の場所もわかった。これで理子ちゃんの所に行けるぞ」

 というわけで遊星のシーンはお終いです。今度はガラス棚を調べると言っていた京楽のシーンです。

「ガラス棚に対して《目星》」

 京楽 《目星》80 → 80 成功

 特に目ぼしいものは見つかりませんでした。

「なんだ。無意味だったか」

 はいでは金庫組行きます。

「《鍵開け》を使用する」

 補正無しでどうぞ。

 古美門《鍵開け》70 → 39 成功

 無事開錠できました。

「金庫の中には何がある?」

 32口径リボルバー1丁と【クロノスの魔弾】12発、そして【祝福されし短剣】が5本です。

「ああ。多分それであいつを撃退するんだろうな。でも肝心の【禁縛の宝珠】はないか。とりあえずみんな探索に終わったと思うし、日記があったことを伝えよう。《SAN》チェックもないし、咲夜も来て目を通してくれ」

「そうですね。わかりました」

「リボルバーと弾丸はあたしが持っておくよ。技能取っているからねい。短剣はみんな1本ずつ渡しておく」

 では皆さんがパソコンの情報を共有したところで、閉まっていた校長室の扉がガチャリと音を立てて開かれます。

「申請します! 私はそれに反応して校長室の端っこ、窓からも遠いところに理人くんを連れて移動します!」

「あたしも戦闘態勢になっておく」

「私は刺股を構える」

「ボクも杖を構えておこう」

「俺だけ素寒貧か。短剣を構えるわけにもいかないし、とりあえず立ち上がっておこう」

 反応早いですね。流石パラノイアで鍛えられただけのことがあります。
 えー、ではその開かれた扉から校長室に小さな影が入ってきました。その正体は小さな子供。ただし目が虚ろで焦点が合っていません。明らかに正気の状態ではありません。どうやらこの【クロノスの光】で教育を受けていた子供のようです。
 その子はあなた達を視界に入れると、人差し指を差しつつ声を上げます。

「あー。いけないんだー。こうちょうしつにかってにはいっちゃいけないんだよー」

「おいこら、人を指で差すんじゃない。最低限のマナーだぞ、勉強しなかったのか」

 えー、その子供の声を聞きつけたのでしょう。続々と子供たちが校長室に入ってきます。勿論全員、正気の目をしていません。

「いーけないんだーいけないんだー、せーんせーにいっちゃーおー」

 最初に入ってきた子供が感情の乗っていない大きな声を上げますと突如、点いていた部屋の電気が一気に消えます。部屋中が窓から差し込む夕日の薄い光によって辛うじて視界は封じられることはありませんでしたが、代わりに恐ろしいものがあなたの目に飛び込んできます。
 薄暗い闇の中に輝く無数の青白い光。それは、校長室に入ってきた子供たちの虚ろな瞳の中からぼんやりと浮かび上がっていました。

「いーけないんだーいけないんだー、せーんせーにいっちゃーおー」

「いーけないんだーいけないんだー、せーんせーにいっちゃーおー」

「「「「「いいーけけないんだだーいけけけななないんだだだだー、せせっせ――――んせーにいいいっちゃちゃちゃちゃおおおお――――――――」」」」」

 最初の子供の声に続くように、子供たちの声が統一性もなく、バラバラな不協和音を奏でる。
 青白い光を瞳に宿してしまった子供たちからの、感情の起伏のない、平坦とした、しかし確かにそこにある、狂気を帯びたあなた達に対する咎める言葉は、呪わしき輪唱となってこの校長室に響き渡り続けました。
 探索者の皆さん、1/1D3の《SAN》チェックです。

 古美門《SAN》53 → 07 成功
 勇儀 《SAN》55 → 53 成功
 咲夜 《SAN》37 → 32 成功
 遊星 《SAN》40 → 10 成功
 京楽 《SAN》43 → 71 失敗
 理人 《SAN》55 → 02 クリティカル

 クリティカルを出した理人くんは正気度減少を免れました。

「ボクだけか(コロコロ)……1。よし、ボクも1点で済んだ。ツイてるね」

 皆さんやっぱり《SAN》チェックに強いですねぇ。だからこそこっちも潰す気が起きてきますよ。
 えー、子供たちの断罪の輪唱が響く中、ドアを開けて1人の男性が現れます。その男性は占いの館【ノーヴルヴェール】の支配人、祟道叡史張本人です。

「ボスの1人のご登場か」

 叡史は不気味な笑顔を浮かべたまま、淡々とあなたたちに一方的に語りかけます。

「少しやりすぎてしまったようだね、薄汚い犬どもめ。君たちの骨はこの面金村の土に埋葬してあげよう。安心して死んでくれたまえ」

 というわけで、戦闘開始です。頑張って生き残ってくださいねー。




     ――To be continued… 
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