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許されない罪、救われる心

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125部分:第十一話 迎えその十四


第十一話 迎えその十四

「それはね」
「そうなんですか」
「だから何の心配もしなくていいの」
「何もですか」
「そう、何もね」
 そうだというのである。
「だから安心して。貴女は怪我をゆっくりとなおして」
「だったらいいんですけれど」
「それでね」
「それで?」
「退屈はしていないかしら」
 こう如月に問い返してきた。
「どう?それはない?」
「いえ、別に」
 それはないというのだった。
「それはありません」
「そう、けれどね」
「けれど?」
「はい、これ」
 こう言ってであった。あるものを差し出してきた。それは」
「本ですか」
「読む?純文学だけれど」
「純文学。誰のですか?」
「詩人よ。中原中也」
 彼だというのだ。見ればだ。確かにそれは中原の詩集だった。
 それを出してきてだ。水無はまた言ってきた。
「これどうかしら」
「汚れちまった悲しみに」
 如月は中原の詩集を見ながら呟いた。
「それですよね」
「そうよ。汚れちまった悲しみにっていうのはね」
「どんな意味なんですか、それって」
「悪いことをしてそれから来た悲しみなのよ」
 それだというのである。
「それなのよ」
「そうなのですか」
「それでどうするの?読むの?」
 水無は微笑んだままだった。そのうえで如月に問うのだった。
「この本」
「はい」 
 如月はその言葉にこくりと頷いた。
「それじゃあお借りしますね」
「あのね、城崎さん」
 水無はまた彼女に言ってきた。
「今の貴女は。いえかつての貴女でも」
「かつての私でも、ですか」
「怪我をしていて死にそうな人を見捨てるのはね」
 それはだと。話すのであった。
「医師や看護士がしてはいけないことなの」
「してはですか」
「人間としてもね」
「人としても」
「私はそう思うわ。だからね」
「私にここまで」
「悪いことは悪いことよ。それでもね」
 こう話してだった。そうしてだった。
 彼女の傍にい続けていた。如月は静かに、そして徐々に癒されていっていた。彼女にとってはかけがえのない時間を過ごせるようになっていた。
 そしてその日が来たのだった。
 退院の日が来た。しかしである。
 師走は水無と二人になってだ。曇った顔で話していた。
「まさかな」
「はい、退院の時までなんて」
「御家族には電話したかい?」
「しました」
 その通りだと返す水無だった。
「ちゃんと。ですが」
「それでもか」
「知らないと言うばかりで。迎えには」
「全然なのか」
「来てくれる気配はありません」
 そうだというのである。
 
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